303 / 330
激動の今を生きる
第303話 バトルオブアルキエルモ③
しおりを挟む
「ダメね……やっぱり映らないわ」
揺れるキャビンの中、マオリィネがコツコツと携帯端末を叩いて、うーんと渋い声を出す。
ハンドルを握ったままチラリと視線を向ければ、黒く染まった画面に浮かぶ、再接続中というソフトウェアからのメッセージのみ。人から受けた命令を愚直にこなすのが機械の本質だとはいえ、その涙ぐましい健気さには髑髏《頭》が下がる思いである。
「どうやらスケコマシの見立ては正しかったらしいな。ったく、物の価値が分からねえ奴らだぜ。後いくつこの世に残ってるかもわからねぇ貴重品だってのによ」
「それ逆じゃない? アレの価値に気付いていたから落としたんでしょう。それより、まさかこれだけでコウテツが戦力外、なんてことはないわよね?」
「ぁあ? そうしねぇために、わっざわざクソ重てぇトレーラーごと、岩山の急斜面を苦行のハイキングと洒落込んでんだろうが」
もう少し緩やかな盆地地形ならば可愛げもあっただろう。だが、アルキエルモの周囲は、アルキエルモ・オルクレンだとか呼ばれる石灰岩が大量に露天採掘されるような岩山ばかりで、どれもこれも切り立っている。
それもトレーラーが走れる道など整備されているはずもなく、突き進むのは完璧なオフロード。何ならそれも大小の石が転がるガレ場が大半なのだ。遥か昔のドライブウェイが恋しくなってくる。
ただ、時にタイヤがスタックしそうな空転をかまし、時にサスペンションの跳ね返りで存在しない舌を噛みそうな衝撃を与えてくる場所ばかりであろうとも、自分たちは進むしかないのだ。
「観測射撃が使えなくなっちまった以上、榴弾砲は直接照準で叩き込むしかねぇ。玉匣からレーザー誘導でも貰えるってんなら話は別だが、連中にもそんな余裕はねぇだろうしよ」
「私にもわかるように話しなさい、って言っても無理なんでしょうね。とにかく高台に行けばなんとかなる、という理解でいいかしら?」
「あぁ――っつっても、俺ぁ砲兵じゃねぇから保証はできねぇがな。とりあえず敵陣がハッキリ見えてさえいりゃ、甲鉄の自動計算でも敵陣のどっかに砲弾を降らすことくらいはできるだろ」
マオリィネなりに噛み砕いた結果なのだろう。それに俺は少し感心しながら、ギィと鋼の兜を揺らした。
いくら素の砲撃精度が高いと言っても、あくまで甲鉄は有人機。システムの本質は制御の難しい榴弾砲の運用全てを、パイロット1人の操作で行えるよう補助するための物に過ぎないのである。
自動制御の甲鉄による砲撃など、レーザー誘導があったところでおままごと。知り合いの砲兵連中はよくそう言って笑っていた。俺としては、そこまで射撃精度が悪いとは思わなかったのだが、本職からすれば役立たずもいいところなのだろう。
では、そのおままごとすらできなくなった甲鉄は、果たして本当に使えるのか。
扱うのは弾道計算など完全に門外漢の整備兵と、歴史博物館から飛び出してきた騎士様の2人だけ。
そのどちらかが照準計算に頭を捻るくらいなら、まだ自動操縦の甲鉄に撃ってもらう方がマシなはず、なのだ。
ただ、兜で顔が見えなくとも、否、見えたところで表情の読めない白骨であったとしても、マオリィネは言葉の雰囲気から、俺の不安を読み取ったらしい。
「……一応、聞いておきたいのだけれど、うまくいかなかった時の策は考えてあるの?」
「あん? そんなもん、このアイアンゴーレムを敵陣に解き放つに決まってんだろうが」
また大きな石でも踏んづけたのだろう。ガコンと車体が大きく揺れる。
それでも、車内からは暫く声が消えたままとなり、ようやくのことで音が発されたかと思えば、それはマオリィネの盛大なため息だった。
「はぁ……そんなことだろうとは思っていたけれど。いくら武装したマキナと言っても、ミクスチャだらけの戦場だと先行きが不安ね」
呆れかえった彼女の言葉に、何おう、と反論してやろうかとも思った。
俺は手札の中で最も現実的かつ、敵に打撃を与える上で有効な方法を提示したのだ。無論、最善からは程遠いため、噛みついたところで後が続かないことは重々承知の上である。
