流浪の魔導師

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3章 裏切りのジョーカー編 第3部 傭兵の王

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「ライエ!」

 エイナはライエに駆け寄り抱き締めた。「良かった……」とささやくエイナ。「ごめん……ごめんね、エイナ……あたし、勝手に……」とライエは目に涙を浮かべる。「ううん、いいの。無事で良かった……」とエイナはライエとの再会を喜んだ。

 ミラネリッテを出て、俺達はようやくアルマドに帰って来た。俺達が帰還したのを知ると、始まりの家にいる面々はわざわざ外まで出迎えに出てくれたのだ。

「コウ! どうだぁ? 腕はくっついたのかぁ?」と、クイッと俺の右腕を掴み持ち上げるのはホルツだ。

「ああ、くっついたよ、キレイにね。ライエのお陰だ。それと、斬られたのは左腕だよ」

 俺は左腕をグルグルと回す。するとホルツは「ブハハハハ! そうか、左かぁ!」と大声で笑う。そしてふっ、と真剣な表情で俺を見る。

「まぁなんにしても無事でよかった。アイロウ相手に生還するとは……大したもんだよ」

「全くだぜぇ」

 ホルツの後ろから顔を出したのはゼル。いつものように「はっはっは」と笑うかと思いきや、その顔に笑みはない。

「コウ、よく帰って来た。待ってたぜ。済まかったな、無茶させたみたいでよ」

 珍しく真面目なトーンで話すゼル。いつものようにおちゃらけた感じでくるかと思っていた俺は、何となく肩透かしを食ったような感じがした。

「仲間の為だ、無茶もするだろうよ」

「そうかい、そりゃ嬉しいねぇ。ライエを……仲間と言ってくれるんだな」

「当たり前だろ。それより……」

「それより……何だぁ?」

「ああ……仕留めきれなかった、アイロウを。あと少しだったんだけど……最後の最後で……ツメが甘かった」

 再び悔しさが込み上げてきた。本当にあと少しだった。ルピスの手助けがあったとはいえ、ジョーカー最強と呼ばれる男をギリギリまで追い詰めたのだ。本当にあと少し……
 悔しさをにじませる俺の顔を見てゼルは驚いたような表情を浮かべる。そして「ふ……ふはは……はっはっは!」と突然笑い出すゼル。

「アイロウ相手にして生きて帰って来たんだ、そりゃもう勝ちみてぇなもんだ、なぁホルツ?」

「ブハハハハ、違いねぇ……っと、おいエイナ……」

 大笑いするホルツを押し退けるエイナ。そして「コウ!」と声を上げたかと思うとギュッと抱き付いてきた。

「おわっ……と……エイナさん?」

「ありがとう、コウ。ライエを連れ戻してくれて……」

「ああ……エイナさん、ただいま」



「あ……」



 そんなエイナの姿を見て、ライエは思わず小さく声を漏らした。その声は側にいたホルツに聞こえていたようだ。「ライエ、どうした?」と問い掛けるホルツ。

「え……? うん……あれ? 何だろ……?」

 小首を傾げるライエ。「ライエ?」とホルツは呼び掛ける。

「あ、うん……大丈夫、何でもないよ」

 と答えてはみたものの、ライエは胸の奥の方がモヤッとするような、チクッとするような、そんな違和感を感じていた。



(何だろ……今の……)



「ブロス、ご苦労だ。よくアイツらを無事に帰してくれた」

 ゼルはブロスに歩み寄り右手を挙げる。「別に、俺は何もしちゃいねぇよ 」と答えながらブロスも右手を挙げパチン、とゼルの右手を叩く。

「それよかマスター、ちっと話がある。ミラネリッテで聞いてきたんだが……」

「おう、んじゃ場所変えようぜ」


 ◇◇◇


「済まねぇなコウ、待たせた。じゃあ行こうぜ」

 翌日昼過ぎ、俺はホルツとある場所へ向かう。始まりの家を出ようとしたその時「あれ? どっか行くの?」と後ろからの声。振り返るとライエの姿があった。

「ああ、コウが得物欲しいってんでよ、工作部行って見繕みつくろってこようかと思ってな。俺もちょうど工作部に用があってよ、北で剣を壊しちまったから、新しいの打ってもらってんだ」

 そう、得物、武器が欲しいのだ。アイロウとの再戦には絶対に武器が必要。魔導師同士の戦いは案外接近戦なると身をもって知ったからだ。昨日の夜、ホルツにアルマドに武具店がないか聞いた所、だったら工作部に行こうぜ、と誘ってもらったのだ。

「ふ~ん……」と何やら微妙な表情のライエ。「じゃあな」とホルツが声を掛け歩き始めると「……待って。あたしも行く」とライエは小走りで俺達を追いかけてきた。

「何だぁライエ、お前も工作部に用があんのか?」

 そう問い掛けるホルツに、ライエは「別に……用はないけど……」とボソボソと呟く。「んん?」と怪訝けげんそうな顔のホルツ。

「用……ないのか?」と改めてライエに問い掛けるホルツ。するとライエは「な、なに!? 用がなきゃついてっちゃダメなの!? 何で? 何で!?」と半ば逆ギレ気味に怒鳴った。訳の分からないライエの勢いに飲まれたホルツは「いや……別にいいんだがよ、俺はてっきりベルーナさんに会いに行くのかと……違うのか?」と、おずおずと尋ねる。

「あ……あぁ~、ベルーナね、そうベルーナ! うん、あの~、ベルーナにね、帰って来たよって、伝えようかな? うん」

 ぎこちなく答えるライエ。「お、おう……そうだな」と返事をしつつ、何だこいつ? という表情を浮かべるホルツ。

「なぁホルツ、ベルーナって誰?」

「ああ、女だてらにうちの職人達をまとめてる工作部のマスターだ。自身も腕のいい魔具師まぐしでなぁ、すげぇ美人でえげつない変態だ」


 ん?


「すげぇ美人で……何て?」

 はて……? ホルツはサラッと話したが……何? 変態って言った? などと考えていると隣を歩くライエはムスッとした感じでブツブツと文句を言う。

「本当男って……美人とかおっぱい大きいとか……そんなんばっかに反応して……」

 するとホルツはそんなライエに堂々と反論する。

「何言ってんだよ、美人でデカい。男にとっちゃ真っ先に確認すべき最重要事項じゃねぇかよ、なぁ?」

 なぁ? じゃない、同意を求めるな。俺が気になってるのはえげつない変態の方……

「…………」

 ライエがジト~っと俺を見ている……


 ◇◇◇


 始まりの家を出て大通りを南下、南地区まで来るとそこから西へ向かう。アルマドの西に広がる森の中。程なくして「着いたぜ」とホルツは立ち止まる。目の前には森の中に鎮座ちんざする古い洋館。

「ここが工作部の事務所件作業場だ。古い建物だが中を改修して使ってるんだ」

 ホルツは再び歩を進める。と、


 ボゥン……


 低く鈍い音と共に建物の裏手の方から黒い煙が立ちのぼった。「何あれ……火事、ホルツ!?」と慌てる俺に対しホルツは実に冷静に説明する。

「どうせまた実験でも失敗したんだろ。いつもの事だぁ、気にすんな」

 話ながらホルツは扉を開け建物の中に入る。そして通りかかった工作部員に「俺の剣はどうだぁ? 今日仕上がるって聞いてきたんだが……」と尋ねる。すると工作部員は「おぅ、ホルツか。あんたの剣は仕上げの研ぎの真っ最中だ。もう少し待ってくれ」と答えた。

「ん。しゃぁねぇ、待つかぁ。あとよ、武器庫開けてくれねぇかぁ? 得物欲しいって奴がいるんだが……」

「武器庫? ちっと待て。お~い! マスター! 武器庫だぁ!」と叫ぶ工作部員。すると俺達の背後から「呼んだかねぇ!」と突然の大声。

「うおっ! びっくりさせんじゃねぇよ、ベルーナさん……」

 驚きの声を上げるホルツに「アハハハハ!」と大笑いするベルーナ。

「やぁホルツ、曲刀を受け取りに来たんだろう? もう少し待ってくれたまえよ、今まさに切れっ切れでつやつやの、セクシ~な剣に仕上げている最中だからねぇ……んん!? ライエじゃあないかい! 良く帰って来たねぇ!」

「ただいまベルーナ。心配かけちゃったね?」

「いやいや、無事に帰って来たのならそれで良い。大変だったそうじゃあないか、話はエイナから……んん!? 横の可愛い顔をしたコは誰だい?」

 ……何か忙しい人だな。

「ああ、こいつはコウだ。マスターが連れてきてな、今三番隊で面倒を……」

「コウ……コウ!? そうか! 君がコウ・サエグサかぁ! 初めましてだねぇ、私はこの工作部マスター、ベルーナ・アッケンバインだ!」

 自己紹介しながら後ろで結んでいる髪をほどくベルーナ。柔らかな金髪がフワッとほどける。スラッとした細身でそれでいて出る所はバンッと出ていて、色白で整った顔立ち。まるで東欧の美女のような容姿だ。なるほど確かに、これは凄い美人……

「どうも、コウ・サエグサで……」

「君の話は色々聞いていたんだ、いやぁ会いたかったんだよ君にぃ!」

 こちらの話をろくに聞く事なく、声を張り上げながらベルーナはギュ~、と俺を抱き締める。挨拶のハグなどとは違う、それはそれは濃厚で絡み付くような抱擁ほうようだ。

「え!? ちょ、ちょっと待って! ベルーナさん!?」

 いきなりよ!? 初対面よ!?

 俺の首に両手を回すベルーナは「おやぁ~?」と声を上げた。そして俺の耳元で小さくささやき始める。

(君ぃ、ずいぶんと凄い量の魔力を持っているねぇ?)

(!? 何で……)

(何で分かる、だろう? そりゃそうだ、君は非常に上手~く隠しているようだからねぇ。大抵の相手は気付かないだろうさぁ。だが私には分かるのだよ。何故なぜならば今私は自身が開発した魔道具、相手の魔力見える君を身に付けているからなのさぁ)

 ……ネーミングセンスよ

(これを身に付けている限り、私は君の魔力の全てを知る事が出来るのだよ。君の濃ゆ~い魔力がぁ、ドックドク流れている様子がぁ、まさに手に取るようにぃぃぃ!)

 囁きながらベルーナは右の人差し指を俺の背中にくるくるとわせる。そのたびにゾワゾワッとする身体。

(聞いたよ君ぃ。何でもあのアイロウと互角にやり合ったんだってぇ? 素晴らしいじゃあないか。君のような優~秀~な魔導師が手を貸してくれれば、私の研究開発もすこぶるはかどると思うんだがねぇ。どうだい? 私に全てをゆだねてみないかい? なに、安心してくれたまえ、決して痛いような事はしないさぁ。いやしかし、少し痛いくらいが気持ち良かったりするのかねぇ?)

 なるほど確かにホルツが話していた通り、こいつはえげつない変態だ!


「な……な……なぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ズビシッッッ!!


いだぁっ!!」


 俺の耳元で囁き続けるベルーナの背中に、ライエは叫びながら渾身こんしん袈裟けさ斬りチョップをお見舞いした。

「な……何をするんだいライエ! 私の白くしなやかな背中にぃ!」

 怒鳴るベルーナ、そして怒鳴り返すライエ。

「何で初対面で抱きつくの!? おかしいでしょ!!」

 ライエの言葉にきょとんとするベルーナ。俺の首に両手を回したまま不可思議な表情を浮かべる。

「おかしい、とはこれまたおかしな事を……初対面で抱きついてはいけないなどと、一体どこの誰が決めたんだい?」

「な……べ、別に……どこの誰も決めてない……と思うけど……でも、だって……そんないきなり……」

「それで君が怒るのはおかしいじゃあないか、筋違いとも言えよう。何をそんなにカリカリと……」

(いや……違うぞ。これは……)

 話している途中に何かに気付いたベルーナ。試しに……と鎌をかけてみる。

「あ~……ひょっとしたらだねぇ、コウは君の……特別な……とかなのかなぁ? だったら話は分かるのだが……」

 ボッ! とライエの顔が赤くなる。

「な!? ななな何言ってんの!? そんな、とと……特別とか……そんなアレじゃ……あたしはね、アレだよ……あの……一般的に見て、いきなり抱きつくなんておかしいじゃないって事をね……ほら、あの……羞恥心……っていうの? その辺がさ、色々さ……」

(お? ……ほぅほぅ、なるほどねぇ……これはこれは……)

 わたわたするライエの反応を見て確信したベルーナは思わずほくそ笑んだ。

「なるほどなるほど、一般的に見たのであれば確かに、私のこの行動にはいくばくかの異常性があるのかも知れない。しかしだねぇライエ。それはあくまで一般的に、という話に過ぎないのだよ。果たしてこの私が毒にも薬にもならないような、羞恥心なんてムダなものを持っていると本気で思っているのかねぇぇぇ!? 」

 ……いや、そこは持っておこうよ。

「ふむ……まぁ私に一般論が当てはまらないとしてもだ、確かに全く問題がないとも言えないねぇ。その問題というのはだ、果たしてこの状況でコウが私に対して嫌悪感を抱いているのかどうか? という所だろう。どうだろうか、是非ぜひ本人に聞いてみようじゃあないか? さてコウ、君……私がいやなのかい?」

 コツン、とベルーナは俺の額に自分の額を合わせる。軽く微笑みながら超至近距離で俺を見つめるベルーナの大きな瞳。ヤバい……これはヤバいぞ……

「いや、あの……いやって事じゃないんだけど……」

「ハァァ!? イヤッテコトジャナインダケドォォォ!?」

 仁王立ちで大きな声を上げるライエ。その背後には立ちのぼる闘気が見える。気がする……

「いやいやライエ! そうじゃなくてね……!」

「アハハハハ! そうだろうとも! 何故なぜならコウは今この瞬間も、まるで羽毛でも抱いているかのような心地なのだからねぇ! こう見えても私は自分の身体のケアやメンテナンスはおこたらないのだよ。魔具師まぐしなんてやっていると様々な工具を使いトンカントンカンガッチンガッチンと、それはまぁ手を酷使するからねぇ、とにかく手荒れがひどいのだよ。ところが見てごらん、この透き通るようでいてきめ細やかな私の手を! 入念なマッサージの後、保湿クリームをたっぷりと塗り、一晩かけて栄養と休息を与える事によって、吸い付くように柔らかなスペシャルハンドを維持しているのだよ! 私のこの手に触れられて、嫌がる殿方が果たしているのだろうかぁ!?」

 そう話ながら俺のほおを手のひらでさすさす・・・・するベルーナ。「ちょっとベルーナさん!?」と声を上げてはみたものの、ほわほわの柔らかハンドは確かに、さらさらでいて吸い付くようで、若干気持ちいいような……そんな様子をイライラしながら見ているライエは「そんな事どうだっていいわけ! 早くコウから離れて!」と怒鳴ったが、ベルーナはそんなライエを一切無視して話を続ける。

「そして世の殿方を魅了して止まないこのボリューミーバスト! これとて放置しておけば、その内ダルンダルンと情けない姿をさらしてしまう事になろう。それゆえ私はこのバストが重力に負けないよう、いつまでもりんとして上を向いていられるよう、毎晩の胸筋トレーニングを欠かさないのだよ! このように日々のたゆまぬ努力で最高の状態に仕上げられている私の身体を、嫌がる殿方が一体どこにいるというのかねぇぇぇ!!」

 叫びながらグリグリと身体をり付けるベルーナ。大きすぎず小さすぎず、柔らかいがそれでいて弾力もあり……さすがに自慢するだけの事はある。ホルツの話していた通りだ……こいつはえげつない変態だぜ!!


「なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ズビシッッッ!!


いだぁぁ!!」


 俺に身体をり付けるベルーナの背中に、ライエは再び渾身こんしん袈裟けさ斬りチョップをお見舞いした。

「ぬぅぅ、一度ならず二度までも……君は私の背中に何ぞ恨みでもあるのかね!? 私の美しい背中に青アザでも出来たらどう責任を取るつもりなのか……」

「知るかぁ、そんな事! さっさと離れろって言ってんの! 耳付いてんのあんたァ!」


「あぁ~、そういう……なるほど、そっかそっか……」


 ギャーギャーと言い争う二人。そんな二人をぼけっと眺めていたホルツだったが、鈍いなりにようやくこのケンカの原因に気付いたようだ。ニヤッと笑いながら「コウ、お前南でライエと何かあったんかぁ?」と聞いてきた。「へ? いや、何もないけど……?」と当然俺はそう答える。そう、何もないのだ。南へ行って起きた事と言えば、俺が死にかけた事くらいだ。しかしライエにはその心当たりがあった。

「本当かぁ? ライエ、どうなんだよ?」と相変わらずニヤニヤ笑いながら話すホルツ。「ななな何もないし! ああある訳ないし! 何言っちゃってんの、全く……そんなだからホルツはいつまでってもホルツだ(?)って言われるんだよ。大体……」などと取り繕うライエだったが、頭の中ではアルガンの屋敷で半裸をさらした事や、口移しで水を飲ませようとした事がグルグルと駆け巡っていた。

「どうだかなぁ、じゃなきゃそんな狼狽うろたえるなんて……」


「ぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ズバシッッッ!!


「ぼふぅ!!」

 ニヤニヤ笑いながらライエを問い詰めるホルツの胸元に、ベルーナの渾身の逆水平チョップが炸裂した。「げほ……何で俺に……」とむせながらベルーナをにらむホルツ。ベルーナはそんなホルツの顎髭あごひげをつまんでグイッと手前に引き寄せ、耳元で囁き始めた。

(全く君という男はどうしてこうガサツなのか……そんなだから君はいつまでってもホルツだ(?)と言われるのだよ。いきなり核心部分に土足で踏み込みおって……いいかいホルツ、こういう時は外側から少しずつ責めるのだよ。ゆっくりたっぷり時間を掛けて、突っつくようにくすぐるように、舐めるようにねぶるように、そうやってじっくりとからかった方が面白いに決まっているだろう! 今度また私の前でそんなガサツな部分を出してごらんよ、君のこの小汚ない髭を全部引き抜いて、完璧なスキンケアを施してもちもちの美肌ホルツに仕上げてやるからね、覚えておきなよ!)

(俺が……美肌に……!?)

 想像したホルツは背中に冷たいものを感じた。

「コウ! こっち! こっちおいで! また襲われるから!」とライエは自分の後ろに隠れるよう俺を呼ぶ。「あ……はい……」と返事をした俺は言われた通りにライエの背後へ移動する。


 何か……すごい疲れたわ……


 その様子を見ていたベルーナ。「こほん……」と咳払いをして何事もなかったかのように話し出した。

「そうそう、武器庫だったねぇ。さ、案内するから、行こうか? ささ、こっちだよ」

 皆を先導して歩き出すベルーナ。しかしライエは「コウ! 油断しちゃダメだよ! あれは超肉食変態ド痴女だからね!」とガルルルうなりながらベルーナを警戒している。そんなライエを見てベルーナは少しだけ笑った。

(フフ……しかしあのライエがねぇ……いやいや良い傾向じゃないか。あの年頃の達と同じように、もっと自由に色々と楽しんでも良いんだがねぇ……)

 などと考えながら軽く振り返るベルーナ。すると後ろでぼ~っと立ち尽くしているホルツの姿が見えた。「何をしている、ホルツ! 置いて行くぞ!」と呼び掛けるベルーナの声はホルツの耳には届いていなかった。

(美肌……俺が……? 美肌か……)

 ホルツはまんざらでもない感じになっていた。
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