127 / 296
3章 裏切りのジョーカー編 第2部 外道達の宴
127. 遭遇
しおりを挟む
「ユーノル、どうすんだ? どうやって出る? まさか城壁よじ登れなんて言わねぇよな、一瞬で捕まっちまうぜ」
大きな鉄門はガッチリと閉じており、付近には街の衛兵が集結。バルファ北門は物々しい雰囲気に包まれていた。
バルファは国境に程近い街だ。隣接するエラグ王国とベーゼント共和国の仲はあまりよろしくない。となると必然的に街の防備は厳重になる。バルファは街の周りを高い城壁が取り囲む守りの固い街である。
そんな北門を少し離れた所から眺める一同。ユーノルはおもむろに懐から小さな革袋を取り出すと、その袋を顔の横辺りまで持ち上げて軽く揺らす。チャリチャリ、と音の鳴る袋。どうやら中には金が入っているようだ。そしてその革袋を開き皆の前に差し出した。
「いくらでもいいぞ、入れてくれ」
「……ま、しょうがねぇか」
ブロスはポケットに手を突っ込むと、何枚かの金貨や銀貨をユーノルが差し出した革袋に入れる。他のメンバーもごそごそと金を用意し始める。
「どういう事?」
俺は意味が分からずユーノルに聞いた。するとユーノルは「握らせるんだよ」と返答。あぁ、なるほど。衛兵に渡して便宜を図ってもらう、つまりは賄賂だ。俺は納得し適当に金貨を袋に入れた。
「てめぇ何でそんなに金持ってやがんだ?」
それを見ていたブロスが不思議そうに尋ねてきた。これは俺の金じゃない、レイシィの金だ。好きに使っていいと言われていた為、レイシィの家から持ち出していたのだ。しかし実際に金を使う機会は少ない。エス・エリテでもそうだった、始まりの家でもそう、寝床も食事も付いているのだ。たまに外で食べる時に使うくらいか? なので金は結構余っている。まぁレイシィの金だが。お師匠、感謝。
パンパンになった革袋。「さて……」と言いながらユーノルはキョロキョロとターゲットを探す。「あいつらがいいな」と呟くとゆっくり歩き出す。ユーノルが目を付けたのは、門から一番離れた場所でたむろしている数人の衛兵達。しゃがみ込んだりあくびしたりと、明らかに不真面目なその様子から、ユーノルは勝算ありと踏んだのだろう。
「なぁ隊長さん」
ユーノルは衛兵達に近付くと、その輪の中心に立っている衛兵に声を掛ける。
「隊長? 何を言っている?」
衛兵は眉をひそめる。
「あれ? 違うのかい? 何か貫禄あるからてっきり隊長さんかと思ったよ」
「ハハハ、隊長は向こうだよ」
笑いながらな門の方を指差す衛兵。まんざらでもなさそうな感じだ。
「ああ、いやいや……あんたでいいよ。あのさ、街の外に出たいんだけど……門はいつ開くんだい?」
ユーノルの問いに顔を見合わせる衛兵達。そして皆で笑いだした。
「門は開かないよ、開けられない」
「どうして?」
「敵が攻めて来るからだ」
「敵って……参ったなぁ……」
下を向き頭を掻くユーノル。
「何だあんたら、外に出たいのか? 残念だったな、取り敢えず今日は無理だ、諦めな」
「そこを何とか……ならないもんかなぁ?」
「おいおい、無茶言うなよ。これは市長の指示だ、例え隊長だって勝手には開けられない」
「どうしても今日中に出発しなきゃならないんだ! 何とかしてくれよ!」
「……しつこいな、無理だってんだ!」
「これで……どうにかならないか?」
そう言いながらユーノルは金がパンパンに入った革袋を衛兵に手渡す。衛兵は革袋を開き中を見るとすぐに袋を閉じる。そして他の衛兵達と何やら小声で話し始めた。役人に金を渡し便宜を図ってもらう。これは買収だ。誠実で真面目な衛兵が相手ならば、その提案だけで捕縛の対象となるかも知れない。
「こっちだ、来い。騒がず静かに、普通にしろ」
そう言うと衛兵は歩き出す。どうやらユーノルの勝ちだ。城壁沿いに少し歩くと小さな小屋が見えてきた。衛兵は小屋の扉に手を当てて解錠する。魔法の鍵が掛けられているようだ。
「灯りの魔法石は持ってるか? あるなら中に入ったら点けてくれ」
小屋の中は真っ暗だ。ユーノルは腰に提げている灯りの魔法石を灯す。すると部屋の奥にもう一つの扉。衛兵は解錠し扉を開ける。扉の奥は地下へと続いていた。
「最後の者は扉を閉めてくれ」
衛兵を先頭に俺達は地下へ降りる。その先は細く長い通路。じめじめとしていて不快、変な虫やら何やらが潜んでいてもおかしくない感じだ。
通路を進むと正面に鉄扉が見えてきた。衛兵はその鉄扉を開ける。
「全員出たらすぐに閉める。もう戻れないぞ?」
衛兵の問い掛けにユーノルは「恩に着る」と短く答える。扉を出るとそこは街の外だった。ギギギ……ガチャン、と扉が閉まる。
「ふぅ……何とかなったな。よし、行こう」
ユーノルは安堵のため息をつき歩き出した。このような城壁には大抵緊急用に抜け道がある。衛兵ならば知っているはずだと、ユーノルはそう考えたのだ。そして無事に街の外へ出る事が出来た。しかし俺達は気付かなかった、街の中で遠巻きにその一部始終を見ていた者達がいた事を。
◇◇◇
「ルピス様、あれを……」
「ああ、分かっている。全く間抜けな話だ。あんな簡単な発想、誰の頭にも浮かばなかったんだからな。そう言えば……リアンセ様にも言われた事があったな、頭が固いとか何とか……」
衛兵に連れられ小屋の中へ入る一向。それを見ていたルピスは話しながら苦笑いする。部下達は早速金をまとめ始めた。
「とにかくすぐに出るぞ、このまま待っていてもいつ門が開くか分からないからな。北で梟も待っているだろう」
◇◇◇
(これでいつもよりいい酒が飲めるな……)
街の中に戻ってきた衛兵。仲間達の下へ行こうと歩き出す。が、
「そこから出られるんだな」
不意に声を掛けられた。後ろを見ると数人の男達が立っている。
(見られていたのか!? クソッ……どうする……?)
険しい表情で男達を睨む衛兵。適当な理由を付けて捕縛するか、いや……いっそこの場で始末するか……衛兵が仲間を呼ぼうとしたその時、
「待ってくれ、別にあんたをどうこうしようなんて考えてないよ」
先頭の男が話ながら近付いてくる。衛兵は腰の剣に手を掛ける。
「……じゃあ、何だ?」
衛兵は警戒を緩めずに問う。腰の剣、柄を握る手に力が入る。そんな衛兵とは対照的に、男は軽く笑みを浮かべながら懐から革袋を取り出し衛兵に向け差し出す。
「これで俺達も外に出してくれ、さっきの連中みたいにな」
◇◇◇
「ねぇユーノル、馬はどこに?」
「あの丘を越えた先に林があってな、奥に小川が流れてる。そこで……」
ライエの質問にユーノルが答えている最中、ドドド、ドドド、と複数の蹄の音が響いてきた。それに気付いたブロスは周囲を見回す。しかし身を隠せそうな所はない。
「チィ、油断した……」
ブロスがそう呟いた直後、前方の丘の上に突然騎馬の一団が現れた。道は登りで丘の向こう側は見えなかった為、その接近に気付かなかったのだ。
騎馬の一団はゆっくりと坂を下ってくる。そして前方で立ち尽くしている者達を確認しその脚を止める。灰色のローブに身を包んだ先頭の男は、驚いたような表情で呟いた。
「……ブロスか? それに……ライエ、デーム……」
(クソッ……クソックソッ、最悪だ……迂闊だった……)
ブロスは激しく後悔した。無事に街の外に出られ、馬も比較的近くに用意してあるという事から、本人も気付かぬ内に警戒が緩くなってしまっていたのだ。
「こんな所で何をしている!」
「いよぅアイロウ……久々だなぁ……そっちこそ、こんな時間にこんな所まで、夜のピクニックかぁ? 今日はいい月が出てるからなぁ」
「聞いているのはこっちだ。何をしている?」
「別に何も? たまたま、偶然だ」
「こんな場所で偶然な訳はないだろう。バルファで何をしていた? いや、テグザと何を話してきた?」
