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上陸
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正午までかかった沖縄県知事との会談は平行線で、結果棚上げとされた。午後も多忙なスケジュールをこなし、岡山は頭を悩ませながら夜、官邸に戻った。流れのまま地下の内閣危機管理センターに向かう。岡山が入ると相変わらず、各所で職員や、各省庁から出向してきた隊員らが忙しく動いていた。会議席には大山防衛大臣を始めとして、関係閣僚が座り議論していた。正面の大型スクリーンには北朝鮮の衛星画像が表示されていた。一見、今日の未明に呼び出された時と、何ら違いは感じなかったが、大山防衛大臣の緊迫した顏を見た時、状況が変化していることが窺えた。
「総理。緊急事態です。」
大山が何の前振りもなく、いきなり告げてきた。
「北朝鮮プンゲリの核関連と思しき施設が破壊されている事が、先程の衛星写真から判明しました。今、総理に連絡を取ろうとしていた所でした。」
続けるように言い、報告書を手渡してきた。
「放射能漏れは?」
報告書を軽く通読し、問い掛けた。
「韓国軍によりますと、放射能漏れは確認されていないとの事です。小松基地から飛ばした情報収集機からもそのように報告が挙がってきました。」
大山の隣の席に腰を降ろしていた迷彩服姿の男が立ち上がり、そう報告してきた。岡山はその男を見、すぐに統幕長だと理解した。統幕長とは自衛隊制服組トップで、北朝鮮情勢の急激な変化を受けて、官邸に出向してきたのだった。
「すると、事故か?」
総理大臣と指定された座席に腰を降ろし、問い掛けた。
「不明です。米軍が調査していると先程連絡がありましたので、報告待ちだと思います。」
防衛大臣の向かい側の席に座っていた本山外務大臣がそう口を開いた。岡山はその返答に頷き、
「福島の件はどうなっている?有識者からの見解は?」
「有識者会議を何度も開いているのですが、依然原因は分かっていません。」
総理の問い掛けに、近くにいた原子力規制庁の職員がそう応えた。
「推論でもいい。分かり次第すぐに報告を頼む。」
そう言い、その場を後にしようと席を立つ。直後、数人が総理の周りに付き、エレベーターまで誘導する。他の閣僚は席を立ち、総理が出るのを見送る姿勢をとった。その時、外務省職員が小走りで本山外務大臣に近付いてきた。そして耳打ちをする。
「総理!お話があります!」
エレベーターに乗り込み、ドアが閉まる直前、本山が叫ぶように呼び止めた。それを聞き、岡山は素早くエレベーターから降りる。
「米国防省から政府に要請が来ました。」
岡山が会議席の近くに来るのを待ち、本山がそう口を開いた。そして報告してきた外務省職員に説明を求めた。職員は緊張気味に姿勢を正し、
「はい。在日米軍の訓練で、日本政府管轄の無人島を使用させて欲しいとの要請が先程、外交ルートを通じてこちらに連絡がありました。至急に返答が欲しいとのことでここまで情報が上がってきました。」
一連の流れを事務的な口調で話す。
「なんでウチじゃないんだ・・・。」
大山の後ろに立っている防衛省職員が呟く。
「無人島?どこのだ?」
今まで口を閉ざしていた斎藤国交大臣が話に入ってきた。
「北海道沖の渡島大島です。」
外務省職員は即答し続けるようにして、
「日本最大級の無人島で、本土から五〇キロ程離れています。」
と、補足を付け足した。周囲に沈黙が広がる。
「訓練でって、いったい何の?聞いてないのか?」
大山が問い質す。
「兵員を上陸させるとだけは言ってきましたが、詳細は不明です。」
閣僚らの表情が険しくなる。岡山も曖昧な内容の要請に渋っていた。
「合同演習の一環か?」
統幕長の近くにいた制服姿の幹部自衛官数名がそう呟き始めた。統幕長が振り返り、静かにするよう口頭で注意する。
「国防省としては、早急に使用許可を出して貰いたいとのことですが。」
外務省職員の言葉に閣僚らは黙ったままだった。この返答を急いで欲しいというアメリカの要望に困り切っていたのだった。仮に政府がここで許可したとしても現地の自治体が許す訳が無く抗議活動が始まるのは目に見えていた。それに訓練内容が分からない事には住民への説明も充分には出来ず、今回の要請には無理があった。岡山は数分悩んだ末に、
「詳細な訓練内容とその意図。そして正式な訓練計画書の提出を私が確認次第、無人島の使用許可を出す。尚、これが完了しない限り、無人島の使用は一切認められない。そう伝えてくれ。」
岡山総理のアメリカに対する強い姿勢に、閣僚達は思わず息を呑んでいた。指示を受けた外務省職員は一礼しその場から離れて行った。その職員の背中を見つめつつ、岡山は大きなため息をついた。
「航空自衛隊一等空尉中村です。宜しくお願いします。」
政府要人が行きつけると言われる高級料亭。その個室に飯山は通されていた。個室に入ると空自の制服に身を包んだ小柄で細身な男性が座敷に座っており、目が合うとその男性から挨拶をしてきた。飯山も挨拶を返し、中村と名乗った男性の向かい側に腰を降ろす。目の前には既に料理が並べられていた。
「バディの対面が済んだみたいですね。」
少し遅れて白石が個室に入ってきた。中村がその場で会釈する。
「早速ですが、おふた方には明日から横田基地及びその周辺で諜報活動に従事して頂きます。」
白石も腰を降ろしつつ言い、諜報活動の概要が書かれた計画書を二人に手渡した。
二人はお互い話すどころか、その計画書に目を通し始めた。個室にページをめくる音が響く。
「先程、新たな動きがありまして、渡島大島という無人島を、米軍が訓練で使用したいとの要請が政府にあったということです。」
読み始めてから五分弱。その沈黙を破るように白石が口を開いた。
「渡島大島?訓練内容は?」
飯山は計画書を閉じ、そう問いかけた。中村も読むのを止め、白石に目を向ける。
「訓練内容等は通知されていませんでした。なので、総理はこの要請を却下したと。」
その返答に中村は失笑してしまっていた。
「アメリカの要請を蹴ったんですか・・・。」
「蹴ったというより、計画書を出して貰えれば使用許可を出すと伝えたそうです。」
中村の言葉に白石は冷静な口調で返した。
「まぁ、使わせて欲しいのに、用途を明らかにしないのはおかしいですね。」
飯山はそう言い、目の前のコップに口を付けた。
「はい。なのでそこも含めて調査をお願いしたいと思いましてですね。」
白石はそう言い、目の前の料理に手を付けた。それを見、二人も口にし始める。
「多分、全部一つの線で結ばれてる気がします。」
中村がそう口を開くと、飯山もそれに同意するかのように頷く。
「自分の推論ですと、テロリストが放射能吸収装置みたなヤツをアメリカから奪い、福島の放射能を取り、日本海に移動。国内に吸収した放射能をばら撒かれたくないアメリカは渡島大島でテロリストとの交渉に応じたいと思っている。そう考えられませんかね。」
白石の推論に二人は黙り込んだ。わりかし有り得る話だったからだ。一見するとあまりにもSFチック過ぎて信じようもない話だが、この現状を見た時、百パーセント否定できる要素はなかった。
「放射能吸収装置ねぇ。」
飯山が呟くように言う。
「NASAなら開発してもおかしくはありませんがね。」
中村の言葉に飯山は失笑した。
「どこまで映画じみてんだよ。」
そう突っ込みを入れたが、脳裏ではやはりこれも有り得なくない話だなと思っていた。自分達が今直面している問題は、どれ位の規模なのか考えるだけでも身震いする程だった。明日から始まる未経験の任務に、緊張しぱなっしだった。それは飯山に限らず中村も同様であり、自分に務まるぼかと考えてしまっていた。アメリカの裏に迫れると考えると、興味をそそられる任務であったが、いざ自分が受け持ってみると、その重大さははかりしれなかった。そう考え込んでいると、個室には再び沈黙が広がっていた。
「まぁ、今日は食べてください!」
白石は労いの言葉を二人に掛けたが、それを聞いても頷くだけだった。
大統領から命令が下り、三日が経過していた。朝の陽ざしが今日も横田基地の滑走路を照らし始め、それとともに誘導灯の光が見えにくくなる。格納庫付近では整備員らが忙しく業務に就き始めた。やがて、横田基地の駐機場には航空機が姿を現した。
