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3章 裏切りのジョーカー編 第3部 傭兵の王
165. 貴族の悲願
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「メルク! 百を率いて周辺の街に触れ回ってこい! ジャラットで合流だ!」
「はっ!」
「ダレン! 三百預ける! 南のリバーツを押さえろ! あそこは中継地として使える!」
「はっ!」
どんよりとした曇り空。いつ降り出してもおかしくはない空模様だが、一向に雨が降る気配はない。いっそザザァーと降ってくれれば、雨音に紛れる事で却って安全に行軍出来るというものだ。
一路西を目指し突き進む三千の軍。その先頭で馬に跨がるのはジノン王国北部、ティモン領を治めるプラウル・フィンテック辺境伯だ。彼はその傍らに馬を並べる恰幅の良い白髪の老将に声を掛ける。
「父上! この分では日暮れにはジャラット攻めに入れそうですな!」
「うむ。ジャラットを制圧せば後は防衛網を構築するのみ。王都からの援軍も迎え入れられようぞ」
老将はどっしりと構えながらゆったりと馬を操る。手馴れたその様子からは、彼が歴戦の将である事が窺い知れる。リディック・フィンテック。ティモン領前当主であり、プラウルの父である。リディックは軽く後ろを振り返りながら呟いた。
「しかし……あれ程分厚かった国境の警備がこれ程までに薄くなっていようとは……ずいぶんと舐められたものだ」
◇◇◇
その日の深夜、プラウル率いる四千の軍がリザーブル国境を越えた。彼らは瞬く間に周辺に点在していた砦群を制圧する。
そしてその翌日の夜、プラウル軍は攻略目標の一つである国境近くの街トリバルに到着。国境を睨む城塞都市であるトリバルは、本来強固な防衛力を有しているはずだった。しかしいざ攻略を開始すると、何と僅か二時間という早さでトリバルは陥落する。トリバルのスピード攻略の理由は後述するとして、プラウル軍はその後明け方まで束の間の休息を取ると、一千の歩兵部隊を守備の為にトリバルに残し、残る三千で再び進軍を開始。
そしてトリバルを出発して二日。今遠征のもう一つの目標、この地方最大の商業都市ジャラットまであと僅かという距離まで来ていた。ジャラットにはこの地方を治める執政官がいる。即ちジャラットを押さえれば、この地方を制したと言っても過言ではない。
◇◇◇
「国境だけではありませぬ。追手もなく各所で迎え撃つ敵軍もまばら……やはりこの地方からごっそりと兵が抜かれている様子。我が事ながら恥ずかしい限りです、これ程までになっていながら全く気付かぬとは……」
奥歯を噛み締めながらプラウルは己を恥じた。そんなプラウルにリディックは軽く笑いながら声を掛ける。
「別にお主だけの落ち度ではない。運良くではあるがそれに気付き、こうして対応が出来ている。今後は締めて掛からねばならんがな、一先ずはあまり気にするな。しかし……トリバルのあの様子を考えると、未だこの地方には我らフィンテック家の統治を望む者が多く存在すると見える。ともすればジャラットも……まぁ過度の期待は出来ぬがな」
「彼らがそう望むのも無理からぬ事。敵地の住民として明確とも言える様な差別を受け続けてきた彼らです、リザーブルに対する忠義などありますまい」
プラウルらが侵攻しているここ、リザーブル王国東の辺境アイジス地方は、かつて西ライディアルと呼ばれていた地。かつて、とは四十年以上前。まだこの地方がフィンテック家が治めるティモン領の一部だった頃だ
◇◇◇
風が吹く度波打つ様に揺れるその様子は、さながら黄金色に輝く海の様だ。見渡す限り広がる広大な小麦畑、小首を傾げる様に右に左に揺れている小麦達の穂先には、鈴なりの金の粒がひしめいている。彼ら農民にしてみればまさに宝、なのだろう。
その年、西ライディアル地方は豊作に沸いていた。この地方で獲れる小麦は良質で、ティモン領内のみならずジノン国内にも広く流通している。多くの領民が畑作業に精を出していたまさにその時、突如リザーブル軍が越境、西ライディアル地方へ侵攻した。予期せぬリザーブル軍の動きにフィンテック家とジノン国王は大いに驚き、且つ大いに憤った。
実はその前年、両国はそれぞれの軍、並びに国境警備隊の過剰な国境への接近を禁止する旨の約定を交わしていた。切っ掛けはその更に前年のとある事件。偶発的な事故により両国の国境警備隊が衝突、交戦状態となり双方に犠牲者が出た、という事件に起因する。当時は今程両国の関係がこじれてはいなかった。故に両国は今後の為に、双方の責任においてこの約定を守り行こうと調印したばかりだったのだ。しかしリザーブルにはその気はなかった様だ。
