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4章 ドワーフの兵器編 第1部 欺瞞の魔女
234. 斯くして魔女は邪悪に笑う 19
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鼓動が速い。そして大きい。このままでは心臓が破裂してしまうのではないかと、そんな不安を覚える程に。しかし心臓がこれだけ激しく動いているにも拘らず身体は一向に疲れを見せないのだ。余計に不安を助長する。同時にずっと目の前がチカチカとしており、時折視界が歪む。少しでも気を緩めようものなら、すぅ……と意識が途切れてしまいそうになる。自分は今、一体何をやっているのか。そんな疑問が頭の中に過り、瞬間ハッとして現実に戻る。
先程からディルの脳内ではそんな事が繰り返されていた。きっと意識を失ったその先には、症状の一番深い所が広がっているのだろう。敵と味方が判別出来なくなる……いや、全てが敵に見えてしまう、そこはそんな場所だ。一度そこに落ちたら最後、戻ってくるのは至難の業だ。悪魔の薬に身体を絡め取られ、容易に這い上がる事など出来なくなってしまう。そう、すぐ横で仲間に斬り掛かっている部下も、その隣でこちらを見ながらこいつは敵か、それとも味方なのかと、迷いながら切っ先を震わせている部下も、その深い所に落ちてしまっているのだ。
「死ねぇぇぇ!!」
左。剣を振り上げ向かってくる敵兵の姿。ディルは右手に持った剣を寝せると、地面を蹴り付けながら突きを放つ。自分でも驚く程速く、そして力強く、握った剣は敵兵に向かって滑るように真っ直ぐ飛んでゆく。そしてその剣が胴辺りに深々と突き刺ささり苦悶の表情を浮かべる敵兵の顔を確認し、ディルは密かに安堵のため息を吐く。あぁ良かった。こいつは間違いなく敵だった、と。
(あいつらは……こんな恐怖を味わっていたのか……)
ディルは城の地下留置場に移送された部下達の事を思う。レゾナブルの中毒症状が進行し重度であると判断された者達だ。敵が自分を殺しに来るのだと、絶えず幻覚や幻聴に襲われ錯乱。もはや何を信じて良いのか分からず、怯え、焦り、猜疑心の塊と化す。それがどんなに恐ろしい事か、ディルは今まさにその恐怖を体験している。
思えば自分は運が良い方だった。レゾナブルの症状が軽かったのだ。それでも時折、軽いなりにも症状は襲って来た。部下達と談笑している最中、ふとその部下を認識出来なくなるのだ。あれ? こいつは誰だ? などと、今の今まで話をしていた相手が誰だが分からなくなる。そんな時は決まって用を足しに行く振りをして一人になった。そして症状が治まるのを待ったのだ。自分は隊をまとめる立場の人間、部下に弱い所は見せられない。そんな一心だった。
「ぬぅぅ……あああぁぁぁ!!」
ディルは度々途切れそうになる意識を必死に繋ぎ止めながら、次々と湧き出てくる敵兵を屠り続ける。身体が軽い。いくら動いても疲労感を感じない。剣も軽い。まるで棒切れでも振り回しているかの様だ。全ての攻撃が問答無用の一撃必殺。振るう剣は実に易々と敵兵の身体を貫き、引き裂き、その命を奪う。過剰に摂取したレゾナブルの効果は身震いする程強力なものだった。
(だがそろそろ……)
そう、そろそろだ。感覚で分かる、もうそろそろ飲み込まれる。
殺しても殺しても、敵兵は次々と目の前に現れる。どう考えても数が多過ぎるのだ。敵軍は戦力を追加で投入したのだろう。いくらレゾナブルの効果が絶大だとはいえ、さすがにこれ以上は捌き切れない。ディルは戦いながらチラチラと周りの様子を窺う。まだ辛うじて理性は残っているのかしっかりと敵を見極めながら戦っている者、すっかりと我を忘れ敵味方お構いなく襲い掛かっている者。部下達の様子は様々だが総じて言えるのは、もう限界だという事だ。
「ぬぅん!」
ディルは横一文字に剣を薙ぎ払う。ガチィンと激しい音と共に剣は敵兵を鎧ごと斬り裂いた。直後、ディルはすぅぅ……と大きく息を吸い込む。
「飲まれるなあぁぁぁぁぁ!!」
そして戦場中に響き渡る程の大声で叫んだ。敵に飲み込まれるな。普通に解釈すればそういう意味と取れるだろう。事実、その声を聞いたセンドベル軍の攻撃部隊長は「ハッ、無理だ」と鼻で笑い吐き捨てた。だが真意は違う。
レゾナブルに飲み込まれるな、正気を保て。
もう少し、後少しだけで良い、薬に負けず人でいろ。最期は人として死ぬのだと、それはそういう意味だった。そしてその叫びは全ての幕を引く役を請け負った者の耳にも届いていた。
◇◇◇
「ディル隊長の声……ですね」
「そのようだ。しかしあれだけの戦力差を物ともしないとは……」
「はい、本当に……でも決して薬の効果だけではありません。純粋に強いんです、特務隊が。戦い方を見ていれば分かります」
「ああ、そうだな。兵舎に隔離されて以降、ろくな訓練など出来なかったはずだが……それでもこれだけやれる彼らはやはり優秀だ。元々の練度が高い彼らが服用したからこその結果だな。しかしそろそろ限界だろう。敵は半分以上の戦力を投入した。さすがに数の差があり過ぎる……」
戦場を見下ろす崖の上。レイシィとベニバスは身を低くしながら特務隊の戦いを見ていた。当初は敵部隊を圧倒していた特務隊だったが、敵の追加戦力投入に伴いその勢いは削がれた。いつ押し潰されてもおかしくはない。ベニバスの目にはそんな状況に見えた。
「レイシィ、頃合いだ。もう……彼らを楽に……」
これ以上は見るに忍びない。ベニバスは何とも苦しそうな表情を浮かべる。レイシィは静かに「……はい」と答えると、思い出したかの様に脇に置いたバッグに手を入れる。そしてゴソッ、と何やら赤い布を取り出した。「それは?」と問い掛けるベニバス。レイシィは不思議そうな顔をしているベニバスを見てニヤリと笑う。そしてバサッとその赤い布を広げ「よっ」と声を上げながら肩に羽織った。
「へへ~、どうですか? 良い色でしょう?」
レイシィが羽織ったのは印象的な深い赤、ボルドーのマントだった。「この時の為に王都で買っといたんですよ」と言いながら胸元辺りの大きなボタンを留めるレイシィ。きょとんとした様子のベニバスは少しの間の後「……何故マント? 何故その色? いや、何故今だ?」と呆れながら問う。レイシィは「おやおや主任、疑問がいっぱいですねぇ~」とニマニマ笑う。
「何故マントかと問われるのならば、私はこう答えます。ローブが嫌いだからです! だってこう、如何にも魔導師ですって感じじゃないですか。フードで首後ろゴワゴワするのもなんかもう……そしてこの色とタイミングについてはズバリ、目立つからですよ」
「いや、目立つからって……」
「良いですか主任。私は自身の発案したグレートな新型魔法の実験を中断されて、そらもうイライラマックスな訳ですよ。そしてそのマーベラスな魔法を試すべく敵味方問わず爆殺するんです。自分の魔法を世に示す為にそんな暴挙に出るくらい自己顕示欲の強い魔導師なんですから、だったらこれくらい派手な格好だってするでしょう? そして全てを吹き飛ばした後には高笑いするんです」
「そんなキャラ付けまでする必要が?」
「いやいや、こういうディテールが大事なんですよ。そういうのが信憑性に繋がるんです」
どこか得意気に話すレイシィの姿に、ベニバスは思わず「フフ……」と笑う。
「全く……最後の最後まで君はいつも通りだな」
「良いんですよそれで。辛気臭い顔で見送るなんて、そんなの特務隊の皆さんも望んじゃいないでしょう」
「そうかもな……さて、じゃあ先に戻るよ」
「あれ、最後まで見届けるんじゃ……?」
「必要ないさ、失敗なんてしないだろう? 天才的な悪の魔導師がこの晴れ舞台で……万に一つもミスなんてあり得ない」
「……ま、そうですね」
「そういう事だ。ガントで待っている」
「ガントで会う頃には、私はゴリゴリの犯罪者ですね」
「何を……」
そう呟くとベニバスは立ち上がり崖を下りようと歩き出す。数歩進んだ所で背後から「……ありがとうございました」とレイシィの静かな声が聞こえた。先程までとは明らかにトーンの違う声。ベニバスは一瞬立ち止まりそうになったが、振り切る様にその足を前に出す。
今回のこの一件、納得こそしてはいない。だがそれでも受け入れようと心の整理をつけた。が、レイシィと特務隊の事を考えると、やはり一抹の寂しさを感じずにはいられない。きっともやもやとしたものが残り続けるのだろう。ベニバスはレイシィの声に気付かなかった振りをしてそのまま歩き続ける。何と答えて良いか分からなかったからだ。
◇◇◇
丁度崖を中程まで下りたくらいだろうか。終わりを告げる鐘の音が鳴った。ボゥン……と腹に響くような低く重い爆発音。ザザ……と木々が揺れ、空気がビリビリと震える感じがした。ベニバスは立ち止まると振り返る。その場所から戦場は見えないが、ベニバスには戦場の様子が手に取る様に想像出来た。と、
「…………ハァッ……ハッ……ハッ、ハハハ…………」
風に乗り、微かに笑い声が聞こえてくる。それは如何にも憎らしく、悪そうな高笑い。夕日に映える深い赤のマントを羽織った悪の魔導師。自らの魔法を誇示した彼女の邪悪な笑い声だ。
(フフ……本当に笑ったのか……)
少しだけ笑みを浮かべたベニバス。しかしすぐにその表情は険しくなる。
(この先ダグべは……どうなるのか……)
これで全てが終わる。ミーンの産み出した悪魔の薬。その治験に参加した不運の部隊。国は体裁を保つ為、全てをなかった事にする苦渋の決断を下す。当然だ。国を、王家を守る為には当然の決断だ。しかしそれにより失われる物の何と大きな事か。世の常識を覆す、そんな可能性を秘めた若き魔導師。国の軍事面を陰で支えていた優秀は実験部隊。余りに大きなその代償が、果たしてダグべの未来にどの様な影響を及ぼすのか。
(………………)
暫し立ち止まったベニバスだったが、再びゆっくりと歩き出した。
先程からディルの脳内ではそんな事が繰り返されていた。きっと意識を失ったその先には、症状の一番深い所が広がっているのだろう。敵と味方が判別出来なくなる……いや、全てが敵に見えてしまう、そこはそんな場所だ。一度そこに落ちたら最後、戻ってくるのは至難の業だ。悪魔の薬に身体を絡め取られ、容易に這い上がる事など出来なくなってしまう。そう、すぐ横で仲間に斬り掛かっている部下も、その隣でこちらを見ながらこいつは敵か、それとも味方なのかと、迷いながら切っ先を震わせている部下も、その深い所に落ちてしまっているのだ。
「死ねぇぇぇ!!」
左。剣を振り上げ向かってくる敵兵の姿。ディルは右手に持った剣を寝せると、地面を蹴り付けながら突きを放つ。自分でも驚く程速く、そして力強く、握った剣は敵兵に向かって滑るように真っ直ぐ飛んでゆく。そしてその剣が胴辺りに深々と突き刺ささり苦悶の表情を浮かべる敵兵の顔を確認し、ディルは密かに安堵のため息を吐く。あぁ良かった。こいつは間違いなく敵だった、と。
(あいつらは……こんな恐怖を味わっていたのか……)
ディルは城の地下留置場に移送された部下達の事を思う。レゾナブルの中毒症状が進行し重度であると判断された者達だ。敵が自分を殺しに来るのだと、絶えず幻覚や幻聴に襲われ錯乱。もはや何を信じて良いのか分からず、怯え、焦り、猜疑心の塊と化す。それがどんなに恐ろしい事か、ディルは今まさにその恐怖を体験している。
思えば自分は運が良い方だった。レゾナブルの症状が軽かったのだ。それでも時折、軽いなりにも症状は襲って来た。部下達と談笑している最中、ふとその部下を認識出来なくなるのだ。あれ? こいつは誰だ? などと、今の今まで話をしていた相手が誰だが分からなくなる。そんな時は決まって用を足しに行く振りをして一人になった。そして症状が治まるのを待ったのだ。自分は隊をまとめる立場の人間、部下に弱い所は見せられない。そんな一心だった。
「ぬぅぅ……あああぁぁぁ!!」
ディルは度々途切れそうになる意識を必死に繋ぎ止めながら、次々と湧き出てくる敵兵を屠り続ける。身体が軽い。いくら動いても疲労感を感じない。剣も軽い。まるで棒切れでも振り回しているかの様だ。全ての攻撃が問答無用の一撃必殺。振るう剣は実に易々と敵兵の身体を貫き、引き裂き、その命を奪う。過剰に摂取したレゾナブルの効果は身震いする程強力なものだった。
(だがそろそろ……)
そう、そろそろだ。感覚で分かる、もうそろそろ飲み込まれる。
殺しても殺しても、敵兵は次々と目の前に現れる。どう考えても数が多過ぎるのだ。敵軍は戦力を追加で投入したのだろう。いくらレゾナブルの効果が絶大だとはいえ、さすがにこれ以上は捌き切れない。ディルは戦いながらチラチラと周りの様子を窺う。まだ辛うじて理性は残っているのかしっかりと敵を見極めながら戦っている者、すっかりと我を忘れ敵味方お構いなく襲い掛かっている者。部下達の様子は様々だが総じて言えるのは、もう限界だという事だ。
「ぬぅん!」
ディルは横一文字に剣を薙ぎ払う。ガチィンと激しい音と共に剣は敵兵を鎧ごと斬り裂いた。直後、ディルはすぅぅ……と大きく息を吸い込む。
「飲まれるなあぁぁぁぁぁ!!」
そして戦場中に響き渡る程の大声で叫んだ。敵に飲み込まれるな。普通に解釈すればそういう意味と取れるだろう。事実、その声を聞いたセンドベル軍の攻撃部隊長は「ハッ、無理だ」と鼻で笑い吐き捨てた。だが真意は違う。
レゾナブルに飲み込まれるな、正気を保て。
もう少し、後少しだけで良い、薬に負けず人でいろ。最期は人として死ぬのだと、それはそういう意味だった。そしてその叫びは全ての幕を引く役を請け負った者の耳にも届いていた。
◇◇◇
「ディル隊長の声……ですね」
「そのようだ。しかしあれだけの戦力差を物ともしないとは……」
「はい、本当に……でも決して薬の効果だけではありません。純粋に強いんです、特務隊が。戦い方を見ていれば分かります」
「ああ、そうだな。兵舎に隔離されて以降、ろくな訓練など出来なかったはずだが……それでもこれだけやれる彼らはやはり優秀だ。元々の練度が高い彼らが服用したからこその結果だな。しかしそろそろ限界だろう。敵は半分以上の戦力を投入した。さすがに数の差があり過ぎる……」
戦場を見下ろす崖の上。レイシィとベニバスは身を低くしながら特務隊の戦いを見ていた。当初は敵部隊を圧倒していた特務隊だったが、敵の追加戦力投入に伴いその勢いは削がれた。いつ押し潰されてもおかしくはない。ベニバスの目にはそんな状況に見えた。
「レイシィ、頃合いだ。もう……彼らを楽に……」
これ以上は見るに忍びない。ベニバスは何とも苦しそうな表情を浮かべる。レイシィは静かに「……はい」と答えると、思い出したかの様に脇に置いたバッグに手を入れる。そしてゴソッ、と何やら赤い布を取り出した。「それは?」と問い掛けるベニバス。レイシィは不思議そうな顔をしているベニバスを見てニヤリと笑う。そしてバサッとその赤い布を広げ「よっ」と声を上げながら肩に羽織った。
「へへ~、どうですか? 良い色でしょう?」
レイシィが羽織ったのは印象的な深い赤、ボルドーのマントだった。「この時の為に王都で買っといたんですよ」と言いながら胸元辺りの大きなボタンを留めるレイシィ。きょとんとした様子のベニバスは少しの間の後「……何故マント? 何故その色? いや、何故今だ?」と呆れながら問う。レイシィは「おやおや主任、疑問がいっぱいですねぇ~」とニマニマ笑う。
「何故マントかと問われるのならば、私はこう答えます。ローブが嫌いだからです! だってこう、如何にも魔導師ですって感じじゃないですか。フードで首後ろゴワゴワするのもなんかもう……そしてこの色とタイミングについてはズバリ、目立つからですよ」
「いや、目立つからって……」
「良いですか主任。私は自身の発案したグレートな新型魔法の実験を中断されて、そらもうイライラマックスな訳ですよ。そしてそのマーベラスな魔法を試すべく敵味方問わず爆殺するんです。自分の魔法を世に示す為にそんな暴挙に出るくらい自己顕示欲の強い魔導師なんですから、だったらこれくらい派手な格好だってするでしょう? そして全てを吹き飛ばした後には高笑いするんです」
「そんなキャラ付けまでする必要が?」
「いやいや、こういうディテールが大事なんですよ。そういうのが信憑性に繋がるんです」
どこか得意気に話すレイシィの姿に、ベニバスは思わず「フフ……」と笑う。
「全く……最後の最後まで君はいつも通りだな」
「良いんですよそれで。辛気臭い顔で見送るなんて、そんなの特務隊の皆さんも望んじゃいないでしょう」
「そうかもな……さて、じゃあ先に戻るよ」
「あれ、最後まで見届けるんじゃ……?」
「必要ないさ、失敗なんてしないだろう? 天才的な悪の魔導師がこの晴れ舞台で……万に一つもミスなんてあり得ない」
「……ま、そうですね」
「そういう事だ。ガントで待っている」
「ガントで会う頃には、私はゴリゴリの犯罪者ですね」
「何を……」
そう呟くとベニバスは立ち上がり崖を下りようと歩き出す。数歩進んだ所で背後から「……ありがとうございました」とレイシィの静かな声が聞こえた。先程までとは明らかにトーンの違う声。ベニバスは一瞬立ち止まりそうになったが、振り切る様にその足を前に出す。
今回のこの一件、納得こそしてはいない。だがそれでも受け入れようと心の整理をつけた。が、レイシィと特務隊の事を考えると、やはり一抹の寂しさを感じずにはいられない。きっともやもやとしたものが残り続けるのだろう。ベニバスはレイシィの声に気付かなかった振りをしてそのまま歩き続ける。何と答えて良いか分からなかったからだ。
◇◇◇
丁度崖を中程まで下りたくらいだろうか。終わりを告げる鐘の音が鳴った。ボゥン……と腹に響くような低く重い爆発音。ザザ……と木々が揺れ、空気がビリビリと震える感じがした。ベニバスは立ち止まると振り返る。その場所から戦場は見えないが、ベニバスには戦場の様子が手に取る様に想像出来た。と、
「…………ハァッ……ハッ……ハッ、ハハハ…………」
風に乗り、微かに笑い声が聞こえてくる。それは如何にも憎らしく、悪そうな高笑い。夕日に映える深い赤のマントを羽織った悪の魔導師。自らの魔法を誇示した彼女の邪悪な笑い声だ。
(フフ……本当に笑ったのか……)
少しだけ笑みを浮かべたベニバス。しかしすぐにその表情は険しくなる。
(この先ダグべは……どうなるのか……)
これで全てが終わる。ミーンの産み出した悪魔の薬。その治験に参加した不運の部隊。国は体裁を保つ為、全てをなかった事にする苦渋の決断を下す。当然だ。国を、王家を守る為には当然の決断だ。しかしそれにより失われる物の何と大きな事か。世の常識を覆す、そんな可能性を秘めた若き魔導師。国の軍事面を陰で支えていた優秀は実験部隊。余りに大きなその代償が、果たしてダグべの未来にどの様な影響を及ぼすのか。
(………………)
暫し立ち止まったベニバスだったが、再びゆっくりと歩き出した。
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