そんな中、執務室ではクーパーの怒声が響き渡る。
「なに!却下!」
その声の大きさにエリックは一瞬ひるんでしまった。
「訓練内容の書類を求めているので、現在担当者に対応させています。しかし時間は要すると思われます。」
苦虫を噛んだような顔でそう応えた。
「しかし、作戦準備は整っているんだろ?」
自分の卓上に置いてあった作戦立案書を横目で見ながら、問い返した。
「はい。朝一で核弾頭が三発、グアムから厚木の保管施設に運び込まれました。日本政府の許可が下りることを見越して、部隊も全て日本海に展開させています。」
事務的な口調でエリックは言った。作戦立案から全て任された彼は、早々と無人島の選定と、それに並行して部隊を動かしていた。更に第七艦隊を主力として在日米軍のおよそ六割の戦力を日本海に展開させていた。核弾頭も太平洋空軍司令部からの了承を得て、今朝厚木基地に運び入れたのだった。しかし日本政府からの渡島大島の使用許可が下りず、核弾頭は一時、厚木の保管施設に置かれることになった。
「作戦参加部隊に即時待機を下令。核保管施設の警備を強化させろ。」
クーパーは肩を落としそう指示した。
「日本政府からの許可は遅くとも明日の午前には得られるよう、全力をあげます。」
エリックはそれだけ言い残し、執務室から退室した。クーパーはその姿を見送り、自身も無人島をいち早く使用させて貰えるよう、政府関係者にコンタクトをとるため身支度を始めた。
今日も相模湾の海面には、月明かりが映し出されていた。時刻は午前二時を回り、神奈川県平塚市の、相模川に面する防波堤には夜釣りを楽しむ面々が、小さな灯りを照らしながら釣り糸を海中に垂らしていた。沈黙を嫌う者の近くでは深夜ラジオの音声が辺りに響き渡る。その中、一人の中年男性が竿を振った。風を切る音がし、炭のような海面に赤い浮きが波とともに漂う。そして男性は深い溜息をつき、足元に置いていた缶コーヒーに手を伸ばした。暖かかった筈のコーヒーは既に冷めており苦さが増しているように思え、男性は海に吐き捨てた。同時に海の異変に気付いた。
「潮が引いている・・・」
津波の前兆と悟った男性は、すぐさま釣り道具一式を置き捨て、周囲の人々に避難を呼び掛けた。それを聞いた人々は忙しくその場から離れる準備を始める。その中、言わずとも津波だと感づいた者がおり、呼び掛けた時には車で走り去っていた。そんな身勝手な者達を横目に、その防波堤では一期一会の人達が助け合いながら避難を始めた。呼び掛けをした男性も自分の車に乗り込み、アクセルを踏むと同時に家族へ高台に避難するよう電話を掛ける。
しかし、自然と比べると人間の行動はいかにも遅いものであった。車を走らせて間もなく、ビル五階建てにも相当しうる津波が襲い掛かってきた。海岸線を通る国道一三四号線は寸断され、そこを走っていたあらゆる車両は飲み込まれた。住宅街も無論無事には済まず、一瞬の内に平塚市の海岸線は相模湾の一部と化した。
「平塚市にて津波の情報!被害等の詳細は不明!」
深夜三時を回った神奈川県庁の危機管理局で、受話器を片手に一人の職員が怒鳴った。
「海底地震か!」
咄嗟に別の職員が問い質す。
「現在確認中です!県警と消防が現地に向かっています!」
受話器を置き、報告した職員が続けるように言う。
「災害対策本部を至急設置。知事に緊急連絡。」
その場の責任者らしき職員が報告を聞き、そう指示を飛ばした。
「地方気象台より、ここ六時間、関東地方で地震等は確認されていないとのことです!」
当番となって残っていた数人の職員が忙しく動き回る中、一人の職員の報告に、周囲は耳を疑った。地震が無いのにも関わらず、津波が発生しているという異常事態を直ぐに理解出来る者はいなかった。
「地方気象台より続報!平塚市にて震度3の地震が連続的に発生。震源が移動しているのではないかという見解が来ています。」
またも理解不能な報告に周囲は騒めいた。連絡を受けた職員らが続々と集まってくる中、状況把握がしやすいようにホワイトボードに一人の職員が報告等を書き殴っていく。最初は違和感ない内容であったが、次第に意味不明なものに変わっていった。やがて危機管理局から災害対策本部に場は移され、徐々に現状が明るみになってきた。県警や消防の連絡官が到着し、県の職員と情報共有をはかりだす。災害対策本部開設から三十分。知事が到着し、陣頭指揮を執りだした。
「状況を教えてくれ。」
防災服に身を包んだ知事は最初に危機管理局長に問い掛けた。
「はい。二時十五分に県警より第一報がありました。現在津波は引きつつあるとの事ですが、現在それに代わり、震度3の地震が連続的に発生しています。尚、震源は内陸部に移動しているとのことです。」
自分でも後半意味が分からないことを言っているのは重々承知していた。知事の顔が険しくなるのを横目で見つつ、最後まで言い切った。
「現地の状況は分からないのか?」
険しい表情を変えることなく、知事は冷静な口調で問い質した。
「現在、県警のヘリが現地に向かっています。間もなく映像が伝送されるものと思われます。」
県警職員が話に割って入り、そう報告してきた。
「現在までの被害状況は分かっていないのか?」
県警職員の話に頷きつつ周囲の人間にそう問い掛けた。
「今入った情報によりますと、国道一三四号線は平塚駅南口入口交差点から、高浜台交差点の間は完全に水没。松風町まで波が到達しているとのことです。」
報告書を片手に持った県職員がそう口を開いた。それを聞き、今まで冷静な姿勢を見せていた知事の顔は一瞬にして血の気が引いていた。自分が思っていた以上に深刻な事態だったからだ。昼間ならともかく、寝静まっている深夜にいきなり津波が押し寄せ、それも想像していたより内陸部にまで波が達していた。その被害は計り知れないものであった。
「救助活動は!」
思わずそう怒鳴った。その横ではホワイトボードに張り付けてあった平塚市の地図に赤ペンで斜線が引かれ始めていた。その斜線の範囲は言わずとも被害地域を指すものであり、言葉ではなく実際に目にしてみると焦る気持ちが増していた。
「現在救助隊が平塚駅に到着し、指揮所を設置しています。先遣隊は既に救助活動に着手している筈ですが、まだ報告があがってきていないため確認中です。」
消防の作業服に身を包んだ隊員が険しい表情で報告してきた。県警の機動隊員もその横におり、共同で任務にあたっていることを暗示させていた。
「知事。先程、総理より官邸連絡室の設置に伴い、情報を全て上げるよう指示が来ました。」
少し遅れて災害対策本部に到着した副知事が小走りで近付き、そう報告してきた。
「分かった。政府への対応は頼む。自衛隊は?」
政府との連絡係を副知事に任せ、近くの県職員に自衛隊の動きについて尋ねた。
「現在武山駐屯地から連絡官二名がこちらに向かっています。また情報収集のため、付近の航空基地から回転翼及び固定翼機が離陸。現在上空で任務にあたっているとのことです。」
事態発生から二時間が経とうとしている中、その全貌はまだ把握出来ていなかった。自衛隊に災害派遣の要請すら出せていない現状で情報も全然入ってこず、知事は苦虫を噛み潰したような表情になっていた。
「先遣隊からの連絡で、現場一帯は混乱状態。主要な幹線道路は交通渋滞により使用不能で、陸路による救助部隊到着は時間を要するとの事です。」
消防隊員のその続報に知事は思わず舌打ちをした。
「一体、何が起こっているんだ!」
続けるようにして、周囲に集まっている職員に怒鳴る。直後我に返り、肩を竦めた。
職員らも知事の気持ちが痛いように分かっていたため、何も言えなかった。その中、県警本部長が部下数人とともに、ただならぬ顔で対策室に入ってきた。五十代前半で貫録ある彼は知事の前で足を止め、
「知事。非常に言いづらいのですが、避難誘導を行っている現場の隊員から巨大生物が内陸部に移動しているという確定情報が多数寄せられていまして、」
防災訓練などで見ている強気な彼の姿は微塵もなかった。この異常事態に顔面蒼白でそう告げてきた。その内容を裏付けるように、オープンになった警察無線が対策室内に流れ始めた。
(交機4より本部!情報にあった巨大生物を現在目視にて確認中!表皮は茶色、直立二足歩行で、体長は目測五十メートル前後!尚も内陸へ向け移動中、指示を!)