だが残念なことに、俺が言葉を止めた理由はこれまでの会話と一切関係がなかった。
できることなら、マオリィネの方が原因であってほしかったが、スリットから覗く世界は斯くも残酷であるらしい。
「――あぁ。どうにも、お前の先行き不安ってのは大当たりみたいだっ、ぜぇッ!」
何の前触れもなく、俺が勢いよくハンドルを切れば、重たいトレーラーはガレ場を荒らしながら横滑りし、隣からはきゃあと甲高い悲鳴が上がった。
次の瞬間、キャブの真横へ降ってきた巨岩が砕け散り、飛び散った破片が車体に当たって音を立てる。
それに混じって撃ち込まれたボルトが、雹のように防弾ガラスを叩いたことで、シートに伏せたマオリィネも荒い運転の理由を察したらしい。
「まさか、こんな場所にミクスチャを連れた部隊を伏せていたと言うの!? どれだけ戦場から離れてると思ってるのよ!?」
「あぁ、もしこれが偶然の出会いだってんなら、運命だの神だのって奴を信じたっていいかも知れねぇと思えるぜ。作戦通りのポイントから砲撃できてりゃ、万一マキナに奇襲されても逃げられる算段つけてたってのによぉ」
「ッぅ――あ、貴方たち古代人に信仰心があったなんて驚きだわ。これもシトリオドラのお導きだって諦める?」
敵に腹を向けて止まった車内で、琥珀色の瞳がこちらを睨んでくる。
神と呼ばれる上位存在が実際に居るのか、時間を支配しているのが運命なのかなど、多少機械を弄る手が器用なだけの骸骨にわかるはずもない。
ただ、この暗い眼孔から見えているのは、高所に陣取った敵兵と異形の姿だけ。どうやらクロスボウの威力では、マキナ輸送用トレーラーの装甲を撃ち抜けないと悟ったらしく、妙に関節数の多い腕脚を歪に生やした甲虫のようなミクスチャが、再び岩石を持ち上げようとしていた。
そのどこか滑稽にも思える景色に、カッと小さな笑いが零れた。
「そいつぁ悪くねぇ提案だ。俺が大の虫嫌いじゃなきゃ最高だったぜ。だが……神が何を導こうが、輪ぁかけて気持ち悪くなってるフンコロガシモドキに、くれてやる命なんざ持ち合わせちゃいねぇんだよ!」
マオリィネの手から勢いよくタブレット端末をひったくり、緊急起動と書かれた項目をタップする。遠くで岩が大きく持ち上げられているような気がしたが無視。
シート越しに伝わってくる、耳孔にこびり付いた重々しい駆動音。翡翠のそれと比べれば、旧型であることを喧伝するかのような鈍い音。
マオリィネの固定したワイヤーが弾け、マキナ輸送用トレーラーの車体が大きく揺れたかと思うと、重い幌を押しのけて2体の巨人が姿を現した。
「御貴族様にゃ悪ぃが、しばらく俺の喧嘩神輿に付き合ってもらうぜぇ? 何せ、ミクスチャ連れの団体様が、あの世行きの特急券をご所望なんでなァ!」
「フフッ、上等よ――私だって、虫は大っ嫌いなんだからッ!」
■
リタイからゴツゴツとした伝わってくる。それは硬い地面の凹凸によるものだけはないだろう。
マキナの戦いからできるだけ遠く離れ、一方でミクスチャを徹底的に撃破する。
本音を言えば、とても怖い。
無敵とも思える殻に籠っていながら、あちこちで咲き散る血の花弁が、空へ木霊する悲鳴の和音が、生死の狭間が曖昧になっているこの場所が恐ろしくて堪らない。
けれど、私は唇に力を込めて戦いのためにタマクシゲを走らせ続ける。たとえ、ムセンで予期せぬ状況報告が飛び交おうとも。
『ダマル、詳しく状況を報告してくれ。何が起こっている?』
『言ったろ! バケモン連れた伏兵共と殴り合いの真っ最中だ! 悪ぃが砲兵支援は暫くできそうもねぇ!』
『ふ、伏兵って、じゃあなんスか!? こっちの作戦がバレてたってことッスか!?』
『さぁな! だが、この程度なら心配いらねぇよ! 連中もそこまでガッツリ準備整えてたって感じはしねぇし、俺らだけで突破してみせらぁ!』
『――了解した。可能な限り急いで援護に向かえるようにするが、それまでくれぐれも無理をしないでくれよ』
『なぁに、ヤベェときゃサッサとトンズラするさ。そっちのお守りは任せたぜ!』
爆音が耳鳴りのように響いたのを最後に、叫ぶような骸骨とご主人の声は揃って聞こえなくなった。
それだけで戦闘の激しさを察するには十分であり、僅かに胃が絞られるような感覚に襲われる。
