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空の信念
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(ミサイル三発『あすか』に向かう!)
(対空戦闘!シ―スパロー攻撃始め!サルボー!)
(目標群a旋回、c群攻撃態勢。突っ込んでくる!)
護衛艦『さみだれ』のCIC。そこでは怒号に近い声で報告や指示が飛び交っていた。
訓練では冷静な砲雷長も、額に汗を流しつつ全てのモニターと報告に集中している。
「ミサイル一発!抜けてくる!本艦右二十度!」
その中、電測員が焦燥感を隠せない表情で報告を飛ばしてきた。
『ちょうかい』と『すずつき』の迎撃ラインを突破してきたミサイル。試験艦『あすか』を守れるのは直掩についている『さみだれ』だけであった。
砲雷長はレーダー画面を反射的に見、すぐに判断を下した。
「CIWS攻撃始め。EA攻撃始め!」
シ―スパローと主砲は距離的に間に合わず、機関砲と電波攻撃によって近接してくるミサイルを迎撃するほか手段はなかった。
それから数秒、
(ミサイル迎撃!爆発閃光視認!)
艦橋の見張り員から無線越しにその報告が入った。一瞬安堵の空気がCICを包む。
だが、
「新たな対空目標!数1、高度450、速度125。」
レーダー画面を見つめつつ、電測員が徐に声をあげた。それを聞き、砲雷長は思わず眉をひそめる。
「IFF、厚木SH60K!識別信号確認、海自機です!」
少し遅れて、照合担当の三等海曹の階級章を付けた隊員が報告の声をあげた。
いきなりの航空機出現に身構えた隊員らであったが、友軍機と知り数人からは息が漏れた。
しかし、砲雷長の不信感は取れなかった。
「この状況でヘリがくる・・・?」
砲雷長は1人呟いた。その時、
「飛行目的を明らかにさせろ。」
今まで艦橋で指揮を執っていた艦長がCICに入室し、そう指示を出してきた。
それを受け、担当の一等海曹の隊員が対応に入る。
「応答がなければ、敵機とみなしますか?」
自分の元に近付いてくる艦長に対し、砲雷長はそう問い掛けた。
「あぁ、『あすか』に特殊部隊を乗船させるためのヘリかもしれん。その時は主砲を使え。」
この度の複合的有事では何が起こるか想像がつかず、全てを疑う必要があった。
その考えから、艦長はそう返答した。
「当該機からの応答なし。呼び掛けに応じません。」
海士長の階級章を付けた隊員が、困惑した表情でそう報告してきた。それを聞き、
「対空戦闘、主砲攻撃始め。」
目の前のヘリに関する命令や報告は、市ヶ谷や横須賀からは一切入っていなった。
自身の持つ書類と、数秒単位で入れ替わる情報モニターを見返し、確認した艦長は短く命令を出した。
しかし、その直後、
(―。こちら、厚木基地所属シードラゴン16。当機は人道的任務のため当空域を飛行中。尚、当機乗員の内一名は民間人が搭乗。繰り返します。当機乗員内一名は民間人。人道的任務のため、当機は試験艦『あすか』に着艦する。)
国際緊急無線の周波数で、その声が聞こえてきた。
「艦長、罠では?」
CIC内にその声が響く中、砲雷長は疑念が取れず艦長にそう意見した。
だが、
「いや。状況が混乱するだけだ。一時攻撃中止。主砲攻撃やめ。」
『さみだれ』の外部に取り付けられているカメラ。そこには接近中のSH60Kがぼんやりと映り始めていた。それを見、艦長は状況を静観すべく、ヘリに対する攻撃態勢を解除させた。
「艦長!『あすか』より通信です!」
民間人搭乗を主張するヘリの出現。予想だにしない事態に中国戦闘機の攻撃も一時的にやんでいた。
その中、通信員がその声をあげた。それを聞き、艦長は急いで通信機を手に取った。
(こちら『あすか』艦長。現在接近中のSHについて、本艦への着艦要請あり。指示を乞う。)