(本部より交機4。引き続き巨大生物の動向監視にあたれ)
ほんの数分前までは津波と地震という自然災害で全員が動いていたのにも関わらず、ここにきて今後の動きに知事は戸惑った。連絡官として県庁に到着した自衛官二人組も、知事への報告を後回しに無線機で忙しくやり取りをしている。
「生物。ということになりますと、猟友会による駆除か、自衛隊による害獣駆除の二択となります。」
副知事が法律関係の書籍を凝視しつつ、口を開いた。
「体長五十メートルだぞ。警察の方で対処は出来ないのか?」
ここで知事は一度頭を整理した。海から新種の生物が上陸し内陸へ向け進行している。シロナガスクジラが上陸したんだ。地球上で既に確認されている生物を例えに考えると、落ち着いて状況を見ることが出来た。出来れば猟友会の力で駆除して欲しかったが、民間人を危険な目に遭わせる事は出来ず、警察での対処を望んだ。
「残念ながら、警察による害獣駆除。害獣に向けた発砲は認められていません。猟友会で駄目なら自衛隊に害獣駆除要請を出さねばなりません。」
県警本部長の返答を聞き、知事は下唇を噛みしめる。
「知事!総理よりお電話が入っています!」
一瞬の沈黙を裂くように県職員が叫んだ。
「猟友会には準備をさせろ。後、猟友会の護衛として銃器対策部隊の出動を。」
知事は咄嗟にそう決断し、指示を出した。このまま進行されたら神奈川県が負う被害は計り知れないものになる。そのため早い段階での殺処分が求められると考えた。相手が生物なら撃ち殺せばいい。環境保護や動物愛護団体から何かしらの反発があるかもと脳裏をかすめたが、気にしている余裕はなかった。指示を受け取った県警本部長や関係者はすぐさま行動に移した。
知事はそれを横目で見ながら受話器を手に取った。
眠気が残る中、飯山は携帯の着信音で目を覚ました。隣のベットに寝ていた中村も同様、ほぼ同じタイミングで鳴った。目をこすりながら時刻を確認する。ベット横の時計は、赤色のデジタル表記で午前四時を示していた。在日米軍の動向調査の初日。飯山と中村は横田基地近くのビジネスホテルに宿泊していた。中村とも大分打ち解け、明日から本格的に調査を使用としていた中での電話。時間帯からして緊急事態を告げるものだと直感していた。意識をしっかりと戻し、電話に出る。
(お疲れ様です。内閣危機管理センターの宮内と申します。平塚市に巨大生物が上陸しました。詳細は不明ですが、米軍調査を中断し、中村一尉と官邸に来てください。車をそちらに回しました。)
いきなりのことに頭が混乱していた。
「巨大生物?平塚?官邸?」
傍から見ると馬鹿丸出しの光景だったが、無理もなかった。中村も隣で同じ状況になっていた。
(ホテルの正面玄関に車をまわしましたので、お願いします。)
宮内と名乗った人物は、そう言い残し、一方的に電話を切った。飯山は冷たい態度に腹がたったが、自分の置かれている状況を冷静に考え直した。中村も頭の整理が追いついていない様子だ。
「とりあえず官邸に。」
飯山はそう自分に言い聞かせ、急ぎ身支度を始めた。何が起こっているのか理解出来なかったが、迎えがくるから準備をしなければならないことだけは、はっきりしていた。制服を着込み鏡で素早く身なりを確認する。それを見、中村も遅れて身支度を始めた。自衛官としてベットを整えてから部屋を出たかったが、そんな暇はないと言い聞かせ、大きめのバックを片手に、中村とともに部屋を後にした。
「巨大生物って、ゾウとかですかね?」
足早に廊下を歩いている中、中村がそう切り出してきた。
「ゾウが暴れたからって、俺達が呼ばれるか?何か嫌な予感がするな。」
非常階段の厚いドアを開け、そう返した。エレベーターで降りても良かったのだが、時間が掛かると思い階段にしたのだった。階段の踊り場には蛍光灯が光り、階数を表示していた。3Fと書かれたのを見、急ぎ階段を下る。沈黙の中、男二人の靴音が騒々しく響き渡る。やがて正面玄関に到着するとスーツ姿の男性が数名待機していた。
「飯山三佐及び中村一尉ですね?」
二人の姿を確認した先頭の男性がそう告げてきた。飯山は軽く頷き足を前に進めた。
「お待ちしていました。官邸へお連れします。」
誘導され、黒のワンボックスカーに向かった。車の正面に目をやると自衛隊車両を表す桜のマークが記されており、スーツ姿の彼らが防衛省職員であることが分かり、警戒心を抱くことなく、ワンボックスカーに乗車した。そして全員が乗り込んだ事を確認した運転手は一気にアクセルを踏み込み、官邸へ向け発車した。
その頃、神奈川県から津波及び巨大生物上陸の報告を受けた官邸はパニック状態と化していた。津波発生の報を受け、官邸連絡室が設置され、対処に動き出していた矢先、巨大生物上陸の報を受けた。直後、官邸連絡室から内閣危機管理センターに場は移され、岡山総理以下、関係閣僚は対応を協議していた。
「上陸時は甚大な被害を受けましたが、現在は早急な避難行動により被害者は出ていません。通過後の被災地では救助活動を全力で行っております。」
内閣府と背中に書かれた服を着た職員が閣僚らの前で報告する。数人が頷き報告書に目を向けた。その中、
「環境省としては、生物の調査を行いたいと考えております。」
小林環境大臣が職員から上がってきた報告書を見ながらそう述べた。
「神奈川県知事は生物の早期駆除を求めています。既に猟友会が動き出し、駆除の方向で進んでいます。」
柿沼経産大臣が否定的な口調で返し、続けるようにして、
「それにこれ以上の被害は経済にも多大な損害をもたらします。猟友会でも自衛隊でもいいからサッサと駆除して貰いたいのですが。」
そう言い、危機管理センターのメインスクリーンに目を移す。そこには自衛隊の観測ヘリからの空撮映像が映し出されていた。まだ夜が明けていない時間帯だったため、映像は緑がかった暗視映像だったが、充分なほどの情報がそこから得ることが出来た。住宅街を無心で突き進む直立二足歩行の生物、一体どこに向かって歩いているのか誰も検討すらつけられなかった。
時々、火の手が上がりその度に数人が声をあげる。被害は計り知れなかった。
「防衛省としましては命令があればいつでも出せます。」
大山防衛大臣は自信満々に口を開いた。隣の席に座っていた統幕長もそれに頷く。全体の流れは殺処分に傾いていた。岡山総理は全体の意見をまとめ、自衛隊に害獣駆除の名目で出動させるよう指示した。しかし外務大臣の言葉がそれを止めた。
「総理!アメリカから緊急声明です。本国は巨大生物の捕獲を強く希望する。よって生物への攻撃は容認出来ない。とのことです。」
外務省職員が小走りで文書を手渡し、外務大臣が素早く読み上げた。それを聞いた周囲は沈黙した。岡山総理も突然のアメリカ介入に言葉を失った。
「何故、このタイミングでアメリカが?」
大山が一人呟く。
「アメリカはこの生物の存在を知っていたということだな。」
国交大臣がそう口を開くと、周りが一気に騒めき始める。岡山に集中砲火が浴びせられる。しかしどれも個人の主張に偏ったものばかりであった。
「総理。後々アメリカの支援が必要となります。私としては捕獲の方向で動いても宜しいかと。」
外交を重視した外務大臣がそう進言してきた。それを聞き環境大臣は身を乗り出すような形で、
「環境省としても、日本独自の固有種として保護するべきです。そのためには今は捕獲を進言します。今なら日米共同での管理が可能です。」
その意見に岡山は頷きたかったが、被害状況を映したスクリーンを見た時、容易に首を縦にふれなかった。破壊された住宅街がズームで映されていた。我々の決断が遅れているこの間にも日常生活を奪われている人々がいる。そう考えると、この生物を生かしておくべきなのか。脳内を駆け巡る。そして、
「自衛隊に害獣駆除を命令する!」