アポロニアもきっと、私と同じ思いだったのだろう。うがぁ、と声にならない叫びをムセンキに発した。
『自分達だけでも、どうにか助けに行けないッスかぁ!?』
「無理。ヒスイのように飛べればいいけれど、タマクシゲであの山道を戻るのには時間がかかりすぎる。それに、私たちもミクスチャから味方部隊を守らないといけない」
『ぐぐぐぅ……! ご主人の手伝いはできない、ダマルさんたちは助けに行けない! 挙句の果てにぃ!』
お腹に響く低い音と共に、モニタァの片隅で白煙と何か肉のようなものが舞い上がる。きっとその持ち主は生きていない。
だが、持ち主以外は意にも介さず、煙を突き破って出てくるのだから、アポロニアが叫びたくなるのも理解できた。
『何なんッスかさっきから! 双頭大芋虫《バイピラー》並みにうぞうぞとぉ! ポーちゃん、ちょっとの間頼むッス!』
『さっきからずっとやってるってばぁ! もー、あっちこっちから出てくるなぁ!』
ガンガンガンと鉄を叩くような音と共に小さな光が宙を駆け、その内いくらかは跳ね返され、しかしそれから数秒としない内に大きな口を開けた異形は、身体をバラバラにされて倒れ伏す。
そしてやはり、味方が倒されたことになど一切興味を示さず、屍を踏み越えて次のミクスチャは迫ってくる。
ただ、最初にヒスイと共同で撃破していた時と比べ、その数は急激に増えており、レェダァには遥か遠くから向かってくる個体まで映っている。
これは流石に妙だった。反帝国連合軍の攻撃で大きな痛手を被った敵部隊は今、全力でアルキエルモ市街へ後退している。そんな状況でありながら、ミクスチャをタマクシゲへと集中させてしまえば、こちらの侵攻を阻む者はほとんどないと言ってよく、帝国は態勢を立て直す余裕を失ってしまいかねない。
モニタァの中で、また1匹がムハンドウホウの直撃を受けて弾け飛ぶ。
その煙の合間より後方。ふと、何やら慌てた様子の敵兵が視界に入った。
――ミクスチャに、何かを叫んでいる?
次の瞬間、その敵兵は駆け抜けた騎士によって、土煙の向こうに見えなくなる。
彼がどういう役割の兵士だったのかを知る術はない。ただ、ミクスチャに対するその様子から、なんとなく獣使いだったのではないかという単純な想像が浮かんだ。
だとして、何を叫ぶ必要があるのだろう。
ユライアシティの戦いにおいて、エリネラがボコボコにした獣使いから得られた情報曰く、獣使いがミクスチャを使役するのに言葉は使わないと言うし、ならば叫んだところでどうにもなりはしないはず。
そんなことを考えていた矢先である。
『ファティマ、次の弾――ファティマ!? あれ、ちょっと、何処行ったッスか!?』
『えっ? あ! おそと!』
甲高いポラリスの声に、モニタァを切り替えて車体の周囲を見渡せば、ちょうど真後ろで小さくなっていく彼女の後ろ姿が見つかった。
私は慌ててタマクシゲを停車させる。そこに躊躇いはなかったが、だからといって動きを止めていられる余裕などほとんどない。
「ファティ! なにしてるの、戻ってきて!」
『いえ、そういう訳にもいかなさそうです』
「それは、どういう――?」
その時、私はふと気が付いた。
ファティマの姿を映すモニタァの中。どうしてか、今まで波のようにタマクシゲへ押し寄せていたはずのミクスチャが、一定の距離で動きを止めていることに。
喧騒に包まれる戦場にありながら、とても奇妙な空白という他ない。
だが、それが意味するところは、ファティマのムセンキが拾った声によって、私にも察することができた。
『くっふふ、思ったより早く気づいてくれて嬉しいよォ。やぁ、英雄様と一緒に居るだけあって、勘のいい猫ちゃんだ』
■
ただでさえ珍しい、キムンの毛有。
それも独特な口調から、前におにーさんと話していたやつで間違いないだろう。
まぁ、こいつが誰かなんて、正直どうでもよかったのだが。
「キメラリアが獣使いの王様気取りですか。狂ってますね」
「おや、そんなとこまでバレちゃってるのか。見かけによらずホントに賢いねぇ」
「こんなに集めてきてバレないと思ってるあたり、そっちの頭が問題なのでは? 帝国の連中、わたわたしてますよ」
