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4章 ドワーフの兵器編 第1部 欺瞞の魔女
222. 斯くして魔女は邪悪に笑う 7
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「結局……」
そう言いながらマベットは椅子の背にもたれ腕を組む。そして当時を思い出しその顔を歪めた。
「結局奴の言った通りだった……」
吐き捨てる様にそう話すマベットの様子からは様々な感情が窺えた。怒り、苛立ち、呆れ、諦め等々。しかしそのどれをも上回り強烈に伝わってくるのが屈辱の感情。ミーン・リジベイクという一人の男にいい様に遊ばれた、そんな屈辱の感情だった。
「研究室に実験室、奴の自室まで漁ったが資料と呼べる様な物は何一つ……材料らしき物すら出てこなかった。押収出来たのは完成品として保管されていた小瓶にして凡そ百本の薬のみ。小瓶一本で投与回数五回分、全部で五百回分のレゾナブルだ」
「材料もないとは……それはさすがに不可思議過ぎる……」
ジェスタがぽろりと漏らした疑問に、ベニバスは「魔法学的アプローチであれば……」と呟いた。
「魔法学……的?」
「はい、あの手の薬を作るには薬学的アプローチと魔法学的アプローチの二通りあるのです。薬学的というのは言葉通り薬学を用いた技法で、薬草などの材料を加工し薬を作成する事を言います。対して魔法学的とは魔道具などを作成するのと同じ様に、対象や素材に魔法の効果を付与する薬の作成技法です。この技法を用いれば極端な話、ただの水すら薬に変える事が出来るのです」
「水を薬にとは……まるで錬金術だな」
驚きの声を上げるジェスタ。「仰る通りに。まさに夢の様な技法です」とベニバスは同意する。が、すぐに「しかし……」と否定。それが夢という言葉の通り実現する見込みのない技法であるという理由を説明する。
「その魔法学的アプローチ、今日では過去にそういう理論あった様だと、そう認識されているという程度のものでして……はっきりと言えば現状その方法での創薬は不可能でしょう。まずは殿下が錬金術と比喩した水への魔法の付与。これはすでに失われた技法なのです。一千年程前に起きたといわれる大陸中を襲った大地震、大変動。激しい揺れや大きな津波により多くの国や都市が壊滅し、同時に当時絶頂を極めていた魔法文明は崩壊、錬金術とも言えるその技法も途絶えました。今では古い文献にその様な記述が僅かに残っているのみです」
「そうか……まぁそんなに上手い話はないという事だな。では素材や材料に魔法を付与する方法は?」
「残念ながらそれも……材料を加工する過程で魔法の効果は失われるでしょう。例えるなら……そうですね、粉々に砕けた魔法石は使えないのと同じ事かと。著しく形状が変化してしまえば魔法の付与式も壊れてしまいますので。そして仮にそれが可能だったとしても、今度は付与する魔法の問題があります。人の精神や肉体に作用する魔法は存在しないのです。しかし古代魔法であればその限りではないと考えます。大変動以前の優れた魔法の中にはその様な効果のものがあったとしても不思議ではありません。ですがそうすると、次は古代魔法を付与する事が可能かどうかという問題が――」
ベニバスの説明を聞いていて俺は思った。それ、両方ある。
人の肉体に作用する魔法は存在する。エス・エリテの修道女メチルに教わった暗殺術の一つである隠術。視認出来ない程の素早い動きを実現する為には身体強化魔法が必須だ。そして傭兵団ジョーカーで手に入れた真っ黒な短剣、魔喰い。使用者の魔力をごっそりと吸い取る代わりに、その剣身に硬化処理を施す魔法が付与された魔道具だ。そして付与されているその魔法というのが実は古代魔法だったりする。つまり肉体に作用する魔法と古代魔法が付与された魔道具、両方存在するだけではなく両方身に付けているのだ。話を聞く限り隠術も魔喰いも希少なものだという事が良く分かる。その両方を手にしている俺は運が良いと言えるだろう。