の一声をあげた。直後、大山は大きく頷き、統幕長に指示を出した。
「了解しました!直ちに実施可能な作戦プランを立案します!」
統幕長はそう言い立ち上がった。他の閣僚らも指示を受け個々に動き始めた。その時、
(巨大生物!厚木基地に到達!進行を停止しました!」
危機管理センター内にその報告が響き渡る。全員が動きを止めた。スクリーンに目線が集中する。そして、そこでの映像にその場の者は目を見張った。
巨大生物上陸の知らせを受け、クーパーは言葉を失っていた。日本政府がどのような対応を取るかは未知数であったが、すぐに攻撃という選択肢を取らない事は明白だったため、部下に米軍独自での作戦立案をさせていた。しかし在日米軍の殆どの戦力は米韓合同軍事演習と合わせ、日本海にあり防衛戦を展開するにも人員がいなかった。
「厚木に保管している核弾頭が狙いでしょうね。」
横田基地のオペレーションセンターで警報が鳴り響く中、エリック副官が耳打ちしてきた。
言われずとも分かっていたが、クーパーは今の状況を呑みこめていなかった。まさか、日本海から核弾頭を狙って上陸してくるとは思いもしなかったからだった。
「司令官。攻撃命令をお願いします!何もせず核弾頭が奪われるのを見ていることは出来ません!」
陸軍中佐がそう進言してくる。核弾頭警備のため、厚木基地には小規模ながら戦力はあった。しかしテロリスト等を想定した装備品で部隊は編成されており、充分とは言えなかった。それに第一、大統領から攻撃許可は下りておらず、命令違反をする訳にはいかなかった。
「核弾頭の近くで戦闘勃発など、放射性物質が漏れたらどうするんだ!」
クーパーがそう考えている横でエリックが陸軍中佐に叱咤する。
「飛ばせるヘリはあるか?」
その中、クーパーは唐突に近くにいた空軍大佐に問い掛けた。
「はっ、ブラックホークなら五分で離陸出来ます。」
困惑気味にそう返す。
「画面越しではなく、直接ヤツを見たい。エリック、ついてきてくれるか?」
その言葉に周囲の士官は一斉に止めに入った。しかしエリックは少し考えた後、
「了解しました。お供します。」
「よし、厚木の隊員は一人残らず避難だぞ、くれぐれもヤツに銃口なんか向けるなよ。徹底させろ!」
周囲の引き留めをよそに、二人は空軍兵の誘導に従いオペレーションセンターを後にした。
クーパーの指示を受け横田基地のエプロンにはブラックホーク一機が離陸態勢で待機していた。その後ろにはアパッチと呼ばれる攻撃ヘリが二機、低空飛行しており護衛についていた。
ローター音が響き渡る中、機上整備員に手を引かれ、二人はブラックホークに搭乗した。
それから数分、機器の安全確認が終わったブラックホークはその機体を空に浮かし、エンジンの強まる音と共に高度を上げ、厚木に向かって飛行していった。
巨大生物が数十分にも渡って居座る形になった厚木基地周辺は極度のパニック状態になっていた。県警の機動隊が猟友会の組員と共に、広範囲に渡って展開。米軍の厚木基地は海上自衛隊厚木航空基地と隣接しているため、基地内においては海自の基地警備隊が銃口を巨大生物に向けていた。それに対し米軍は、司令官指示のもと、基地外への避難を始めており、日本の有事の際、アメリカは何もしてくれないということを絵に書いたような、そんな光景が広がっていた。巨大生物は立ち尽くしながらも周囲を見渡している。時折唸り声を挙げ、その顔は憎悪に満ちていた。その姿を観測する自衛官らも、その顔を恐怖から直視することは出来なかった。
「指揮所。こちら地上観測班。現在の所生物に動きなし。送れ。」
厚木飛行場で数人の陸自隊員が小銃を担いつつ警戒していた。その中双眼鏡で一人が報告を飛ばす。
(地上観測班。こちら指揮所。了解、引き続き警戒実施。送れ。)
指揮所への定時報告。生物が進行を停止してから同じやり取りしかしておらず、緊張感がなくなりつつあった。その時、
「生物に動き有り!繰り返す動き有り!送れぇ!」
巨大生物は何の前触れもなく、いきなり素早い動きで格納庫を破壊し始めた。咆哮を挙げ再び歩を進める。完全に基地内に入ったその生物は、管制塔を長い尻尾でなぎ倒し、横一列に並んだ格納庫を蹴とばすように壊し始めた。そして、身を屈めたかと思うとある物を手に取った。
「司令官!ヤツ、核弾頭を手に!」
厚木基地上空に到達したクーパーらを乗せたブラックホーク。その機上でエリックが窓越しに声を荒げる。パイロットも基地上空を旋回しつつ、その光景に唖然としていた。
(クーガ1、クーガ2。攻撃態勢に移行。)
直後、その無線が聞こえ同時に、後ろを飛行していたアパッチ二機が大きく身を翻した。
「射撃は認めんぞ!」
クーパーはヘリの動きを見、機上整備員に叱咤する。
「念のためです!司令官自らここにいらっしゃるんですから、これぐらいさせて下さい!」
ヘリのエンジン音が耳をざわつかせる中、機上整備員は声を張りそう返した。
それを聞き、小さく頷く。そして視線を生物に向けた。
「背びれが発光している・・・」
エリックが呟いた。クーパーが目を向けると確かに発光していた。小刻みに白く光る背びれに不快感を覚えた。何故かは分からなかったが見ていて心地のいい光ではなかった。
「司令官。これ以上現空域に居座るのは危険です!横田に帰還しましょう!」
副操縦士がそう告げる。クーパーは生物から視線を外すことなく、声にならない声で帰還することを了承した。それを聞き、機長は一気に機体をくねらせる。直後、今まで経験したことがない振動が彼らを襲った。
厚木基地上空で閃光が起こった。
「地上観測班より指揮所!米軍ヘリが自衛隊観測ヘリと接触!飛行場内に落下!送れ」
観測班を指揮していた小沢一曹は青ざめた。巨大生物の動向監視が任務で安全地帯から状況を逐次報告していたが、巨大生物の近くに二機とも墜落した。
「班長!救助を!」
部隊に配属されて間もない狭間士長は叫ぶような口調で進言してきた。他の部下も指示を待っていた。墜落現場を見ると激しく炎上しており、一見すると生存者は皆無に思えた。視線を巨大生物に向けると、生物も墜落する姿に目を向けたものの、動きがない今になっては興味がなく、依然小刻みに背びれを発光させていた。
直線距離で八百メートル。小沢一曹は悩んだ末、双眼鏡を置き、小銃を手にした。
(指揮所より観測班。救助可能であれば速やかに実施!送れ。)
遅れて指揮所からその命令が届く。
「観測班了解。人命救助実施する。終わり。」
班の無線士がそう返し、被害を受けていない海自施設周辺に目を向けた。すると同じく警戒任務に当たっていた海自基地警備隊も救助態勢に入っていた。
「これより我が班は、海自と共同し、人命救助を行う。掛かれ!」
小沢もその姿を見た後、班員全員の顔を確認し、そう言い放った。そして墜落現場に向けて走り出した。
(指揮所より各部隊。墜落現場に向かう救助隊を援護。生物の動きによっては火器の使用を許可する。)
その命令が、厚木基地周辺に展開する陸自部隊内に流れた。その指示を受け、近くの公園広場に射撃陣地を構築していた120ミリ重迫撃砲中隊が動き始めた。
「重迫射撃命令!面制圧射撃、目標巨大生物脚部。弾頭については煙幕使用!斉射!各砲座発射弾数一発!装填待て。」
広場に展開する複数の重迫撃砲。その光景は異様そのものであった。その中で中隊長が指示を出す。煙幕を巨大生物の周囲に撒くことで救助部隊を掩護しようとしていた。
「中隊長!斉射用意良し!」
「半装填!」
「半装填良し!」
弾頭が砲の中に入る。中隊長は大きく息を吐き出し、
「中隊効力射!って!」
の一声を絞らせた。直後、砲弾が火柱をあげ上空に放たれた。鈍い発射音と共にきな臭いにおいが周囲を包む。
(中隊長、こちら前進観測班!目標周囲に煙幕を確認!救助部隊、墜落現場に到達を確認。送れ!)
射撃に伴い、弾着地域を観測する班員からの報告を受け、中隊長は安堵した。他の隊員らも溜息混じりに束の間の笑顔を見せる。
(数人の自衛官及び米兵が救助された模様!尚、生物については進路を変更。相模川に向け移動を開始。別命あるまで待機する。)
続報が入りその内容に再び笑みがこぼれたが、生物の移動を聞き自分達の任務が変わったことを示唆していた。
「中隊!陣地変換!」
中隊の全隊員に聞こえるよう怒鳴るように言い放った。隊員らはそれを聞き忙しく動き出した。それを見、中隊長も指揮所に連絡を取るため、無線機があるジープに向かった。
重迫撃砲中隊の援護もあり、自衛官と米兵合わせて五名を救助することが出来た。
救助隊指揮官となった小沢一曹は疲れを滲ませた表情を隠しつつ、墜落現場から距離を取るため隊全員を走らせていた。時折生物を見るとこちらには危害を加えるような素振りはなく安堵はしていたが、この場から早く離れたかった。隊員らの酷い息遣いが聞こえ、限界に近いことを暗示していた。意識がもうろうとしてくる中、ヘリのローター音が聞こえ、思わずその音が聞こえる方に手を伸ばした。
「もう大丈夫です!皆さんもうひと踏ん張りです!」
気付くと目の前にはヘリの機上整備員がおり、その向こうにはCH47輸送ヘリが降着していた。数人の小銃を携えた隊員がこちらに走ってくる。よく見ると全員防護マスクを装着していた。不思議に思ったが問い掛ける元気もなく、その場に倒れ込んだ。他の隊員らもバタバタと倒れた。
「指揮所。こちら救助班。全員収容完了。多量の放射能を浴びており危険なため、三宿駐屯地の医療施設へ搬送する。尚、在日米軍司令官も放射能を浴びてはいるが生存は確認。送れ」
防護マスク越しに、その部隊の隊長と思しき人物が無線に言った。縦長のヘリ内には担架に乗せられた隊員らが二列になって横たわっている。その中にエリックの姿はなかった。
「総理。緊急事態です。」
大山が何の前振りもなく、いきなり告げてきた。
「北朝鮮プンゲリの核関連と思しき施設が破壊されている事が、先程の衛星写真から判明しました。今、総理に連絡を取ろうとしていた所でした。」
続けるように言い、報告書を手渡してきた。
「放射能漏れは?」
報告書を軽く通読し、問い掛けた。
「韓国軍によりますと、放射能漏れは確認されていないとの事です。小松基地から飛ばした情報収集機からもそのように報告が挙がってきました。」
大山の隣の席に腰を降ろしていた迷彩服姿の男が立ち上がり、そう報告してきた。岡山はその男を見、すぐに統幕長だと理解した。統幕長とは自衛隊制服組トップで、北朝鮮情勢の急激な変化を受けて、官邸に出向してきたのだった。
「すると、事故か?」
総理大臣と指定された座席に腰を降ろし、問い掛けた。
「不明です。米軍が調査していると先程連絡がありましたので、報告待ちだと思います。」
防衛大臣の向かい側の席に座っていた本山外務大臣がそう口を開いた。岡山はその返答に頷き、
「福島の件はどうなっている?有識者からの見解は?」
「有識者会議を何度も開いているのですが、依然原因は分かっていません。」
総理の問い掛けに、近くにいた原子力規制庁の職員がそう応えた。
「推論でもいい。分かり次第すぐに報告を頼む。」
そう言い、その場を後にしようと席を立つ。直後、数人が総理の周りに付き、エレベーターまで誘導する。他の閣僚は席を立ち、総理が出るのを見送る姿勢をとった。その時、外務省職員が小走りで本山外務大臣に近付いてきた。そして耳打ちをする。
「総理!お話があります!」
エレベーターに乗り込み、ドアが閉まる直前、本山が叫ぶように呼び止めた。それを聞き、岡山は素早くエレベーターから降りる。
「米国防省から政府に要請が来ました。」
岡山が会議席の近くに来るのを待ち、本山がそう口を開いた。そして報告してきた外務省職員に説明を求めた。職員は緊張気味に姿勢を正し、
「はい。在日米軍の訓練で、日本政府管轄の無人島を使用させて欲しいとの要請が先程、外交ルートを通じてこちらに連絡がありました。至急に返答が欲しいとのことでここまで情報が上がってきました。」
一連の流れを事務的な口調で話す。
「なんでウチじゃないんだ・・・。」
大山の後ろに立っている防衛省職員が呟く。
「無人島?どこのだ?」
今まで口を閉ざしていた斎藤国交大臣が話に入ってきた。
「北海道沖の渡島大島です。」
外務省職員は即答し続けるようにして、
「日本最大級の無人島で、本土から五〇キロ程離れています。」
と、補足を付け足した。周囲に沈黙が広がる。
「訓練でって、いったい何の?聞いてないのか?」
大山が問い質す。
「兵員を上陸させるとだけは言ってきましたが、詳細は不明です。」
閣僚らの表情が険しくなる。岡山も曖昧な内容の要請に渋っていた。
「合同演習の一環か?」
統幕長の近くにいた制服姿の幹部自衛官数名がそう呟き始めた。統幕長が振り返り、静かにするよう口頭で注意する。
「国防省としては、早急に使用許可を出して貰いたいとのことですが。」
外務省職員の言葉に閣僚らは黙ったままだった。この返答を急いで欲しいというアメリカの要望に困り切っていたのだった。仮に政府がここで許可したとしても現地の自治体が許す訳が無く抗議活動が始まるのは目に見えていた。それに訓練内容が分からない事には住民への説明も充分には出来ず、今回の要請には無理があった。岡山は数分悩んだ末に、
「詳細な訓練内容とその意図。そして正式な訓練計画書の提出を私が確認次第、無人島の使用許可を出す。尚、これが完了しない限り、無人島の使用は一切認められない。そう伝えてくれ。」
岡山総理のアメリカに対する強い姿勢に、閣僚達は思わず息を呑んでいた。指示を受けた外務省職員は一礼しその場から離れて行った。その職員の背中を見つめつつ、岡山は大きなため息をついた。
「航空自衛隊一等空尉中村です。宜しくお願いします。」
政府要人が行きつけると言われる高級料亭。その個室に飯山は通されていた。個室に入ると空自の制服に身を包んだ小柄で細身な男性が座敷に座っており、目が合うとその男性から挨拶をしてきた。飯山も挨拶を返し、中村と名乗った男性の向かい側に腰を降ろす。目の前には既に料理が並べられていた。
「バディの対面が済んだみたいですね。」
少し遅れて白石が個室に入ってきた。中村がその場で会釈する。
「早速ですが、おふた方には明日から横田基地及びその周辺で諜報活動に従事して頂きます。」
白石も腰を降ろしつつ言い、諜報活動の概要が書かれた計画書を二人に手渡した。
二人はお互い話すどころか、その計画書に目を通し始めた。個室にページをめくる音が響く。
「先程、新たな動きがありまして、渡島大島という無人島を、米軍が訓練で使用したいとの要請が政府にあったということです。」
読み始めてから五分弱。その沈黙を破るように白石が口を開いた。
「渡島大島?訓練内容は?」
飯山は計画書を閉じ、そう問いかけた。中村も読むのを止め、白石に目を向ける。
「訓練内容等は通知されていませんでした。なので、総理はこの要請を却下したと。」
その返答に中村は失笑してしまっていた。
「アメリカの要請を蹴ったんですか・・・。」
「蹴ったというより、計画書を出して貰えれば使用許可を出すと伝えたそうです。」
中村の言葉に白石は冷静な口調で返した。
「まぁ、使わせて欲しいのに、用途を明らかにしないのはおかしいですね。」
飯山はそう言い、目の前のコップに口を付けた。
「はい。なのでそこも含めて調査をお願いしたいと思いましてですね。」
白石はそう言い、目の前の料理に手を付けた。それを見、二人も口にし始める。
「多分、全部一つの線で結ばれてる気がします。」
中村がそう口を開くと、飯山もそれに同意するかのように頷く。
「自分の推論ですと、テロリストが放射能吸収装置みたなヤツをアメリカから奪い、福島の放射能を取り、日本海に移動。国内に吸収した放射能をばら撒かれたくないアメリカは渡島大島でテロリストとの交渉に応じたいと思っている。そう考えられませんかね。」
白石の推論に二人は黙り込んだ。わりかし有り得る話だったからだ。一見するとあまりにもSFチック過ぎて信じようもない話だが、この現状を見た時、百パーセント否定できる要素はなかった。
「放射能吸収装置ねぇ。」
飯山が呟くように言う。
「NASAなら開発してもおかしくはありませんがね。」
中村の言葉に飯山は失笑した。
「どこまで映画じみてんだよ。」
そう突っ込みを入れたが、脳裏ではやはりこれも有り得なくない話だなと思っていた。自分達が今直面している問題は、どれ位の規模なのか考えるだけでも身震いする程だった。明日から始まる未経験の任務に、緊張しぱなっしだった。それは飯山に限らず中村も同様であり、自分に務まるぼかと考えてしまっていた。アメリカの裏に迫れると考えると、興味をそそられる任務であったが、いざ自分が受け持ってみると、その重大さははかりしれなかった。そう考え込んでいると、個室には再び沈黙が広がっていた。