自らと同じキメラリアが変貌させられた化け物が居並ぶ中、平然として笑っていられる時点でまともではない。
ましてこの女は、自ら手綱を集めようなどとしたのだから。
「ま、そうなるよねー。でもは、今は共闘してるってわけじゃないから、貸してたものは返して貰わなきゃ損じゃない?」
「そっちの事情なんて、心の底からどうでもいいです。ごめんなさいしにきたんじゃないなら、やることなんて1つしかありません」
キムンが軽い言葉と共に毛深い腕を軽く持ち上げれば、同時に大きな腕輪がきらりと輝く。
獣の皮を胸と腰に巻いただけという、山賊のような格好に不似合いな装飾品。
多分、それがこの女を獣使いたらしめている道具なのだろう。自然と湧き上がってくる不快感にミカヅキの柄を強く握れば、キムンはどこか居心地悪そうに苦笑しながら頭を掻いた。
「いやぁ、好きでこんな面倒くさいやり方してるんじゃないんだけどね? けど、こうでもしないと、平等な力比べにならないでしょ? キミたちみたいな、神代に触れた存在はさ」
最後の一言に、背筋を悪寒が駆け上がり、それは自然と声となって口から出た。
「っ!! シューニャ動いて! ミクスチャが一斉に来ま――ッ!」
足元が崩れたような衝撃。その瞬間が見えた訳ではない。
ただ、気づいた時には体が勝手に地面を蹴って飛び、視界を埋め尽くす土煙から転がりでたのである。
無線機がシューニャの悲鳴をキィンと響かせた気がしたが、正直よく聞き取れなかった上に、今大事なのはボクのことではない。
ブルブルと大きく頭を降って、硬く乾いた土を払い落とし、胸のムセンキに軽く触れる。
「ボクなら平気です。コイツの相手はボクがやるので、タマクシゲはミクスチャを。きっとそっちに群がりますよ」
『っ……わかった』
シューニャの声に少しガリガリという変な音が混じったが、とりあえず会話ができるあたり、土やら石やらが当たって壊れたりはしていないらしい。
呼吸を1回。ミカヅキを軽く回して体を解し、正面へ構える。その扇形に膨らんだ切っ先を、肩に大きな錨を担ぎあげた、熊女の眉間へ向けて。
「さて、ボッコボコにされる覚悟はいいですか、キムン」
「くっふふ! 真正面から遊んでくれるなんて嬉しいなぁ。さっきの反応も悪くなかったし、これは久しぶりに目一杯楽しめそうだよ」
揺れるキャビンの中、マオリィネがコツコツと携帯端末を叩いて、うーんと渋い声を出す。
ハンドルを握ったままチラリと視線を向ければ、黒く染まった画面に浮かぶ、再接続中というソフトウェアからのメッセージのみ。人から受けた命令を愚直にこなすのが機械の本質だとはいえ、その涙ぐましい健気さには髑髏《頭》が下がる思いである。
「どうやらスケコマシの見立ては正しかったらしいな。ったく、物の価値が分からねえ奴らだぜ。後いくつこの世に残ってるかもわからねぇ貴重品だってのによ」
「それ逆じゃない? アレの価値に気付いていたから落としたんでしょう。それより、まさかこれだけでコウテツが戦力外、なんてことはないわよね?」
「ぁあ? そうしねぇために、わっざわざクソ重てぇトレーラーごと、岩山の急斜面を苦行のハイキングと洒落込んでんだろうが」
もう少し緩やかな盆地地形ならば可愛げもあっただろう。だが、アルキエルモの周囲は、アルキエルモ・オルクレンだとか呼ばれる石灰岩が大量に露天採掘されるような岩山ばかりで、どれもこれも切り立っている。
それもトレーラーが走れる道など整備されているはずもなく、突き進むのは完璧なオフロード。何ならそれも大小の石が転がるガレ場が大半なのだ。遥か昔のドライブウェイが恋しくなってくる。
ただ、時にタイヤがスタックしそうな空転をかまし、時にサスペンションの跳ね返りで存在しない舌を噛みそうな衝撃を与えてくる場所ばかりであろうとも、自分たちは進むしかないのだ。
「観測射撃が使えなくなっちまった以上、榴弾砲は直接照準で叩き込むしかねぇ。玉匣からレーザー誘導でも貰えるってんなら話は別だが、連中にもそんな余裕はねぇだろうしよ」
「私にもわかるように話しなさい、って言っても無理なんでしょうね。とにかく高台に行けばなんとかなる、という理解でいいかしら?」