終始早口で、『あすか』艦長は口を開いてきた。焦っているな。その声に『さみだれ』艦長はそう感じた。ただでさえ創設初の実戦。その中で、現場を混乱させる通達無しの友軍機の登場。
すぐに返答は出来なかった。だが、自衛隊機のコードを持っている以上、安易に撃ち墜とせない。
それだけは明白であり、
「こちら『さみだれ艦長』。貴艦の直掩としてついている本艦としては、現時点で撃墜することは出来ません。貴艦の対処としては、臨検隊を編成しSHの着艦に備えることを具申します。」
少し考えた後、『さみだれ』艦長はそう返した。内容としては本艦は何も出来ず、『あすか』のみで状況を対応せよという旨になってしまったが、仕方がないことだと自問自答した。
(了解。本艦で事態に対応する。)
そう考えていると、『あすか』艦長から単調な返答がきた。
直後、
「トラックナンバー42。シードラゴン16に接近!」
電測員が徐に報告の声をあげた。それを聞いた幹部要員は思わず息を呑んだ。
ヘリのクルーは、その光景に開いた口が塞がらなかった。各護衛艦へ吸い込まれるように突っ込んでいく中国軍のミサイルと、それを迎撃するため次々と放たれる迎撃弾。
既に目の前は、生きるか死ぬかの戦場になっていた。
飯山はヘリの窓越しにそれを見、息が荒くなっていた。その中、
「ロックオンはされてませんが、後方に敵機1!射線確保されます!」
コックピットから機長が怒鳴るように報告してきた。
やはり来たか。
それを聞いたクルーは全員そう思った。
「回避運動を取ります!ヘリ揺れます!」
数秒間の後、機長はそう声を荒げる。そして、後ろにつこうとしている中国軍戦闘機から距離をとるべく、操縦桿を倒す。機体が右へ左へ大きく傾き、飯山らはヘリの備品にしがみついた。
「一時、空域を離れますか!この状況で『あすか』に近付いても護衛艦に撃たれるんじゃ・・・。」
激しいGが機内に降りかかる中、副操縦士がそう提案してきた。
だが、
「大丈夫だ!そのまま『あすか』に突っ込んでくれ!」
中村が、その意見に対して即座に否定した。飯山や亀山はその発言に耳を疑う。
「何言ってるんだ!出直しだろ!撃墜されるぞ!」
中国戦闘機がヘリの後ろに位置しようとしていることに、飯山は肝を冷やしてしまっていた。
今まで全く縁のなかった空の世界。不安の募りが飯山の腰を引かせていた。
しかし、中村は目をかっと見開き、
「撃墜されません!大丈夫です。彼らは撃墜出来ない。」
自信をもった表情で中村は断言した。
「今飛んでる彼らは遼寧のパイロットです。普段領空侵犯をしているパイロットとは訳が違います。エリート街道を歩み、且つ国際的な駆け引きに長けている彼らは、民間人主張を公言している本機を撃てません。事実、今まで射線確保が何度も出来たのにも関わらず、一発の機銃弾すら撃っていません。護衛艦にはあんなにミサイルを撃っているのに。です。」
中村はそう続けた。
内容はその場を説得するのに十分足りるものだった。
「それは、同じ空を飛んでいるファイターパイロットだから、か?」
少しの沈黙の後、飯山はそう問い掛けた。
「はい。世界の空を飛ぶことを認められた空の人間なら。という認識のもとです。」
その問いに対し、中村は表情を一つ変えることなくその答えを返した。
信じるに足りる。いや、この場において信じなければならない内容だ。
飯山と亀山は口を閉ざしつつもそう確信した。
「機長。回避運動は必要ないと考えます。堂々と『あすか』に向かいましょう。」
飯山は揺れる機内の中、コックピットに対しそう意見具申した。
機長は驚いた表情を見せたが、後ろにつかれていながら一発もまだ撃たれていない事実を鑑みて、
「了解!『あすか』に直進する!」
機の責任者としてその判断を下した。やがて機体の揺れは収まり、飯山らを載せたSH60Kは、『あすか』めがけて着艦態勢に入った。
(対空戦闘!シ―スパロー攻撃始め!サルボー!)