「まぁ、今日は食べてください!」
白石は労いの言葉を二人に掛けたが、それを聞いても頷くだけだった。
大統領から命令が下り、三日が経過していた。朝の陽ざしが今日も横田基地の滑走路を照らし始め、それとともに誘導灯の光が見えにくくなる。格納庫付近では整備員らが忙しく業務に就き始めた。やがて、横田基地の駐機場には航空機が姿を現した。
そんな中、執務室ではクーパーの怒声が響き渡る。
「なに!却下!」
その声の大きさにエリックは一瞬ひるんでしまった。
「訓練内容の書類を求めているので、現在担当者に対応させています。しかし時間は要すると思われます。」
苦虫を噛んだような顔でそう応えた。
「しかし、作戦準備は整っているんだろ?」
自分の卓上に置いてあった作戦立案書を横目で見ながら、問い返した。
「はい。朝一で核弾頭が三発、グアムから厚木の保管施設に運び込まれました。日本政府の許可が下りることを見越して、部隊も全て日本海に展開させています。」
事務的な口調でエリックは言った。作戦立案から全て任された彼は、早々と無人島の選定と、それに並行して部隊を動かしていた。更に第七艦隊を主力として在日米軍のおよそ六割の戦力を日本海に展開させていた。核弾頭も太平洋空軍司令部からの了承を得て、今朝厚木基地に運び入れたのだった。しかし日本政府からの渡島大島の使用許可が下りず、核弾頭は一時、厚木の保管施設に置かれることになった。
「作戦参加部隊に即時待機を下令。核保管施設の警備を強化させろ。」
クーパーは肩を落としそう指示した。
「日本政府からの許可は遅くとも明日の午前には得られるよう、全力をあげます。」
エリックはそれだけ言い残し、執務室から退室した。クーパーはその姿を見送り、自身も無人島をいち早く使用させて貰えるよう、政府関係者にコンタクトをとるため身支度を始めた。
今日も相模湾の海面には、月明かりが映し出されていた。時刻は午前二時を回り、神奈川県平塚市の、相模川に面する防波堤には夜釣りを楽しむ面々が、小さな灯りを照らしながら釣り糸を海中に垂らしていた。沈黙を嫌う者の近くでは深夜ラジオの音声が辺りに響き渡る。その中、一人の中年男性が竿を振った。風を切る音がし、炭のような海面に赤い浮きが波とともに漂う。そして男性は深い溜息をつき、足元に置いていた缶コーヒーに手を伸ばした。暖かかった筈のコーヒーは既に冷めており苦さが増しているように思え、男性は海に吐き捨てた。同時に海の異変に気付いた。
「潮が引いている・・・」
津波の前兆と悟った男性は、すぐさま釣り道具一式を置き捨て、周囲の人々に避難を呼び掛けた。それを聞いた人々は忙しくその場から離れる準備を始める。その中、言わずとも津波だと感づいた者がおり、呼び掛けた時には車で走り去っていた。そんな身勝手な者達を横目に、その防波堤では一期一会の人達が助け合いながら避難を始めた。呼び掛けをした男性も自分の車に乗り込み、アクセルを踏むと同時に家族へ高台に避難するよう電話を掛ける。
しかし、自然と比べると人間の行動はいかにも遅いものであった。車を走らせて間もなく、ビル五階建てにも相当しうる津波が襲い掛かってきた。海岸線を通る国道一三四号線は寸断され、そこを走っていたあらゆる車両は飲み込まれた。住宅街も無論無事には済まず、一瞬の内に平塚市の海岸線は相模湾の一部と化した。
「平塚市にて津波の情報!被害等の詳細は不明!」
深夜三時を回った神奈川県庁の危機管理局で、受話器を片手に一人の職員が怒鳴った。
「海底地震か!」
咄嗟に別の職員が問い質す。
「現在確認中です!県警と消防が現地に向かっています!」
受話器を置き、報告した職員が続けるように言う。
「災害対策本部を至急設置。知事に緊急連絡。」
その場の責任者らしき職員が報告を聞き、そう指示を飛ばした。
「地方気象台より、ここ六時間、関東地方で地震等は確認されていないとのことです!」
当番となって残っていた数人の職員が忙しく動き回る中、一人の職員の報告に、周囲は耳を疑った。地震が無いのにも関わらず、津波が発生しているという異常事態を直ぐに理解出来る者はいなかった。
「地方気象台より続報!平塚市にて震度3の地震が連続的に発生。震源が移動しているのではないかという見解が来ています。」
またも理解不能な報告に周囲は騒めいた。連絡を受けた職員らが続々と集まってくる中、状況把握がしやすいようにホワイトボードに一人の職員が報告等を書き殴っていく。最初は違和感ない内容であったが、次第に意味不明なものに変わっていった。やがて危機管理局から災害対策本部に場は移され、徐々に現状が明るみになってきた。県警や消防の連絡官が到着し、県の職員と情報共有をはかりだす。災害対策本部開設から三十分。知事が到着し、陣頭指揮を執りだした。
「状況を教えてくれ。」
防災服に身を包んだ知事は最初に危機管理局長に問い掛けた。
「はい。二時十五分に県警より第一報がありました。現在津波は引きつつあるとの事ですが、現在それに代わり、震度3の地震が連続的に発生しています。尚、震源は内陸部に移動しているとのことです。」
自分でも後半意味が分からないことを言っているのは重々承知していた。知事の顔が険しくなるのを横目で見つつ、最後まで言い切った。
「現地の状況は分からないのか?」
険しい表情を変えることなく、知事は冷静な口調で問い質した。
「現在、県警のヘリが現地に向かっています。間もなく映像が伝送されるものと思われます。」
県警職員が話に割って入り、そう報告してきた。
「現在までの被害状況は分かっていないのか?」
県警職員の話に頷きつつ周囲の人間にそう問い掛けた。
「今入った情報によりますと、国道一三四号線は平塚駅南口入口交差点から、高浜台交差点の間は完全に水没。松風町まで波が到達しているとのことです。」
報告書を片手に持った県職員がそう口を開いた。それを聞き、今まで冷静な姿勢を見せていた知事の顔は一瞬にして血の気が引いていた。自分が思っていた以上に深刻な事態だったからだ。昼間ならともかく、寝静まっている深夜にいきなり津波が押し寄せ、それも想像していたより内陸部にまで波が達していた。その被害は計り知れないものであった。
「救助活動は!」
思わずそう怒鳴った。その横ではホワイトボードに張り付けてあった平塚市の地図に赤ペンで斜線が引かれ始めていた。その斜線の範囲は言わずとも被害地域を指すものであり、言葉ではなく実際に目にしてみると焦る気持ちが増していた。
「現在救助隊が平塚駅に到着し、指揮所を設置しています。先遣隊は既に救助活動に着手している筈ですが、まだ報告があがってきていないため確認中です。」
消防の作業服に身を包んだ隊員が険しい表情で報告してきた。県警の機動隊員もその横におり、共同で任務にあたっていることを暗示させていた。
「知事。先程、総理より官邸連絡室の設置に伴い、情報を全て上げるよう指示が来ました。」
少し遅れて災害対策本部に到着した副知事が小走りで近付き、そう報告してきた。
「分かった。政府への対応は頼む。自衛隊は?」
政府との連絡係を副知事に任せ、近くの県職員に自衛隊の動きについて尋ねた。
「現在武山駐屯地から連絡官二名がこちらに向かっています。また情報収集のため、付近の航空基地から回転翼及び固定翼機が離陸。現在上空で任務にあたっているとのことです。」
事態発生から二時間が経とうとしている中、その全貌はまだ把握出来ていなかった。自衛隊に災害派遣の要請すら出せていない現状で情報も全然入ってこず、知事は苦虫を噛み潰したような表情になっていた。
「先遣隊からの連絡で、現場一帯は混乱状態。主要な幹線道路は交通渋滞により使用不能で、陸路による救助部隊到着は時間を要するとの事です。」
消防隊員のその続報に知事は思わず舌打ちをした。
「一体、何が起こっているんだ!」
続けるようにして、周囲に集まっている職員に怒鳴る。直後我に返り、肩を竦めた。
職員らも知事の気持ちが痛いように分かっていたため、何も言えなかった。その中、県警本部長が部下数人とともに、ただならぬ顔で対策室に入ってきた。五十代前半で貫録ある彼は知事の前で足を止め、
「知事。非常に言いづらいのですが、避難誘導を行っている現場の隊員から巨大生物が内陸部に移動しているという確定情報が多数寄せられていまして、」
防災訓練などで見ている強気な彼の姿は微塵もなかった。この異常事態に顔面蒼白でそう告げてきた。その内容を裏付けるように、オープンになった警察無線が対策室内に流れ始めた。
(交機4より本部!情報にあった巨大生物を現在目視にて確認中!表皮は茶色、直立二足歩行で、体長は目測五十メートル前後!尚も内陸へ向け移動中、指示を!)
