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第6話 幸せの温度
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しあわせになってと、あなたがわたしにいうの。
だからしあわせになりたいと、声にしたよ。
「須田と! しあわせになりたい」
他の誰かではなく、須田と。そう、思ったから。
けど、緊張の面持ちの私に対して、須田は驚いた様子の表情をすぐに曇らせた。
ああ。
私はどこかで気付いていた。けれど考えない様にしてた。
だって同じ気持ちなら、何も悪い事なんて起きるはずがないって。良いように、考えていた。だってそんなこと考えるなんて、私らしくない。
難しいことだったのかな。たいへんなことだったのかな。
「俺じゃあ、相川をしあわせにつれていってやれないよ」
すきだって。たいせつだって。
口ではそう言ってはくれるのに。同じ口で、自分ではしあわせにできないという。
なんで、どうして、そう、言いたいけれど、今までの須田の態度や私の彼に対するこれまでの行いは易々と受け入れて貰える様なものではなかったと、解っている。
諦めの悪い子どものように、訊ねる。
「今まですごくわがまま言ったから?」
「ううん。相川のワガママなんて可愛いもんだよ」
「面倒くさいやつだってわかったから?」
「ううん。ならここまで付き合ってないって、相川も自分で分かってたろ? それに、俺は相川のそう云う所も受け入れてるし」
否定はするのに、好きという気持ちは受け入れてはくれないの。
感情がぶわりと沸き上がる。熱が顔に、瞼に集まって一気に押し出される。ほたほた、ぽたりぽたり、ぼろぼろ。
今日こんなに泣くなんて考えていなかった。可愛く化粧したってこんなボロボロ泣いたら崩れるしみっともない。わかっているのに、わかって、いるのに。
ただただ涙が溢れてくる。止められない。
須田が、済まなそうに私に視線を寄こす。楽観視していたバチが当たった。
「ごめん」
「そんな、ことばが、ほしいんじゃない」
「……ごめん。相川のことは好きだけど、きっと俺と相川の考える好きには距離や温度差がある。それに付き合わせるのはさすがに悪いよ」
伸びてきた手を咄嗟に払う。ぱたぱたと、振動で溢れた涙が落ちた。
悲しい。かなしいかなしい。今まで一度だって、付き合ってきた人たちにそんなことを思ったことはないのに。今までが遊びだったとは言わない。だけどおそらく、今日が本当にこれまでの人生で一番相手のことを好きだと、須田もそう思ってくれているんだろうと、想って伝えたのに。
「私は、しあわせにしてなんて言ってない。だから、つれてってくれなんてのも言ってない! すり替えないで」
「ごめん。けど、俺は」
「なら、私が幸せにするから。一緒に居て良かったって、思わせてみせるから」
女が人前でこんな鼻啜るなんて醜態さらしてるんだから。ちょっとは心を動かされなさいよ。なんだかイライラしてきた。これはいつもの流れ、逆ギレかもしれない。
「私と付き合って。一ヶ月、ううん、一週間でいい。絶対楽しいって、思わせるから。幸せだって思えたら、一週間過ぎても一緒にいて欲しい」
キッと睨むように須田をみる。困惑顔をする彼が目をさ迷わせる。そうして一瞬目を閉じて、開く。
さっきまでの迷いが何処かに消えて、何か決心でもしたような眼差しに、私はとくんと胸を鳴らす。
「本当にいいのか」
「う、え?」
「相川、途中で飽きたりしない?」
聞かれ、聞き返し、ただけなのに言葉に芯があって私は一瞬怯えてしまう。声に冗談のような諦めの気持ちが混ざっていなくて、それはまるで心臓を射抜くみたいに感じた。
飽きるとは、面倒くさくなったりしないか、ってことだろうか。