「おいおい、そりゃ深読みしすぎだ。アイツらは敵だぜ? 何で仲良くする必要がある?」
「どうだかな……とにかく、見過ごす事は出来ない」
そう言いながらアイロウは馬を降りる。すると他の隊員達も次々と下馬し始める。
「お前が俺の立場だったら、同じ行動を取るだろう?」
アイロウは腕を組みブロスの正面に仁王立ちする。
「何だよ、お前らこそテグザに用があるんだろ? こんな所で油売ってる場合か? 早く行ってやらねぇと、テグザの野郎待ちくたびれて寝ちまうぜ?」
「要らぬ心配だ、時間は掛けない」
「自信満々ってか、くそったれめ……クソ魔ぁ、出し惜しみなしだ、全力でやれ。ライエ、お前は後方だ。治癒魔法使えんのはお前しかいねぇ、お前に何かあったら立て直し出来なくなる。ユーノル、諜報部の連中は戦えんのか?」
「多少な。だが当てにするなよ」
「ああ、戦えるだけありがてぇ……」
ゆっくりとこちらに向かい歩を進めるアイロウ。息が詰まりそうな圧迫感、肌がピリピリとする感じ、皆の緊張感も痛いくらいに伝わってくる。気圧されているのだ、強者の圧に。
◇◇◇
「あれは……さっきの連中か?」
街道を外れ草むらの中を歩いていたルピス一向。自分達の前に街を出た者達が、騎馬の一団と相対している様子を遠くから確認した。
「何やら……不穏な感じですね」
部下の一人が呟く。しかしルピスは笑いながら答える。
「ま、俺達には関係ない」
そうしてその場を離れようとしたその時「……ん?」とルピスは何かに気付いた。
「あの男……」
「ルピス様、何か?」
「いや……そうだ、間違いない。あの男だ……」
「お知り合いでもおりましたか?」
「知り合いなど……恐らくは敵だ。だが、あの男のお陰でリアンセ様をお助け出来た」
「では、エリノスで?」
「ああ……」
そう答えるとしばし考え込むルピス。そして歩き出す。
「お前達は先に行ってくれ」
ルピスの指示に驚く部下達。
「ルピス様……助太刀に?」
「ああ。受けた恩は返さんとな。しかし……とんだ貧乏クジだ、あの灰色のローブ……出来ればやり合いたくはないな」
大きな鉄門はガッチリと閉じており、付近には街の衛兵が集結。バルファ北門は物々しい雰囲気に包まれていた。
バルファは国境に程近い街だ。隣接するエラグ王国とベーゼント共和国の仲はあまりよろしくない。となると必然的に街の防備は厳重になる。バルファは街の周りを高い城壁が取り囲む守りの固い街である。
そんな北門を少し離れた所から眺める一同。ユーノルはおもむろに懐から小さな革袋を取り出すと、その袋を顔の横辺りまで持ち上げて軽く揺らす。チャリチャリ、と音の鳴る袋。どうやら中には金が入っているようだ。そしてその革袋を開き皆の前に差し出した。
「いくらでもいいぞ、入れてくれ」
「……ま、しょうがねぇか」
ブロスはポケットに手を突っ込むと、何枚かの金貨や銀貨をユーノルが差し出した革袋に入れる。他のメンバーもごそごそと金を用意し始める。
「どういう事?」
俺は意味が分からずユーノルに聞いた。するとユーノルは「握らせるんだよ」と返答。あぁ、なるほど。衛兵に渡して便宜を図ってもらう、つまりは賄賂だ。俺は納得し適当に金貨を袋に入れた。
「てめぇ何でそんなに金持ってやがんだ?」
それを見ていたブロスが不思議そうに尋ねてきた。これは俺の金じゃない、レイシィの金だ。好きに使っていいと言われていた為、レイシィの家から持ち出していたのだ。しかし実際に金を使う機会は少ない。エス・エリテでもそうだった、始まりの家でもそう、寝床も食事も付いているのだ。たまに外で食べる時に使うくらいか? なので金は結構余っている。まぁレイシィの金だが。お師匠、感謝。
パンパンになった革袋。「さて……」と言いながらユーノルはキョロキョロとターゲットを探す。「あいつらがいいな」と呟くとゆっくり歩き出す。ユーノルが目を付けたのは、門から一番離れた場所でたむろしている数人の衛兵達。しゃがみ込んだりあくびしたりと、明らかに不真面目なその様子から、ユーノルは勝算ありと踏んだのだろう。
「なぁ隊長さん」
ユーノルは衛兵達に近付くと、その輪の中心に立っている衛兵に声を掛ける。
「隊長? 何を言っている?」
衛兵は眉をひそめる。
「あれ? 違うのかい? 何か貫禄あるからてっきり隊長さんかと思ったよ」
「ハハハ、隊長は向こうだよ」
笑いながらな門の方を指差す衛兵。まんざらでもなさそうな感じだ。
「ああ、いやいや……あんたでいいよ。あのさ、街の外に出たいんだけど……門はいつ開くんだい?」
ユーノルの問いに顔を見合わせる衛兵達。そして皆で笑いだした。
「門は開かないよ、開けられない」
「どうして?」
「敵が攻めて来るからだ」
「敵って……参ったなぁ……」
下を向き頭を掻くユーノル。
「何だあんたら、外に出たいのか? 残念だったな、取り敢えず今日は無理だ、諦めな」
「そこを何とか……ならないもんかなぁ?」
「おいおい、無茶言うなよ。これは市長の指示だ、例え隊長だって勝手には開けられない」
「どうしても今日中に出発しなきゃならないんだ! 何とかしてくれよ!」
「……しつこいな、無理だってんだ!」
「これで……どうにかならないか?」
そう言いながらユーノルは金がパンパンに入った革袋を衛兵に手渡す。衛兵は革袋を開き中を見るとすぐに袋を閉じる。そして他の衛兵達と何やら小声で話し始めた。役人に金を渡し便宜を図ってもらう。これは買収だ。誠実で真面目な衛兵が相手ならば、その提案だけで捕縛の対象となるかも知れない。
「こっちだ、来い。騒がず静かに、普通にしろ」
そう言うと衛兵は歩き出す。どうやらユーノルの勝ちだ。城壁沿いに少し歩くと小さな小屋が見えてきた。衛兵は小屋の扉に手を当てて解錠する。魔法の鍵が掛けられているようだ。
「灯りの魔法石は持ってるか? あるなら中に入ったら点けてくれ」
小屋の中は真っ暗だ。ユーノルは腰に提げている灯りの魔法石を灯す。すると部屋の奥にもう一つの扉。衛兵は解錠し扉を開ける。扉の奥は地下へと続いていた。
「最後の者は扉を閉めてくれ」
衛兵を先頭に俺達は地下へ降りる。その先は細く長い通路。じめじめとしていて不快、変な虫やら何やらが潜んでいてもおかしくない感じだ。
通路を進むと正面に鉄扉が見えてきた。衛兵はその鉄扉を開ける。
「全員出たらすぐに閉める。もう戻れないぞ?」
衛兵の問い掛けにユーノルは「恩に着る」と短く答える。扉を出るとそこは街の外だった。ギギギ……ガチャン、と扉が閉まる。
「ふぅ……何とかなったな。よし、行こう」
ユーノルは安堵のため息をつき歩き出した。このような城壁には大抵緊急用に抜け道がある。衛兵ならば知っているはずだと、ユーノルはそう考えたのだ。そして無事に街の外へ出る事が出来た。しかし俺達は気付かなかった、街の中で遠巻きにその一部始終を見ていた者達がいた事を。
◇◇◇
「ルピス様、あれを……」
「ああ、分かっている。全く間抜けな話だ。あんな簡単な発想、誰の頭にも浮かばなかったんだからな。そう言えば……リアンセ様にも言われた事があったな、頭が固いとか何とか……」
衛兵に連れられ小屋の中へ入る一向。それを見ていたルピスは話しながら苦笑いする。部下達は早速金をまとめ始めた。
「とにかくすぐに出るぞ、このまま待っていてもいつ門が開くか分からないからな。北で梟も待っているだろう」
◇◇◇
(これでいつもよりいい酒が飲めるな……)
街の中に戻ってきた衛兵。仲間達の下へ行こうと歩き出す。が、
「そこから出られるんだな」
不意に声を掛けられた。後ろを見ると数人の男達が立っている。
(見られていたのか!? クソッ……どうする……?)