(本部より交機4。引き続き巨大生物の動向監視にあたれ)
ほんの数分前までは津波と地震という自然災害で全員が動いていたのにも関わらず、ここにきて今後の動きに知事は戸惑った。連絡官として県庁に到着した自衛官二人組も、知事への報告を後回しに無線機で忙しくやり取りをしている。
「生物。ということになりますと、猟友会による駆除か、自衛隊による害獣駆除の二択となります。」
副知事が法律関係の書籍を凝視しつつ、口を開いた。
「体長五十メートルだぞ。警察の方で対処は出来ないのか?」
ここで知事は一度頭を整理した。海から新種の生物が上陸し内陸へ向け進行している。シロナガスクジラが上陸したんだ。地球上で既に確認されている生物を例えに考えると、落ち着いて状況を見ることが出来た。出来れば猟友会の力で駆除して欲しかったが、民間人を危険な目に遭わせる事は出来ず、警察での対処を望んだ。
「残念ながら、警察による害獣駆除。害獣に向けた発砲は認められていません。猟友会で駄目なら自衛隊に害獣駆除要請を出さねばなりません。」
県警本部長の返答を聞き、知事は下唇を噛みしめる。
「知事!総理よりお電話が入っています!」
一瞬の沈黙を裂くように県職員が叫んだ。
「猟友会には準備をさせろ。後、猟友会の護衛として銃器対策部隊の出動を。」
知事は咄嗟にそう決断し、指示を出した。このまま進行されたら神奈川県が負う被害は計り知れないものになる。そのため早い段階での殺処分が求められると考えた。相手が生物なら撃ち殺せばいい。環境保護や動物愛護団体から何かしらの反発があるかもと脳裏をかすめたが、気にしている余裕はなかった。指示を受け取った県警本部長や関係者はすぐさま行動に移した。
知事はそれを横目で見ながら受話器を手に取った。
眠気が残る中、飯山は携帯の着信音で目を覚ました。隣のベットに寝ていた中村も同様、ほぼ同じタイミングで鳴った。目をこすりながら時刻を確認する。ベット横の時計は、赤色のデジタル表記で午前四時を示していた。在日米軍の動向調査の初日。飯山と中村は横田基地近くのビジネスホテルに宿泊していた。中村とも大分打ち解け、明日から本格的に調査を使用としていた中での電話。時間帯からして緊急事態を告げるものだと直感していた。意識をしっかりと戻し、電話に出る。
(お疲れ様です。内閣危機管理センターの宮内と申します。平塚市に巨大生物が上陸しました。詳細は不明ですが、米軍調査を中断し、中村一尉と官邸に来てください。車をそちらに回しました。)
いきなりのことに頭が混乱していた。
「巨大生物?平塚?官邸?」
傍から見ると馬鹿丸出しの光景だったが、無理もなかった。中村も隣で同じ状況になっていた。
(ホテルの正面玄関に車をまわしましたので、お願いします。)
宮内と名乗った人物は、そう言い残し、一方的に電話を切った。飯山は冷たい態度に腹がたったが、自分の置かれている状況を冷静に考え直した。中村も頭の整理が追いついていない様子だ。
「とりあえず官邸に。」
飯山はそう自分に言い聞かせ、急ぎ身支度を始めた。何が起こっているのか理解出来なかったが、迎えがくるから準備をしなければならないことだけは、はっきりしていた。制服を着込み鏡で素早く身なりを確認する。それを見、中村も遅れて身支度を始めた。自衛官としてベットを整えてから部屋を出たかったが、そんな暇はないと言い聞かせ、大きめのバックを片手に、中村とともに部屋を後にした。
「巨大生物って、ゾウとかですかね?」
足早に廊下を歩いている中、中村がそう切り出してきた。
「ゾウが暴れたからって、俺達が呼ばれるか?何か嫌な予感がするな。」
非常階段の厚いドアを開け、そう返した。エレベーターで降りても良かったのだが、時間が掛かると思い階段にしたのだった。階段の踊り場には蛍光灯が光り、階数を表示していた。3Fと書かれたのを見、急ぎ階段を下る。沈黙の中、男二人の靴音が騒々しく響き渡る。やがて正面玄関に到着するとスーツ姿の男性が数名待機していた。
「飯山三佐及び中村一尉ですね?」
二人の姿を確認した先頭の男性がそう告げてきた。飯山は軽く頷き足を前に進めた。
「お待ちしていました。官邸へお連れします。」
誘導され、黒のワンボックスカーに向かった。車の正面に目をやると自衛隊車両を表す桜のマークが記されており、スーツ姿の彼らが防衛省職員であることが分かり、警戒心を抱くことなく、ワンボックスカーに乗車した。そして全員が乗り込んだ事を確認した運転手は一気にアクセルを踏み込み、官邸へ向け発車した。
その頃、神奈川県から津波及び巨大生物上陸の報告を受けた官邸はパニック状態と化していた。津波発生の報を受け、官邸連絡室が設置され、対処に動き出していた矢先、巨大生物上陸の報を受けた。直後、官邸連絡室から内閣危機管理センターに場は移され、岡山総理以下、関係閣僚は対応を協議していた。
「上陸時は甚大な被害を受けましたが、現在は早急な避難行動により被害者は出ていません。通過後の被災地では救助活動を全力で行っております。」
内閣府と背中に書かれた服を着た職員が閣僚らの前で報告する。数人が頷き報告書に目を向けた。その中、
「環境省としては、生物の調査を行いたいと考えております。」
小林環境大臣が職員から上がってきた報告書を見ながらそう述べた。
「神奈川県知事は生物の早期駆除を求めています。既に猟友会が動き出し、駆除の方向で進んでいます。」
柿沼経産大臣が否定的な口調で返し、続けるようにして、
「それにこれ以上の被害は経済にも多大な損害をもたらします。猟友会でも自衛隊でもいいからサッサと駆除して貰いたいのですが。」
そう言い、危機管理センターのメインスクリーンに目を移す。そこには自衛隊の観測ヘリからの空撮映像が映し出されていた。まだ夜が明けていない時間帯だったため、映像は緑がかった暗視映像だったが、充分なほどの情報がそこから得ることが出来た。住宅街を無心で突き進む直立二足歩行の生物、一体どこに向かって歩いているのか誰も検討すらつけられなかった。
時々、火の手が上がりその度に数人が声をあげる。被害は計り知れなかった。
「防衛省としましては命令があればいつでも出せます。」
大山防衛大臣は自信満々に口を開いた。隣の席に座っていた統幕長もそれに頷く。全体の流れは殺処分に傾いていた。岡山総理は全体の意見をまとめ、自衛隊に害獣駆除の名目で出動させるよう指示した。しかし外務大臣の言葉がそれを止めた。
「総理!アメリカから緊急声明です。本国は巨大生物の捕獲を強く希望する。よって生物への攻撃は容認出来ない。とのことです。」
外務省職員が小走りで文書を手渡し、外務大臣が素早く読み上げた。それを聞いた周囲は沈黙した。岡山総理も突然のアメリカ介入に言葉を失った。
「何故、このタイミングでアメリカが?」
大山が一人呟く。
「アメリカはこの生物の存在を知っていたということだな。」
国交大臣がそう口を開くと、周りが一気に騒めき始める。岡山に集中砲火が浴びせられる。しかしどれも個人の主張に偏ったものばかりであった。
「総理。後々アメリカの支援が必要となります。私としては捕獲の方向で動いても宜しいかと。」
外交を重視した外務大臣がそう進言してきた。それを聞き環境大臣は身を乗り出すような形で、
「環境省としても、日本独自の固有種として保護するべきです。そのためには今は捕獲を進言します。今なら日米共同での管理が可能です。」
その意見に岡山は頷きたかったが、被害状況を映したスクリーンを見た時、容易に首を縦にふれなかった。破壊された住宅街がズームで映されていた。我々の決断が遅れているこの間にも日常生活を奪われている人々がいる。そう考えると、この生物を生かしておくべきなのか。脳内を駆け巡る。そして、
「自衛隊に害獣駆除を命令する!」
の一声をあげた。直後、大山は大きく頷き、統幕長に指示を出した。
「了解しました!直ちに実施可能な作戦プランを立案します!」
統幕長はそう言い立ち上がった。他の閣僚らも指示を受け個々に動き始めた。その時、
(巨大生物!厚木基地に到達!進行を停止しました!」
危機管理センター内にその報告が響き渡る。全員が動きを止めた。スクリーンに目線が集中する。そして、そこでの映像にその場の者は目を見張った。
巨大生物上陸の知らせを受け、クーパーは言葉を失っていた。日本政府がどのような対応を取るかは未知数であったが、すぐに攻撃という選択肢を取らない事は明白だったため、部下に米軍独自での作戦立案をさせていた。しかし在日米軍の殆どの戦力は米韓合同軍事演習と合わせ、日本海にあり防衛戦を展開するにも人員がいなかった。
「厚木に保管している核弾頭が狙いでしょうね。」
横田基地のオペレーションセンターで警報が鳴り響く中、エリック副官が耳打ちしてきた。