(目標群a旋回、c群攻撃態勢。突っ込んでくる!)
護衛艦『さみだれ』のCIC。そこでは怒号に近い声で報告や指示が飛び交っていた。
訓練では冷静な砲雷長も、額に汗を流しつつ全てのモニターと報告に集中している。
「ミサイル一発!抜けてくる!本艦右二十度!」
その中、電測員が焦燥感を隠せない表情で報告を飛ばしてきた。
『ちょうかい』と『すずつき』の迎撃ラインを突破してきたミサイル。試験艦『あすか』を守れるのは直掩についている『さみだれ』だけであった。
砲雷長はレーダー画面を反射的に見、すぐに判断を下した。
「CIWS攻撃始め。EA攻撃始め!」
シ―スパローと主砲は距離的に間に合わず、機関砲と電波攻撃によって近接してくるミサイルを迎撃するほか手段はなかった。
それから数秒、
(ミサイル迎撃!爆発閃光視認!)
艦橋の見張り員から無線越しにその報告が入った。一瞬安堵の空気がCICを包む。
だが、
「新たな対空目標!数1、高度450、速度125。」
レーダー画面を見つめつつ、電測員が徐に声をあげた。それを聞き、砲雷長は思わず眉をひそめる。
「IFF、厚木SH60K!識別信号確認、海自機です!」
少し遅れて、照合担当の三等海曹の階級章を付けた隊員が報告の声をあげた。
いきなりの航空機出現に身構えた隊員らであったが、友軍機と知り数人からは息が漏れた。
しかし、砲雷長の不信感は取れなかった。
「この状況でヘリがくる・・・?」
砲雷長は1人呟いた。その時、
「飛行目的を明らかにさせろ。」
今まで艦橋で指揮を執っていた艦長がCICに入室し、そう指示を出してきた。
それを受け、担当の一等海曹の隊員が対応に入る。
「応答がなければ、敵機とみなしますか?」
自分の元に近付いてくる艦長に対し、砲雷長はそう問い掛けた。
「あぁ、『あすか』に特殊部隊を乗船させるためのヘリかもしれん。その時は主砲を使え。」
この度の複合的有事では何が起こるか想像がつかず、全てを疑う必要があった。
その考えから、艦長はそう返答した。
「当該機からの応答なし。呼び掛けに応じません。」
海士長の階級章を付けた隊員が、困惑した表情でそう報告してきた。それを聞き、
「対空戦闘、主砲攻撃始め。」
目の前のヘリに関する命令や報告は、市ヶ谷や横須賀からは一切入っていなった。
自身の持つ書類と、数秒単位で入れ替わる情報モニターを見返し、確認した艦長は短く命令を出した。
しかし、その直後、
(―。こちら、厚木基地所属シードラゴン16。当機は人道的任務のため当空域を飛行中。尚、当機乗員の内一名は民間人が搭乗。繰り返します。当機乗員内一名は民間人。人道的任務のため、当機は試験艦『あすか』に着艦する。)
国際緊急無線の周波数で、その声が聞こえてきた。
「艦長、罠では?」
CIC内にその声が響く中、砲雷長は疑念が取れず艦長にそう意見した。
だが、
「いや。状況が混乱するだけだ。一時攻撃中止。主砲攻撃やめ。」
『さみだれ』の外部に取り付けられているカメラ。そこには接近中のSH60Kがぼんやりと映り始めていた。それを見、艦長は状況を静観すべく、ヘリに対する攻撃態勢を解除させた。
「艦長!『あすか』より通信です!」
民間人搭乗を主張するヘリの出現。予想だにしない事態に中国戦闘機の攻撃も一時的にやんでいた。
その中、通信員がその声をあげた。それを聞き、艦長は急いで通信機を手に取った。
(こちら『あすか』艦長。現在接近中のSHについて、本艦への着艦要請あり。指示を乞う。)
終始早口で、『あすか』艦長は口を開いてきた。焦っているな。その声に『さみだれ』艦長はそう感じた。ただでさえ創設初の実戦。その中で、現場を混乱させる通達無しの友軍機の登場。
すぐに返答は出来なかった。だが、自衛隊機のコードを持っている以上、安易に撃ち墜とせない。
それだけは明白であり、
「こちら『さみだれ艦長』。貴艦の直掩としてついている本艦としては、現時点で撃墜することは出来ません。貴艦の対処としては、臨検隊を編成しSHの着艦に備えることを具申します。」
少し考えた後、『さみだれ』艦長はそう返した。内容としては本艦は何も出来ず、『あすか』のみで状況を対応せよという旨になってしまったが、仕方がないことだと自問自答した。
(了解。本艦で事態に対応する。)
そう考えていると、『あすか』艦長から単調な返答がきた。
直後、
「トラックナンバー42。シードラゴン16に接近!」
電測員が徐に報告の声をあげた。それを聞いた幹部要員は思わず息を呑んだ。
ヘリのクルーは、その光景に開いた口が塞がらなかった。各護衛艦へ吸い込まれるように突っ込んでいく中国軍のミサイルと、それを迎撃するため次々と放たれる迎撃弾。
既に目の前は、生きるか死ぬかの戦場になっていた。
飯山はヘリの窓越しにそれを見、息が荒くなっていた。その中、
「ロックオンはされてませんが、後方に敵機1!射線確保されます!」
コックピットから機長が怒鳴るように報告してきた。
やはり来たか。
それを聞いたクルーは全員そう思った。
「回避運動を取ります!ヘリ揺れます!」
数秒間の後、機長はそう声を荒げる。そして、後ろにつこうとしている中国軍戦闘機から距離をとるべく、操縦桿を倒す。機体が右へ左へ大きく傾き、飯山らはヘリの備品にしがみついた。
「一時、空域を離れますか!この状況で『あすか』に近付いても護衛艦に撃たれるんじゃ・・・。」
激しいGが機内に降りかかる中、副操縦士がそう提案してきた。
だが、
「大丈夫だ!そのまま『あすか』に突っ込んでくれ!」
中村が、その意見に対して即座に否定した。飯山や亀山はその発言に耳を疑う。
「何言ってるんだ!出直しだろ!撃墜されるぞ!」
中国戦闘機がヘリの後ろに位置しようとしていることに、飯山は肝を冷やしてしまっていた。
今まで全く縁のなかった空の世界。不安の募りが飯山の腰を引かせていた。
しかし、中村は目をかっと見開き、
「撃墜されません!大丈夫です。彼らは撃墜出来ない。」
自信をもった表情で中村は断言した。
「今飛んでる彼らは遼寧のパイロットです。普段領空侵犯をしているパイロットとは訳が違います。エリート街道を歩み、且つ国際的な駆け引きに長けている彼らは、民間人主張を公言している本機を撃てません。事実、今まで射線確保が何度も出来たのにも関わらず、一発の機銃弾すら撃っていません。護衛艦にはあんなにミサイルを撃っているのに。です。」
中村はそう続けた。
内容はその場を説得するのに十分足りるものだった。
「それは、同じ空を飛んでいるファイターパイロットだから、か?」
少しの沈黙の後、飯山はそう問い掛けた。
「はい。世界の空を飛ぶことを認められた空の人間なら。という認識のもとです。」
その問いに対し、中村は表情を一つ変えることなくその答えを返した。
信じるに足りる。いや、この場において信じなければならない内容だ。
飯山と亀山は口を閉ざしつつもそう確信した。
「機長。回避運動は必要ないと考えます。堂々と『あすか』に向かいましょう。」
飯山は揺れる機内の中、コックピットに対しそう意見具申した。
機長は驚いた表情を見せたが、後ろにつかれていながら一発もまだ撃たれていない事実を鑑みて、
「了解!『あすか』に直進する!」
機の責任者としてその判断を下した。やがて機体の揺れは収まり、飯山らを載せたSH60Kは、『あすか』めがけて着艦態勢に入った。
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