上 下
1 / 22

出会い

しおりを挟む
 
 新宿ルミネ前13時

 私は指定された場所で待っていた。
 相手は友人から紹介された男の子
 仕事が忙しく恋愛をおやすみしていた私に友人が紹介してくれた人、、、

 何度かメールのやりとりをして、写真も送り合い、一度飲みに行きましょうと誘われた。
 正直そんなに乗り気では無かったが、気晴らしに飲みたい気分だった事もあって了承した。
 過ぎゆく人達に目線を送る。
 
まだか、まだかと周りを見渡す。
「あっはじめまして。」

と後ろから声をかけられる。話しかけられた方を見ると、170cmくらいで顔は少し濃いで黒髪のスーツの男の人が立っていた。
 
笑顔が無く、少し猫背に下を向いた感じの姿勢で
「じゃ行きましょうか」と前を歩いていく。
 あまりいい印象では無かった。
 とりあえず、少し距離をあけながら後ろを歩いていく。

「ここでいいですか?」と居酒屋の前で立ち止まった。そこは大衆居酒屋といった感じで、中は多くの人がザワザワと騒いでいた。

「いいですよ。」と答える。

「すみません。予約しようと思ったお店があったんですが予約埋まってしまってて、何件か電話したんですけど、、、」と下を向きながら謝られた。

「いえ!こういう所好きですよ!全然大丈夫です!」と笑顔で返した。

「じゃ。」
 と言って、先に居酒屋の中に入る彼の後をついていく。
「2名で」
 店員さんに人数を伝えると席に案内された。


 席に座り、飲み物を注文する。
「ビールでいいですか?」
「あっはい!」

 店員さんにビールを頼む。5分くらいしてビールが届く。

 …きまずいな…

 彼はメニュー表に目をやりなかなかこちらを向こうとしない。きまずさに耐えかねてこちらから話しかける。
「あの、、、カンパイしませんか?」

 はっとした顔をしてこちらをみる。
「もう届いてたんですね。すみません。カンパイ。」

 カチャン

 グラスが重なる音がした。

 一口ビールを飲む。
 
すると彼は小さな声で
「…じめまして。ユウです。仕事は不動産の事務をしています。出身は秋田で、住んでるのは東中野です。」
 と自己紹介をしだした。

 メールのやり取りで知っていた情報だったので、わざわざ丁寧な人だな、、、と思った。

 私も続く。「はじめまして!サワです。仕事は美容師をしています。28歳同い年です。出身は千葉です。今も千葉にすんでいます。」
 と答えた。

「なんかお見合いみたいですね、、、」と照れながら頭をかく彼はやはり目を合わせようとはしない。

 私から話を振る。
「いつから東京にいらっしゃるんですか?」

 彼が少し間を置いて答える。
「10年前くらいです。」

 話が続かない…。

 次の話題を考えていると、

「サワさんはどのくらい彼氏居ないんですか?」と聞いてくる。

 唐突だなと思いながらも答える。
「3年くらいです。」

「そうなんですか。」
 また話が止まる。

「えっとお酒はよく飲みますか?」
 なんとか話題を作ろうとする。

「はい!飲みます。前の職場では毎日接待だったので。」

「前の仕事は何されてたんですか?」と聞くと
急に雄弁になり話し出した。

「前は株の取引をしてたんです。年収は今より倍くらいあったんですけど、仕事と接待で寝る時間も無くて。ニューヨークの取引もしなきゃいけなかったので、昼夜バラバラだし、身体壊しちゃったんですよ。それで今の会社に転職したんです。」

「そうなんですね、、、。」
 急に喋り出したので少し面食らっていると、

「すみません。写真よりお綺麗なので緊張してしまって。」と恥ずかしそうに下を向いた。

 …あっ緊張してたのか…
 少しほっとした。

 それからはお酒も入った事もあり、話が弾んだ。
 出身地の話、家族構成や、今の仕事の話。
 同じ歳なので、共通の話題も多かった。

だいぶビールの空ジョッキが増えたところで、今までの恋愛履歴の話になった。
何人くらいと付き合ったのかから始まり、どうして別れたのか、、、など少し突っ込んだ話をした。

すると彼はビールを口に煽りながらボソッと
「俺、みんな自然消滅しちゃうんだよねー。お互い冷めちゃうっていうのかな?別れ話とかしたことない。」と呟いた。

「えっ勝手に別れちゃうの?相手びっくりしない?」とすかさずつっこんだ。

「ちがう!ちがう!相手から。相手が急に連絡しなくなるんだよ。」

少し違和感を覚えたが、
「そうなんだ。それは嫌だよね。」と答えた。


そんな会話をしながら何時間か経った頃、

「そろそろ行こうか。終電無くなっちゃうでしょ?」と彼が席を立った。

 そのままお店を出ようとするので、
「あっお会計は?」と聞くと

「もう払ってあるから大丈夫だよ。」とにこっと笑った。

…払っといてくれたんだ…初めて笑った…


「ありがとう、、、。」
 私も笑顔で返し駅に向かう。

駅に着くと私の使う改札口まで送ってくれた。
改札からホームに向かうまで、こちらを見て手を振っていた。
私も後ろを振り返り、手を振った。

ホームに行き電車に乗り込むと

 ピロン

 携帯がなった。メールだ。
『今日はありがとうございました。楽しかったです。また会ってもらえますか?』

 と書いてあった。

『私も楽しかったです。ありがとうございました。』
 と返信する。

『僕はすごくタイプでした。サワちゃんはどうですか?僕の見た目。』

 直球の質問に少し面食らう。

『優しそうなかんじでいいと思いますよ。』
 当たり障りのない返信をした。




 その後何通かやりとりをしながら帰宅した。
 家につきメールをうつ。

『家につきました。』

 すぐに返信がくる。
『よかったです。無事ついて。また明日。』

『また明日』
 返信して、部屋に入る。
 その日は疲れていた事もあり、帰宅するとすぐに寝てしまった。

 …緊張してたけど、いい人だったな。…

 それが私の第一印象だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

【ショートショート】おやすみ

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

実はおっさんの敵女幹部は好きな男と添い遂げられるか?

野田C菜
エッセイ・ノンフィクション
Life is color. Love is too.

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

処理中です...