「飽きられちゃうかも、知れないけど。毎日楽しませるとか、本当は自信がないけど。でも、前みたいに変な時間に連絡したり無茶な事言ったりしない様に気を付ける。あんまり甘えない様にもする……普通の、お付き合いから始めたい。付き合って、くれるの?」
条件に付き合ってやろうか、そういうことだと思った。彼にしてみれば一週間で全てが終わると言うこと。その後一切、私は須田にこの感情を表に出してはいけないのだと、その事を守れるのかと、問いたいのだと。
「今までの態度は、気にしなくていい。別に文句はないし。ただ、本当にいいのかなって」
「面白くもなんともないのに今までみたいに付き合わされるの、もう、いやでしょ……。だから、何にも変わらなかったら、もう、須田に迷惑かけるの、止めようと思う」
自分がひどく、小さく思える。
いつだって強気だった。自分が正しいと思えたからだし、相手にそれ以上を求める事だって無理だって承知の上で吹っ掛けるのは遠回しの拒絶でもあったのだ。どうせこのくらいの関係でしょう、わかっていますって言うためだった。
どうせいつかは別の人を選ぶんでしょう。一時的な、お飾りで、オモチャで、上っ面だけで深くは干渉し合わない都合のいい相手。
でも今は、今回は。須田とは。
きっと、この後結果がどうあれ今までの須田と私には戻れない気がしていて。今以上、少しでも飽きられたらそこで終わってしまう気がして。それがひどく恐ろしい。
どうにか震えてるのが知られないようにすることで精一杯。
須田が居なくなる、これからを考えられない。
今までの我慢も含めて、この一週間ですべてが決まって変わってしまう。なくなることに、初めて怖いと思った。
恋をすると、強くも弱くもなるって本当だ。
けどそれだけじゃない。今の私から須田を取っ払ってしまったらなんにも残らない。ぽっかりとした穴が開いて、きっと色んなことに向き合えなくなる。どうでもよくなって、投げやりな人生になるに違いない。
ずっと、グズグズと悩んでしまう、そんな気がする。
ねぇ。今も。私は須田がいつも差しのべていてくれた手が、自分にとってどれだけ大きいものだったか、大切なものだったかを気づかされて、あれだけぞんざいに、素っ気なく扱っていたのに今更になって、ああ、それがもうすぐ消えてしまうのかもしれないなんて、らしくないことを思うんだ。
「……すだ」
「……」
「こいってこわいね。今まであったものすべて、なかったことになるかもしれないんだ……こんなことならもう少し、もっとちゃんと考えたらよかった。……考えたって結果は変わらなくても、もう少し須田のこと、考えてモノ言えたよね。ごめんね、おんなじ好きだって思ってた。軽く考えてたや」
須田の、私への好きは、家族や友達を思う好きで。私から須田への好きは、異性への好意で。
ばかだなあ。おなじすきなら須田はきっと、付き合おう、彼氏彼女になろうって、告白してくれてたよね。
でもきっと、あの頃だったら何にも分からなかったと思う。何にもないままで、解らないままで、すれ違って別れていたかも。ここまでこうして繋がっていられたのは、全部須田のおかげだ。
須田が、そういう意味じゃないって話してくれてたのに勘違いをしてしまった。優しくされ過ぎてしまった。
「ごめん。でも、一週間で終わりにしてくれていいから。これで最後にするから……一週間だけ、私にください」
今までこんなに下げたことないよってほど、頭を下げた。同年代にこういうことするのって変な感じ。
今までしてきた失恋は本物じゃなかったのかな。今までだって、つらかった、くるしかった、いたかったけれど。始まる前からこんなにもいたくなることはなかったよ。
始まる前から、終わりが解っているからなのかなぁ。
でもね、きっと、これからの方が痛くなる。いたく、なるんだ。
それでも、もう少しの間でいいから一緒に居て欲しい。好きなんだって、知ってもらいたい。
「相川」
ぎゅっと、さっき入った雑貨屋で買った小さな置物の入った紙袋の紐を握りしめていた手に、伸びてきた手が触れる。
上からそっと握られて、それに気をとられた隙にいつの間にか回されていた須田の手が私の背中を押して、逆らえずにそのままストンと彼に抱き寄せられてしまう。
驚きに真っ白になった頭で、その状況を追いながら何がどうなっているのか不安になって顔をあげた。須田が反対の方を向いてるものだから、見ようにも見ることができない。
須田は私よりも身長が低いけれど、それでもちゃんと、抱き止めてくれた。
「勝手に最後にすんなよ」
「え」
「嘘を、ついてた」
「うそ?」
「誰か傍に居て欲しいって言われるだけでいいって。相川は幸せになってって。そんなの、ウソだ。誰かっていうなら俺を呼んで欲しくて、幸せになってじゃなくて俺が幸せにしてやるって、一緒に幸せになりたいって、ずっと言いたかった。だめだな、こんなんじゃ相川に飽きられる」
嘲るように須田はわらう。反して強まる腕の力に嬉しさが込み上げて、同時に耳に届く言葉がじわじわと、胸に響いて。
「そ、れ」
「一週間なんて、きっとあっという間だ。この三年だって、思うよりずっと、遅くも早くもあった。相川にいつ、もう要らないって言われるか不安で怖くて、いつも、ひやひやしてたよ」
「……すだ」
「紘美、出来るものなら俺を飽きさせてよ。そうしたら、放してあげる」
そういって、ようやく力の弱くなった腕から抜けて須田の顔をちゃんと見た。
これ以上ないってほどに真っ赤になった顔で、やっぱり須田はちょっと自信なさ気に笑っていた。
閑静な住宅街の、ちょっと古めのマンションの下。ご近所さんの気配はわからない。
以前夜に大声で名前を呼んで泣き叫んでいた二人だと思われているかもしれない。
それでもいいと思えた。
人の目を忍んでこれからの人生の幸せを失うくらいなら、今ここで盛大にあがいて見せよう。
漸くスタートラインに立ったばかりなのだから。
だからしあわせになりたいと、声にしたよ。
「須田と! しあわせになりたい」
他の誰かではなく、須田と。そう、思ったから。
けど、緊張の面持ちの私に対して、須田は驚いた様子の表情をすぐに曇らせた。
ああ。
私はどこかで気付いていた。けれど考えない様にしてた。
だって同じ気持ちなら、何も悪い事なんて起きるはずがないって。良いように、考えていた。だってそんなこと考えるなんて、私らしくない。
難しいことだったのかな。たいへんなことだったのかな。
「俺じゃあ、相川をしあわせにつれていってやれないよ」
すきだって。たいせつだって。
口ではそう言ってはくれるのに。同じ口で、自分ではしあわせにできないという。
なんで、どうして、そう、言いたいけれど、今までの須田の態度や私の彼に対するこれまでの行いは易々と受け入れて貰える様なものではなかったと、解っている。
諦めの悪い子どものように、訊ねる。
「今まですごくわがまま言ったから?」
「ううん。相川のワガママなんて可愛いもんだよ」
「面倒くさいやつだってわかったから?」
「ううん。ならここまで付き合ってないって、相川も自分で分かってたろ? それに、俺は相川のそう云う所も受け入れてるし」
否定はするのに、好きという気持ちは受け入れてはくれないの。
感情がぶわりと沸き上がる。熱が顔に、瞼に集まって一気に押し出される。ほたほた、ぽたりぽたり、ぼろぼろ。
今日こんなに泣くなんて考えていなかった。可愛く化粧したってこんなボロボロ泣いたら崩れるしみっともない。わかっているのに、わかって、いるのに。
ただただ涙が溢れてくる。止められない。
須田が、済まなそうに私に視線を寄こす。楽観視していたバチが当たった。
「ごめん」
「そんな、ことばが、ほしいんじゃない」
「……ごめん。相川のことは好きだけど、きっと俺と相川の考える好きには距離や温度差がある。それに付き合わせるのはさすがに悪いよ」
伸びてきた手を咄嗟に払う。ぱたぱたと、振動で溢れた涙が落ちた。
悲しい。かなしいかなしい。今まで一度だって、付き合ってきた人たちにそんなことを思ったことはないのに。今までが遊びだったとは言わない。だけどおそらく、今日が本当にこれまでの人生で一番相手のことを好きだと、須田もそう思ってくれているんだろうと、想って伝えたのに。
「私は、しあわせにしてなんて言ってない。だから、つれてってくれなんてのも言ってない! すり替えないで」
「ごめん。けど、俺は」
「なら、私が幸せにするから。一緒に居て良かったって、思わせてみせるから」
女が人前でこんな鼻啜るなんて醜態さらしてるんだから。ちょっとは心を動かされなさいよ。なんだかイライラしてきた。これはいつもの流れ、逆ギレかもしれない。
「私と付き合って。一ヶ月、ううん、一週間でいい。絶対楽しいって、思わせるから。幸せだって思えたら、一週間過ぎても一緒にいて欲しい」
キッと睨むように須田をみる。困惑顔をする彼が目をさ迷わせる。そうして一瞬目を閉じて、開く。
さっきまでの迷いが何処かに消えて、何か決心でもしたような眼差しに、私はとくんと胸を鳴らす。
「本当にいいのか」
「う、え?」
「相川、途中で飽きたりしない?」
聞かれ、聞き返し、ただけなのに言葉に芯があって私は一瞬怯えてしまう。声に冗談のような諦めの気持ちが混ざっていなくて、それはまるで心臓を射抜くみたいに感じた。
飽きるとは、面倒くさくなったりしないか、ってことだろうか。
「飽きられちゃうかも、知れないけど。毎日楽しませるとか、本当は自信がないけど。でも、前みたいに変な時間に連絡したり無茶な事言ったりしない様に気を付ける。あんまり甘えない様にもする……普通の、お付き合いから始めたい。付き合って、くれるの?」
条件に付き合ってやろうか、そういうことだと思った。彼にしてみれば一週間で全てが終わると言うこと。その後一切、私は須田にこの感情を表に出してはいけないのだと、その事を守れるのかと、問いたいのだと。
「今までの態度は、気にしなくていい。別に文句はないし。ただ、本当にいいのかなって」
「面白くもなんともないのに今までみたいに付き合わされるの、もう、いやでしょ……。だから、何にも変わらなかったら、もう、須田に迷惑かけるの、止めようと思う」
自分がひどく、小さく思える。
いつだって強気だった。自分が正しいと思えたからだし、相手にそれ以上を求める事だって無理だって承知の上で吹っ掛けるのは遠回しの拒絶でもあったのだ。どうせこのくらいの関係でしょう、わかっていますって言うためだった。
どうせいつかは別の人を選ぶんでしょう。一時的な、お飾りで、オモチャで、上っ面だけで深くは干渉し合わない都合のいい相手。
でも今は、今回は。須田とは。
きっと、この後結果がどうあれ今までの須田と私には戻れない気がしていて。今以上、少しでも飽きられたらそこで終わってしまう気がして。それがひどく恐ろしい。
どうにか震えてるのが知られないようにすることで精一杯。
須田が居なくなる、これからを考えられない。
今までの我慢も含めて、この一週間ですべてが決まって変わってしまう。なくなることに、初めて怖いと思った。
恋をすると、強くも弱くもなるって本当だ。
けどそれだけじゃない。今の私から須田を取っ払ってしまったらなんにも残らない。ぽっかりとした穴が開いて、きっと色んなことに向き合えなくなる。どうでもよくなって、投げやりな人生になるに違いない。
ずっと、グズグズと悩んでしまう、そんな気がする。