騙し討ちとも言えるリザーブル軍の侵攻。西ライディアルの街や村はまるで成す術なく制圧された。その後この地はアイジスと変名されリザーブル王国の直轄地として運営される事が決まった。しかしそれがこの地の旧ティモン領民達を苦しめる事となる。
リザーブル国王に指名され派遣された執政官は手始めに、あらゆる難癖を付け旧ティモン領民の財産のことごとくを没収した。更に移民させた自国民達をあからさまに優遇し、旧ティモン領民を体の良い労働力として扱う様指示を出した。つまりは明確な差別、支配する者とされる者の図式を作り上げたのだ。何故そんな政策を行ったのか、そこにはリザーブル国王の野心が絡んでいた。彼は隣国のことごとくを制圧し支配下に収め、この地方に一大帝国を築き上げたいという大それた野心を持っていたのだ。全てを力でねじ伏せる。優秀で精強なるリザーブル国民こそが唯一それを実行出来るのだという、自尊心にまみれた的外れの歪んだ思想。その第一歩をここアイジスから始めようというのだ。当初は戸惑いを隠せなかった移民者達も、時間の経過と共に徐々にそれを受け入れ始める。奴らは敵国の民、気を遣ってやる必要などない、と。
◇◇◇
これこそがトリバルがスピード陥落した要因だった。夜半に突然の騒乱、街が攻撃を受けているとの情報が街中を駆け巡った。そして攻撃を仕掛けているのがフィンテック家の軍だと知ると、トリバルの旧ティモン領民達は歓喜の雄叫びを上げる。実に四十年もの長きに渡り虐げられてきた彼らは、半ば諦めながらもそれでも解放者が現れるのをただひたすらに待っていた。搾取される為だけに存在している自分達の事を解放してくれる、そんな存在を。絶対に表に出す事は出来ないリザーブル王国に対する激しい恨みや憎しみ。彼らは苦々しいそれらの感情を、屈辱にまみれた身の内に秘めたまま煌々と燃やし続けてきたのだ。そしてその業火は子や孫の代にまで引き継がれ、今尚消える事なく燃え盛っている。
そんな彼らの取るべき行動は一つしかない。反乱だ。街の至る所で旧ティモン領民達は次々と蜂起する。彼らは城門を襲撃し巨大な鉄門を開け放つと、プラウル達フィンテック軍を街の中へと引き入れた。同時にこの城塞都市の城主が住まうトリバル城を包囲。プラウルらが城へ辿り着くと城主は早々に降伏、速やかにトリバル城は開城したのだ。
「ユーノルゥ! そなたはどう考える! そなたはわしらより余程多くの戦場を、戦を知っておる。ジョーカーの所見を聞かせよ!」
リディックは斜め後ろを向き、彼らの後に馬を操るジョーカー諜報部コーディネーター、ユーノルに問い掛ける。ユーノルはゼルから今作戦の取次役としてティモン領に滞在する事を指示され、そのままこの遠征にも参加していた。リディックに問われたユーノルは静かに答える。
「はい、リディック様のお考え通りかと。恨みや辛み、か様な負の感情はそう簡単には消えぬもの。リザーブルの行ってきた圧政は糾弾すべき非道、それにより長く苦しんできた彼らティモン領民の事を思うと言葉になりませぬ。しかし何より重要なのは、フィンテック家の方々が代々この地にて善政を敷いてきたという事実。トリバルの住民達は選んだのです、リザーブルではなく皆様方を」
「ぬふふ、ぬははは、ぬぁっはっはぁ! 分かっておる、分かっておるではないか、ユーノルよ!」
ユーノルの返答に込み上げてくる笑いを抑えられないリディック。やれやれ、といった表情のプラウル。
「は、恐縮に。それにしてもリディック様のご判断の早さには大変驚きました。よもや私がゼルからの書簡をお届けに上がったその日の内に、王都へ向けて出発なさるとは思いませんでした。先ずは我々が持ち込んだ情報の精査を行うと思っておりました故……」
「うむ。これはリザーブルのアルマド侵攻の間隙を突く作戦、リザーブルが動き出す前に全てを万端整えねばならん。ならば陛下に戦の許諾を頂くという、一番手間と時間の掛かる仕事を先に潰しておくのが道理であろう。どう考えても王都迄の往復が一番時間が掛かるからな」
遠征の凡そ一ヶ月前。ティモン領の領都メビウシールを訪れたユーノルは昼過ぎにプラウルの屋敷を訪問、ゼルがしたためたプラウルとリディック宛の書簡を二人に手渡した。プラウルと共に書簡を確認し、その内容を把握したリディックはすぐさま王都行きを決断する。そして使用人らに急ぎ準備をさせ、その日の夕刻前には供を連れてメビウシールを発った。即決即断である。
「情報の裏付けや戦の準備などはわしが王都へ行っている間に行えば良い。西ライディアルの奪還はわしらフィンテック家の悲願だからな。父上……先々代当主、つまりプラウルのじい様も、息を引き取る寸前まで西ライディアルの事を気に掛けとった。敵の侵攻を許し、子にも等しき領地を奪われ、ついぞ奪い返す事叶わぬまま逝ってしまわれた。その無念、如何ばかりか……わしも二度程兵を挙げたが、力及ばず撤退を余儀なくされ……とにかく、時間を無駄にする事なく準備を進める必要があった。リザーブルの動きに合わせられず間に合いませんでした、などと……笑い話にもならん」
過去の屈辱を思い出したリディック。先程までのにこやかな表情が消えた。そんなリディックを思いやってか、プラウルはさりげなく話題を変える。
「南のローラル伯爵にお声を掛けられたのはさすがですな。北のティモン、南のレンドース、二方向から同時侵攻を受けては、さしものリザーブルも混乱するでしょう」
リディックは王都ブレザリーへ向かう途中、急遽その進路を南へ変えた。南にはレンドース領を治めるミグ・ローラル伯爵がいる。リディックはリスク軽減の為にティモン領単独の作戦ではなく、レンドース領も巻き込んだ大規模作戦の実行を考えたのだ。屋敷を訪れたリディックの話を聞いたローラル伯爵は、その場で作戦参加を確約。更にはリディックに同行し王都にてジノン国王との謁見を果たしている。
「うむ。今頃ローラル殿も南で暴れておろう。お、そうであった。ユーノルよ、その事でお主に詫びねばならん。わしの思い付きでレンドースを巻き込んだ。その為にお主には要らぬ負担を掛けてしまったな。済まなかった、ユーノルよ」
予期せぬリディックの謝罪に、ユーノルは少しばかり驚き戸惑った。しかしすぐにその表情を戻す。
「何を仰いますか、負担など何もありませぬ。私はただレンドース領の担当取次を寄越してくれと、始まりの家へ連絡をしたまで。何もしてはおりませぬ故、詫びなど無用に……」
「ぬぁっはっはぁ! ユーノルよ、お主は控え目であるな。だがそこが好感が持てる所だ。四十年前の戦で、レンドースはわしら以上に大きくリザーブルに領土を削り取られておる。声を掛ければ乗ってきよると思うてな。さすればわしらはより安全に進軍出来よう」
「さすがは長く他国と国境を接する辺境を守ってきたお方です、感服致しました」
若干あからさまか、とも思えるユーノルの世辞。ご満悦の様子のリディック。そんな二人のやり取りをぼんやりと聞いていたプラウル。彼の頭の中には気になっていた一つの疑問が浮かんでいた。
「しかし、あれだけ強く外征を禁じられていた陛下が、こうも簡単に戦を容認されたのが未だに不思議な心地です。父上、一体何とご説得されたのですか?」
「なぁに、簡単な話よ。お主も存じておろうが、陛下が戦を禁じておったのは費用対効果が悪いという理由だ。戦はとかく金が掛かる。軍備品に糧抹、犠牲になった兵の遺族への補償諸々。仮に戦に勝ち領土を奪ったとしてもだ、その土地から必要な分の利益が出る迄一体どれ程時が掛かるのか……だったらそんなリスクを負うよりも、国内を整えた方がはるかに楽だ。上手い事やれば儲かるというのは、わしらがティモン領の発展という形で見せた訳だしな。だが目の前にすぐに奪い取れる土地があるというなら話は変わってくる。金も手間も掛からずリスクも小さい、ならば攻めるだろう? それがかつて奪われた土地ならば尚更だ。陛下もな、兵を挙げるのがわしらだから許可するのだと、そう仰せになってな」
「それは結構ですが、しかし戦を容認頂くにも根拠というものが必要でしょう。父上は何の用意もなく出立された、故に不可思議だと。陛下とどんなお話をされたのです?」
真剣な顔で問い掛けるプラウル。リディックは呆れた様子で答えた。
「どんなも何も、ユーノルから受け取った書簡があろう。それを書き写し陛下にお見せした」
「「 はぁ!? 」」
思わず声を上げるプラウルとユーノル。「何だぁ?」とポカンとするリディック。
「ちょっと待って下さい……では、何の精査もしていない情報をお伝えしたと……?」
驚いた様子のプラウル。「そうだが?」とリディックは涼しい顔だ。するとユーノルも「いや……それはさすがに……」と困惑する。間違った情報は渡してはいない。しかしだからと言ってこれはどうだ? 他人から貰った情報を何の確認もしないまま、しかもその情報を元に立てられた作戦を事もあろうか国王陛下に具申したのだ。それがどれだけ危険な行為か、よもやリディックは理解していないとでも言うのか? しかしリディックは益々呆れた様子でユーノルを問い詰める。
「何を困る事がある? 何だ? ゼルはわしらを誑かそうとでもしとったのか?」
「い、いえ、滅相もございません!」
慌てて否定するユーノル。しかしあまりに無防備であまりに大胆なリディックの行動に合点がゆかない。だがリディックにはとある確信があった。
「これはゼルがこさえた策であろう? ならば何の問題もない。昔、賊狩りの依頼をジョーカーに出した。そしたらあやつが来おった。適当で口も軽く、こやつどうしてくれようか、などと考えておったのだが、いざ蓋を開けてみれば実に手際の良い仕事振りだった。中々どうして、わしは感心したもんだ。腕が良い、頭も回れば気も回せる。あやつが段取った作戦なら信頼出来るというもんだ。仮に間違った情報が混じっとったとしてもだ、その時は派兵を見送れば良いだけの話。我らの見積もりが甘かったと、陛下に謝罪申し上げればそれで終いだ。そんな事で叱責なさる様な器の小さきお方でもないしな」
(は、はは……人をたらし込むのが上手いと思ってはいたが、これ程とは……)
ユーノルは半ば呆れながらも、しかし笑うしかなかった。一見無謀なリディックの行動の裏には、ゼルに対する信頼があったのだ。出会った人の心を虜にする不思議な魅力。それはエクスウェルにも通ずる所がある。ただしエクスウェルのそれは言わば陰。情を挟まぬ合理性を求め、時に非道も行うがその分大きな成果を上げる陰の魅力。対してゼルは陽だ。人を信頼し、人に信頼される。多少の無駄があったとしても、それも含めて丸ごと飲み込む。何より人との繋がりを重んじている陽の魅力。ゼルの側にいると、力を貸してやりたいと何故だかそう思ってしまうのだ。様々な者達がゼルを担ぎ上げようとする気持ちも良く分かる。そして何の事はない、リディックもまたゼルに丸ごと飲み込まれた一人だったのだ。
「おう、見えてきおったぞ! ジャラットだ!」
声を上げたリディックの視線の先には、目標である商業都市ジャラットの姿。が、何やら様子がおかしい。
「ん? 何だぁ?」と目を細め街の様子を窺うリディック。街のあちこちから煙が立ち上っている。「あれは……煙ですな……火事か?」とプラウルが呟くとユーノルはすかさず答えた。
「ひょっとしたら、トリバルと同じ事が起きているのやも……」
「反乱か?」と聞き返すプラウルに無言で頷くユーノル。「むぅ……わしらの行軍より早く、わしらが来たという情報が伝わった……なくはないな」とリディックは唸りながら呟いた。
「これも皆様方のご威光によるものです。この地の主の帰還を祝っているのですよ」
「ぬぁっはっはぁ!」
ユーノルの言葉に大声で笑うリディック。その顔はすでに戦の最中に見せる顔になっている。
「ユーノルよ! お主は本当にわしの心をくすぐるのが上手いな! そんな言われ方をしたら……たぎるではないかぁ!!」
そう叫ぶとリディックは腰の剣を抜く。そしてその剣を頭上に高く振りかざすと「一揉みで終わらせる! 行くぞぉぉぉ!!」と号令一下、自身直属の部隊五百を引き連れ馬の脚を速めた。
「父上!! まだ街まで大分距離が……父上ぇ!!」
叫ぶプラウルには目もくれず、リディック隊はジャラットへ向け突撃して行く。
「やれやれ……行ってしまわれた」
ぽつりと呟くプラウルに笑いながらユーノルは声を掛ける。
「頼もしい限りではありませぬか」
「勘弁してくれ……もう少しお歳を考えてもらいたいものだ。大体この遠征に参加するのだって直近まで知らなかったのだぞ? 張り切っておられるのは結構だが、何かあっては一大事だ」
ため息混じりのプラウル。ユーノルは苦笑いするしかない。するとプラウルは思い出したかの様にユーノルに謝罪した。
「おぉ、そうだ。ユーノル殿、此度はまことに済まなかったな。貴殿は取次役としてティモンにおっただけだというのに、遠征にまで付き合わせてしまって……父上は余程貴殿を気に入られた様だ」
当初ユーノルはティモンに残る予定だった。戦後のフォローを始まりの家と連携して行う必要があった為だ。しかし「ユーノルよ、付き合え」とのリディックの一言で遠征への参加が決まったのだ。
「いえいえ、そこまで信を置いて下さっているのです、光栄にございます。それにゼルからは、プラウル様のお役に立つのなら何でもしてこいと、そう指示されておりますので」
「しかしなぁ、嫌な事は断っても良いのだぞ? 聞けば夜な夜な父上に連れ出され、あちこちの酒場を巡っているとか。無理に付き合う事はないぞ」
「とんでもございません、非常に興味深いお話を色々と伺っておりますれば。楽しくご一緒させて頂いております」
そう語るユーノルの顔が一瞬だけ変わったのをプラウルは見逃さなかった。ユーノルが一瞬見せたその顔は、間違いなく諜報員の顔だったのだ。
「やれやれ、やはり父上にはもう少し自重してもらう様に申し伝えねばならんな。このまま放っておけば、ジノンの情報を丸ごとジョーカーに握られかねん」
「ご安心を。情報の取り扱いに関しては充分に留意しております故……」
「フハハハハ! さすがゼルが寄越した取次役だ、一筋縄ではいかんな!」
「はっ!」
「ダレン! 三百預ける! 南のリバーツを押さえろ! あそこは中継地として使える!」
「はっ!」
どんよりとした曇り空。いつ降り出してもおかしくはない空模様だが、一向に雨が降る気配はない。いっそザザァーと降ってくれれば、雨音に紛れる事で却って安全に行軍出来るというものだ。
一路西を目指し突き進む三千の軍。その先頭で馬に跨がるのはジノン王国北部、ティモン領を治めるプラウル・フィンテック辺境伯だ。彼はその傍らに馬を並べる恰幅の良い白髪の老将に声を掛ける。
「父上! この分では日暮れにはジャラット攻めに入れそうですな!」
「うむ。ジャラットを制圧せば後は防衛網を構築するのみ。王都からの援軍も迎え入れられようぞ」
老将はどっしりと構えながらゆったりと馬を操る。手馴れたその様子からは、彼が歴戦の将である事が窺い知れる。リディック・フィンテック。ティモン領前当主であり、プラウルの父である。リディックは軽く後ろを振り返りながら呟いた。
「しかし……あれ程分厚かった国境の警備がこれ程までに薄くなっていようとは……ずいぶんと舐められたものだ」
◇◇◇
その日の深夜、プラウル率いる四千の軍がリザーブル国境を越えた。彼らは瞬く間に周辺に点在していた砦群を制圧する。
そしてその翌日の夜、プラウル軍は攻略目標の一つである国境近くの街トリバルに到着。国境を睨む城塞都市であるトリバルは、本来強固な防衛力を有しているはずだった。しかしいざ攻略を開始すると、何と僅か二時間という早さでトリバルは陥落する。トリバルのスピード攻略の理由は後述するとして、プラウル軍はその後明け方まで束の間の休息を取ると、一千の歩兵部隊を守備の為にトリバルに残し、残る三千で再び進軍を開始。
そしてトリバルを出発して二日。今遠征のもう一つの目標、この地方最大の商業都市ジャラットまであと僅かという距離まで来ていた。ジャラットにはこの地方を治める執政官がいる。即ちジャラットを押さえれば、この地方を制したと言っても過言ではない。
◇◇◇
「国境だけではありませぬ。追手もなく各所で迎え撃つ敵軍もまばら……やはりこの地方からごっそりと兵が抜かれている様子。我が事ながら恥ずかしい限りです、これ程までになっていながら全く気付かぬとは……」
奥歯を噛み締めながらプラウルは己を恥じた。そんなプラウルにリディックは軽く笑いながら声を掛ける。
「別にお主だけの落ち度ではない。運良くではあるがそれに気付き、こうして対応が出来ている。今後は締めて掛からねばならんがな、一先ずはあまり気にするな。しかし……トリバルのあの様子を考えると、未だこの地方には我らフィンテック家の統治を望む者が多く存在すると見える。ともすればジャラットも……まぁ過度の期待は出来ぬがな」
「彼らがそう望むのも無理からぬ事。敵地の住民として明確とも言える様な差別を受け続けてきた彼らです、リザーブルに対する忠義などありますまい」
プラウルらが侵攻しているここ、リザーブル王国東の辺境アイジス地方は、かつて西ライディアルと呼ばれていた地。かつて、とは四十年以上前。まだこの地方がフィンテック家が治めるティモン領の一部だった頃だ
◇◇◇
風が吹く度波打つ様に揺れるその様子は、さながら黄金色に輝く海の様だ。見渡す限り広がる広大な小麦畑、小首を傾げる様に右に左に揺れている小麦達の穂先には、鈴なりの金の粒がひしめいている。彼ら農民にしてみればまさに宝、なのだろう。
その年、西ライディアル地方は豊作に沸いていた。この地方で獲れる小麦は良質で、ティモン領内のみならずジノン国内にも広く流通している。多くの領民が畑作業に精を出していたまさにその時、突如リザーブル軍が越境、西ライディアル地方へ侵攻した。予期せぬリザーブル軍の動きにフィンテック家とジノン国王は大いに驚き、且つ大いに憤った。
実はその前年、両国はそれぞれの軍、並びに国境警備隊の過剰な国境への接近を禁止する旨の約定を交わしていた。切っ掛けはその更に前年のとある事件。偶発的な事故により両国の国境警備隊が衝突、交戦状態となり双方に犠牲者が出た、という事件に起因する。当時は今程両国の関係がこじれてはいなかった。故に両国は今後の為に、双方の責任においてこの約定を守り行こうと調印したばかりだったのだ。しかしリザーブルにはその気はなかった様だ。
騙し討ちとも言えるリザーブル軍の侵攻。西ライディアルの街や村はまるで成す術なく制圧された。その後この地はアイジスと変名されリザーブル王国の直轄地として運営される事が決まった。しかしそれがこの地の旧ティモン領民達を苦しめる事となる。
リザーブル国王に指名され派遣された執政官は手始めに、あらゆる難癖を付け旧ティモン領民の財産のことごとくを没収した。更に移民させた自国民達をあからさまに優遇し、旧ティモン領民を体の良い労働力として扱う様指示を出した。つまりは明確な差別、支配する者とされる者の図式を作り上げたのだ。何故そんな政策を行ったのか、そこにはリザーブル国王の野心が絡んでいた。彼は隣国のことごとくを制圧し支配下に収め、この地方に一大帝国を築き上げたいという大それた野心を持っていたのだ。全てを力でねじ伏せる。優秀で精強なるリザーブル国民こそが唯一それを実行出来るのだという、自尊心にまみれた的外れの歪んだ思想。その第一歩をここアイジスから始めようというのだ。当初は戸惑いを隠せなかった移民者達も、時間の経過と共に徐々にそれを受け入れ始める。奴らは敵国の民、気を遣ってやる必要などない、と。
◇◇◇
これこそがトリバルがスピード陥落した要因だった。夜半に突然の騒乱、街が攻撃を受けているとの情報が街中を駆け巡った。そして攻撃を仕掛けているのがフィンテック家の軍だと知ると、トリバルの旧ティモン領民達は歓喜の雄叫びを上げる。実に四十年もの長きに渡り虐げられてきた彼らは、半ば諦めながらもそれでも解放者が現れるのをただひたすらに待っていた。搾取される為だけに存在している自分達の事を解放してくれる、そんな存在を。絶対に表に出す事は出来ないリザーブル王国に対する激しい恨みや憎しみ。彼らは苦々しいそれらの感情を、屈辱にまみれた身の内に秘めたまま煌々と燃やし続けてきたのだ。そしてその業火は子や孫の代にまで引き継がれ、今尚消える事なく燃え盛っている。
そんな彼らの取るべき行動は一つしかない。反乱だ。街の至る所で旧ティモン領民達は次々と蜂起する。彼らは城門を襲撃し巨大な鉄門を開け放つと、プラウル達フィンテック軍を街の中へと引き入れた。同時にこの城塞都市の城主が住まうトリバル城を包囲。プラウルらが城へ辿り着くと城主は早々に降伏、速やかにトリバル城は開城したのだ。
「ユーノルゥ! そなたはどう考える! そなたはわしらより余程多くの戦場を、戦を知っておる。ジョーカーの所見を聞かせよ!」
リディックは斜め後ろを向き、彼らの後に馬を操るジョーカー諜報部コーディネーター、ユーノルに問い掛ける。ユーノルはゼルから今作戦の取次役としてティモン領に滞在する事を指示され、そのままこの遠征にも参加していた。リディックに問われたユーノルは静かに答える。
「はい、リディック様のお考え通りかと。恨みや辛み、か様な負の感情はそう簡単には消えぬもの。リザーブルの行ってきた圧政は糾弾すべき非道、それにより長く苦しんできた彼らティモン領民の事を思うと言葉になりませぬ。しかし何より重要なのは、フィンテック家の方々が代々この地にて善政を敷いてきたという事実。トリバルの住民達は選んだのです、リザーブルではなく皆様方を」
「ぬふふ、ぬははは、ぬぁっはっはぁ! 分かっておる、分かっておるではないか、ユーノルよ!」
ユーノルの返答に込み上げてくる笑いを抑えられないリディック。やれやれ、といった表情のプラウル。
「は、恐縮に。それにしてもリディック様のご判断の早さには大変驚きました。よもや私がゼルからの書簡をお届けに上がったその日の内に、王都へ向けて出発なさるとは思いませんでした。先ずは我々が持ち込んだ情報の精査を行うと思っておりました故……」
「うむ。これはリザーブルのアルマド侵攻の間隙を突く作戦、リザーブルが動き出す前に全てを万端整えねばならん。ならば陛下に戦の許諾を頂くという、一番手間と時間の掛かる仕事を先に潰しておくのが道理であろう。どう考えても王都迄の往復が一番時間が掛かるからな」
遠征の凡そ一ヶ月前。ティモン領の領都メビウシールを訪れたユーノルは昼過ぎにプラウルの屋敷を訪問、ゼルがしたためたプラウルとリディック宛の書簡を二人に手渡した。プラウルと共に書簡を確認し、その内容を把握したリディックはすぐさま王都行きを決断する。そして使用人らに急ぎ準備をさせ、その日の夕刻前には供を連れてメビウシールを発った。即決即断である。
「情報の裏付けや戦の準備などはわしが王都へ行っている間に行えば良い。西ライディアルの奪還はわしらフィンテック家の悲願だからな。父上……先々代当主、つまりプラウルのじい様も、息を引き取る寸前まで西ライディアルの事を気に掛けとった。敵の侵攻を許し、子にも等しき領地を奪われ、ついぞ奪い返す事叶わぬまま逝ってしまわれた。その無念、如何ばかりか……わしも二度程兵を挙げたが、力及ばず撤退を余儀なくされ……とにかく、時間を無駄にする事なく準備を進める必要があった。リザーブルの動きに合わせられず間に合いませんでした、などと……笑い話にもならん」
過去の屈辱を思い出したリディック。先程までのにこやかな表情が消えた。そんなリディックを思いやってか、プラウルはさりげなく話題を変える。
「南のローラル伯爵にお声を掛けられたのはさすがですな。北のティモン、南のレンドース、二方向から同時侵攻を受けては、さしものリザーブルも混乱するでしょう」
リディックは王都ブレザリーへ向かう途中、急遽その進路を南へ変えた。南にはレンドース領を治めるミグ・ローラル伯爵がいる。リディックはリスク軽減の為にティモン領単独の作戦ではなく、レンドース領も巻き込んだ大規模作戦の実行を考えたのだ。屋敷を訪れたリディックの話を聞いたローラル伯爵は、その場で作戦参加を確約。更にはリディックに同行し王都にてジノン国王との謁見を果たしている。
「うむ。今頃ローラル殿も南で暴れておろう。お、そうであった。ユーノルよ、その事でお主に詫びねばならん。わしの思い付きでレンドースを巻き込んだ。その為にお主には要らぬ負担を掛けてしまったな。済まなかった、ユーノルよ」
予期せぬリディックの謝罪に、ユーノルは少しばかり驚き戸惑った。しかしすぐにその表情を戻す。
「何を仰いますか、負担など何もありませぬ。私はただレンドース領の担当取次を寄越してくれと、始まりの家へ連絡をしたまで。何もしてはおりませぬ故、詫びなど無用に……」
「ぬぁっはっはぁ! ユーノルよ、お主は控え目であるな。だがそこが好感が持てる所だ。四十年前の戦で、レンドースはわしら以上に大きくリザーブルに領土を削り取られておる。声を掛ければ乗ってきよると思うてな。さすればわしらはより安全に進軍出来よう」
「さすがは長く他国と国境を接する辺境を守ってきたお方です、感服致しました」
若干あからさまか、とも思えるユーノルの世辞。ご満悦の様子のリディック。そんな二人のやり取りをぼんやりと聞いていたプラウル。彼の頭の中には気になっていた一つの疑問が浮かんでいた。
「しかし、あれだけ強く外征を禁じられていた陛下が、こうも簡単に戦を容認されたのが未だに不思議な心地です。父上、一体何とご説得されたのですか?」
「なぁに、簡単な話よ。お主も存じておろうが、陛下が戦を禁じておったのは費用対効果が悪いという理由だ。戦はとかく金が掛かる。軍備品に糧抹、犠牲になった兵の遺族への補償諸々。仮に戦に勝ち領土を奪ったとしてもだ、その土地から必要な分の利益が出る迄一体どれ程時が掛かるのか……だったらそんなリスクを負うよりも、国内を整えた方がはるかに楽だ。上手い事やれば儲かるというのは、わしらがティモン領の発展という形で見せた訳だしな。だが目の前にすぐに奪い取れる土地があるというなら話は変わってくる。金も手間も掛からずリスクも小さい、ならば攻めるだろう? それがかつて奪われた土地ならば尚更だ。陛下もな、兵を挙げるのがわしらだから許可するのだと、そう仰せになってな」
「それは結構ですが、しかし戦を容認頂くにも根拠というものが必要でしょう。父上は何の用意もなく出立された、故に不可思議だと。陛下とどんなお話をされたのです?」
真剣な顔で問い掛けるプラウル。リディックは呆れた様子で答えた。
「どんなも何も、ユーノルから受け取った書簡があろう。それを書き写し陛下にお見せした」
「「 はぁ!? 」」
思わず声を上げるプラウルとユーノル。「何だぁ?」とポカンとするリディック。
「ちょっと待って下さい……では、何の精査もしていない情報をお伝えしたと……?」
驚いた様子のプラウル。「そうだが?」とリディックは涼しい顔だ。するとユーノルも「いや……それはさすがに……」と困惑する。間違った情報は渡してはいない。しかしだからと言ってこれはどうだ? 他人から貰った情報を何の確認もしないまま、しかもその情報を元に立てられた作戦を事もあろうか国王陛下に具申したのだ。それがどれだけ危険な行為か、よもやリディックは理解していないとでも言うのか? しかしリディックは益々呆れた様子でユーノルを問い詰める。
「何を困る事がある? 何だ? ゼルはわしらを誑かそうとでもしとったのか?」
「い、いえ、滅相もございません!」
慌てて否定するユーノル。しかしあまりに無防備であまりに大胆なリディックの行動に合点がゆかない。だがリディックにはとある確信があった。
「これはゼルがこさえた策であろう? ならば何の問題もない。昔、賊狩りの依頼をジョーカーに出した。そしたらあやつが来おった。適当で口も軽く、こやつどうしてくれようか、などと考えておったのだが、いざ蓋を開けてみれば実に手際の良い仕事振りだった。中々どうして、わしは感心したもんだ。腕が良い、頭も回れば気も回せる。あやつが段取った作戦なら信頼出来るというもんだ。仮に間違った情報が混じっとったとしてもだ、その時は派兵を見送れば良いだけの話。我らの見積もりが甘かったと、陛下に謝罪申し上げればそれで終いだ。そんな事で叱責なさる様な器の小さきお方でもないしな」
(は、はは……人をたらし込むのが上手いと思ってはいたが、これ程とは……)
ユーノルは半ば呆れながらも、しかし笑うしかなかった。一見無謀なリディックの行動の裏には、ゼルに対する信頼があったのだ。出会った人の心を虜にする不思議な魅力。それはエクスウェルにも通ずる所がある。ただしエクスウェルのそれは言わば陰。情を挟まぬ合理性を求め、時に非道も行うがその分大きな成果を上げる陰の魅力。対してゼルは陽だ。人を信頼し、人に信頼される。多少の無駄があったとしても、それも含めて丸ごと飲み込む。何より人との繋がりを重んじている陽の魅力。ゼルの側にいると、力を貸してやりたいと何故だかそう思ってしまうのだ。様々な者達がゼルを担ぎ上げようとする気持ちも良く分かる。そして何の事はない、リディックもまたゼルに丸ごと飲み込まれた一人だったのだ。
「おう、見えてきおったぞ! ジャラットだ!」
声を上げたリディックの視線の先には、目標である商業都市ジャラットの姿。が、何やら様子がおかしい。
「ん? 何だぁ?」と目を細め街の様子を窺うリディック。街のあちこちから煙が立ち上っている。「あれは……煙ですな……火事か?」とプラウルが呟くとユーノルはすかさず答えた。
「ひょっとしたら、トリバルと同じ事が起きているのやも……」
「反乱か?」と聞き返すプラウルに無言で頷くユーノル。「むぅ……わしらの行軍より早く、わしらが来たという情報が伝わった……なくはないな」とリディックは唸りながら呟いた。
「これも皆様方のご威光によるものです。この地の主の帰還を祝っているのですよ」
「ぬぁっはっはぁ!」
ユーノルの言葉に大声で笑うリディック。その顔はすでに戦の最中に見せる顔になっている。
「ユーノルよ! お主は本当にわしの心をくすぐるのが上手いな! そんな言われ方をしたら……たぎるではないかぁ!!」
そう叫ぶとリディックは腰の剣を抜く。そしてその剣を頭上に高く振りかざすと「一揉みで終わらせる! 行くぞぉぉぉ!!」と号令一下、自身直属の部隊五百を引き連れ馬の脚を速めた。
「父上!! まだ街まで大分距離が……父上ぇ!!」
叫ぶプラウルには目もくれず、リディック隊はジャラットへ向け突撃して行く。
「やれやれ……行ってしまわれた」
ぽつりと呟くプラウルに笑いながらユーノルは声を掛ける。
「頼もしい限りではありませぬか」
「勘弁してくれ……もう少しお歳を考えてもらいたいものだ。大体この遠征に参加するのだって直近まで知らなかったのだぞ? 張り切っておられるのは結構だが、何かあっては一大事だ」
ため息混じりのプラウル。ユーノルは苦笑いするしかない。するとプラウルは思い出したかの様にユーノルに謝罪した。
「おぉ、そうだ。ユーノル殿、此度はまことに済まなかったな。貴殿は取次役としてティモンにおっただけだというのに、遠征にまで付き合わせてしまって……父上は余程貴殿を気に入られた様だ」
当初ユーノルはティモンに残る予定だった。戦後のフォローを始まりの家と連携して行う必要があった為だ。しかし「ユーノルよ、付き合え」とのリディックの一言で遠征への参加が決まったのだ。
「いえいえ、そこまで信を置いて下さっているのです、光栄にございます。それにゼルからは、プラウル様のお役に立つのなら何でもしてこいと、そう指示されておりますので」
「しかしなぁ、嫌な事は断っても良いのだぞ? 聞けば夜な夜な父上に連れ出され、あちこちの酒場を巡っているとか。無理に付き合う事はないぞ」
「とんでもございません、非常に興味深いお話を色々と伺っておりますれば。楽しくご一緒させて頂いております」
そう語るユーノルの顔が一瞬だけ変わったのをプラウルは見逃さなかった。ユーノルが一瞬見せたその顔は、間違いなく諜報員の顔だったのだ。
「やれやれ、やはり父上にはもう少し自重してもらう様に申し伝えねばならんな。このまま放っておけば、ジノンの情報を丸ごとジョーカーに握られかねん」
「ご安心を。情報の取り扱いに関しては充分に留意しております故……」
「フハハハハ! さすがゼルが寄越した取次役だ、一筋縄ではいかんな!」
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