町娘は王子様に恋をする

くさの

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 私をからかいの対象にするのは如何かと思うが、長谷川くんが迷惑でないのなら良い。

「俺だってできればそうしたいと思うけど、それは宇佐見の意見を聞いてみてからだし。そもそも、俺の勘は自分の事以外でしか働かないんだよ」
「そうなの?」
「そうなの。それに、俺だって勝ち目のない勝負はしないよ、バカじゃないもん」
「勝ち目?」

 疑問に思って呟くと、加宮さんが私の頭に手を置いた。何をするのかと思えば撫でてきた。これから二時間ぐらいはまだ余所行きの私でいなきゃならないというのに、速攻で髪型を崩しに来た。なんて人だ!

「ははーん、うさぎはねぇ、うん。オオカミ付きだもんねぇ。哀れ、長谷川」
「憐れむくらいなら端から話題にすんじゃないの。もう、早く行って座れよ、後ろつかえてるから」

 ほら、と長谷川くんが後ろを指す。靴を下駄箱に置いて上がってきた数人がまたやってくる。
 元気だしなって、と加宮さんは長谷川くんの肩を慰めるようにポンポンと叩いた。ここでもやっぱり話が見えず、間に挟まれたわりに会話の内容を理解できない。

「オオカミ? 哀れ?」
「宇佐見はそのままでいてくれていいよってこと。俺はいつでも片想いだってこと」

 加宮さんに手を引かれたが長谷川くんがそう言って気まずそうに笑った。まったくもって、言葉の意味が理解できない。
 深く理由を聞こうにも、長谷川くんは続々と来る先輩や同期の案内係にいってしまうし、私は加宮さんと長谷川くんの指した席へ向かう。
 もともと、私の席というのがどうであれ大まかに席は割り振って入るようで、それはそれぞれが楽しみやすい環境を整えるためだった。その辺りの気配りも、長谷川くんが幹事に推される理由のひとつなのだろう。
 席について辺りのざわつきに少しきょろきょろとしながら、さっきの話はどういうことだったのだろうかと考えなおす。

「うさぎも昔の私と一緒だなぁ」

 そんな呟きが、隣から聞こえてくる。
 聞きなおすと加宮さんは苦笑いで、言葉を選んでくれた。どうにも直接的に言葉にしないように選んでいるみたいだった。

「客観的にみた方が、みえる時もあるってこと」

 さて、と加宮さんは話を切った。

「長谷川の勘ってやつで何が起こるのか楽しみだなー」

 当たらなかった時は奴の鼻っ柱をへし折ってやる、と妙なやる気をだして腰を下ろす。まだ揃いきっていないざわついた中でも加宮さんはどことはなしにカメラを向ける。気付いた数人が声を掛け合ってピースサインを送るとカシャリ、シャッターを切る音が聞こえた。この写真のデータは後日加宮さんからそれぞれに回る事になっている。
 倣って軽い気持ちで長谷川の指定した席に座る。同期がいるというのは心強いし、楽しいから気を紛らわせるには十分だ。
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