「あぁ――っつっても、俺ぁ砲兵じゃねぇから保証はできねぇがな。とりあえず敵陣がハッキリ見えてさえいりゃ、甲鉄の自動計算でも敵陣のどっかに砲弾を降らすことくらいはできるだろ」
マオリィネなりに噛み砕いた結果なのだろう。それに俺は少し感心しながら、ギィと鋼の兜を揺らした。
いくら素の砲撃精度が高いと言っても、あくまで甲鉄は有人機。システムの本質は制御の難しい榴弾砲の運用全てを、パイロット1人の操作で行えるよう補助するための物に過ぎないのである。
自動制御の甲鉄による砲撃など、レーザー誘導があったところでおままごと。知り合いの砲兵連中はよくそう言って笑っていた。俺としては、そこまで射撃精度が悪いとは思わなかったのだが、本職からすれば役立たずもいいところなのだろう。
では、そのおままごとすらできなくなった甲鉄は、果たして本当に使えるのか。
扱うのは弾道計算など完全に門外漢の整備兵と、歴史博物館から飛び出してきた騎士様の2人だけ。
そのどちらかが照準計算に頭を捻るくらいなら、まだ自動操縦の甲鉄に撃ってもらう方がマシなはず、なのだ。
ただ、兜で顔が見えなくとも、否、見えたところで表情の読めない白骨であったとしても、マオリィネは言葉の雰囲気から、俺の不安を読み取ったらしい。
「……一応、聞いておきたいのだけれど、うまくいかなかった時の策は考えてあるの?」
「あん? そんなもん、このアイアンゴーレムを敵陣に解き放つに決まってんだろうが」
また大きな石でも踏んづけたのだろう。ガコンと車体が大きく揺れる。
それでも、車内からは暫く声が消えたままとなり、ようやくのことで音が発されたかと思えば、それはマオリィネの盛大なため息だった。
「はぁ……そんなことだろうとは思っていたけれど。いくら武装したマキナと言っても、ミクスチャだらけの戦場だと先行きが不安ね」
呆れかえった彼女の言葉に、何おう、と反論してやろうかとも思った。
俺は手札の中で最も現実的かつ、敵に打撃を与える上で有効な方法を提示したのだ。無論、最善からは程遠いため、噛みついたところで後が続かないことは重々承知の上である。
だが残念なことに、俺が言葉を止めた理由はこれまでの会話と一切関係がなかった。
できることなら、マオリィネの方が原因であってほしかったが、スリットから覗く世界は斯くも残酷であるらしい。
「――あぁ。どうにも、お前の先行き不安ってのは大当たりみたいだっ、ぜぇッ!」
何の前触れもなく、俺が勢いよくハンドルを切れば、重たいトレーラーはガレ場を荒らしながら横滑りし、隣からはきゃあと甲高い悲鳴が上がった。
次の瞬間、キャブの真横へ降ってきた巨岩が砕け散り、飛び散った破片が車体に当たって音を立てる。
それに混じって撃ち込まれたボルトが、雹のように防弾ガラスを叩いたことで、シートに伏せたマオリィネも荒い運転の理由を察したらしい。
「まさか、こんな場所にミクスチャを連れた部隊を伏せていたと言うの!? どれだけ戦場から離れてると思ってるのよ!?」
「あぁ、もしこれが偶然の出会いだってんなら、運命だの神だのって奴を信じたっていいかも知れねぇと思えるぜ。作戦通りのポイントから砲撃できてりゃ、万一マキナに奇襲されても逃げられる算段つけてたってのによぉ」
「ッぅ――あ、貴方たち古代人に信仰心があったなんて驚きだわ。これもシトリオドラのお導きだって諦める?」
敵に腹を向けて止まった車内で、琥珀色の瞳がこちらを睨んでくる。
神と呼ばれる上位存在が実際に居るのか、時間を支配しているのが運命なのかなど、多少機械を弄る手が器用なだけの骸骨にわかるはずもない。
ただ、この暗い眼孔から見えているのは、高所に陣取った敵兵と異形の姿だけ。どうやらクロスボウの威力では、マキナ輸送用トレーラーの装甲を撃ち抜けないと悟ったらしく、妙に関節数の多い腕脚を歪に生やした甲虫のようなミクスチャが、再び岩石を持ち上げようとしていた。
そのどこか滑稽にも思える景色に、カッと小さな笑いが零れた。
「そいつぁ悪くねぇ提案だ。俺が大の虫嫌いじゃなきゃ最高だったぜ。だが……神が何を導こうが、輪ぁかけて気持ち悪くなってるフンコロガシモドキに、くれてやる命なんざ持ち合わせちゃいねぇんだよ!」
マオリィネの手から勢いよくタブレット端末をひったくり、緊急起動と書かれた項目をタップする。遠くで岩が大きく持ち上げられているような気がしたが無視。
シート越しに伝わってくる、耳孔にこびり付いた重々しい駆動音。翡翠のそれと比べれば、旧型であることを喧伝するかのような鈍い音。
マオリィネの固定したワイヤーが弾け、マキナ輸送用トレーラーの車体が大きく揺れたかと思うと、重い幌を押しのけて2体の巨人が姿を現した。
「御貴族様にゃ悪ぃが、しばらく俺の喧嘩神輿に付き合ってもらうぜぇ? 何せ、ミクスチャ連れの団体様が、あの世行きの特急券をご所望なんでなァ!」
「フフッ、上等よ――私だって、虫は大っ嫌いなんだからッ!」
■
リタイからゴツゴツとした伝わってくる。それは硬い地面の凹凸によるものだけはないだろう。
マキナの戦いからできるだけ遠く離れ、一方でミクスチャを徹底的に撃破する。
本音を言えば、とても怖い。
無敵とも思える殻に籠っていながら、あちこちで咲き散る血の花弁が、空へ木霊する悲鳴の和音が、生死の狭間が曖昧になっているこの場所が恐ろしくて堪らない。
けれど、私は唇に力を込めて戦いのためにタマクシゲを走らせ続ける。たとえ、ムセンで予期せぬ状況報告が飛び交おうとも。
『ダマル、詳しく状況を報告してくれ。何が起こっている?』
『言ったろ! バケモン連れた伏兵共と殴り合いの真っ最中だ! 悪ぃが砲兵支援は暫くできそうもねぇ!』
『ふ、伏兵って、じゃあなんスか!? こっちの作戦がバレてたってことッスか!?』
『さぁな! だが、この程度なら心配いらねぇよ! 連中もそこまでガッツリ準備整えてたって感じはしねぇし、俺らだけで突破してみせらぁ!』
『――了解した。可能な限り急いで援護に向かえるようにするが、それまでくれぐれも無理をしないでくれよ』
『なぁに、ヤベェときゃサッサとトンズラするさ。そっちのお守りは任せたぜ!』
爆音が耳鳴りのように響いたのを最後に、叫ぶような骸骨とご主人の声は揃って聞こえなくなった。
それだけで戦闘の激しさを察するには十分であり、僅かに胃が絞られるような感覚に襲われる。
アポロニアもきっと、私と同じ思いだったのだろう。うがぁ、と声にならない叫びをムセンキに発した。
『自分達だけでも、どうにか助けに行けないッスかぁ!?』
「無理。ヒスイのように飛べればいいけれど、タマクシゲであの山道を戻るのには時間がかかりすぎる。それに、私たちもミクスチャから味方部隊を守らないといけない」
『ぐぐぐぅ……! ご主人の手伝いはできない、ダマルさんたちは助けに行けない! 挙句の果てにぃ!』
お腹に響く低い音と共に、モニタァの片隅で白煙と何か肉のようなものが舞い上がる。きっとその持ち主は生きていない。
だが、持ち主以外は意にも介さず、煙を突き破って出てくるのだから、アポロニアが叫びたくなるのも理解できた。
『何なんッスかさっきから! 双頭大芋虫《バイピラー》並みにうぞうぞとぉ! ポーちゃん、ちょっとの間頼むッス!』
『さっきからずっとやってるってばぁ! もー、あっちこっちから出てくるなぁ!』
ガンガンガンと鉄を叩くような音と共に小さな光が宙を駆け、その内いくらかは跳ね返され、しかしそれから数秒としない内に大きな口を開けた異形は、身体をバラバラにされて倒れ伏す。
そしてやはり、味方が倒されたことになど一切興味を示さず、屍を踏み越えて次のミクスチャは迫ってくる。
ただ、最初にヒスイと共同で撃破していた時と比べ、その数は急激に増えており、レェダァには遥か遠くから向かってくる個体まで映っている。
これは流石に妙だった。反帝国連合軍の攻撃で大きな痛手を被った敵部隊は今、全力でアルキエルモ市街へ後退している。そんな状況でありながら、ミクスチャをタマクシゲへと集中させてしまえば、こちらの侵攻を阻む者はほとんどないと言ってよく、帝国は態勢を立て直す余裕を失ってしまいかねない。
モニタァの中で、また1匹がムハンドウホウの直撃を受けて弾け飛ぶ。
その煙の合間より後方。ふと、何やら慌てた様子の敵兵が視界に入った。
――ミクスチャに、何かを叫んでいる?
