18 / 27
防御戦
しおりを挟む
神奈川県鎌倉市のゴルフ場に、キャタピラ音とブーツの駆ける音が響き渡る。
土地所有者の許可を受け、陸上自衛隊は大規模な特科陣地及び、戦闘団の司令部を、この広大な敷地を利用して開設しているのだった。
施設利用者のために洗練された芝生であったが、今となっては荒れ果てていた。99式自走155ミリ榴弾砲を始めとし、今は退役が進んでいる203ミリ自走榴弾砲も、射撃陣地を構築していた。また、少し離れた場所には地対艦ミサイル部隊が、12式地対艦誘導弾を展開。巨大な四角柱を天空に向けていた。
この臨戦体制下、射撃に関わる要員は勿論のこと、多くの裏方が奔走していた。ミサイルや、野砲の射撃システムを隊員らが確認する傍らでは、通信線を司令部まで引く隊員が走り回っていた。
今日においては無線が行き交い、有線通信が稀となってきている。しかし、自衛隊では有線通信は現役そのもので、無線通信よりも好まれていた。
何故ならば、自衛隊の通信網は民間回線に頼っている所があるからだ。そのため非常時には使い物にならず、今有事においても無線は極力使わず、有線通信を重宝する形になっていた。
「特科大隊陣地進入完了。射撃陣地構築中。なお、通信網は有線にて先程構築完了とのことです。」
ゴルフ場の一角に置かれた深緑色の大型テント。その中で迷彩服に鉄帽を被った通信隊員が報告の声をあげた。それを聞き、戦闘団長と指定された席に腰を降ろしている中年男性は小さく頷いて返した。
そう、このテントは生物の上陸を阻止する、戦闘団の前線司令部として機能していた。
そのため、このテントの周りは厳重な警備態勢が敷かれ、テント入口の両側には12.7ミリ重機関銃、通称キャリバーが腰を据え、その砲身を空に向けていた。
その他にも司令部の目として動けるよう、偵察用オートバイや偵察警戒車が待機、今まで感じた事のない緊張感がこの空間に漂っていた。
テント内は特にきな臭く、陸自の高級幹部らが砂盤を囲む形でパイプ椅子に腰を降ろし調整を行っている。その周囲では通信隊員が各部との連絡を忙しく行っており、いつ戦闘が勃発してもおかしくない様相を醸し出していた。
「敵の現在位置は?」
その中、今作戦の戦闘団長を務める田口富士学校長が問い掛けた。田口は今年で54歳になる陸将で、定年退職を待つだけの身となっていた。しかし、今回の有事を受け、各職種に精通している高級幹部として富士学校長の田口が抜擢されたのであった。普段であれば、戦闘団長は普通科連隊長たる一等陸佐が務めるのが正当であるが、今作戦の重要性を鑑みた結果、普通科連隊長には荷が重いと陸幕と統幕が考えた結果であった。
田口はその重大な任務に内心震えていたが、今、戦闘団長として腰を降ろしている彼の表情はとても50過ぎとは思えない闘志むき出しの顔つきをしていた。自らも迷彩服に鉄帽、顔には黒いドーランを塗ったその風貌は、周囲に緊迫感を与えていた。
「はい。空自からの報告によると、目標は現在C1の後に続き、八丈島近海を遊泳中。なお、目標が作戦開始位置に達するまで三時間と十二分です。」
二等陸佐のエリート感を漂わせる細身の佐官は、相模湾から沿岸部が描かれている砂盤に指揮棒をあてながら答えた。それを聞き、周囲の幹部らはペンを走らせる。
「よし、展開状況。」
田口は続けるようにして問い掛けた。それに対し、
「はい。藤沢市及び鎌倉市沿岸部に、戦車及び重MATを配置。市街地各交差点には、中多(中距離多目的誘導弾)を展開しています。尚、現在地であるゴルフ場には自走砲及び対艦ミサイル、MLRSが射撃待機中です。FH70も展開中ですが、射撃陣地構築に後40分は掛かります。また、ヘリ部隊は羽田空港にて待機中、命令から5分で離陸出来ます。」
一等陸佐の階級章を付けた大柄の佐官も、砂盤に指揮棒を指しながら口を開いた。
作戦の肝となる箇所だけに、高級幹部らの視線が険しくなる。
「FH70の展開、人員を増派し20分で完了させろ。」
射撃陣地の展開時間に眉をひそめた田口は鋭い目線で指示を出した。一等陸佐の佐官はそれを聞き思わず姿勢を正し返答する。そして後ろに控えていた尉官らと調整に入った。
「続いて、空自との連携。」
調整する姿を横目で見つつ、田口は淡々と問い掛ける。
「はっ、空自はF2及びF4を羽田空港に待機させています。航空支援要請から十分で爆撃可能とのことです。尚、相浦から爆撃誘導班が到着。作戦位置にて待機中です。」
三等陸佐の階級章を付けた細身の隊員が応えた。彼の左胸には陸自のウィングマークが縫い付けてあり、その経歴を周囲に見せつけていた。適材適所だな。田口はそう心で呟いた。
「続いて海自。」
「はい。先程海幕より通達がありまして、現在戦闘中の第一護衛隊は補給のため、横須賀に寄港。それに代わり呉の第四護衛隊が、駿河湾に展開、ハープーン及びSSMによる間接攻撃を行うとのことです。よって陸自には間接攻撃指示を求めると。」
ミーティングが始まってもなお、周囲の尉官と打ち合わせを最後までしていた三等陸佐の佐官は、書類に目を通しつつ田口の問い掛けに答えた。
「分かった。間接攻撃実施については火力調整所との連携を密にしろ。」
自衛隊創設初となる、陸海空自衛隊の統合作戦。東日本大震災を始めとした災害時にはタスクフォースとして幾度も連携をしてきた。
しかし実戦における連携はこれが初であり、田口は連携にぬかるみが出ないよう担当部署に念を押した。その指示に担当の佐官は息を呑みつつ返答する。演習ではない。その重責さから顔が強張る。
「では最後に、避難状況!」
戦闘を行うにあたり、全ての情報は耳に入れた。田口は残った懸念事項を問い掛けた。民間人の避難状況。国民の生命と財産を守る自衛官として、一番大事な部分であった。ここで一人でも作戦区域に民間人がいれば、田口は一発の銃弾も部隊に撃たせる気はなかった。
「各関係機関及び、武山の隊員からは避難完了との報告を受けています。その報告を信じるだけです。」
警察、消防、海上保安庁、各自治体の職員。そして武山駐屯地の隊員を動員し、作戦区域内の一斉捜索を行った。武山駐屯地の隊員においては、勤務員のみならず、教育中の新隊員や高等工学校の生徒まで動員された。
全員が国民、市民を戦闘の巻き添えにしてはならないという一心で逃げ遅れた民間人の捜索を行った。そして出た結果が、作戦区域内における民間人なし。という報告だった。その経緯を知っている担当の二等陸佐は、その信憑性を伝えるため、田口の目を真っすぐ見つめ、そう告げた。
その対応に田口は彼の目を見つめ返し、
「分かった。」
コイツと、現場を信じる。田口はその思いを心に秘めつつ、短く返した。そして、
「では、目標が作戦位置に到達した時点で状況を開始する。今作戦においては目標を沿岸部まで誘導するが、上陸を許すのではない。敵は放射性物質が本土にある限り、必ず上陸をしてくる。ならば、早い段階で敵に効果を与え、今後上陸の企図の機会を与えないようにする必要がある。それが今作戦の目的だ。圧倒的火力を以て、敵の企図を挫く。海自の話を聞いてる者が少なからずいると思う。しかし、今は目の前の自分の任務に集中して貰いたい。本土を守る最後の砦として、その奮起に期待する。以上、掛かれ!」
統括と訓示、田口は立ち上がり、テント内の隊員全員を見渡しながら言い放った。途中、数人が緊張から息を呑むのが分かった。そして言い終ると同時に、全員に動き出すよう促した。
それを聞き、テント内は今まで以上の騒々しさに包まれた。命令を行動に移す。その姿が各所で見られ始めた。田口はそれを見つつ、自身も陸上総隊司令部との調整業務を始めた。
夏の日差しが照り付ける。時刻は午後二時を過ぎようとしていた。一日で一番気温が上昇する時間帯、それはつまり気温と比例的に体感温度も上がることを意味していた。鎌倉市の漁港で沿岸監視の任務を付与された偵察部隊の面々は止まる事のない汗に耐えていた。
「小隊長・・・。モップ下がらないんですかね・・・。」
額から流れる汗を拭いつつ、三曹の隊員が愚痴をこぼした。モップ。それは任務志向防護態勢と呼ばれる通称で、NBC戦における防護処置の段階を示すものであった。
段階は0から5まであり、5が最高となっている。今は低汚染地域装備となるモップ4が発令されており、作戦参加の全隊員が、この装備をしていた。しかし、モップ4とはいえ、真夏に全身厚着をし、モップ5ともなれば防護マスクまで装着しなければならず、早くも疲労の表情を見せる隊員が少なからず出てきていた。
「やばい時は言えよ。アンビに放り投げるからな。」
偵察小隊を指揮する二等陸尉の小隊長は周囲の部下にそう指示を出した。彼自身もかなりしんどかったが、指揮官として弱い所は見せられず、根性で耐えていた。
その言葉を聞き、小隊全員がアンビを見つめた。アンビ。自衛隊の救急車を指す言葉である。通常任務であれば赤色灯のついたOD色の救急車がそこにはあるのだが、今作戦においてはNBC対策として、今は古い73式装甲車が衛生車両として各地に展開していた。
「小隊長・・・もうダメっす・・・。」
その中、一人の隊員が力なくその場に倒れ込んだ。後期教育を修了し、部隊に配属されたばかりの二等陸士だった。意識が朦朧とし、口が半開きになっていた。近くにいた二曹の隊員が駆け付け救護処置を開始する。
「マルマル。こちらマルサン、現在地にて熱中症一名発生。後送を要請する。発症者、大村二士、時、1423。送れ。」
モップ4状況下のため、安易に防護衣を脱がすことは出来ず、二曹の隊員は首元を冷やしつつ、口に水分を含ませる応急処置しか出来ていなかった。それを見つつ、小隊長は険しい表情で無線に向かい話す。
(マルマル了。付近のアンビよりメディック派遣する。終わり。)
周囲に聞こえる音量で、本部から返答がきた。その内容に小隊長は安堵の顔を見せる。しかし、
「小隊長まずいです。意識ありません。バイタル低下、防護衣を脱がさないと死にます!」
脈や瞳孔を確認し、二曹は焦燥感を隠せない表情でそう口を開いた。防護衣を脱がす。その判断に小隊長は返答に詰まった。訓練では文句なしに脱がせていた。しかし今は実戦。脱がせる訳にはいかなかった。しかし脱がせないと熱が籠り続ける。小隊長は固まってしまっていた。
優柔不断で直ぐに決断出来なかったのだ。指揮官失格。その言葉が彼の脳裏をよぎる。
「脱がせます!」
小隊長の思考が停止したのを見、二曹は業を煮やして防護衣を脱がせた。それと同時に防護マスクを大村二士の顔に装着する。
「もう大丈夫だぞ。助かるからな!頑張れよ!」
そう言いつつ、厚いズボンを脱がせた瞬間、滝のような汗が地面に広がり、小隊の面々はその量に目を疑った。
「もう汗が出切ってる!誰かスポーツドリンク持ってないか!」
服の間から手を思い切り突っ込み、素肌の状況を確認する。本当に危ない。その思いから二曹は叫ぶように小隊の面々に投げ掛けた。
「俺持ってます!」
その声を聞き、少し離れた距離で監視を行っていた別の小隊の陸士長が、指揮官の許可を受け、そう叫びつつ近付いてきた。そして彼からスポーツドリンクを受け取った二曹は礼を言いつつ、大村二士の口内に少しずつ水分を含ませる。それから数分、担架を持った衛生隊員が二名駆け寄ってきた。
「衛生隊です。大村二士ですね、後送します。」
左腕に記された赤十字の腕章。それを見、小隊の面々は安堵する。しかし、
「これはまずい・・・。」
触診し、衛生隊員の一人は険しい表情を浮かべた。
「メディック03。熱中症患者一名触診中。武山への後送求む。」
携帯無線機に対し、呟くように話す。
(了。スポットまで後送し待機。UH1502到着予定。)
15時2分。その時刻に近くの後送地点にヘリが来るという内容だった。衛生隊員は反射的に自身の腕時計に目を移す。後10分。
「よし、運ぶぞ。」
険しい表情を崩さず、担架を広げ衛生隊員は大村二士を載せた。
だがその直後、相模湾の海面が隆起、大きな水しぶきと共に巨大な影が姿を現した。
「目標!相模湾に進入!」
田口の訓示から45分。その報告が戦闘団司令部内に響いた。高級幹部らが反射的に通信員を見る。
「AH全機離陸、横須賀上空待機を下令。」
来たか。ずしりと全身に圧し掛かるプレッシャー。それを押し殺しつつ、田口は冷静な声で指示を出した。それを聞き担当幹部が忙しく動き出す。
「官邸及び総隊司令部に再度、武器使用の許可を求めろ。」
幾度となく確認を行ってきた。言うなれば三分前にも武器使用の可否を官邸に問い合わせた。しかし、これが最後。その意味を込めて田口は担当部署に指示を飛ばした。
「官邸及び、総隊司令部より、武器使用許可。武器使用承認。」
田口の指示から二分弱。情報を集約した一等陸尉が報告をあげてきた。田口はそれを聞き、大きく息を吐き出す。
そして、
「特科、攻撃準備射撃開始。海自に対しSSM支援要請。」
それは陸自初となる、実戦での攻撃命令が下令された瞬間だった。
(攻撃準備射撃開始!特科大隊射撃開始!)
火力調整所から、無線越しに勢いのある口調で命令が飛んできた。それを受け、ゴルフ場に射撃陣地を構築していた全火砲が射撃体勢に入った。
沿岸部に展開し、目標情報を伝達する前進観測班。そこから詳細な射撃指示が届く。間違えることは許されない。隊員達はスピーディー且つ正確に三重チェックを行った。
命令下達から一分弱。全砲座が的確な方位に、その砲口を向けた。各指揮官はそれを確認し、火力調整所に報告を入れる。それから数秒、
(大隊斉射用意!撃て!)
火力調整所からの射撃号令、反射的に各砲座の砲手はトリガーを引いた。直後、爆音が周囲に響き渡る。それと同時に発射炎から生まれる煙が辺りを包んだ。しかし、隊員達はそれに構うことなく次弾発射に向け、無駄のない動きを見せた。
弾を運ぶ者、弾を込める者、再度照準を行う者、全員が自分の任務に集中していた。その中、
(初弾命中!同一諸元効力射!斉射用意!撃て!)
FO(前進観測班)から指示を受けた火力調整所から再び命令が届く。それを聞き、砲手は再びトリガーを引いた。
特科の砲弾が、雨のように相模湾の一角に降り注いでいた。弾着すると同時に激しい水しぶきが上がる。今放たれているのは155ミリ榴弾砲と203ミリ榴弾砲だな。90式戦車の車内からモニター越しに状況を見ていた大場一等陸佐は心の中で呟いた。
彼は鎌倉市沿岸部に展開している戦車大隊を指揮していた。藤沢市にはもう一つの戦車大隊が展開しており、常に連携を取っていた。その中始まった攻撃。雨のように降り注ぐ榴弾を見、大場は息を呑んでいた。
(目標の進路速度変わらず!海自のSSM、間もなく弾着!)
この戦車からは水しぶきしか見えず、攻撃効果は分からなかった。しかし今の無線で大方の状況が飲み込めた。しかし、あれだけの攻撃を受けても怯まない生き物がいる。大場は耳を疑った。直後、再び激しい爆音が彼の耳をざわつかせる。
(SSM目標に命中!しかし効果は認めず!)
駿河湾に展開していた第四護衛隊。そこから弓矢の如くSSM、艦対艦ミサイルが放たれ、生物に降り注いだ。爆炎が海面を包む。しかし、その攻撃も無駄に終わっていた。
自分達は何と対峙をしているんだ。無線の内容に、大場は恐怖心を覚えた。それは大場だけではなく、現場の隊員全員が感じており、すぐにでも逃げ出したい気持ちに駆られていた。しかし、最後の砦として後ずさる事は許されず、持ち場から離れる者は誰一人としていなかった。その中、
(戦車大隊、射撃開始。)
ついに、大場が指揮する戦車大隊にも射撃命令が下令された。心臓の鼓動が早くなるのを体で感じつつ、大場は射撃指示を全車に伝える。
「目標敵胸部。対榴、大隊集中!撃てっ!」
直後、砲手が引き金を引いた。激しい発射音と共に、その反動が車内を揺らす。同時に大場は目を細め、目標を凝視した。特科による攻撃が継続中だったため、よく確認する事が出来なかったが、海面より上空で戦車砲の爆発炎が見えたことから、続けて撃つよう全車に指示を出した。
「命中!撃ち方待て!大隊!弾種変更徹甲!大隊集中撃て!」
沿岸部の車道に一列に並ぶ形で配置された戦車群。そこから一斉に戦車砲が放たれる光景は圧巻だった。冷戦時代、ソビエトの大型戦車と渡り合うため大型化された90式戦車。その戦車が持つ120ミリ滑腔砲の迫力は段違いであった。射撃する度に付近の民家が空気の振動により揺れていた。中には窓ガラスが割れる民家も見られ、その威力は桁違いであった。しかし、
(目標依然進行中!部隊は火力を集中!目標の進行を阻止!火力を集中せよ!)
全部隊宛てに送られる無線。それを聞き大場は奥歯を噛みしめた。これ以上どうすればいいのか。戦車を指揮する身としては全力を尽くしていた。だが、結果はついてこなかった。舌打ちをし、再度目標を凝視する。今出来ることは命中弾を送り込むことだけだ。冷静な気持ちを取り戻し、大場は再度、指揮下の戦車に射撃号令を下した。
「SSM、榴弾及び戦車砲による攻撃、効果なし!」
「12SSM及び、MLRS目標に命中。効果確認出来ません。」
次々と情報が入る戦闘団司令部。各部隊からの情報を集約し、高級幹部に伝える尉官らは躍起になっていた。片手程の用紙に必要最低限の報告事項を書き殴り、佐官に手渡す。佐官はそれを田口に報告していた。しかし、内容はどれも前向きに捉えられるものではなかった。
通常兵器ではかなわない。その思いが幹部らの頭に浮かんできた。田口も同様、この攻撃には無理がある。そう感じ始めていた。しかし、まだ手はある。田口は険しい表情を崩すことなく、
「AH攻撃準備にて待機。近接航空支援、1640、目標上空に要請。特科、突撃破砕射撃開始。目標の進行を停止させろ。」
陸と空、この同時攻撃によって敵を怯ませる。これが無駄であれば自衛隊の手に負えない。それは指揮官として考えてはいけないことであった。しかしこの現状を見、そう思えざるを得なかった。物理攻撃が効かないなら、科学的方法で葬り去るしかない。その考えが頭を駆け巡っていた。
「了解。近接航空支援、1640に目標上空に要請します。」
田口が悩んでいる中、担当の佐官が冷静な対応で返答する。田口はこの機において冷静さを失っていない彼に目が行った。一等陸佐の階級章を付けた彼の眼は死んでいなかったのだ。その眼はまるで現場の隊員を信じている。そういう目であった。
「私がしっかりしないとな・・・」
田口は独りごちた。そして、
「射撃のリズムが崩れてるぞ!これでは同じ量の弾薬を使っても効果が薄い!一度に多量の火力を与えろ!特科!TOT発動!」
ここで抑える。ここで守る。田口は心に決め、怒鳴るような口調でそう言い放った。
司令部内の全員が動きを止め田口を見る。ほぼ全員が冷静さを欠いていた。しかし田口の一喝に全員が落ち着きを取り戻した。無駄な動きを見せていた者もいたが、田口の一喝を受け、機敏な動きを見せるようになった。その姿を見、
「よし。空自の近接航空支援と合わせ、1640に一斉射撃を行う。1638に射撃停止。この一回に全ての火力を叩き込む!」
司令部内部を見渡し、田口は続けるように言い放つ。
「TOT発動了解。一斉射撃に備え1638に全攻撃部隊に射撃停止命令を出します。」
決意のこもった田口の言葉。それを聞き、隣に腰を降ろしていた陸将補の階級章を付けた副司令官が強い口調で返答した。そして、
「1635、全部隊に命令下達。12SSM及びMLRSは、弾頭の再装填急がせろ。」
具体的な命令を副司令官は全体に対し放った。佐官らはそれを聞き各部に命令を伝え始める。
「空自より通達。羽田空港よりF2及びF4スクランブル。現在東京湾にて上空待機中とのことです。」
その中、三等陸曹の階級章を付けた若手隊員が無線機を片手に報告をあげてきた。羽田空港から飛び立った数は30機。それらの翼下には無論、爆弾が付けられていた。特にF2戦闘機にはジェイダムと呼ばれる高性能弾頭が装備されており、田口はその威力に期待をしていた。これで終わらせる。統制された時計を横目で見、彼はそう強く念じた。
(全部隊。撃ち方待て。撃ち方待て。)
通信機から聞こえてきた事務的な女性の声。高い声のため、男性の低い声より明瞭に聞き取ることが出来た。その命令を聞いた各砲手は引き金から指を離す。
(各戦闘隊、状況知らせ。)
射撃が止み、数秒。次はその旨を告げる声が全部隊に発信された。一斉射撃まで約90秒、砲手のみならず、その場で戦闘に立っていた隊員全員が冷や汗を掻いていた。その中、各部隊の長は、分隊レベルでの状況を把握、集約し司令部に返答した。それから数秒、
(攻撃開始。時間!)
今度は野太い、勢いのある男性の声が無線を通して全部隊に響き渡った。
攻撃開始の命令。それと同時に、装備品を握る全砲手は引き金を弾いた。
直後、神奈川県沿岸部、そしてゴルフ場地域に爆炎が輝き、少し遅れて凄まじい爆音が辺りに響き渡る。
「特科全火砲及び戦車!斉射完了!引き続き攻撃を行います!」
特科大隊の一斉射から起こる空気、そして地面の振動。それは司令部が置かれている野営テントにも伝わった。テント幕は勿論のこと、机や椅子、各種機材が振動で揺れた。その揺れから守ろうと陸曹陸士らが機材に覆いかぶさる中、通信科隊員が報告をあげてきた。テント内は一時騒然となったがすぐに冷静さを取り戻す。
「航空攻撃開始します!」
少し遅れて、空自との連絡員が口を開く。30秒遅れ。田口は奥歯を噛みしめる。
「効果を確認!」
一斉攻撃は叶わなかった。田口がそう考えているのをよそに、期待感を膨らませていた司令部幕僚は声を張り上げつつ問い掛けた。
「現在確認中です!」
現地の状況を確認する部署、その場の責任者である三等陸佐の階級章を付けた中年男性は強張った表情を崩さず返答した。
「これで効果無しなら、我々に打つ手はないぞ・・・!」
陸上、航空からのほぼ同時攻撃。出来ることはやった。その思いから副司令官は声に思いを漏らした。
自衛隊創設以来、最大と言っても過言ではない量の火薬を叩きこんだ攻撃。三分に渡り相模湾の一角は爆炎に包まれた。その後、5分弱に渡り黒煙が湾内海上に拡がり続けた。その影響から、沿岸部各所に散らばり、状況を知らせていた情報部隊は黒煙の中を把握する事が出来ず、司令部に対して報告をあげることが出来ていなかった。
「マルマル。こちら情報本部。湾内に浮遊する黒煙から生物の現状不明、ドローンによる現地偵察の要ありと考えます。」
一向に収まる気配のない黒煙。一度に多量の火力を与えた副作用であった。報告を入れるにいれられない。業を煮やした情報隊長は無人偵察機での情報収集を具申した。
(マルマル了。作戦指揮官より決心が出た。直ちにドローンを黒煙内に投入、目標の動向を確認せよ。終わり。)
情報隊長の意見具申から一分。司令部から了承の旨が届いた。それを聞き情報隊長は直ちに指示を出す。
「了解。FFOS起動。三方向から同時に突入させます。」
指示を受け、三等陸佐の階級章を付けた佐官が具体的な内容を口にし、周囲に命令を出し始めた。それから数分、FFOSと呼ばれる無人操縦型のヘリが黒煙に向け三機、普通のヘリとは違う、軽いエンジン音を周囲に響かせ、黒煙へ向け飛行を始めた。
「FFOS飛行を確認。機体状況異常無し。黒煙に向け飛行中。」
二等陸曹の階級章を付けた隊員は、双眼鏡を両目に押し付けつつ報告の声をあげた。それを聞き情報隊長も自身の目で機体を確認するべく双眼鏡を覗き込む。そこには全長3.8メートルという小型の機体が三機、それぞれ違う方角から一直線に黒煙へと進路をとっていた。
「司令部及び市ヶ谷、官邸に映像を伝送しろ。」
FFOSの武運を祈りながら、その機体に取り付けられているカメラ映像を各所に飛ばすよう、情報隊長は双眼鏡から目を外すことなく付近の隊員に指示を出した。それを聞き尉官らは伝送班に命令を送る。
「黒煙突入します!」
その中、FFOSを操縦する二等陸曹の階級章を付けた女性自衛官が緊張した表情で報告の声をあげた。周囲に緊張が走る。
「無人機、黒煙内に突入。視認出来ません。」
先程に引き続き、FFOSの状況を逐一報告していた隊員が双眼鏡を目に押し付けつつ口を開く。
「映像はどうか。」
隊員の報告内容に、周囲の幹部らは一瞬、黒煙の方を一瞥したがその視線を、再び操縦する女性自衛官の方へ向けた。そして一人の幹部自衛官がそう問い掛けた。
「視界不良につき確認出来ません。飛行ルートを変え対応します。」
幹部自衛官らの視線に気づいた、FFOSの指揮を任せられていた二等陸尉の隊員は、変更点を素早く指示し、彼らに対しそう返答する。それから数分、
「目標視認・・・。白く発光している模様。」
FFOSを操作していた二等陸曹が徐に声をあげた。その報告に、近くの隊員らが振り返る。
「白く発光?」
一等陸尉の階級章を付けた統幕所属の尉官が眉を顰め、口にした瞬間だった。射撃中止中にも関わらず、爆炎が三つ、相模湾に輝く。それと同時にFFOSの画面にノイズが走った。
「FFOS信号途絶!撃墜されました!」
ノイズを見、担当していた陸曹らは素早く確認をし、報告をあげる。幹部要員らは絶句した。
その直後、白い火線が彼らの頭上に姿を現した。それから数秒、火線は上空から地面へと降り、その場一帯をコンクリートの市街地から土へと変えた。
土地所有者の許可を受け、陸上自衛隊は大規模な特科陣地及び、戦闘団の司令部を、この広大な敷地を利用して開設しているのだった。
施設利用者のために洗練された芝生であったが、今となっては荒れ果てていた。99式自走155ミリ榴弾砲を始めとし、今は退役が進んでいる203ミリ自走榴弾砲も、射撃陣地を構築していた。また、少し離れた場所には地対艦ミサイル部隊が、12式地対艦誘導弾を展開。巨大な四角柱を天空に向けていた。
この臨戦体制下、射撃に関わる要員は勿論のこと、多くの裏方が奔走していた。ミサイルや、野砲の射撃システムを隊員らが確認する傍らでは、通信線を司令部まで引く隊員が走り回っていた。
今日においては無線が行き交い、有線通信が稀となってきている。しかし、自衛隊では有線通信は現役そのもので、無線通信よりも好まれていた。
何故ならば、自衛隊の通信網は民間回線に頼っている所があるからだ。そのため非常時には使い物にならず、今有事においても無線は極力使わず、有線通信を重宝する形になっていた。
「特科大隊陣地進入完了。射撃陣地構築中。なお、通信網は有線にて先程構築完了とのことです。」
ゴルフ場の一角に置かれた深緑色の大型テント。その中で迷彩服に鉄帽を被った通信隊員が報告の声をあげた。それを聞き、戦闘団長と指定された席に腰を降ろしている中年男性は小さく頷いて返した。
そう、このテントは生物の上陸を阻止する、戦闘団の前線司令部として機能していた。
そのため、このテントの周りは厳重な警備態勢が敷かれ、テント入口の両側には12.7ミリ重機関銃、通称キャリバーが腰を据え、その砲身を空に向けていた。
その他にも司令部の目として動けるよう、偵察用オートバイや偵察警戒車が待機、今まで感じた事のない緊張感がこの空間に漂っていた。
テント内は特にきな臭く、陸自の高級幹部らが砂盤を囲む形でパイプ椅子に腰を降ろし調整を行っている。その周囲では通信隊員が各部との連絡を忙しく行っており、いつ戦闘が勃発してもおかしくない様相を醸し出していた。
「敵の現在位置は?」
その中、今作戦の戦闘団長を務める田口富士学校長が問い掛けた。田口は今年で54歳になる陸将で、定年退職を待つだけの身となっていた。しかし、今回の有事を受け、各職種に精通している高級幹部として富士学校長の田口が抜擢されたのであった。普段であれば、戦闘団長は普通科連隊長たる一等陸佐が務めるのが正当であるが、今作戦の重要性を鑑みた結果、普通科連隊長には荷が重いと陸幕と統幕が考えた結果であった。
田口はその重大な任務に内心震えていたが、今、戦闘団長として腰を降ろしている彼の表情はとても50過ぎとは思えない闘志むき出しの顔つきをしていた。自らも迷彩服に鉄帽、顔には黒いドーランを塗ったその風貌は、周囲に緊迫感を与えていた。
「はい。空自からの報告によると、目標は現在C1の後に続き、八丈島近海を遊泳中。なお、目標が作戦開始位置に達するまで三時間と十二分です。」
二等陸佐のエリート感を漂わせる細身の佐官は、相模湾から沿岸部が描かれている砂盤に指揮棒をあてながら答えた。それを聞き、周囲の幹部らはペンを走らせる。
「よし、展開状況。」
田口は続けるようにして問い掛けた。それに対し、
「はい。藤沢市及び鎌倉市沿岸部に、戦車及び重MATを配置。市街地各交差点には、中多(中距離多目的誘導弾)を展開しています。尚、現在地であるゴルフ場には自走砲及び対艦ミサイル、MLRSが射撃待機中です。FH70も展開中ですが、射撃陣地構築に後40分は掛かります。また、ヘリ部隊は羽田空港にて待機中、命令から5分で離陸出来ます。」
一等陸佐の階級章を付けた大柄の佐官も、砂盤に指揮棒を指しながら口を開いた。
作戦の肝となる箇所だけに、高級幹部らの視線が険しくなる。
「FH70の展開、人員を増派し20分で完了させろ。」
射撃陣地の展開時間に眉をひそめた田口は鋭い目線で指示を出した。一等陸佐の佐官はそれを聞き思わず姿勢を正し返答する。そして後ろに控えていた尉官らと調整に入った。
「続いて、空自との連携。」
調整する姿を横目で見つつ、田口は淡々と問い掛ける。
「はっ、空自はF2及びF4を羽田空港に待機させています。航空支援要請から十分で爆撃可能とのことです。尚、相浦から爆撃誘導班が到着。作戦位置にて待機中です。」
三等陸佐の階級章を付けた細身の隊員が応えた。彼の左胸には陸自のウィングマークが縫い付けてあり、その経歴を周囲に見せつけていた。適材適所だな。田口はそう心で呟いた。
「続いて海自。」
「はい。先程海幕より通達がありまして、現在戦闘中の第一護衛隊は補給のため、横須賀に寄港。それに代わり呉の第四護衛隊が、駿河湾に展開、ハープーン及びSSMによる間接攻撃を行うとのことです。よって陸自には間接攻撃指示を求めると。」
ミーティングが始まってもなお、周囲の尉官と打ち合わせを最後までしていた三等陸佐の佐官は、書類に目を通しつつ田口の問い掛けに答えた。
「分かった。間接攻撃実施については火力調整所との連携を密にしろ。」
自衛隊創設初となる、陸海空自衛隊の統合作戦。東日本大震災を始めとした災害時にはタスクフォースとして幾度も連携をしてきた。
しかし実戦における連携はこれが初であり、田口は連携にぬかるみが出ないよう担当部署に念を押した。その指示に担当の佐官は息を呑みつつ返答する。演習ではない。その重責さから顔が強張る。
「では最後に、避難状況!」
戦闘を行うにあたり、全ての情報は耳に入れた。田口は残った懸念事項を問い掛けた。民間人の避難状況。国民の生命と財産を守る自衛官として、一番大事な部分であった。ここで一人でも作戦区域に民間人がいれば、田口は一発の銃弾も部隊に撃たせる気はなかった。
「各関係機関及び、武山の隊員からは避難完了との報告を受けています。その報告を信じるだけです。」
警察、消防、海上保安庁、各自治体の職員。そして武山駐屯地の隊員を動員し、作戦区域内の一斉捜索を行った。武山駐屯地の隊員においては、勤務員のみならず、教育中の新隊員や高等工学校の生徒まで動員された。
全員が国民、市民を戦闘の巻き添えにしてはならないという一心で逃げ遅れた民間人の捜索を行った。そして出た結果が、作戦区域内における民間人なし。という報告だった。その経緯を知っている担当の二等陸佐は、その信憑性を伝えるため、田口の目を真っすぐ見つめ、そう告げた。
その対応に田口は彼の目を見つめ返し、
「分かった。」
コイツと、現場を信じる。田口はその思いを心に秘めつつ、短く返した。そして、
「では、目標が作戦位置に到達した時点で状況を開始する。今作戦においては目標を沿岸部まで誘導するが、上陸を許すのではない。敵は放射性物質が本土にある限り、必ず上陸をしてくる。ならば、早い段階で敵に効果を与え、今後上陸の企図の機会を与えないようにする必要がある。それが今作戦の目的だ。圧倒的火力を以て、敵の企図を挫く。海自の話を聞いてる者が少なからずいると思う。しかし、今は目の前の自分の任務に集中して貰いたい。本土を守る最後の砦として、その奮起に期待する。以上、掛かれ!」
統括と訓示、田口は立ち上がり、テント内の隊員全員を見渡しながら言い放った。途中、数人が緊張から息を呑むのが分かった。そして言い終ると同時に、全員に動き出すよう促した。
それを聞き、テント内は今まで以上の騒々しさに包まれた。命令を行動に移す。その姿が各所で見られ始めた。田口はそれを見つつ、自身も陸上総隊司令部との調整業務を始めた。
夏の日差しが照り付ける。時刻は午後二時を過ぎようとしていた。一日で一番気温が上昇する時間帯、それはつまり気温と比例的に体感温度も上がることを意味していた。鎌倉市の漁港で沿岸監視の任務を付与された偵察部隊の面々は止まる事のない汗に耐えていた。
「小隊長・・・。モップ下がらないんですかね・・・。」
額から流れる汗を拭いつつ、三曹の隊員が愚痴をこぼした。モップ。それは任務志向防護態勢と呼ばれる通称で、NBC戦における防護処置の段階を示すものであった。
段階は0から5まであり、5が最高となっている。今は低汚染地域装備となるモップ4が発令されており、作戦参加の全隊員が、この装備をしていた。しかし、モップ4とはいえ、真夏に全身厚着をし、モップ5ともなれば防護マスクまで装着しなければならず、早くも疲労の表情を見せる隊員が少なからず出てきていた。
「やばい時は言えよ。アンビに放り投げるからな。」
偵察小隊を指揮する二等陸尉の小隊長は周囲の部下にそう指示を出した。彼自身もかなりしんどかったが、指揮官として弱い所は見せられず、根性で耐えていた。
その言葉を聞き、小隊全員がアンビを見つめた。アンビ。自衛隊の救急車を指す言葉である。通常任務であれば赤色灯のついたOD色の救急車がそこにはあるのだが、今作戦においてはNBC対策として、今は古い73式装甲車が衛生車両として各地に展開していた。
「小隊長・・・もうダメっす・・・。」
その中、一人の隊員が力なくその場に倒れ込んだ。後期教育を修了し、部隊に配属されたばかりの二等陸士だった。意識が朦朧とし、口が半開きになっていた。近くにいた二曹の隊員が駆け付け救護処置を開始する。
「マルマル。こちらマルサン、現在地にて熱中症一名発生。後送を要請する。発症者、大村二士、時、1423。送れ。」
モップ4状況下のため、安易に防護衣を脱がすことは出来ず、二曹の隊員は首元を冷やしつつ、口に水分を含ませる応急処置しか出来ていなかった。それを見つつ、小隊長は険しい表情で無線に向かい話す。
(マルマル了。付近のアンビよりメディック派遣する。終わり。)
周囲に聞こえる音量で、本部から返答がきた。その内容に小隊長は安堵の顔を見せる。しかし、
「小隊長まずいです。意識ありません。バイタル低下、防護衣を脱がさないと死にます!」
脈や瞳孔を確認し、二曹は焦燥感を隠せない表情でそう口を開いた。防護衣を脱がす。その判断に小隊長は返答に詰まった。訓練では文句なしに脱がせていた。しかし今は実戦。脱がせる訳にはいかなかった。しかし脱がせないと熱が籠り続ける。小隊長は固まってしまっていた。
優柔不断で直ぐに決断出来なかったのだ。指揮官失格。その言葉が彼の脳裏をよぎる。
「脱がせます!」
小隊長の思考が停止したのを見、二曹は業を煮やして防護衣を脱がせた。それと同時に防護マスクを大村二士の顔に装着する。
「もう大丈夫だぞ。助かるからな!頑張れよ!」
そう言いつつ、厚いズボンを脱がせた瞬間、滝のような汗が地面に広がり、小隊の面々はその量に目を疑った。
「もう汗が出切ってる!誰かスポーツドリンク持ってないか!」
服の間から手を思い切り突っ込み、素肌の状況を確認する。本当に危ない。その思いから二曹は叫ぶように小隊の面々に投げ掛けた。
「俺持ってます!」
その声を聞き、少し離れた距離で監視を行っていた別の小隊の陸士長が、指揮官の許可を受け、そう叫びつつ近付いてきた。そして彼からスポーツドリンクを受け取った二曹は礼を言いつつ、大村二士の口内に少しずつ水分を含ませる。それから数分、担架を持った衛生隊員が二名駆け寄ってきた。
「衛生隊です。大村二士ですね、後送します。」
左腕に記された赤十字の腕章。それを見、小隊の面々は安堵する。しかし、
「これはまずい・・・。」
触診し、衛生隊員の一人は険しい表情を浮かべた。
「メディック03。熱中症患者一名触診中。武山への後送求む。」
携帯無線機に対し、呟くように話す。
(了。スポットまで後送し待機。UH1502到着予定。)
15時2分。その時刻に近くの後送地点にヘリが来るという内容だった。衛生隊員は反射的に自身の腕時計に目を移す。後10分。
「よし、運ぶぞ。」
険しい表情を崩さず、担架を広げ衛生隊員は大村二士を載せた。
だがその直後、相模湾の海面が隆起、大きな水しぶきと共に巨大な影が姿を現した。
「目標!相模湾に進入!」
田口の訓示から45分。その報告が戦闘団司令部内に響いた。高級幹部らが反射的に通信員を見る。
「AH全機離陸、横須賀上空待機を下令。」
来たか。ずしりと全身に圧し掛かるプレッシャー。それを押し殺しつつ、田口は冷静な声で指示を出した。それを聞き担当幹部が忙しく動き出す。
「官邸及び総隊司令部に再度、武器使用の許可を求めろ。」
幾度となく確認を行ってきた。言うなれば三分前にも武器使用の可否を官邸に問い合わせた。しかし、これが最後。その意味を込めて田口は担当部署に指示を飛ばした。
「官邸及び、総隊司令部より、武器使用許可。武器使用承認。」
田口の指示から二分弱。情報を集約した一等陸尉が報告をあげてきた。田口はそれを聞き、大きく息を吐き出す。
そして、
「特科、攻撃準備射撃開始。海自に対しSSM支援要請。」
それは陸自初となる、実戦での攻撃命令が下令された瞬間だった。
(攻撃準備射撃開始!特科大隊射撃開始!)
火力調整所から、無線越しに勢いのある口調で命令が飛んできた。それを受け、ゴルフ場に射撃陣地を構築していた全火砲が射撃体勢に入った。
沿岸部に展開し、目標情報を伝達する前進観測班。そこから詳細な射撃指示が届く。間違えることは許されない。隊員達はスピーディー且つ正確に三重チェックを行った。
命令下達から一分弱。全砲座が的確な方位に、その砲口を向けた。各指揮官はそれを確認し、火力調整所に報告を入れる。それから数秒、
(大隊斉射用意!撃て!)
火力調整所からの射撃号令、反射的に各砲座の砲手はトリガーを引いた。直後、爆音が周囲に響き渡る。それと同時に発射炎から生まれる煙が辺りを包んだ。しかし、隊員達はそれに構うことなく次弾発射に向け、無駄のない動きを見せた。
弾を運ぶ者、弾を込める者、再度照準を行う者、全員が自分の任務に集中していた。その中、
(初弾命中!同一諸元効力射!斉射用意!撃て!)
FO(前進観測班)から指示を受けた火力調整所から再び命令が届く。それを聞き、砲手は再びトリガーを引いた。
特科の砲弾が、雨のように相模湾の一角に降り注いでいた。弾着すると同時に激しい水しぶきが上がる。今放たれているのは155ミリ榴弾砲と203ミリ榴弾砲だな。90式戦車の車内からモニター越しに状況を見ていた大場一等陸佐は心の中で呟いた。
彼は鎌倉市沿岸部に展開している戦車大隊を指揮していた。藤沢市にはもう一つの戦車大隊が展開しており、常に連携を取っていた。その中始まった攻撃。雨のように降り注ぐ榴弾を見、大場は息を呑んでいた。
(目標の進路速度変わらず!海自のSSM、間もなく弾着!)
この戦車からは水しぶきしか見えず、攻撃効果は分からなかった。しかし今の無線で大方の状況が飲み込めた。しかし、あれだけの攻撃を受けても怯まない生き物がいる。大場は耳を疑った。直後、再び激しい爆音が彼の耳をざわつかせる。
(SSM目標に命中!しかし効果は認めず!)
駿河湾に展開していた第四護衛隊。そこから弓矢の如くSSM、艦対艦ミサイルが放たれ、生物に降り注いだ。爆炎が海面を包む。しかし、その攻撃も無駄に終わっていた。
自分達は何と対峙をしているんだ。無線の内容に、大場は恐怖心を覚えた。それは大場だけではなく、現場の隊員全員が感じており、すぐにでも逃げ出したい気持ちに駆られていた。しかし、最後の砦として後ずさる事は許されず、持ち場から離れる者は誰一人としていなかった。その中、
(戦車大隊、射撃開始。)
ついに、大場が指揮する戦車大隊にも射撃命令が下令された。心臓の鼓動が早くなるのを体で感じつつ、大場は射撃指示を全車に伝える。
「目標敵胸部。対榴、大隊集中!撃てっ!」
直後、砲手が引き金を引いた。激しい発射音と共に、その反動が車内を揺らす。同時に大場は目を細め、目標を凝視した。特科による攻撃が継続中だったため、よく確認する事が出来なかったが、海面より上空で戦車砲の爆発炎が見えたことから、続けて撃つよう全車に指示を出した。
「命中!撃ち方待て!大隊!弾種変更徹甲!大隊集中撃て!」
沿岸部の車道に一列に並ぶ形で配置された戦車群。そこから一斉に戦車砲が放たれる光景は圧巻だった。冷戦時代、ソビエトの大型戦車と渡り合うため大型化された90式戦車。その戦車が持つ120ミリ滑腔砲の迫力は段違いであった。射撃する度に付近の民家が空気の振動により揺れていた。中には窓ガラスが割れる民家も見られ、その威力は桁違いであった。しかし、
(目標依然進行中!部隊は火力を集中!目標の進行を阻止!火力を集中せよ!)
全部隊宛てに送られる無線。それを聞き大場は奥歯を噛みしめた。これ以上どうすればいいのか。戦車を指揮する身としては全力を尽くしていた。だが、結果はついてこなかった。舌打ちをし、再度目標を凝視する。今出来ることは命中弾を送り込むことだけだ。冷静な気持ちを取り戻し、大場は再度、指揮下の戦車に射撃号令を下した。
「SSM、榴弾及び戦車砲による攻撃、効果なし!」
「12SSM及び、MLRS目標に命中。効果確認出来ません。」
次々と情報が入る戦闘団司令部。各部隊からの情報を集約し、高級幹部に伝える尉官らは躍起になっていた。片手程の用紙に必要最低限の報告事項を書き殴り、佐官に手渡す。佐官はそれを田口に報告していた。しかし、内容はどれも前向きに捉えられるものではなかった。
通常兵器ではかなわない。その思いが幹部らの頭に浮かんできた。田口も同様、この攻撃には無理がある。そう感じ始めていた。しかし、まだ手はある。田口は険しい表情を崩すことなく、
「AH攻撃準備にて待機。近接航空支援、1640、目標上空に要請。特科、突撃破砕射撃開始。目標の進行を停止させろ。」
陸と空、この同時攻撃によって敵を怯ませる。これが無駄であれば自衛隊の手に負えない。それは指揮官として考えてはいけないことであった。しかしこの現状を見、そう思えざるを得なかった。物理攻撃が効かないなら、科学的方法で葬り去るしかない。その考えが頭を駆け巡っていた。
「了解。近接航空支援、1640に目標上空に要請します。」
田口が悩んでいる中、担当の佐官が冷静な対応で返答する。田口はこの機において冷静さを失っていない彼に目が行った。一等陸佐の階級章を付けた彼の眼は死んでいなかったのだ。その眼はまるで現場の隊員を信じている。そういう目であった。
「私がしっかりしないとな・・・」
田口は独りごちた。そして、
「射撃のリズムが崩れてるぞ!これでは同じ量の弾薬を使っても効果が薄い!一度に多量の火力を与えろ!特科!TOT発動!」
ここで抑える。ここで守る。田口は心に決め、怒鳴るような口調でそう言い放った。
司令部内の全員が動きを止め田口を見る。ほぼ全員が冷静さを欠いていた。しかし田口の一喝に全員が落ち着きを取り戻した。無駄な動きを見せていた者もいたが、田口の一喝を受け、機敏な動きを見せるようになった。その姿を見、
「よし。空自の近接航空支援と合わせ、1640に一斉射撃を行う。1638に射撃停止。この一回に全ての火力を叩き込む!」
司令部内部を見渡し、田口は続けるように言い放つ。
「TOT発動了解。一斉射撃に備え1638に全攻撃部隊に射撃停止命令を出します。」
決意のこもった田口の言葉。それを聞き、隣に腰を降ろしていた陸将補の階級章を付けた副司令官が強い口調で返答した。そして、
「1635、全部隊に命令下達。12SSM及びMLRSは、弾頭の再装填急がせろ。」
具体的な命令を副司令官は全体に対し放った。佐官らはそれを聞き各部に命令を伝え始める。
「空自より通達。羽田空港よりF2及びF4スクランブル。現在東京湾にて上空待機中とのことです。」
その中、三等陸曹の階級章を付けた若手隊員が無線機を片手に報告をあげてきた。羽田空港から飛び立った数は30機。それらの翼下には無論、爆弾が付けられていた。特にF2戦闘機にはジェイダムと呼ばれる高性能弾頭が装備されており、田口はその威力に期待をしていた。これで終わらせる。統制された時計を横目で見、彼はそう強く念じた。
(全部隊。撃ち方待て。撃ち方待て。)
通信機から聞こえてきた事務的な女性の声。高い声のため、男性の低い声より明瞭に聞き取ることが出来た。その命令を聞いた各砲手は引き金から指を離す。
(各戦闘隊、状況知らせ。)
射撃が止み、数秒。次はその旨を告げる声が全部隊に発信された。一斉射撃まで約90秒、砲手のみならず、その場で戦闘に立っていた隊員全員が冷や汗を掻いていた。その中、各部隊の長は、分隊レベルでの状況を把握、集約し司令部に返答した。それから数秒、
(攻撃開始。時間!)
今度は野太い、勢いのある男性の声が無線を通して全部隊に響き渡った。
攻撃開始の命令。それと同時に、装備品を握る全砲手は引き金を弾いた。
直後、神奈川県沿岸部、そしてゴルフ場地域に爆炎が輝き、少し遅れて凄まじい爆音が辺りに響き渡る。
「特科全火砲及び戦車!斉射完了!引き続き攻撃を行います!」
特科大隊の一斉射から起こる空気、そして地面の振動。それは司令部が置かれている野営テントにも伝わった。テント幕は勿論のこと、机や椅子、各種機材が振動で揺れた。その揺れから守ろうと陸曹陸士らが機材に覆いかぶさる中、通信科隊員が報告をあげてきた。テント内は一時騒然となったがすぐに冷静さを取り戻す。
「航空攻撃開始します!」
少し遅れて、空自との連絡員が口を開く。30秒遅れ。田口は奥歯を噛みしめる。
「効果を確認!」
一斉攻撃は叶わなかった。田口がそう考えているのをよそに、期待感を膨らませていた司令部幕僚は声を張り上げつつ問い掛けた。
「現在確認中です!」
現地の状況を確認する部署、その場の責任者である三等陸佐の階級章を付けた中年男性は強張った表情を崩さず返答した。
「これで効果無しなら、我々に打つ手はないぞ・・・!」
陸上、航空からのほぼ同時攻撃。出来ることはやった。その思いから副司令官は声に思いを漏らした。
自衛隊創設以来、最大と言っても過言ではない量の火薬を叩きこんだ攻撃。三分に渡り相模湾の一角は爆炎に包まれた。その後、5分弱に渡り黒煙が湾内海上に拡がり続けた。その影響から、沿岸部各所に散らばり、状況を知らせていた情報部隊は黒煙の中を把握する事が出来ず、司令部に対して報告をあげることが出来ていなかった。
「マルマル。こちら情報本部。湾内に浮遊する黒煙から生物の現状不明、ドローンによる現地偵察の要ありと考えます。」
一向に収まる気配のない黒煙。一度に多量の火力を与えた副作用であった。報告を入れるにいれられない。業を煮やした情報隊長は無人偵察機での情報収集を具申した。
(マルマル了。作戦指揮官より決心が出た。直ちにドローンを黒煙内に投入、目標の動向を確認せよ。終わり。)
情報隊長の意見具申から一分。司令部から了承の旨が届いた。それを聞き情報隊長は直ちに指示を出す。
「了解。FFOS起動。三方向から同時に突入させます。」
指示を受け、三等陸佐の階級章を付けた佐官が具体的な内容を口にし、周囲に命令を出し始めた。それから数分、FFOSと呼ばれる無人操縦型のヘリが黒煙に向け三機、普通のヘリとは違う、軽いエンジン音を周囲に響かせ、黒煙へ向け飛行を始めた。
「FFOS飛行を確認。機体状況異常無し。黒煙に向け飛行中。」
二等陸曹の階級章を付けた隊員は、双眼鏡を両目に押し付けつつ報告の声をあげた。それを聞き情報隊長も自身の目で機体を確認するべく双眼鏡を覗き込む。そこには全長3.8メートルという小型の機体が三機、それぞれ違う方角から一直線に黒煙へと進路をとっていた。
「司令部及び市ヶ谷、官邸に映像を伝送しろ。」
FFOSの武運を祈りながら、その機体に取り付けられているカメラ映像を各所に飛ばすよう、情報隊長は双眼鏡から目を外すことなく付近の隊員に指示を出した。それを聞き尉官らは伝送班に命令を送る。
「黒煙突入します!」
その中、FFOSを操縦する二等陸曹の階級章を付けた女性自衛官が緊張した表情で報告の声をあげた。周囲に緊張が走る。
「無人機、黒煙内に突入。視認出来ません。」
先程に引き続き、FFOSの状況を逐一報告していた隊員が双眼鏡を目に押し付けつつ口を開く。
「映像はどうか。」
隊員の報告内容に、周囲の幹部らは一瞬、黒煙の方を一瞥したがその視線を、再び操縦する女性自衛官の方へ向けた。そして一人の幹部自衛官がそう問い掛けた。
「視界不良につき確認出来ません。飛行ルートを変え対応します。」
幹部自衛官らの視線に気づいた、FFOSの指揮を任せられていた二等陸尉の隊員は、変更点を素早く指示し、彼らに対しそう返答する。それから数分、
「目標視認・・・。白く発光している模様。」
FFOSを操作していた二等陸曹が徐に声をあげた。その報告に、近くの隊員らが振り返る。
「白く発光?」
一等陸尉の階級章を付けた統幕所属の尉官が眉を顰め、口にした瞬間だった。射撃中止中にも関わらず、爆炎が三つ、相模湾に輝く。それと同時にFFOSの画面にノイズが走った。
「FFOS信号途絶!撃墜されました!」
ノイズを見、担当していた陸曹らは素早く確認をし、報告をあげる。幹部要員らは絶句した。
その直後、白い火線が彼らの頭上に姿を現した。それから数秒、火線は上空から地面へと降り、その場一帯をコンクリートの市街地から土へと変えた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
異世界列島
黒酢
ファンタジー
【速報】日本列島、異世界へ!資源・食糧・法律etc……何もかもが足りない非常事態に、現代文明崩壊のタイムリミットは約1年!?そんな詰んじゃった状態の列島に差した一筋の光明―――新大陸の発見。だが……異世界の大陸には厄介な生物。有り難くない〝宗教〟に〝覇権主義国〟と、問題の火種がハーレム状態。手足を縛られた(憲法の話)日本は、この覇権主義の世界に平和と安寧をもたらすことができるのか!?今ここに……日本国民及び在留外国人―――総勢1億3000万人―――を乗せた列島の奮闘が始まる…… 始まってしまった!!
■【毎日投稿】2019.2.27~3.1
毎日投稿ができず申し訳ありません。今日から三日間、大量投稿を致します。
今後の予定(3日間で計14話投稿予定)
2.27 20時、21時、22時、23時
2.28 7時、8時、12時、16時、21時、23時
3.1 7時、12時、16時、21時
■なろう版とサブタイトルが異なる話もありますが、その内容は同じです。なお、一部修正をしております。また、改稿が前後しており、修正ができていない話も含まれております。ご了承ください。
フォトンの記憶
小川敦人
SF
少年時代、水泳部の仲間だったサトシ、田村、有馬の三人は、ある夏の日に奇妙な青白い光を目撃する。
その後、彼らの能力は飛躍的に向上し、全国大会で輝かしい成績を収めた。
しかし、その奇跡のような出来事を境に、彼らの人生は穏やかな日常へと戻っていく。
それから61年後——。
居酒屋で酒を酌み交わしながら、彼らはふと呟く。
「あれ以来、特別なことは何もなかったな」
「けど、平凡な人生を送れたことこそが奇跡なのかもしれない」。
静かに杯を交わす三人。その時、店の外には、かつて見たような青白い光がふわりと舞い上がっていた——。
SFとノスタルジーが交錯する、運命のひとときを描いた物語。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
日本国転生
北乃大空
SF
女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。
或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。
ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。
その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。
ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。
その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる