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4章 ドワーフの兵器編 第2部 刺客乱舞
243. 白い兄弟
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「退けぃ!!」
騎士の一人が剣を振るう。
「退かぬわ!!」
相手の騎士が分厚い大盾でその剣を受ける。ガチンと剣と盾とがぶつかり合いチッと小さな火花が飛んだ。
夜、イオンザ王国ベオ・イオンザ城の一画。決して広いとは言えないその廊下に大勢の騎士達がひしめき合う。片やそこを通ろうとする者達。片やそこを通さんとする者達。軽い揉み合いが本格的な戦闘になるまで、さして時間は掛からなかった。
「いつまでも騎士団の名を騙りおって……処刑台に乗る前に貴様らの首、叩き落としてくれる!!」
剣を振るった白い鎧の騎士がそう怒鳴る。
「名を騙るだと……我らを愚弄するか!!」
大盾を構える白い鎧の騎士がそう返す。騒動の切っ掛けはその日の夕刻だった。
□□□
「失礼致します、殿下。二、三ご報告がございます」
イオンザ王国王太子ヴォーガンの執務室を訪れた宰相ゼンロは、恭しく礼をするとそう述べた。執務机に向かっているヴォーガンは、何やら机の上に広げた紙を見たまま無言でちょいちょいと手招きする。「は……」と答えたゼンロはおずおずとヴォーガンの前まで進む。
「先ず一つ。ナルフより報告があり、仕掛けに些か手間取っている故今暫くご猶予を頂きたい、と……」
ヴォーガンはチラリとゼンロに目をやると眉をひそめて「……ナルフ?」と聞き返す。「お忘れでございますか? 亡命を求めているタグべの軍人です、先日謁見を……」とゼンロが説明すると、ヴォーガンは「ああ……その様な名であったな。期待しておらぬ故名まで覚えておらん」と興味を失った様子で再び机上の紙に視線を戻す。
「望みは薄うございますか?」
「成功するとは思えん」
「然らば、失敗したら何と致しますか?」
ゼンロの問いにヴォーガンは少しの間を置き「別に何も」と答える。
「この国にいたいと言うのならば置いておけば良い。敵国の内情を知っておる、それだけで利用価値はあろう。だが……」
ヴォーガンはそのナルフとか言う軍人と謁見した際の事を思い出した。あの酷く怯えた様子では成功しようがしまいがこの国には残らないのではないか。だが、と何かを言い掛けたヴォーガンの言葉を待っていたゼンロは「殿下?」と呼び掛ける。ヴォーガンは軽く笑いながら「……いや、良い」と答えた。
(何だ……今日はやけに……)
そんなヴォーガンの様子にゼンロは違和感を抱いた。普段の王太子ならば辛辣な言葉の一つでも吐いて話を締め括るのだが……などとゼンロが考えていると「次は?」とヴォーガンに話の続きを促される。ゼンロは慌てて「は!」と返事をし報告を続ける。
「先日我が手の者が南の神との接触に成功致しました」
ゼンロの報告を聞いたヴォーガンは顔を上げると「ほう……実在しておったか」と、明らかにナルフの話よりも興味を持った様子を見せた。
「は。接触後すぐに交渉となりまして……金は気にするなとの殿下のお言葉でしたので、勝手ながら手前共の独断で交渉を……」
少しばかり言いにくそうに話すゼンロ。気まぐれなヴォーガンの事だ、そんな事を言った記憶はないなどと、過去の発言を翻す事など珍しくはない。しかしヴォーガンは「構わん。向こうは引き受けたのか?」と、言った事を覚えていたのか、はたまた記憶にはないが些事であると捉えたのか、とにかくゼンロを叱責する事なく交渉結果を知りたがった。
「は。依頼は受理されました。すぐに行動を開始するとの事……」
「そうか。傭兵共に軍人、そして影の者……フ、奴の命の価値が斯様に上がるとはな、さすがにジェスタに同情する」
鼻で笑う様にそう話すとヴォーガンは再び手元の紙を見る。
「で、終わりか?」
「は。最後にもう一つ……」
ゼンロはクッと表情を引き締める。一番伝えにくい話をしなければならない。怒りのあまり当たり散らされてもおかしくはないくらい、今のヴォーガンにとっては最重要の事柄だ。
「実は先程、薬師から報告がありました。ここ数日、陛下のお顔にその……赤みが差してきていると……」
案の定ヴォーガンの表情が変わった。ジロリとゼンロを睨みながら「……何だと?」と聞き返す。ザラリとした不快な視線、いつもの目だ。
「よもや……快方に向かっているとでも言うのか?」
「いえ、薬師が言うには薬の方に問題が……」
「薬に問題?……効きが弱まっていると?」
「若しくは……服用量が減っているのではないか、と……」
険しい表情のままヴォーガンは視線を横に外す。
「……薬を飲ませているのは薬師共であろう? それで服用量が減っているという事はつまり……」
「殿下に叛意を抱いている者が……早急に個人を特定致します。裏切り者を……」
「まどろっこしい!」
そう怒鳴りながらヴォーガンはドンと右の拳を机に叩き付ける。だが直後、ふぅと息を吐くと握っていた拳を開く。そしてゆっくりと腕を組むと静かに驚くべき指示を出した。
「セムリナを捕らえよ」
「……!?」
驚いたゼンロは一瞬言葉に詰まった。「いえ……しかし……」などと戸惑いながらも、どうにか「それはその……些か早計では……」と言葉を絞り出す。しかしヴォーガンは再び「捕らえよ」と念を押す様に言った。
「父上には今すぐにでも歌って頂きたい所なのだ。無理はさせられぬと言うから大人しく待っているというものを……この期に及んでさらに時間が掛かるなど……笑えぬわ。この城で私の邪魔をしようなどと考える愚か者がいるとするならば、それはあの女以外には思い付かぬ。セムリナを捕らえれば通じておる薬師も引きずり出せよう。仮にセムリナがシロであるならば、解放してやれば良いだけの話……」
「然らば……クロであったなら……」
ゼンロは恐る恐る尋ねた。確かにヴォーガンの話す通り、セムリナは限りなく疑わしい。そしてこの王太子は、容易に最悪の決断を下せる非情さを持っている。父殺しの他に妹をも殺すなどさすがに聞こえが悪過ぎる。しかしヴォーガンの返答は、己の危惧する所が一先ずは杞憂であったと、ゼンロがそう安堵するに充分な内容だった。
「……牢にでも放り込んでおけ。己の犯した罪と向き合う時間は必要だ。別に首を刎ねようなどどは考えておらぬ…………今はな」
今は命を取るつもりはない。王女殿下にはまだ一定の利用価値があると、王太子はそう考えている様だ。それで良い。一先ずはそれで良い。避けられぬ不幸であるならば、せめて出来る限り後回しになるのが望ましい。と、そこでようやくゼンロは、ヴォーガンの机に広げられている紙がこの地方の地図である事に気が付いた。
「地図……でございますか」
「うむ。リアンセ殿からな、二千のオークを提供出来るとの申し出があった」
「二千のオーク!?」
「実戦での運用実験を行いたいとの話だ。だが彼女らはこの辺りの情勢に疎い。経過と結果さえ教えてもらえるのならば好きに動かして良いとの事だ。故にどこにけしかけるのが一番面白いか、思案しておった」
(なるほど……機嫌の宜しい理由はそれか……)
楽しそうな笑みを浮かべるヴォーガン。王太子が比較的穏やかである理由が分かりゼンロは納得した。あの異国の女が何者であるのか未だはっきりとは掴めてはいないが、王太子の鎮静剤としての役割を果たすのであれば今暫くは放っておいても良いかも知れない。ゼンロがそんな事を考えていると、ヴォーガンは「フフッ」と小さく笑い「やはりここが一番面白かろう」と地図上に指を置く。
「それは……!?」
ヴォーガンが指した場所を見てゼンロは思わず口を挟みそうになった。確かに面白いだろう、しかし大いに問題がある。が、ゼンロは口を閉じた。要らぬ勘気に触れるのを嫌ったからだ。
「それは面白うございますな……」
同意の言葉を述べるゼンロ。「然らば殿下、騎士団を動かすご許可を……」と続ける。ヴォーガンは地図を見ながら「好きにせよ」と答えた。
□□□
そして夜。ゼンロの指示でヴォーガン麾下の雪風騎士団はセムリナの寝所がある一画に乗り込もうとした。それを察知したセムリナ麾下の白壁騎士団は迎え撃つ。共に白い鎧に身を包む騎士団同士の戦闘はこうして始まったのだ。
「まだ抜けぬか……」
廊下の後方、雪風騎士団を率いる団長ゾヴァリは微妙な表情で部下達の戦闘を見ていた。
ゾヴァリ自身は白壁騎士団に思う所は何もなかった。例え白壁がセムリナ殿下の単なる私設組織であったとしても、国を、そして貴人たる王族を守る為には騎士団などいくつあっても良い物だと、そう考えているからだ。ゾヴァリにしてみれば白壁は言わば兄弟の様な存在なのである。だが部下達は必ずしもそうは思っていない様だ。それだけ雪風騎士団の名に誇りを持っているのだろう。
「ベリックオは何故出てこない……」
ゾヴァリはぼそりと呟いた。白壁騎士団団長であるベリックオの姿が見えない事を不思議に思ったのだ。この兄弟喧嘩を収める為には自分とベリックオが話をするのが一番手っ取り早い。ベリックオを説得し、一先ずはセムリナ殿下に出頭してもらう。その後身の潔白を証明してもらえさえすれば、それで全てが終わるのだ。そんな簡単な事を理解出来ない程、ベリックオもセムリナ殿下も愚かではない。
(それとも出てこられない……理由があるか……)
考えたくはないが、ヴォーガン殿下の指摘通りセムリナ殿下の心にやましい所があるのならば……それがベリックオが出てこない理由だとしたら……それなら話は変わってくる。命令通りセムリナ殿下を捕えねばならない。例え何人兄弟を斬ろうともだ。
「……斬り捨てて構わん!! 押し込めぃ!!」
ゾヴァリは部下達に指示を出す。いずれにしてもこれ以上時間は掛けられない。必要ならば、ベリックオをも斬らねばならない。ゾヴァリがそう決意した裏で、セムリナの手の者達は慌ただしく動いていた。
騎士の一人が剣を振るう。
「退かぬわ!!」
相手の騎士が分厚い大盾でその剣を受ける。ガチンと剣と盾とがぶつかり合いチッと小さな火花が飛んだ。
夜、イオンザ王国ベオ・イオンザ城の一画。決して広いとは言えないその廊下に大勢の騎士達がひしめき合う。片やそこを通ろうとする者達。片やそこを通さんとする者達。軽い揉み合いが本格的な戦闘になるまで、さして時間は掛からなかった。
「いつまでも騎士団の名を騙りおって……処刑台に乗る前に貴様らの首、叩き落としてくれる!!」
剣を振るった白い鎧の騎士がそう怒鳴る。
「名を騙るだと……我らを愚弄するか!!」
大盾を構える白い鎧の騎士がそう返す。騒動の切っ掛けはその日の夕刻だった。
□□□
「失礼致します、殿下。二、三ご報告がございます」
イオンザ王国王太子ヴォーガンの執務室を訪れた宰相ゼンロは、恭しく礼をするとそう述べた。執務机に向かっているヴォーガンは、何やら机の上に広げた紙を見たまま無言でちょいちょいと手招きする。「は……」と答えたゼンロはおずおずとヴォーガンの前まで進む。
「先ず一つ。ナルフより報告があり、仕掛けに些か手間取っている故今暫くご猶予を頂きたい、と……」
ヴォーガンはチラリとゼンロに目をやると眉をひそめて「……ナルフ?」と聞き返す。「お忘れでございますか? 亡命を求めているタグべの軍人です、先日謁見を……」とゼンロが説明すると、ヴォーガンは「ああ……その様な名であったな。期待しておらぬ故名まで覚えておらん」と興味を失った様子で再び机上の紙に視線を戻す。
「望みは薄うございますか?」
「成功するとは思えん」
「然らば、失敗したら何と致しますか?」
ゼンロの問いにヴォーガンは少しの間を置き「別に何も」と答える。
「この国にいたいと言うのならば置いておけば良い。敵国の内情を知っておる、それだけで利用価値はあろう。だが……」
ヴォーガンはそのナルフとか言う軍人と謁見した際の事を思い出した。あの酷く怯えた様子では成功しようがしまいがこの国には残らないのではないか。だが、と何かを言い掛けたヴォーガンの言葉を待っていたゼンロは「殿下?」と呼び掛ける。ヴォーガンは軽く笑いながら「……いや、良い」と答えた。
(何だ……今日はやけに……)
そんなヴォーガンの様子にゼンロは違和感を抱いた。普段の王太子ならば辛辣な言葉の一つでも吐いて話を締め括るのだが……などとゼンロが考えていると「次は?」とヴォーガンに話の続きを促される。ゼンロは慌てて「は!」と返事をし報告を続ける。
「先日我が手の者が南の神との接触に成功致しました」
ゼンロの報告を聞いたヴォーガンは顔を上げると「ほう……実在しておったか」と、明らかにナルフの話よりも興味を持った様子を見せた。
「は。接触後すぐに交渉となりまして……金は気にするなとの殿下のお言葉でしたので、勝手ながら手前共の独断で交渉を……」
少しばかり言いにくそうに話すゼンロ。気まぐれなヴォーガンの事だ、そんな事を言った記憶はないなどと、過去の発言を翻す事など珍しくはない。しかしヴォーガンは「構わん。向こうは引き受けたのか?」と、言った事を覚えていたのか、はたまた記憶にはないが些事であると捉えたのか、とにかくゼンロを叱責する事なく交渉結果を知りたがった。
「は。依頼は受理されました。すぐに行動を開始するとの事……」
「そうか。傭兵共に軍人、そして影の者……フ、奴の命の価値が斯様に上がるとはな、さすがにジェスタに同情する」
鼻で笑う様にそう話すとヴォーガンは再び手元の紙を見る。
「で、終わりか?」
「は。最後にもう一つ……」
ゼンロはクッと表情を引き締める。一番伝えにくい話をしなければならない。怒りのあまり当たり散らされてもおかしくはないくらい、今のヴォーガンにとっては最重要の事柄だ。
「実は先程、薬師から報告がありました。ここ数日、陛下のお顔にその……赤みが差してきていると……」
案の定ヴォーガンの表情が変わった。ジロリとゼンロを睨みながら「……何だと?」と聞き返す。ザラリとした不快な視線、いつもの目だ。
「よもや……快方に向かっているとでも言うのか?」
「いえ、薬師が言うには薬の方に問題が……」
「薬に問題?……効きが弱まっていると?」
「若しくは……服用量が減っているのではないか、と……」
険しい表情のままヴォーガンは視線を横に外す。
「……薬を飲ませているのは薬師共であろう? それで服用量が減っているという事はつまり……」
「殿下に叛意を抱いている者が……早急に個人を特定致します。裏切り者を……」
「まどろっこしい!」
そう怒鳴りながらヴォーガンはドンと右の拳を机に叩き付ける。だが直後、ふぅと息を吐くと握っていた拳を開く。そしてゆっくりと腕を組むと静かに驚くべき指示を出した。
「セムリナを捕らえよ」
「……!?」
驚いたゼンロは一瞬言葉に詰まった。「いえ……しかし……」などと戸惑いながらも、どうにか「それはその……些か早計では……」と言葉を絞り出す。しかしヴォーガンは再び「捕らえよ」と念を押す様に言った。
「父上には今すぐにでも歌って頂きたい所なのだ。無理はさせられぬと言うから大人しく待っているというものを……この期に及んでさらに時間が掛かるなど……笑えぬわ。この城で私の邪魔をしようなどと考える愚か者がいるとするならば、それはあの女以外には思い付かぬ。セムリナを捕らえれば通じておる薬師も引きずり出せよう。仮にセムリナがシロであるならば、解放してやれば良いだけの話……」
「然らば……クロであったなら……」
ゼンロは恐る恐る尋ねた。確かにヴォーガンの話す通り、セムリナは限りなく疑わしい。そしてこの王太子は、容易に最悪の決断を下せる非情さを持っている。父殺しの他に妹をも殺すなどさすがに聞こえが悪過ぎる。しかしヴォーガンの返答は、己の危惧する所が一先ずは杞憂であったと、ゼンロがそう安堵するに充分な内容だった。
「……牢にでも放り込んでおけ。己の犯した罪と向き合う時間は必要だ。別に首を刎ねようなどどは考えておらぬ…………今はな」
今は命を取るつもりはない。王女殿下にはまだ一定の利用価値があると、王太子はそう考えている様だ。それで良い。一先ずはそれで良い。避けられぬ不幸であるならば、せめて出来る限り後回しになるのが望ましい。と、そこでようやくゼンロは、ヴォーガンの机に広げられている紙がこの地方の地図である事に気が付いた。
「地図……でございますか」
「うむ。リアンセ殿からな、二千のオークを提供出来るとの申し出があった」
「二千のオーク!?」
「実戦での運用実験を行いたいとの話だ。だが彼女らはこの辺りの情勢に疎い。経過と結果さえ教えてもらえるのならば好きに動かして良いとの事だ。故にどこにけしかけるのが一番面白いか、思案しておった」
(なるほど……機嫌の宜しい理由はそれか……)
楽しそうな笑みを浮かべるヴォーガン。王太子が比較的穏やかである理由が分かりゼンロは納得した。あの異国の女が何者であるのか未だはっきりとは掴めてはいないが、王太子の鎮静剤としての役割を果たすのであれば今暫くは放っておいても良いかも知れない。ゼンロがそんな事を考えていると、ヴォーガンは「フフッ」と小さく笑い「やはりここが一番面白かろう」と地図上に指を置く。
「それは……!?」
ヴォーガンが指した場所を見てゼンロは思わず口を挟みそうになった。確かに面白いだろう、しかし大いに問題がある。が、ゼンロは口を閉じた。要らぬ勘気に触れるのを嫌ったからだ。
「それは面白うございますな……」
同意の言葉を述べるゼンロ。「然らば殿下、騎士団を動かすご許可を……」と続ける。ヴォーガンは地図を見ながら「好きにせよ」と答えた。
□□□
そして夜。ゼンロの指示でヴォーガン麾下の雪風騎士団はセムリナの寝所がある一画に乗り込もうとした。それを察知したセムリナ麾下の白壁騎士団は迎え撃つ。共に白い鎧に身を包む騎士団同士の戦闘はこうして始まったのだ。
「まだ抜けぬか……」
廊下の後方、雪風騎士団を率いる団長ゾヴァリは微妙な表情で部下達の戦闘を見ていた。
ゾヴァリ自身は白壁騎士団に思う所は何もなかった。例え白壁がセムリナ殿下の単なる私設組織であったとしても、国を、そして貴人たる王族を守る為には騎士団などいくつあっても良い物だと、そう考えているからだ。ゾヴァリにしてみれば白壁は言わば兄弟の様な存在なのである。だが部下達は必ずしもそうは思っていない様だ。それだけ雪風騎士団の名に誇りを持っているのだろう。
「ベリックオは何故出てこない……」
ゾヴァリはぼそりと呟いた。白壁騎士団団長であるベリックオの姿が見えない事を不思議に思ったのだ。この兄弟喧嘩を収める為には自分とベリックオが話をするのが一番手っ取り早い。ベリックオを説得し、一先ずはセムリナ殿下に出頭してもらう。その後身の潔白を証明してもらえさえすれば、それで全てが終わるのだ。そんな簡単な事を理解出来ない程、ベリックオもセムリナ殿下も愚かではない。
(それとも出てこられない……理由があるか……)
考えたくはないが、ヴォーガン殿下の指摘通りセムリナ殿下の心にやましい所があるのならば……それがベリックオが出てこない理由だとしたら……それなら話は変わってくる。命令通りセムリナ殿下を捕えねばならない。例え何人兄弟を斬ろうともだ。
「……斬り捨てて構わん!! 押し込めぃ!!」
ゾヴァリは部下達に指示を出す。いずれにしてもこれ以上時間は掛けられない。必要ならば、ベリックオをも斬らねばならない。ゾヴァリがそう決意した裏で、セムリナの手の者達は慌ただしく動いていた。
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