……いや、単に運が良いだけで片付けてしまって良いのだろうか。隠術と魔喰いだけではなく、今までの事を思い返してみると何となくそんな疑問が浮かんでくる。得体の知れない大きな力に引き寄せられているかの様な、或いは何か運命的な大きな流れに乗ってしまっているかの様な……
今まで出会った人、遭遇した出来事、手にした物などを一つずつ目の前に並べてみると、そのどれもが貴重で、希少で、特異である事に疑いの余地はなく、まるでそれらの並んでいる先にあるこの世界の重要な部分、核心とも言える様な場所にゆっくりと導かれているのではないかと、そんな漠然とした不安さえ過って心がざわざわとする。
「――その様な理由により魔法学的アプローチでの創薬は現状不可能であると、そう言わざるを得ないのです。が……ただ……」
一通り説明を終えたベニバスだが何だか歯切れが悪い。するとリドー公は「あぁ、分かるぞ。否定し切れんわなぁ」とベニバスの態度に理解を示す。
「あやつなら、ミーンなら可能かも知れんと思う気持ちは良う分かる。あやつは紛れもない天才だ。あやつが成してきた功績を考えたらそう思う事に何ら違和はなかろうて。失われた技法の復元、その一つや二つくらい容易にやってそうだわなぁ」
(天才……)
良く使う言葉ではあるが、本当にそれに当てはまる人間など果たしてどれ程いるだろうか。ジェスタも俺と同じ疑問を持った様だ。「功績とは……ミーンは他にどんな研究を?」とジェスタはリドー公に問い掛けた。リドー公はソファーの肘掛けに右腕を置くと頬杖をつき身体を預ける。そして「そうさな、色々あるが……」と当時のミーンの研究を思い出す。
「まずは軍の標準装備を一新したのだ。軍服に武具、その他支給品をなぁ。より軽く、より頑丈に、コストも抑えた新しい装備を開発し生産体制まで整えた。特筆すべきは魔道具類か。魔法に対するオートシールドの装備などは従来品と比べて五割増しの性能でな、当時の我が軍は対魔法戦の防御力に於いて周辺国より抜きん出ておったのだ」
「城門の魔法の鍵化も彼の主導でしたね」
ベニバスがそう話すと、リドー公は左手でソファーの左の肘掛けをポンと叩き「おう! それな!」と声を上げる。
「城門に魔法の鍵ですか!?」
俺は驚いて思わず聞き返した。するとベニバスは「さすが魔導師ですね。分かりますか、この技術の凄さが」と答える。
この世界では物理的な鍵を目にする機会は少ない。扉や窓などの施錠に用いられるのは専ら魔法だ。
魔法の鍵。
扉やその枠に術式を施し魔力を送る事で施錠、解錠する。生活必需品である各種魔法石と同じ様に、この世界で最も身近な魔法の一つだ。しかし何事に於いても万能であるというものはそうそう存在しない、人であっても物であってもだ。魔法の鍵も同様。城門の様な巨大な物に魔法の鍵の効果は施せない。いや、厳密に言えば施せるのだが効率がすこぶる悪い。対象が大きくなればなる程より強力な術式が必要になる。術式が強力なものになると当然必要な魔力量も多くなり、多くの魔力を送り込む為には豊富な魔力を持つ魔導師がそれなりの時間を掛ける必要があるなど……それならば閂を掛けるなど物理的な施錠の方が早いし効率が良いだろう。と、そういう認識でいたのだが……
「城門などの巨大な物へ魔法の鍵を施すには色々問題がありますが、彼は術式を施し魔力を充填した魔法石を城門に幾つもはめ込むという方法でそれらの問題をクリアしたのです」
(なるほど……乾電池みたいに……)
ベニバスの説明は分かり易くすぐにその様子をイメージ出来た。城門自体に術式を施すのではなく、術式を施した魔法石をはめ込み効果を発動させる。事前に充分な数の魔法石さえ用意しておけば、後ははめ込むだけで誰でも施錠出来るという事だろう。まさに乾電池を入れ製品を駆動させる様にだ。
と、言うのは簡単。
それは俺が乾電池を知っているからで、そんな物を知らないこの世界の人間がゼロからその形を作り上げ、更には実用化にまでこぎ着けるのには相当な苦労があったのではないかと推測する。天才と一言で済ませてしまうには到底釣り合わない程の苦労。まぁ天才かどうかは分からないが、少なくともミーンという男は優秀だったという事に間違いはないのだろう。
「ありゃ未だに他国も真似出来とらん技術だ。事能力に関してだけ言えばあやつは真に優れた研究者であり技術者で……」
「犯罪者を持ち上げるのはよしましょう」
マベットは不満そうな顔でリドー公の言葉を遮った。
「優秀だったというのは認めます。数々の功績を残し国の発展に寄与した事も疑うつもりはありません。しかし奴の心根は歪みに歪んでいた。いや、歪んでしまったのかも知れない。天才などと持て囃され将軍をも丸め込めるくらいに軍内部での影響力が増した。結果、勘違いをし己の力に溺れたのだ……!」
ミーンを犯罪者と断罪したマベット。吐き捨てる様にそう話すと険しい表情のまま話を続ける。
「奴がどの様に薬を作っていたのか、材料は何だったのか、それは未だに分からん。何度か取り調べを行ったが奴はとうとう話さなかったならな。研究員の話だと奴は毎回薄く色付いた赤い液体を研究室に持ち込んで、それを元に薬を作らせていたとの事だ。恐らく材料をある程度加工したものだと思うがそれが何かは誰にも分からん。薬学的か魔法学的かは知らんが、今となってはそれを知る由もないからな」
話の途中、何度か奥歯をグッと噛み締めていたマベットの様子から、十年以上経った今でもこの件に関しての憤激の念が残っているのだろうという事が読み取れる。
「陛下、その後ミーンはどうなったのですか?」
ジェスタの問い掛けにマベットは軽く目を閉じ小さくため息を吐く。それはまるで内から沸き上がり溜まり続ける苦々しい感情を、ため息と共に外へ向け吐き出したかの様に見えた。
「取り調べを続けても奴は何も話さん。毎回奴の歪んだ思想を覗き見るだけの不快な時間を過ごすのみだった。そうこうしている間にも薬の副作用で苦しむ隊員が増えてゆく。一刻の猶予もないという状況に業を煮やし、奴から薬の秘密を聞き出す為にいよいよ強引に口を割らせようかと考え始めた矢先……奴は脱獄した」
そう言いながらマベットは椅子の背にもたれ腕を組む。そして当時を思い出しその顔を歪めた。
「結局奴の言った通りだった……」
吐き捨てる様にそう話すマベットの様子からは様々な感情が窺えた。怒り、苛立ち、呆れ、諦め等々。しかしそのどれをも上回り強烈に伝わってくるのが屈辱の感情。ミーン・リジベイクという一人の男にいい様に遊ばれた、そんな屈辱の感情だった。
「研究室に実験室、奴の自室まで漁ったが資料と呼べる様な物は何一つ……材料らしき物すら出てこなかった。押収出来たのは完成品として保管されていた小瓶にして凡そ百本の薬のみ。小瓶一本で投与回数五回分、全部で五百回分のレゾナブルだ」
「材料もないとは……それはさすがに不可思議過ぎる……」
ジェスタがぽろりと漏らした疑問に、ベニバスは「魔法学的アプローチであれば……」と呟いた。
「魔法学……的?」
「はい、あの手の薬を作るには薬学的アプローチと魔法学的アプローチの二通りあるのです。薬学的というのは言葉通り薬学を用いた技法で、薬草などの材料を加工し薬を作成する事を言います。対して魔法学的とは魔道具などを作成するのと同じ様に、対象や素材に魔法の効果を付与する薬の作成技法です。この技法を用いれば極端な話、ただの水すら薬に変える事が出来るのです」
「水を薬にとは……まるで錬金術だな」
驚きの声を上げるジェスタ。「仰る通りに。まさに夢の様な技法です」とベニバスは同意する。が、すぐに「しかし……」と否定。それが夢という言葉の通り実現する見込みのない技法であるという理由を説明する。
「その魔法学的アプローチ、今日では過去にそういう理論あった様だと、そう認識されているという程度のものでして……はっきりと言えば現状その方法での創薬は不可能でしょう。まずは殿下が錬金術と比喩した水への魔法の付与。これはすでに失われた技法なのです。一千年程前に起きたといわれる大陸中を襲った大地震、大変動。激しい揺れや大きな津波により多くの国や都市が壊滅し、同時に当時絶頂を極めていた魔法文明は崩壊、錬金術とも言えるその技法も途絶えました。今では古い文献にその様な記述が僅かに残っているのみです」
「そうか……まぁそんなに上手い話はないという事だな。では素材や材料に魔法を付与する方法は?」
「残念ながらそれも……材料を加工する過程で魔法の効果は失われるでしょう。例えるなら……そうですね、粉々に砕けた魔法石は使えないのと同じ事かと。著しく形状が変化してしまえば魔法の付与式も壊れてしまいますので。そして仮にそれが可能だったとしても、今度は付与する魔法の問題があります。人の精神や肉体に作用する魔法は存在しないのです。しかし古代魔法であればその限りではないと考えます。大変動以前の優れた魔法の中にはその様な効果のものがあったとしても不思議ではありません。ですがそうすると、次は古代魔法を付与する事が可能かどうかという問題が――」
ベニバスの説明を聞いていて俺は思った。それ、両方ある。
人の肉体に作用する魔法は存在する。エス・エリテの修道女メチルに教わった暗殺術の一つである隠術。視認出来ない程の素早い動きを実現する為には身体強化魔法が必須だ。そして傭兵団ジョーカーで手に入れた真っ黒な短剣、魔喰い。使用者の魔力をごっそりと吸い取る代わりに、その剣身に硬化処理を施す魔法が付与された魔道具だ。そして付与されているその魔法というのが実は古代魔法だったりする。つまり肉体に作用する魔法と古代魔法が付与された魔道具、両方存在するだけではなく両方身に付けているのだ。話を聞く限り隠術も魔喰いも希少なものだという事が良く分かる。その両方を手にしている俺は運が良いと言えるだろう。
……いや、単に運が良いだけで片付けてしまって良いのだろうか。隠術と魔喰いだけではなく、今までの事を思い返してみると何となくそんな疑問が浮かんでくる。得体の知れない大きな力に引き寄せられているかの様な、或いは何か運命的な大きな流れに乗ってしまっているかの様な……
今まで出会った人、遭遇した出来事、手にした物などを一つずつ目の前に並べてみると、そのどれもが貴重で、希少で、特異である事に疑いの余地はなく、まるでそれらの並んでいる先にあるこの世界の重要な部分、核心とも言える様な場所にゆっくりと導かれているのではないかと、そんな漠然とした不安さえ過って心がざわざわとする。
「――その様な理由により魔法学的アプローチでの創薬は現状不可能であると、そう言わざるを得ないのです。が……ただ……」
一通り説明を終えたベニバスだが何だか歯切れが悪い。するとリドー公は「あぁ、分かるぞ。否定し切れんわなぁ」とベニバスの態度に理解を示す。
「あやつなら、ミーンなら可能かも知れんと思う気持ちは良う分かる。あやつは紛れもない天才だ。あやつが成してきた功績を考えたらそう思う事に何ら違和はなかろうて。失われた技法の復元、その一つや二つくらい容易にやってそうだわなぁ」
(天才……)
良く使う言葉ではあるが、本当にそれに当てはまる人間など果たしてどれ程いるだろうか。ジェスタも俺と同じ疑問を持った様だ。「功績とは……ミーンは他にどんな研究を?」とジェスタはリドー公に問い掛けた。リドー公はソファーの肘掛けに右腕を置くと頬杖をつき身体を預ける。そして「そうさな、色々あるが……」と当時のミーンの研究を思い出す。
「まずは軍の標準装備を一新したのだ。軍服に武具、その他支給品をなぁ。より軽く、より頑丈に、コストも抑えた新しい装備を開発し生産体制まで整えた。特筆すべきは魔道具類か。魔法に対するオートシールドの装備などは従来品と比べて五割増しの性能でな、当時の我が軍は対魔法戦の防御力に於いて周辺国より抜きん出ておったのだ」
「城門の魔法の鍵化も彼の主導でしたね」
ベニバスがそう話すと、リドー公は左手でソファーの左の肘掛けをポンと叩き「おう! それな!」と声を上げる。
「城門に魔法の鍵ですか!?」
俺は驚いて思わず聞き返した。するとベニバスは「さすが魔導師ですね。分かりますか、この技術の凄さが」と答える。
この世界では物理的な鍵を目にする機会は少ない。扉や窓などの施錠に用いられるのは専ら魔法だ。
魔法の鍵。
扉やその枠に術式を施し魔力を送る事で施錠、解錠する。生活必需品である各種魔法石と同じ様に、この世界で最も身近な魔法の一つだ。しかし何事に於いても万能であるというものはそうそう存在しない、人であっても物であってもだ。魔法の鍵も同様。城門の様な巨大な物に魔法の鍵の効果は施せない。いや、厳密に言えば施せるのだが効率がすこぶる悪い。対象が大きくなればなる程より強力な術式が必要になる。術式が強力なものになると当然必要な魔力量も多くなり、多くの魔力を送り込む為には豊富な魔力を持つ魔導師がそれなりの時間を掛ける必要があるなど……それならば閂を掛けるなど物理的な施錠の方が早いし効率が良いだろう。と、そういう認識でいたのだが……
「城門などの巨大な物へ魔法の鍵を施すには色々問題がありますが、彼は術式を施し魔力を充填した魔法石を城門に幾つもはめ込むという方法でそれらの問題をクリアしたのです」
(なるほど……乾電池みたいに……)
ベニバスの説明は分かり易くすぐにその様子をイメージ出来た。城門自体に術式を施すのではなく、術式を施した魔法石をはめ込み効果を発動させる。事前に充分な数の魔法石さえ用意しておけば、後ははめ込むだけで誰でも施錠出来るという事だろう。まさに乾電池を入れ製品を駆動させる様にだ。
と、言うのは簡単。
それは俺が乾電池を知っているからで、そんな物を知らないこの世界の人間がゼロからその形を作り上げ、更には実用化にまでこぎ着けるのには相当な苦労があったのではないかと推測する。天才と一言で済ませてしまうには到底釣り合わない程の苦労。まぁ天才かどうかは分からないが、少なくともミーンという男は優秀だったという事に間違いはないのだろう。
「ありゃ未だに他国も真似出来とらん技術だ。事能力に関してだけ言えばあやつは真に優れた研究者であり技術者で……」
「犯罪者を持ち上げるのはよしましょう」
マベットは不満そうな顔でリドー公の言葉を遮った。
「優秀だったというのは認めます。数々の功績を残し国の発展に寄与した事も疑うつもりはありません。しかし奴の心根は歪みに歪んでいた。いや、歪んでしまったのかも知れない。天才などと持て囃され将軍をも丸め込めるくらいに軍内部での影響力が増した。結果、勘違いをし己の力に溺れたのだ……!」
ミーンを犯罪者と断罪したマベット。吐き捨てる様にそう話すと険しい表情のまま話を続ける。
「奴がどの様に薬を作っていたのか、材料は何だったのか、それは未だに分からん。何度か取り調べを行ったが奴はとうとう話さなかったならな。研究員の話だと奴は毎回薄く色付いた赤い液体を研究室に持ち込んで、それを元に薬を作らせていたとの事だ。恐らく材料をある程度加工したものだと思うがそれが何かは誰にも分からん。薬学的か魔法学的かは知らんが、今となってはそれを知る由もないからな」
話の途中、何度か奥歯をグッと噛み締めていたマベットの様子から、十年以上経った今でもこの件に関しての憤激の念が残っているのだろうという事が読み取れる。
「陛下、その後ミーンはどうなったのですか?」
ジェスタの問い掛けにマベットは軽く目を閉じ小さくため息を吐く。それはまるで内から沸き上がり溜まり続ける苦々しい感情を、ため息と共に外へ向け吐き出したかの様に見えた。
「取り調べを続けても奴は何も話さん。毎回奴の歪んだ思想を覗き見るだけの不快な時間を過ごすのみだった。そうこうしている間にも薬の副作用で苦しむ隊員が増えてゆく。一刻の猶予もないという状況に業を煮やし、奴から薬の秘密を聞き出す為にいよいよ強引に口を割らせようかと考え始めた矢先……奴は脱獄した」
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