次の瞬間、その敵兵は駆け抜けた騎士によって、土煙の向こうに見えなくなる。
彼がどういう役割の兵士だったのかを知る術はない。ただ、ミクスチャに対するその様子から、なんとなく獣使いだったのではないかという単純な想像が浮かんだ。
だとして、何を叫ぶ必要があるのだろう。
ユライアシティの戦いにおいて、エリネラがボコボコにした獣使いから得られた情報曰く、獣使いがミクスチャを使役するのに言葉は使わないと言うし、ならば叫んだところでどうにもなりはしないはず。
そんなことを考えていた矢先である。
『ファティマ、次の弾――ファティマ!? あれ、ちょっと、何処行ったッスか!?』
『えっ? あ! おそと!』
甲高いポラリスの声に、モニタァを切り替えて車体の周囲を見渡せば、ちょうど真後ろで小さくなっていく彼女の後ろ姿が見つかった。
私は慌ててタマクシゲを停車させる。そこに躊躇いはなかったが、だからといって動きを止めていられる余裕などほとんどない。
「ファティ! なにしてるの、戻ってきて!」
『いえ、そういう訳にもいかなさそうです』
「それは、どういう――?」
その時、私はふと気が付いた。
ファティマの姿を映すモニタァの中。どうしてか、今まで波のようにタマクシゲへ押し寄せていたはずのミクスチャが、一定の距離で動きを止めていることに。
喧騒に包まれる戦場にありながら、とても奇妙な空白という他ない。
だが、それが意味するところは、ファティマのムセンキが拾った声によって、私にも察することができた。
『くっふふ、思ったより早く気づいてくれて嬉しいよォ。やぁ、英雄様と一緒に居るだけあって、勘のいい猫ちゃんだ』
■
ただでさえ珍しい、キムンの毛有。
それも独特な口調から、前におにーさんと話していたやつで間違いないだろう。
まぁ、こいつが誰かなんて、正直どうでもよかったのだが。
「キメラリアが獣使いの王様気取りですか。狂ってますね」
「おや、そんなとこまでバレちゃってるのか。見かけによらずホントに賢いねぇ」
「こんなに集めてきてバレないと思ってるあたり、そっちの頭が問題なのでは? 帝国の連中、わたわたしてますよ」
自らと同じキメラリアが変貌させられた化け物が居並ぶ中、平然として笑っていられる時点でまともではない。
ましてこの女は、自ら手綱を集めようなどとしたのだから。
「ま、そうなるよねー。でもは、今は共闘してるってわけじゃないから、貸してたものは返して貰わなきゃ損じゃない?」
「そっちの事情なんて、心の底からどうでもいいです。ごめんなさいしにきたんじゃないなら、やることなんて1つしかありません」
キムンが軽い言葉と共に毛深い腕を軽く持ち上げれば、同時に大きな腕輪がきらりと輝く。
獣の皮を胸と腰に巻いただけという、山賊のような格好に不似合いな装飾品。
多分、それがこの女を獣使いたらしめている道具なのだろう。自然と湧き上がってくる不快感にミカヅキの柄を強く握れば、キムンはどこか居心地悪そうに苦笑しながら頭を掻いた。
「いやぁ、好きでこんな面倒くさいやり方してるんじゃないんだけどね? けど、こうでもしないと、平等な力比べにならないでしょ? キミたちみたいな、神代に触れた存在はさ」
最後の一言に、背筋を悪寒が駆け上がり、それは自然と声となって口から出た。
「っ!! シューニャ動いて! ミクスチャが一斉に来ま――ッ!」
足元が崩れたような衝撃。その瞬間が見えた訳ではない。
ただ、気づいた時には体が勝手に地面を蹴って飛び、視界を埋め尽くす土煙から転がりでたのである。
無線機がシューニャの悲鳴をキィンと響かせた気がしたが、正直よく聞き取れなかった上に、今大事なのはボクのことではない。
ブルブルと大きく頭を降って、硬く乾いた土を払い落とし、胸のムセンキに軽く触れる。
「ボクなら平気です。コイツの相手はボクがやるので、タマクシゲはミクスチャを。きっとそっちに群がりますよ」
『っ……わかった』
シューニャの声に少しガリガリという変な音が混じったが、とりあえず会話ができるあたり、土やら石やらが当たって壊れたりはしていないらしい。
呼吸を1回。ミカヅキを軽く回して体を解し、正面へ構える。その扇形に膨らんだ切っ先を、肩に大きな錨を担ぎあげた、熊女の眉間へ向けて。
「さて、ボッコボコにされる覚悟はいいですか、キムン」
「くっふふ! 真正面から遊んでくれるなんて嬉しいなぁ。さっきの反応も悪くなかったし、これは久しぶりに目一杯楽しめそうだよ」
10
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
武蔵要塞1945 ~ 戦艦武蔵あらため第34特別根拠地隊、沖縄の地で斯く戦えり
もろこし
歴史・時代
史実ではレイテ湾に向かう途上で沈んだ戦艦武蔵ですが、本作ではからくも生き残り、最終的に沖縄の海岸に座礁します。
海軍からは見捨てられた武蔵でしたが、戦力不足に悩む現地陸軍と手を握り沖縄防衛の中核となります。
無敵の要塞と化した武蔵は沖縄に来襲する連合軍を次々と撃破。その活躍は連合国の戦争計画を徐々に狂わせていきます。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~
takahiro
キャラ文芸
『船魄』(せんぱく)とは、軍艦を自らの意のままに操る少女達である。船魄によって操られる艦艇、艦載機の能力は人間のそれを圧倒し、彼女達の前に人間は殲滅されるだけの存在なのだ。1944年10月に覚醒した最初の船魄、翔鶴型空母二番艦『瑞鶴』は、日本本土進攻を企てるアメリカ海軍と激闘を繰り広げ、ついに勝利を掴んだ。
しかし戦後、瑞鶴は帝国海軍を脱走し行方をくらませた。1955年、アメリカのキューバ侵攻に端を発する日米の軍事衝突の最中、瑞鶴は再び姿を現わし、帝国海軍と交戦状態に入った。瑞鶴の目的はともかくとして、船魄達を解放する戦いが始まったのである。瑞鶴が解放した重巡『妙高』『高雄』、いつの間にかいる空母『グラーフ・ツェッペリン』は『月虹』を名乗って、国家に属さない軍事力として活動を始める。だが、瑞鶴は大義やら何やらには興味がないので、利用できるものは何でも利用する。カリブ海の覇権を狙う日本・ドイツ・ソ連・アメリカの間をのらりくらりと行き交いながら、月虹は生存の道を探っていく。
登場する艦艇はなんと58隻!(2024/12/30時点)(人間のキャラは他に多数)(まだまだ増える)。人類に反旗を翻した軍艦達による、異色の艦船擬人化物語が、ここに始まる。
――――――――――
●本作のメインテーマは、あくまで(途中まで)史実の地球を舞台とし、そこに船魄(せんぱく)という異物を投入したらどうなるのか、です。いわゆる艦船擬人化ものですが、特に軍艦や歴史の知識がなくとも楽しめるようにしてあります。もちろん知識があった方が楽しめることは違いないですが。
●なお軍人がたくさん出て来ますが、船魄同士の関係に踏み込むことはありません。つまり船魄達の人間関係としては百合しかありませんので、ご安心もしくはご承知おきを。かなりGLなので、もちろんがっつり性描写はないですが、苦手な方はダメかもしれません。
●全ての船魄に挿絵ありですが、AI加筆なので雰囲気程度にお楽しみください。
●少女たちの愛憎と謀略が絡まり合う、新感覚、リアル志向の艦船擬人化小説を是非お楽しみください。またお気に入りや感想などよろしくお願いします。
毎日一話投稿します。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる