流浪の魔導師

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4章 ドワーフの兵器編 第2部 刺客乱舞

294. あの日の教会 6

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「親父! おい親父ィ!!」

 バッサムは叫びながら倒れた神父に駆け寄った。そして抱き起こそうと神父の身体に触れ絶句する。法衣がぐっしょりと濡れていた。汗と血だ。遠目で見て分かってはいたが、ここまでとは思わなかった。特に背中側は熱いほどに温かい。貫かれたばかりの傷口から血が流れているのだ。

「親父! しっかりしろ!」

 バッサムは神父の背中と胸の真ん中、傷口と思われる所にそれぞれ左手と右手を当てる。これ以上血が流れないように。

「「「 親父!! 」」」

 叫びながら、すぐにフォージやタウラスらも神父の側に駆け寄ってきた。名を呼ばれた神父は、ひゅうひゅうと浅く息をしながら「おう……お前ら……」と言ったかと思いきや、咳き込みながらごぽりと血を吐いた。

「親父! 喋るな!」

 フォージがそう叫ぶと、神父は〝カカカ……〟と小さく笑い「下手……打った……」と呟いた。「だから喋んなって!」と言いながらフォージは神父の手を取る。

「あん? 何だあのガキ共……?」
「ここのガキじゃねぇのか?」

 と、背後から声がした。神父を刺した女の仲間と思われる男達の話し声だ。フォージらは一斉に振り向く。見るとバッサムらを呼びにきた子供達が、敷地の外から様子をうかがう様に覗いていた。

「ダメだお前ら! 見るな! 来るんじゃねぇぞ!」

 タウラスは叫びながら立ち上がり、すかさず子供達のもとへ走る。その声を聞いた神父は「子供達か……?」と呟く。「大丈夫だ、タウラスが行った」とフォージが答える。

「お前ら……子供達を……頼……ゴホッ……」

 神父は話しながら再び血を吐いた。「親父!」と叫ぶラーカ。目には涙が浮かんでいる

「何でこんな……何でだよ親父……何ですぐに俺らを呼ばなかった……」

 声を震わせるラーカ。神父はかすれる声で「……馬鹿野郎」と小さく答える。

「一家を守んのが……俺の役目……だ……」

 言い終えると神父はニッと笑う。しかし直後、神父の身体からふっと力が抜けた。神父を抱きかかえていたバッサムの腕に、だるんと弛緩しかんした神父の身体の、その重さがずしりと伝わってきた。

「おい……嘘だろ……」とバッサムは絶句する。「親父!? 親父ィ!!」とフォージは叫ぶ。ラーカはしばし呆然とし、しかしその内にゆっくりと立ち上がった。

「何なんだてめぇらは……」

 そう呟きながらラーカは剣を抜いた。ふらふらと揺れる身体。力が入らない。そのまま一歩二歩と前に出ると、ぼんやりとしていた視線はある一点に定まった。

「一体……何だてめぇはァァァ!!」

 ラーカの目はナイシスタを捉えた。生気を失っていた顔に、虚脱感が支配していた身体に、力が戻る。ラーカの炉に火が入ったのだ。悲しみの種火が急速に燃え上がり、怒りの業火に育った。瞬間ラーカはナイシスタ目掛けて走り出す。

「待てラーカ!」

 フォージが叫ぶ。しかしラーカの耳には入っていない。ラーカの目は、耳は、その意識は、〝父〟を殺したナイシスタにだけ向いていた。
 鬼の形相で向かってくるラーカ。しかしナイシスタは微動だにしない。涼やかな顔でラーカを見ていた。動く必要はないと、そう理解しているからだ。
 間合いに入るとラーカは剣を振り下ろす。だがナイシスタには届かなかった。振り下ろした剣はガキンと激しい音と共に弾かれた。ナイシスタの思惑おもわく通り、割って入ったミストンがラーカの剣を弾き上げたのだ。そして返す刀で一閃、ラーカの胸を斬り裂いた。

「ぐっ……!?」

 ラーカは小さくうめくとその場にうずくまる。「ラーカ!?」と叫びながらフォージはラーカに駆け寄った。そして傷を確認すると一先ひとまずほっとする。死ぬ様な深い傷ではない。恐らくは手加減されたのだと、そう思った。
 すっ、とミストンはフォージに剣を向ける。しかし問題はないと判断した。この衛兵は仲間の心配をするばかりで、こちらに向く・・気配はない。ミストンは剣を下ろすと視線をラーカに移した。

「お前、一騎討ちを汚すなよ。そりゃ神父をおとしめるのと同じ事だ。俺らも我慢してんだぜ?」

 ミストンがそう話すとラーカはギッとミストンを睨み「何が一騎討ち……」と呟くや、ふらつきながら立ち上がった。

「ふざけんな……ふざけんじゃねぇぞ!!」

 怒鳴りながら、ラーカはミストンに斬り掛かろうとする。しかしフォージがそれを許さない。ラーカを背後から羽交はがい締めにしながら「待てってラーカ! 一旦落ち着け!」などと声を掛ける。

「落ち着けだぁ!? フォージてめぇ! 離しやがれ! 親父が殺られたんだぞ!!」

「馬鹿野郎! 何人いると思ってんだ! お前一人が暴れても、どうこうなりはしねぇ!」

「うるせぇ! 離せ! こいつら全員殺してやる!!」

 言い争うラーカとフォージ。そんな二人を見てナッカらは〝何だこいつら?〟といった感じの冷笑を浮かべる。そんな中、突如「黙れ馬鹿共が!!」と怒鳴り声が響いた。

「さっきのガキ共が呼んだのかよ……全く、わざわざ出張でばって来やがりやがって……ありがたくて涙が出るぜ……」

 ぶつぶつと言いながらナイシスタのかたわらに進む人物を見て、フォージは驚きの声を上げた。

「何であんたが……どういう事だリテュエイン!!」

「お前確か……フォージっつったか? 他の連中もこの院のだな。良いか、俺はお前らの雇い主だ。〝リテュエイン様〟って呼びやがれクソ野郎」

「んな事はどうだって良い! あんたがいて何でこんな……この蛮行を見過ごしたってのか!」

「ぎゃ~ぎゃ~わめくなってんだ。説明すんのも面倒臭ぇ。話なら神父に聞きやがれ……てかもう死んだか?」

「てめぇ…………ふざけんなコラァ!!」

 フォージはラーカから手を離すとリテュエインに詰め寄った。

 神父が死んだ。大恩ある〝父〟を殺された。普通じゃいられない。まともじゃいられない。本来ならば。
 だがこれ以上犠牲を出してはいけない。ラーカに何かあっては、それこそ神父に顔向け出来ない。そう考え怒りを抑え込んだ。無理矢理に抑え込んだ。しかし軽口を叩くリテュエインの態度が、フォージの怒りを破裂させた。

 フォージに詰め寄られ、しかしリテュエインの軽口は止まらない。「おっかねぇなぁ、ちびっちまいそうだ」などと言って笑う。

「まぁ落ち着けよ、しょうがねぇから説明してやる。まずはこちらの御方だが……」

 と、説明しようとするリテュエインだったが、すかさずナイシスタはすっ、と右手を挙げた。〝自分で話す〟と。リテュエインは苦笑いしながらすぅ、と左手を前に出す。〝どうぞ〟と。

「さて、初めまして衛兵諸君。私はブロン・ダ・バセル特務部隊シャーベル隊長、ナイシスタ・イエーリーさ」

「ブロン・ダ……!?」

 驚きのあまりフォージは言葉を失った。同時に熱くなっていた頭がすぅぅと冷えてゆく。ブロン・ダ・バセルと言えば悪評の絶えない隣国センドベルの傭兵団。ダグべでは強い忌避きひ感から、国内での活動が制限されている。

(何で傭兵なんぞが……)

 フォージは改めて周囲を見回した。ざっと二十人程か、当然皆武装している。そしてラーカを見ると、ラーカは胸を押さえて再び地面にうずくまっていた。ラーカを止めて良かったと、フォージは思った。この数の傭兵相手に立ち回るなど、自殺行為以外の何でもない。

(ハッ……薄情な野郎だなって……呆れるか、親父………)

 フォージは完全に冷静さを取り戻した。〝父〟が殺されたと言うのに、怒りもせず悲しむ間もなく、なんて薄情な〝子〟だろうか。だが駄目だ。怒っては駄目だ。冷静に、冷静に……

 託されたのだから。〝父〟から、子供達を頼むと。

 教会の中には恐らく子供達がいる。神父亡き今、彼らを守れるのは自分達だけだ。怒りを死ぬ気で抑えろ。悲しむのはあとでいくらでも。今、やるべき事をやる。

「……あんたに聞きたい事がある」

 そう言ってフォージはナイシスタを見た。ナイシスタもまた、じっとフォージを見る。フォージの目。冷たく、しかし熱い。

(へぇ……)

 ナイシスタは思わず感心した。身内を殺され、腹の中では煮えたぎる程の怒りが渦巻いているはずだ。しかしそれを抑え込んだ。自分の役割を理解し、すべき事をそうとしている。

 こいつは心が強く、そして賢い。

 小さく笑い、「ああ良いさ」とナイシスタは答えた。

「ここの出身だって? ならあんたには聞く権利がありそうだねぇ。何でも答えようじゃないか」

「何で……あんたらはここに?」

「仕事さ。ただし荒事あらごとじゃない、平和的な話し合いさ」

「平和的? どこが……充分荒れてんじゃねぇかよ」

「そりゃ、話の折り合いがつかなかったからねぇ」

「クソが……評判通りだな、あんたら。結局は傭兵だ。弱者を力でじ伏せた」

 ピクリとナイシスタは反応した。穏やかに見せていたその顔が少し険しくなる。評判云々うんぬんを指摘されたからではない。神父を弱者と言ったからだ。しかし〝そうか、こいつも知らないのか〟と、そう思うと納得出来た。だったら無理もない話だ。どうやら神父は、実に上手く潜伏生活を過ごしていたらしい。ここにいる誰も、この街にいる誰も、神父の素性を知らないのだ。

(しかし……)

 ナイシスタは呆れる様に「分かっちゃいないねぇ」と笑った。

「まるで分かっちゃいない。力でじ伏せた? そりゃ神父を馬鹿にし過ぎさ。あの神父は、弱者に擬態ぎたいした強者だよ」

 思い掛けない言葉だった。フォージはまるでピンと来ず「弱者に擬態ぎたいって……何を言ってる?」と聞き返す。しかしナイシスタはお構いなしに話を続けた。

「一騎討ちにしても、最初は脅しのつもりだったさ。弱者ならばそれだけで屈する。だが神父は受けた。充分な勝算があったのさ。事実神父は……強かった」

「強かっ……た……?」

 信じられない。口には出さなかったが、フォージの顔はそう言っていた。〝だろうねぇ〟と、ナイシスタはニヤリと笑う。

「詳しい話はあとでリテュエイン殿にでも聞きな。まぁとにかく、一騎討ちは私の勝ちさ。神父と交わしたやく履行りこうさせてもらう」

やく…………待て、何だそりゃ……何を賭けた!」

「この孤児院の……所有権さ」

「…………何ぃ!?」

「約にもとづき、子供達を連れてゆく。お前ら! 始めな!」

 ナイシスタの号令。ミストンは「おし、積み込む・・・・ぞ」と他の隊員達に声を掛ける。〝さっさと終わらせようや〟などと話しながら、隊員達は動き始めた。

「待て!! 何でお前らが子供達を!!」

 訳が分からない。傭兵がどうして子供達を欲しがる? 分からないがしかし、止めなければ。フォージは教会の扉に向けて走り出す。だが止められた。「くどい」と一言言いながら、ナイシスタはフォージに剣を向ける。

「ぐっ……」

 瞬間足を止めたフォージ。しかしガチンと音を鳴らし、目の前の剣が弾かれた。その音に気付くと、ナッカらは一斉に振り向いた。「てめぇ! 何してやがる!」とナッカが怒鳴る。何が起きたのか。フォージの横から伸びてきた剣が、ナイシスタの剣を弾いたのだ。