言われずとも分かっていたが、クーパーは今の状況を呑みこめていなかった。まさか、日本海から核弾頭を狙って上陸してくるとは思いもしなかったからだった。
「司令官。攻撃命令をお願いします!何もせず核弾頭が奪われるのを見ていることは出来ません!」
陸軍中佐がそう進言してくる。核弾頭警備のため、厚木基地には小規模ながら戦力はあった。しかしテロリスト等を想定した装備品で部隊は編成されており、充分とは言えなかった。それに第一、大統領から攻撃許可は下りておらず、命令違反をする訳にはいかなかった。
「核弾頭の近くで戦闘勃発など、放射性物質が漏れたらどうするんだ!」
クーパーがそう考えている横でエリックが陸軍中佐に叱咤する。
「飛ばせるヘリはあるか?」
その中、クーパーは唐突に近くにいた空軍大佐に問い掛けた。
「はっ、ブラックホークなら五分で離陸出来ます。」
困惑気味にそう返す。
「画面越しではなく、直接ヤツを見たい。エリック、ついてきてくれるか?」
その言葉に周囲の士官は一斉に止めに入った。しかしエリックは少し考えた後、
「了解しました。お供します。」
「よし、厚木の隊員は一人残らず避難だぞ、くれぐれもヤツに銃口なんか向けるなよ。徹底させろ!」
周囲の引き留めをよそに、二人は空軍兵の誘導に従いオペレーションセンターを後にした。
クーパーの指示を受け横田基地のエプロンにはブラックホーク一機が離陸態勢で待機していた。その後ろにはアパッチと呼ばれる攻撃ヘリが二機、低空飛行しており護衛についていた。
ローター音が響き渡る中、機上整備員に手を引かれ、二人はブラックホークに搭乗した。
それから数分、機器の安全確認が終わったブラックホークはその機体を空に浮かし、エンジンの強まる音と共に高度を上げ、厚木に向かって飛行していった。
巨大生物が数十分にも渡って居座る形になった厚木基地周辺は極度のパニック状態になっていた。県警の機動隊が猟友会の組員と共に、広範囲に渡って展開。米軍の厚木基地は海上自衛隊厚木航空基地と隣接しているため、基地内においては海自の基地警備隊が銃口を巨大生物に向けていた。それに対し米軍は、司令官指示のもと、基地外への避難を始めており、日本の有事の際、アメリカは何もしてくれないということを絵に書いたような、そんな光景が広がっていた。巨大生物は立ち尽くしながらも周囲を見渡している。時折唸り声を挙げ、その顔は憎悪に満ちていた。その姿を観測する自衛官らも、その顔を恐怖から直視することは出来なかった。
「指揮所。こちら地上観測班。現在の所生物に動きなし。送れ。」
厚木飛行場で数人の陸自隊員が小銃を担いつつ警戒していた。その中双眼鏡で一人が報告を飛ばす。
(地上観測班。こちら指揮所。了解、引き続き警戒実施。送れ。)
指揮所への定時報告。生物が進行を停止してから同じやり取りしかしておらず、緊張感がなくなりつつあった。その時、
「生物に動き有り!繰り返す動き有り!送れぇ!」
巨大生物は何の前触れもなく、いきなり素早い動きで格納庫を破壊し始めた。咆哮を挙げ再び歩を進める。完全に基地内に入ったその生物は、管制塔を長い尻尾でなぎ倒し、横一列に並んだ格納庫を蹴とばすように壊し始めた。そして、身を屈めたかと思うとある物を手に取った。
「司令官!ヤツ、核弾頭を手に!」
厚木基地上空に到達したクーパーらを乗せたブラックホーク。その機上でエリックが窓越しに声を荒げる。パイロットも基地上空を旋回しつつ、その光景に唖然としていた。
(クーガ1、クーガ2。攻撃態勢に移行。)
直後、その無線が聞こえ同時に、後ろを飛行していたアパッチ二機が大きく身を翻した。
「射撃は認めんぞ!」
クーパーはヘリの動きを見、機上整備員に叱咤する。
「念のためです!司令官自らここにいらっしゃるんですから、これぐらいさせて下さい!」
ヘリのエンジン音が耳をざわつかせる中、機上整備員は声を張りそう返した。
それを聞き、小さく頷く。そして視線を生物に向けた。
「背びれが発光している・・・」
エリックが呟いた。クーパーが目を向けると確かに発光していた。小刻みに白く光る背びれに不快感を覚えた。何故かは分からなかったが見ていて心地のいい光ではなかった。
「司令官。これ以上現空域に居座るのは危険です!横田に帰還しましょう!」
副操縦士がそう告げる。クーパーは生物から視線を外すことなく、声にならない声で帰還することを了承した。それを聞き、機長は一気に機体をくねらせる。直後、今まで経験したことがない振動が彼らを襲った。
厚木基地上空で閃光が起こった。
「地上観測班より指揮所!米軍ヘリが自衛隊観測ヘリと接触!飛行場内に落下!送れ」
観測班を指揮していた小沢一曹は青ざめた。巨大生物の動向監視が任務で安全地帯から状況を逐次報告していたが、巨大生物の近くに二機とも墜落した。
「班長!救助を!」
部隊に配属されて間もない狭間士長は叫ぶような口調で進言してきた。他の部下も指示を待っていた。墜落現場を見ると激しく炎上しており、一見すると生存者は皆無に思えた。視線を巨大生物に向けると、生物も墜落する姿に目を向けたものの、動きがない今になっては興味がなく、依然小刻みに背びれを発光させていた。
直線距離で八百メートル。小沢一曹は悩んだ末、双眼鏡を置き、小銃を手にした。
(指揮所より観測班。救助可能であれば速やかに実施!送れ。)
遅れて指揮所からその命令が届く。
「観測班了解。人命救助実施する。終わり。」
班の無線士がそう返し、被害を受けていない海自施設周辺に目を向けた。すると同じく警戒任務に当たっていた海自基地警備隊も救助態勢に入っていた。
「これより我が班は、海自と共同し、人命救助を行う。掛かれ!」
小沢もその姿を見た後、班員全員の顔を確認し、そう言い放った。そして墜落現場に向けて走り出した。
(指揮所より各部隊。墜落現場に向かう救助隊を援護。生物の動きによっては火器の使用を許可する。)
その命令が、厚木基地周辺に展開する陸自部隊内に流れた。その指示を受け、近くの公園広場に射撃陣地を構築していた120ミリ重迫撃砲中隊が動き始めた。
「重迫射撃命令!面制圧射撃、目標巨大生物脚部。弾頭については煙幕使用!斉射!各砲座発射弾数一発!装填待て。」
広場に展開する複数の重迫撃砲。その光景は異様そのものであった。その中で中隊長が指示を出す。煙幕を巨大生物の周囲に撒くことで救助部隊を掩護しようとしていた。
「中隊長!斉射用意良し!」
「半装填!」
「半装填良し!」
弾頭が砲の中に入る。中隊長は大きく息を吐き出し、
「中隊効力射!って!」
の一声を絞らせた。直後、砲弾が火柱をあげ上空に放たれた。鈍い発射音と共にきな臭いにおいが周囲を包む。
(中隊長、こちら前進観測班!目標周囲に煙幕を確認!救助部隊、墜落現場に到達を確認。送れ!)
射撃に伴い、弾着地域を観測する班員からの報告を受け、中隊長は安堵した。他の隊員らも溜息混じりに束の間の笑顔を見せる。
(数人の自衛官及び米兵が救助された模様!尚、生物については進路を変更。相模川に向け移動を開始。別命あるまで待機する。)
続報が入りその内容に再び笑みがこぼれたが、生物の移動を聞き自分達の任務が変わったことを示唆していた。
「中隊!陣地変換!」
中隊の全隊員に聞こえるよう怒鳴るように言い放った。隊員らはそれを聞き忙しく動き出した。それを見、中隊長も指揮所に連絡を取るため、無線機があるジープに向かった。
重迫撃砲中隊の援護もあり、自衛官と米兵合わせて五名を救助することが出来た。
救助隊指揮官となった小沢一曹は疲れを滲ませた表情を隠しつつ、墜落現場から距離を取るため隊全員を走らせていた。時折生物を見るとこちらには危害を加えるような素振りはなく安堵はしていたが、この場から早く離れたかった。隊員らの酷い息遣いが聞こえ、限界に近いことを暗示していた。意識がもうろうとしてくる中、ヘリのローター音が聞こえ、思わずその音が聞こえる方に手を伸ばした。
「もう大丈夫です!皆さんもうひと踏ん張りです!」
気付くと目の前にはヘリの機上整備員がおり、その向こうにはCH47輸送ヘリが降着していた。数人の小銃を携えた隊員がこちらに走ってくる。よく見ると全員防護マスクを装着していた。不思議に思ったが問い掛ける元気もなく、その場に倒れ込んだ。他の隊員らもバタバタと倒れた。
「指揮所。こちら救助班。全員収容完了。多量の放射能を浴びており危険なため、三宿駐屯地の医療施設へ搬送する。尚、在日米軍司令官も放射能を浴びてはいるが生存は確認。送れ」
防護マスク越しに、その部隊の隊長と思しき人物が無線に言った。縦長のヘリ内には担架に乗せられた隊員らが二列になって横たわっている。その中にエリックの姿はなかった。
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