ねぇ。今も。私は須田がいつも差しのべていてくれた手が、自分にとってどれだけ大きいものだったか、大切なものだったかを気づかされて、あれだけぞんざいに、素っ気なく扱っていたのに今更になって、ああ、それがもうすぐ消えてしまうのかもしれないなんて、らしくないことを思うんだ。
「……すだ」
「……」
「こいってこわいね。今まであったものすべて、なかったことになるかもしれないんだ……こんなことならもう少し、もっとちゃんと考えたらよかった。……考えたって結果は変わらなくても、もう少し須田のこと、考えてモノ言えたよね。ごめんね、おんなじ好きだって思ってた。軽く考えてたや」
須田の、私への好きは、家族や友達を思う好きで。私から須田への好きは、異性への好意で。
ばかだなあ。おなじすきなら須田はきっと、付き合おう、彼氏彼女になろうって、告白してくれてたよね。
でもきっと、あの頃だったら何にも分からなかったと思う。何にもないままで、解らないままで、すれ違って別れていたかも。ここまでこうして繋がっていられたのは、全部須田のおかげだ。
須田が、そういう意味じゃないって話してくれてたのに勘違いをしてしまった。優しくされ過ぎてしまった。
「ごめん。でも、一週間で終わりにしてくれていいから。これで最後にするから……一週間だけ、私にください」
今までこんなに下げたことないよってほど、頭を下げた。同年代にこういうことするのって変な感じ。
今までしてきた失恋は本物じゃなかったのかな。今までだって、つらかった、くるしかった、いたかったけれど。始まる前からこんなにもいたくなることはなかったよ。
始まる前から、終わりが解っているからなのかなぁ。
でもね、きっと、これからの方が痛くなる。いたく、なるんだ。
それでも、もう少しの間でいいから一緒に居て欲しい。好きなんだって、知ってもらいたい。
「相川」
ぎゅっと、さっき入った雑貨屋で買った小さな置物の入った紙袋の紐を握りしめていた手に、伸びてきた手が触れる。
上からそっと握られて、それに気をとられた隙にいつの間にか回されていた須田の手が私の背中を押して、逆らえずにそのままストンと彼に抱き寄せられてしまう。
驚きに真っ白になった頭で、その状況を追いながら何がどうなっているのか不安になって顔をあげた。須田が反対の方を向いてるものだから、見ようにも見ることができない。
須田は私よりも身長が低いけれど、それでもちゃんと、抱き止めてくれた。
「勝手に最後にすんなよ」
「え」
「嘘を、ついてた」
「うそ?」
「誰か傍に居て欲しいって言われるだけでいいって。相川は幸せになってって。そんなの、ウソだ。誰かっていうなら俺を呼んで欲しくて、幸せになってじゃなくて俺が幸せにしてやるって、一緒に幸せになりたいって、ずっと言いたかった。だめだな、こんなんじゃ相川に飽きられる」
嘲るように須田はわらう。反して強まる腕の力に嬉しさが込み上げて、同時に耳に届く言葉がじわじわと、胸に響いて。
「そ、れ」
「一週間なんて、きっとあっという間だ。この三年だって、思うよりずっと、遅くも早くもあった。相川にいつ、もう要らないって言われるか不安で怖くて、いつも、ひやひやしてたよ」
「……すだ」
「紘美、出来るものなら俺を飽きさせてよ。そうしたら、放してあげる」
そういって、ようやく力の弱くなった腕から抜けて須田の顔をちゃんと見た。
これ以上ないってほどに真っ赤になった顔で、やっぱり須田はちょっと自信なさ気に笑っていた。
閑静な住宅街の、ちょっと古めのマンションの下。ご近所さんの気配はわからない。
以前夜に大声で名前を呼んで泣き叫んでいた二人だと思われているかもしれない。
それでもいいと思えた。
人の目を忍んでこれからの人生の幸せを失うくらいなら、今ここで盛大にあがいて見せよう。
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