「バッサム……!」

 下から斬り上げる様に剣を振り、ナイシスタの剣を弾いたのはバッサムだった。その顔を見て、フォージは息を呑む。孤児院時代からの長い付き合い。だが今まで見た事がない。これ程怖い顔をしているバッサムを。

「フォージさん。ラーカと後ろにいてくれよ、親父の側に。ったばかりで一人じゃ親父も寂しいだろ」

 静かにそう話すバッサム。だがその目はフォージを見てはいなかった。「バッサム……」とフォージが呼び掛ける。しかしそれでも視線は動かない。バッサムは真っ直ぐにナイシスタを見て「なぁ傭兵……」と口を開く。

「やろうぜ、一騎討ち」

 予想もしない言葉だった。眉を寄せ、ナイシスタは思わず「はぁ?」と頓狂とんきょうな声を上げる。

「好きなんだろ、一騎討ち。白黒付けるにゃ確かに手っ取り早い……だからよ、やろうぜ?」

「衛兵ごときがてめぇ! 何抜かしてやがる!」

 ナッカが怒鳴りながら詰め寄る。しかしバッサムは一瞥いちべつもしない。隊長であると名乗った女。この女こそがこいつらのボス。他の雑魚に用はない。

「親父との一騎討ち、あんたが仕掛けたんだろ? 仕掛けはするが受けられねぇか? やっぱあれか、確実に勝てる相手とじゃなきゃ……やれねぇとか?」

 あおる様なバッサムの言葉に〟ナイシスタは歪んだ笑みを浮かべる。「言うじゃないか、衛兵」と言いながら、品定めでもするかの様な視線でバッサムを見る。

「フン、お前に神父程の価値があるとは思えないがねぇ?」

「奇遇だな。俺もあんたに大した価値があるとは思えねぇ」

 片や怒りの顔で。片や歪んだ笑みで。睨み合いあおり合う二人。そんな二人の間に「隊長! 俺にやらせろ!!」と怒鳴りながらナッカが割って入った。ナイシスタは小さくため息をく。血の気の多い部下達の中でも、取り分けナッカは気が短い。これだけコケにされたら〝自分がやる〟と言い出すのは目に見えていた。そして案の定、ナッカは声を上げた。

「ナッカ。衛兵殿は私をご指名だ」

「うるせぇ……譲れって言ってんだ!」

「全く……単純だねぇ、お前は」

「何とでも言え! ブロン・ダ・バセルが……シャーベルがおちょくられてんだぞ!! 許せる訳がねぇ……!」

 〝やれやれ〟と、ナイシスタは再びため息一つ。「だそうだが、衛兵殿?」とおもむろにバッサムを見る。バッサムは相変わらずナイシスタから視線を外さず、「下っ端に用はねぇ」と一言。「誰が下っ端だゴラァ!!」と吠えて、ナッカはバッサムに剣を向けた。

「じゃあこうしようか、衛兵殿。そいつに勝ったら次は私が受けようじゃないか。まぁ連戦にはなるがねぇ、私達相手に大層に吹いたんだ。それくらいの力は……当然持ってるんだろう?」

 ナイシスタにそう提案され、そこでようやくバッサムはちらりとナッカに目をやった。しかしすぐに視線をナイシスタに戻す。

「俺があんたに勝ったら、親父と交わした約ってのを白紙にしろ」

 無視された。どこまでコケにするのかと、ナッカの怒りは頂点に達する。

「てめぇ……てめぇ衛兵ゴラァ!! ナメやがって……ナメくさりやがって! ブチ殺っぞゴラァァァァ!!」

 わめき散らすナッカ。その大声を少し不快に感じながら、ナイシスタは「気が早いねぇ」と肩をすくめる。

「まずはこいつに勝たなきゃならないんだが?」

「ハッ、負ける訳ゃねぇだろ」

 そう吐き捨てるとバッサムはくるりときびすを返す。「てめぇゴラァ!」などと怒鳴り続けるナッカを余所よそに、後ろに下がったフォージの側へ行く。

「バッサム、お前……」

 何て事を言いやがる。フォージはそう言い掛けたが口を閉じた。傭兵相手に一騎討ちを望むなどあまりに無謀。だがバッサムの気持ちも理解出来る。仮にこの場に自分しかいなければ、きっと怒りに任せて一人暴れていただろう。だが違う。ここには子供達がいる。子供達を守る為の最善手は暴れる事ではない。

「ハッ、何でこんな事になったのかねぇ」

 バッサムはそう言って笑った。先程までの怖い顔はどこに行ったのかと、そう思うくらい穏やかな顔だ。だがどこか違和感がある。いつもの笑顔ではないと、フォージは思った。

「まぁ一騎討ちで決まったってんなら、一騎討ちでくつがえさねぇとな」

 バッサムはそう話したが、しかしそれは本心ではなかった。フォージの顔を見たら、自然とあんな言葉が出てきてしまったのだ。
 本心ではないと言いつつも、しかし子供達を守る為の方策である事に間違いはない。一騎討ちに勝てば、あのふざけた約とやらを白紙に戻せるのだ。
 だが不謹慎ではあるが、今のバッサムにとってそれは取って付けた様な理由でしかなかった。しかしバッサムはフォージの顔を見た。見てしまったがゆえに、ああ言うしかなかった。

 何故なぜならばバッサムもまた、フォージの考えを理解していたからだ。子供達を守る為に己を殺した。これはそんなフォージの覚悟に泥を塗る行為だ。

「…………フォージさん」

 少し間を置き、バッサムは再び口を開く。やはり言わなければならない。仲間に対してそれは、あまりに誠実さに欠ける。何より自分の気持ちに嘘はきたくない。

「フォージさん。あんたの考えは分かる。多分それが正しい。けどよ……それじゃあ俺は……俺の気は収まらねぇ!」

 〝父〟を殺された怒り。押し殺すなど到底出来やしない。だったら存分に怒りをぶちけて、同時にこの騒動を終わらせる。
 真っ直ぐにフォージを見るバッサム。フォージは何も言わない。だが大丈夫だ、伝わっている。

「だからよ……何かあったらフォージさん、後は任せる。ラーカもじっとしとけよ、傷が広がるぜ?」

 バッサムはそう話すと、二人の返答を聞くでもなくくるりと背を向ける。そしていきり立つナッカの下へ向かう。ラーカは小さく〝死ぬなよ〟と呟き、フォージは無言でバッサムを見送った。

「さてどうだ? 賭けっか? どうする?」
「賭けになんのかよ、これ」
「そうだぜ。ナッカがアレに負けるかぁ?」

 隊員達が賭けの算段を始める。にわかに騒がしくなる場。ナッカはバッサムを睨み付けながら「てめぇ楽に死ねると思うなよコラァ! 全身ズタズタに斬り裂いて……」などと凄み続ける。そんな中、ナイシスタはリテュエインに近付き「よろしいですか」と声を掛けた。

「申し訳ないが、立会人を務めてはもらえませんか?」

「っ…………あぁ、良いでしょう」

 面倒臭ぇ。口から出掛かったそんな言葉をぐっと飲み込み、リテュエインは了承した。
 孤児の件は神父の負けで片が付いたはずだった。なのに何でこんな面倒な事態になったのか。さっさと屋敷に戻り、残っている仕事に手を付けたいのにだ。孤児だけではない。年寄りや、病人や、そんな連中の受け入れ先を探さなければ。
 が、ここでゴネた所で益はない。ならば早い所、この馬鹿げた斬り合いを終わらせるのみだ。睨み合う二人の横に立ったリテュエインはおもむろに口を開いた。

「あ~……立会人のリテュエイン・カウンだ。結果の如何いかんに関わらず、双方遺恨は残すなよ。一騎討ちってのはそういうもんだろ?」

 バッサムは小さく笑った。随分と馬鹿な事を言っている。そもそも遺恨から始まる一騎討ちだ、残るに決まっている。
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