険しい表情で男達を睨む衛兵。適当な理由を付けて捕縛するか、いや……いっそこの場で始末するか……衛兵が仲間を呼ぼうとしたその時、
「待ってくれ、別にあんたをどうこうしようなんて考えてないよ」
先頭の男が話ながら近付いてくる。衛兵は腰の剣に手を掛ける。
「……じゃあ、何だ?」
衛兵は警戒を緩めずに問う。腰の剣、柄を握る手に力が入る。そんな衛兵とは対照的に、男は軽く笑みを浮かべながら懐から革袋を取り出し衛兵に向け差し出す。
「これで俺達も外に出してくれ、さっきの連中みたいにな」
◇◇◇
「ねぇユーノル、馬はどこに?」
「あの丘を越えた先に林があってな、奥に小川が流れてる。そこで……」
ライエの質問にユーノルが答えている最中、ドドド、ドドド、と複数の蹄の音が響いてきた。それに気付いたブロスは周囲を見回す。しかし身を隠せそうな所はない。
「チィ、油断した……」
ブロスがそう呟いた直後、前方の丘の上に突然騎馬の一団が現れた。道は登りで丘の向こう側は見えなかった為、その接近に気付かなかったのだ。
騎馬の一団はゆっくりと坂を下ってくる。そして前方で立ち尽くしている者達を確認しその脚を止める。灰色のローブに身を包んだ先頭の男は、驚いたような表情で呟いた。
「……ブロスか? それに……ライエ、デーム……」
(クソッ……クソックソッ、最悪だ……迂闊だった……)
ブロスは激しく後悔した。無事に街の外に出られ、馬も比較的近くに用意してあるという事から、本人も気付かぬ内に警戒が緩くなってしまっていたのだ。
「こんな所で何をしている!」
「いよぅアイロウ……久々だなぁ……そっちこそ、こんな時間にこんな所まで、夜のピクニックかぁ? 今日はいい月が出てるからなぁ」
「聞いているのはこっちだ。何をしている?」
「別に何も? たまたま、偶然だ」
「こんな場所で偶然な訳はないだろう。バルファで何をしていた? いや、テグザと何を話してきた?」
「おいおい、そりゃ深読みしすぎだ。アイツらは敵だぜ? 何で仲良くする必要がある?」
「どうだかな……とにかく、見過ごす事は出来ない」
そう言いながらアイロウは馬を降りる。すると他の隊員達も次々と下馬し始める。
「お前が俺の立場だったら、同じ行動を取るだろう?」
アイロウは腕を組みブロスの正面に仁王立ちする。
「何だよ、お前らこそテグザに用があるんだろ? こんな所で油売ってる場合か? 早く行ってやらねぇと、テグザの野郎待ちくたびれて寝ちまうぜ?」
「要らぬ心配だ、時間は掛けない」
「自信満々ってか、くそったれめ……クソ魔ぁ、出し惜しみなしだ、全力でやれ。ライエ、お前は後方だ。治癒魔法使えんのはお前しかいねぇ、お前に何かあったら立て直し出来なくなる。ユーノル、諜報部の連中は戦えんのか?」
「多少な。だが当てにするなよ」
「ああ、戦えるだけありがてぇ……」
ゆっくりとこちらに向かい歩を進めるアイロウ。息が詰まりそうな圧迫感、肌がピリピリとする感じ、皆の緊張感も痛いくらいに伝わってくる。気圧されているのだ、強者の圧に。
◇◇◇
「あれは……さっきの連中か?」
街道を外れ草むらの中を歩いていたルピス一向。自分達の前に街を出た者達が、騎馬の一団と相対している様子を遠くから確認した。
「何やら……不穏な感じですね」
部下の一人が呟く。しかしルピスは笑いながら答える。
「ま、俺達には関係ない」
そうしてその場を離れようとしたその時「……ん?」とルピスは何かに気付いた。
「あの男……」
「ルピス様、何か?」
「いや……そうだ、間違いない。あの男だ……」
「お知り合いでもおりましたか?」
「知り合いなど……恐らくは敵だ。だが、あの男のお陰でリアンセ様をお助け出来た」
「では、エリノスで?」
「ああ……」
そう答えるとしばし考え込むルピス。そして歩き出す。
「お前達は先に行ってくれ」
ルピスの指示に驚く部下達。
「ルピス様……助太刀に?」
「ああ。受けた恩は返さんとな。しかし……とんだ貧乏クジだ、あの灰色のローブ……出来ればやり合いたくはないな」
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
見よう見まねで生産チート
立風人(りふと)
ファンタジー
(※サムネの武器が登場します)
ある日、死神のミスにより死んでしまった青年。
神からのお詫びと救済を兼ねて剣と魔法の世界へ行けることに。
もの作りが好きな彼は生産チートをもらい異世界へ
楽しくも忙しく過ごす冒険者 兼 職人 兼 〇〇な主人公とその愉快な仲間たちのお話。
※基本的に主人公視点で進んでいきます。
※趣味作品ですので不定期投稿となります。
コメント、評価、誤字報告の方をよろしくお願いします。
異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました
ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが……
なろう、カクヨムでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる