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3章 裏切りのジョーカー編 第2部 外道達の宴
120. テグザの仕掛け
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道の両側には高い山がそびえる。ある所では崖に面し、またある所では深い森の中を行く。道幅は狭く荒れており、登りや下りを繰り返す区間もあって歩きにくい。おまけに死角が多く山賊や盗賊の類いが身を潜めやすい危険な街道。
龍の背。
そう呼ばれるこの街道の歴史は古く、大陸東側から中央南に位置するベーゼント共和国へと抜ける近道として知られる。しかし上記の理由でこの街道を利用する者は少ない。
その狭く危険な街道をひた走る騎馬の一団。
先頭の男は灰色のローブと長めの黒髪をなびかせ、荒れた道を巧みな手綱捌きで駆け抜けて行く。後に続く者達もそのスピードに遅れる事なくピッタリとつき従う。その様子は練度の高さを窺わせ、そしてそれは同時に手強い集団なのだろう、との想像を容易にさせる。途中に隠れていた盗賊の一団が、通り掛かった彼らに手を出さなかったのは正解だ。手を出そうものならたちまち死体の山となっていただろう。彼らは傭兵団ジョーカーの番号付き、ジョーカー最強と言われるアイロウ率いる六番隊だ。
「そろそろ抜けるぞ!」
先頭を走るアイロウがそう叫ぶと、間もなく視界が開けた。龍の背を抜けたのだ。しかしアイロウはすぐに馬の脚を緩める。六番隊の前方にはその行く手を阻むように別の一団が待ち受けていた。
「アイロウ! 随分と急ぎの様子だな、どこ行くんだぁ?」
その一団の中央、テグザは腕を組みうっすらと笑いながらアイロウに相対する。
「バルファに遊びに行こうと思ってたんだが、支部長自らの出迎えとは痛み入る」
馬を降り二、三歩進み出てテグザの正面に立つアイロウ。テグザとは対照的にアイロウに笑みはない。
「遊びにぃ? 壊しに、の間違いじゃないのか?」
「同じ事だろ?」
アイロウは話しながらテグザとの距離を詰める。六番隊の隊員達も次々と下馬しその時に備える。
(おい)
テグザは小声で隣にいる部下に呼び掛ける。
(上手く立ち回れよ、俺よりお前らの動きの方が重要だ)
(分かってる、任せてくれ)
部下も小声で返す。
「相談は済んだのか?」
そのやり取りを見ていたアイロウは、コツ、コツ、とブーツを鳴らし、ゆっくりと前へ進みながらようやく少しだけ笑みを浮かべる。
「ああ。大事なゲストだからな、もてなしの段取りは必要だろ?」
テグザも同様に前へ進み出る。両者の距離は三メートル程、アイロウが更に一歩踏み出した所で、突然その時は来た。
シュン
アイロウは右手を前へ突き出し魔弾を射出。テグザは両手を後ろへ回すと腰の辺りに提げている二本のナイフに手を掛ける。そして抜くと同時に逆手で持った左手のナイフでアイロウの魔弾を狙う。
パシィィィ……
ナイフに触れた瞬間、魔弾は弾け飛んだ。アイロウは後ろへ下がり距離を取る。
「それが反魔刀……魔導師斬りの所以か……」
「さすがは最強魔導師だ、自身の驚異になりそうなもんは勉強済みか。でも魔導師斬り、ってのはあんまりいただけねぇな。もっと格好いい二つ名はないもんかねぇ」
反魔刀。テグザの持つ二本のナイフの名だ。テグザは魔法が苦手だった。人より多めの魔力を保有しているが、その魔力をコントロールする能力が著しく低い。それでも修練を続けていれば、人並みくらいには魔法を扱えるようになっていたかも知れない。しかしテグザはスッパリと魔法を諦め、他の部分を伸ばそうと方針を転換した。それがナイフだ。元々身のこなしが軽く人より素早く動けたテグザは、取り回しがしやすいナイフを二刀で振るう攻撃方法を選んだ。近距離で殴り合いをするかのごとく連続で斬り付ける。これは素早く動き回るテグザのスタイルに合っていた。誰に師事する訳でもなく独学でナイフの扱いを覚え、メキメキとその腕前を上げた。
しかし、やがて自身に眠る魔力を活用出来ないかと考えるようになる。ただ眠らせておくのは勿体ない、そう思ったからだ。ちょうどその時期にとある刀剣専門の魔具師の存在を知り、その魔具師の下を訪れ武器の作製を依頼する。そうして完成したのが二本の反魔刀だ。
手にした反魔刀に魔力を流す事で、刃を包み込むように幾重にも重なった魔力の帯を発生させる。その魔力の帯は周りの魔力を打ち消す特性を持つ。そう、それは魔力シールドと同じ効果を持つのだ。ナイフを振るい自身へ迫る魔弾を弾き、そしてそのまま攻撃に移る。攻防一体の戦い方で多くの魔導師を屠ってきたテグザは、一部では魔導師斬りの異名で呼ばれている。
「「「 うおぉぉぉぉ! 」」」
二人の交錯を合図にそれぞれの部下達も戦いを始める。街道周辺はたちまち戦場となった。
シュンシュンシュン……
連続で魔弾を飛ばすアイロウ。テグザは巧みに左右の反魔刀を操り、飛んでくる魔弾を叩き落とすように弾いて行く。
(ふん、器用だな……これはどうだ)
魔弾を飛ばし続けるアイロウは、徐々に魔弾のサイズを大きくして行く。当然サイズに比例して威力も上がる。かすりでもすれば大事になるレベルの強力な魔弾だ。しかしテグザは構う事なく魔弾を弾き、時にかわしながらアイロウとの距離を詰めて行く。
(これも防ぐか……なら……)
と、アイロウが次の攻撃に移ろうとしたその時、テグザは思い切り地面を蹴りつけ、グンッ! と加速。一気にアイロウの懐に飛び込んだ。
(な!!)
驚くアイロウ。テグザはニヤつきながら言う。
「様子見のつもりか? そりゃナメ過ぎだ!」
突き、斬り上げ、蹴り、斬り下ろし……とテグザの連続攻撃。アイロウは後ろに下がりながらそれらの攻撃をかわす。と、回転しながら後ろ手での突き。逆手に持った反魔刀が左から迫る。
「チッ……」
そのあまりの速い攻撃にかわせないと判断したアイロウ。小さく舌打ちをすると左腰に提げている短剣を左手で握り、スッと上へ引き抜く。
キィィィン!
響き渡る金属音。テグザの反魔刀はアイロウが引き抜いた短剣の剣身、その側面に当たり弾かれた。シュ、と後ろへ飛び距離を空けるテグザ。
「それ抜いたとこ初めて見たぜ。飾りじゃなかったんだなぁ?」
ニヤニヤとしながら話すテグザ。体勢を整えスッと構え直す。
「必要な時には抜くさ。まぁ大抵はその必要がないがな」
硬い表情のまま話すアイロウ。短剣を再び鞘に納める。テグザはチラリと部下達の戦いを確認する。
(まだ掛かる……か)
テグザは構えを解いた。そしておもむろにアイロウに話し掛ける。
「そりゃ光栄だ、俺はお眼鏡に叶った訳か。そういやエクスウェルは元気かぁ? しばらく会ってねぇなぁ」
「…………」
「ん? どうした、話すくらいいいだろ?」
アイロウは警戒を解かず、しかし話には乗る事にした。テグザという男に若干の興味があったからだ。アイロウがエクスウェルにつき従うようになった頃には、すでにテグザはエクスウェルの下を離れていた。噂は散々聞いていた。悪い噂だ。元団長の右腕、果たして……
「……団長は嘆いていた、テグザはいつまであのままだ? ってな」
「あのまま、ってなどういう事だぁ?」
「いつまで無駄な殺しを続けるんだ、って事だ。相変わらず女をいたぶってるんだろ?」
「ほぅ、こりゃ驚いた。殺した人間の数はエクスウェルの方が圧倒的に多いはずなんだがなぁ、そんな小言を言われるとは思わなかったぜ」
「無駄な殺し、と言っている」
「じゃあ何だ? エクスウェルの殺しには意味があると? 街に火ぃ放って住人を皆殺ししたのにも意味があるってのか?」
エミンの大虐殺。エクスウェルが過去に起こした事件の一つだ。
「無論だ。街に隠れている賊を炙り出す為に……」
「フ、フハハ……アァッハハハァ!」
アイロウの言葉を遮るようにテグザは大声で笑い出す。
「おいおいおい、本気か、アイロウ? お前本気であれに意味があるなんて思ってんのか? どれだけ忠実な犬なんだよ、あんなもんに意味なんてある訳ねぇだろ? ありゃあ領主にコケにされてムカついたからやったんだ、反射的にな」
「貴様と一緒にするな! 気分で殺しをする貴様とは……断じて違う!」
「別に気分で殺してる訳じゃねぇぜ? 俺が俺である為に必要な儀式みたいなもんだ。適度にガス抜きしとかねぇと周りの連中を見境なく殺っちまうからな。有能な部下を失いたくはねぇ」
「異常者め……!」
「それは心外。でもなぁ、俺からすりゃあエクスウェルの方が異常者だがなぁ。エミンに火ぃ放って街中皆殺しだ、つって……あの指示を聞いた時は震えたぜ。ああ、こいつは本物だ、本物の悪党だ……ってな。ヤツに従ってあちこち荒らし回ったが、あの時程興奮した事はねぇ……」
不気味な笑みを浮かべるテグザ。強烈な不快感を感じるアイロウ。話すべきではなかった。噂通りの男、こいつはエクスウェルの汚点だ。怒りが沸いてくる。
「虫酸が走る……殺してやる!」
「ハッ! やってみな?」
◇◇◇
ブン!
宙を斬る剣。六番隊の隊員はテグザの部下の攻撃をかわす。そして右手を前に出し至近距離から魔弾を放つ。が……
「!! 何だ!? 魔法が……」
「ハッハァ!」
魔法が使えない。テグザの部下は六番隊の隊員の胸に剣を突き立てる。剣を引き抜くと同時に隊員は地面に崩れ落ちた。
「おい! 本当に効いてるぜ、この魔宝石! 魔法を封じ込めるなんて嘘くせぇと思ったが……こりゃ使えるぜ!」
テグザの部下は興奮気味に横にいた仲間に話す。テグザはここに来る前、何人かの部下に魔法石を渡していた。先日商人を自称する者から買い取った魔法を封じる効果があるという魔法石だ。
「そりゃよかった。でも気ぃ抜くな、怪我しても治せねぇ。治癒魔法も弾いちまうからな」
「分かってる! なぁ、そろそろじゃねぇか? いい感じに六番隊の連中、一塊に集まって来たぜ?」
「ああ。いい頃合いだ。だが……何で挟撃部隊は来ねぇんだ? もう始まっちまう……」
テグザの部下達は戦いながら六番隊の隊員達を誘導しタイミングを計っていた。テグザの仕掛けが発動するタイミングだ。
◇◇◇
「チィッ!」
連続で射出されるアイロウの凶悪な魔弾。ビュンビュンと音を鳴らしながら迫る。テグザは左へかわそうと右足で地面を蹴る。が、その魔弾はテグザの目の前で二つに割れた。
(何!)
更にその魔弾は軌道を変えてテグザの足元に落ちる。ちょうどテグザが左足を下ろそうとしていた地面の辺りだ。咄嗟にテグザはそれより手前に強引に着地、魔弾はボン! と地面で炸裂する。バランスを崩しながら辛くもテグザは魔弾の直撃を免れた。しかし戦況は思わしくない。正直に言えば劣勢だ。
(キツくなってきやがった……)
連続で射出される魔弾の弾幕で迂闊には近付けず、間合いを詰めた所でこちらの攻撃はことごとくかわされ、場合によってはカウンターを食らいそうになる。アイロウはほぼ完璧にテグザを押さえ込んでいた。
(これだけ手数の多い魔導師は初めてだ。しかもムカつく事にまだ魔弾しか使ってやがらねぇ。ふぅ……こりゃ強ぇわ。だが……)
再び部下達の戦いぶりを気にするテグザ。先程から度々見せるその様子にアイロウは違和感を覚えていた。
「何だ、そんなに部下が気になるか? だったら手を貸しに行ったらどうだ?」
「ああ、済まねぇな、気になったか? だがまぁ、そろそろかなぁ……」
「何がそろそろ……」
その時、アイロウは気付いた。戦いながら随分と部下達が戦っている場所から離れてしまった事を。それに気付いた瞬間、しまった、と思った。これは意図して場所を移動されられたのだ、嵌められたのではないか、と。そしてその懸念は現実のものとなる。
「伏せろぉぉぉぉぉ!!」
突如戦場に響き渡る声。その声を合図にテグザの部下達は一斉にその場で身を低くする。
(何だ? 一体何が……)
アイロウは辺りを見回す。六番隊の隊員達も突然の事で対応しきれず、その場に立ち尽くしている。次の瞬間、
ビュンビュンビュンビュン……
街道両脇の森の中から飛んできたのは無数の矢。不意を突かれ無防備な状態の六番隊の隊員達を次々と襲う。
ドッドッドッドスドスドス……
「ガハッ!」
「ウッ……」
「グゥッ」
「何だと!!」
驚きの声を上げるアイロウ。森の中から姿を現したのは揃いの装備で身を固めた集団。
「あの鎧は、ベーゼント兵か……!」
歯噛みするアイロウとは対照的に大声で笑うテグザ。
「ハッハハハァ! アイロウ、確かにお前は強ぇ。実際にやり合ってよく分かったぜ。ジョーカー最強? そうかもなぁ。だが強いのはあくまでお前だけだ、六番隊が強ぇ訳じゃねぇ! 言っただろ? 大事なゲストだ、しっかりもてなさねぇとなぁ!」
龍の背。
そう呼ばれるこの街道の歴史は古く、大陸東側から中央南に位置するベーゼント共和国へと抜ける近道として知られる。しかし上記の理由でこの街道を利用する者は少ない。
その狭く危険な街道をひた走る騎馬の一団。
先頭の男は灰色のローブと長めの黒髪をなびかせ、荒れた道を巧みな手綱捌きで駆け抜けて行く。後に続く者達もそのスピードに遅れる事なくピッタリとつき従う。その様子は練度の高さを窺わせ、そしてそれは同時に手強い集団なのだろう、との想像を容易にさせる。途中に隠れていた盗賊の一団が、通り掛かった彼らに手を出さなかったのは正解だ。手を出そうものならたちまち死体の山となっていただろう。彼らは傭兵団ジョーカーの番号付き、ジョーカー最強と言われるアイロウ率いる六番隊だ。
「そろそろ抜けるぞ!」
先頭を走るアイロウがそう叫ぶと、間もなく視界が開けた。龍の背を抜けたのだ。しかしアイロウはすぐに馬の脚を緩める。六番隊の前方にはその行く手を阻むように別の一団が待ち受けていた。
「アイロウ! 随分と急ぎの様子だな、どこ行くんだぁ?」
その一団の中央、テグザは腕を組みうっすらと笑いながらアイロウに相対する。
「バルファに遊びに行こうと思ってたんだが、支部長自らの出迎えとは痛み入る」
馬を降り二、三歩進み出てテグザの正面に立つアイロウ。テグザとは対照的にアイロウに笑みはない。
「遊びにぃ? 壊しに、の間違いじゃないのか?」
「同じ事だろ?」
アイロウは話しながらテグザとの距離を詰める。六番隊の隊員達も次々と下馬しその時に備える。
(おい)
テグザは小声で隣にいる部下に呼び掛ける。
(上手く立ち回れよ、俺よりお前らの動きの方が重要だ)
(分かってる、任せてくれ)
部下も小声で返す。
「相談は済んだのか?」
そのやり取りを見ていたアイロウは、コツ、コツ、とブーツを鳴らし、ゆっくりと前へ進みながらようやく少しだけ笑みを浮かべる。
「ああ。大事なゲストだからな、もてなしの段取りは必要だろ?」
テグザも同様に前へ進み出る。両者の距離は三メートル程、アイロウが更に一歩踏み出した所で、突然その時は来た。
シュン
アイロウは右手を前へ突き出し魔弾を射出。テグザは両手を後ろへ回すと腰の辺りに提げている二本のナイフに手を掛ける。そして抜くと同時に逆手で持った左手のナイフでアイロウの魔弾を狙う。
パシィィィ……
ナイフに触れた瞬間、魔弾は弾け飛んだ。アイロウは後ろへ下がり距離を取る。
「それが反魔刀……魔導師斬りの所以か……」
「さすがは最強魔導師だ、自身の驚異になりそうなもんは勉強済みか。でも魔導師斬り、ってのはあんまりいただけねぇな。もっと格好いい二つ名はないもんかねぇ」
反魔刀。テグザの持つ二本のナイフの名だ。テグザは魔法が苦手だった。人より多めの魔力を保有しているが、その魔力をコントロールする能力が著しく低い。それでも修練を続けていれば、人並みくらいには魔法を扱えるようになっていたかも知れない。しかしテグザはスッパリと魔法を諦め、他の部分を伸ばそうと方針を転換した。それがナイフだ。元々身のこなしが軽く人より素早く動けたテグザは、取り回しがしやすいナイフを二刀で振るう攻撃方法を選んだ。近距離で殴り合いをするかのごとく連続で斬り付ける。これは素早く動き回るテグザのスタイルに合っていた。誰に師事する訳でもなく独学でナイフの扱いを覚え、メキメキとその腕前を上げた。
しかし、やがて自身に眠る魔力を活用出来ないかと考えるようになる。ただ眠らせておくのは勿体ない、そう思ったからだ。ちょうどその時期にとある刀剣専門の魔具師の存在を知り、その魔具師の下を訪れ武器の作製を依頼する。そうして完成したのが二本の反魔刀だ。
手にした反魔刀に魔力を流す事で、刃を包み込むように幾重にも重なった魔力の帯を発生させる。その魔力の帯は周りの魔力を打ち消す特性を持つ。そう、それは魔力シールドと同じ効果を持つのだ。ナイフを振るい自身へ迫る魔弾を弾き、そしてそのまま攻撃に移る。攻防一体の戦い方で多くの魔導師を屠ってきたテグザは、一部では魔導師斬りの異名で呼ばれている。
「「「 うおぉぉぉぉ! 」」」
二人の交錯を合図にそれぞれの部下達も戦いを始める。街道周辺はたちまち戦場となった。
シュンシュンシュン……
連続で魔弾を飛ばすアイロウ。テグザは巧みに左右の反魔刀を操り、飛んでくる魔弾を叩き落とすように弾いて行く。
(ふん、器用だな……これはどうだ)
魔弾を飛ばし続けるアイロウは、徐々に魔弾のサイズを大きくして行く。当然サイズに比例して威力も上がる。かすりでもすれば大事になるレベルの強力な魔弾だ。しかしテグザは構う事なく魔弾を弾き、時にかわしながらアイロウとの距離を詰めて行く。
(これも防ぐか……なら……)
と、アイロウが次の攻撃に移ろうとしたその時、テグザは思い切り地面を蹴りつけ、グンッ! と加速。一気にアイロウの懐に飛び込んだ。
(な!!)
驚くアイロウ。テグザはニヤつきながら言う。
「様子見のつもりか? そりゃナメ過ぎだ!」
突き、斬り上げ、蹴り、斬り下ろし……とテグザの連続攻撃。アイロウは後ろに下がりながらそれらの攻撃をかわす。と、回転しながら後ろ手での突き。逆手に持った反魔刀が左から迫る。
「チッ……」
そのあまりの速い攻撃にかわせないと判断したアイロウ。小さく舌打ちをすると左腰に提げている短剣を左手で握り、スッと上へ引き抜く。
キィィィン!
響き渡る金属音。テグザの反魔刀はアイロウが引き抜いた短剣の剣身、その側面に当たり弾かれた。シュ、と後ろへ飛び距離を空けるテグザ。
「それ抜いたとこ初めて見たぜ。飾りじゃなかったんだなぁ?」
ニヤニヤとしながら話すテグザ。体勢を整えスッと構え直す。
「必要な時には抜くさ。まぁ大抵はその必要がないがな」
硬い表情のまま話すアイロウ。短剣を再び鞘に納める。テグザはチラリと部下達の戦いを確認する。
(まだ掛かる……か)
テグザは構えを解いた。そしておもむろにアイロウに話し掛ける。
「そりゃ光栄だ、俺はお眼鏡に叶った訳か。そういやエクスウェルは元気かぁ? しばらく会ってねぇなぁ」
「…………」
「ん? どうした、話すくらいいいだろ?」
アイロウは警戒を解かず、しかし話には乗る事にした。テグザという男に若干の興味があったからだ。アイロウがエクスウェルにつき従うようになった頃には、すでにテグザはエクスウェルの下を離れていた。噂は散々聞いていた。悪い噂だ。元団長の右腕、果たして……
「……団長は嘆いていた、テグザはいつまであのままだ? ってな」
「あのまま、ってなどういう事だぁ?」
「いつまで無駄な殺しを続けるんだ、って事だ。相変わらず女をいたぶってるんだろ?」
「ほぅ、こりゃ驚いた。殺した人間の数はエクスウェルの方が圧倒的に多いはずなんだがなぁ、そんな小言を言われるとは思わなかったぜ」
「無駄な殺し、と言っている」
「じゃあ何だ? エクスウェルの殺しには意味があると? 街に火ぃ放って住人を皆殺ししたのにも意味があるってのか?」
エミンの大虐殺。エクスウェルが過去に起こした事件の一つだ。
「無論だ。街に隠れている賊を炙り出す為に……」
「フ、フハハ……アァッハハハァ!」
アイロウの言葉を遮るようにテグザは大声で笑い出す。
「おいおいおい、本気か、アイロウ? お前本気であれに意味があるなんて思ってんのか? どれだけ忠実な犬なんだよ、あんなもんに意味なんてある訳ねぇだろ? ありゃあ領主にコケにされてムカついたからやったんだ、反射的にな」
「貴様と一緒にするな! 気分で殺しをする貴様とは……断じて違う!」
「別に気分で殺してる訳じゃねぇぜ? 俺が俺である為に必要な儀式みたいなもんだ。適度にガス抜きしとかねぇと周りの連中を見境なく殺っちまうからな。有能な部下を失いたくはねぇ」
「異常者め……!」
「それは心外。でもなぁ、俺からすりゃあエクスウェルの方が異常者だがなぁ。エミンに火ぃ放って街中皆殺しだ、つって……あの指示を聞いた時は震えたぜ。ああ、こいつは本物だ、本物の悪党だ……ってな。ヤツに従ってあちこち荒らし回ったが、あの時程興奮した事はねぇ……」
不気味な笑みを浮かべるテグザ。強烈な不快感を感じるアイロウ。話すべきではなかった。噂通りの男、こいつはエクスウェルの汚点だ。怒りが沸いてくる。
「虫酸が走る……殺してやる!」
「ハッ! やってみな?」
◇◇◇
ブン!
宙を斬る剣。六番隊の隊員はテグザの部下の攻撃をかわす。そして右手を前に出し至近距離から魔弾を放つ。が……
「!! 何だ!? 魔法が……」
「ハッハァ!」
魔法が使えない。テグザの部下は六番隊の隊員の胸に剣を突き立てる。剣を引き抜くと同時に隊員は地面に崩れ落ちた。
「おい! 本当に効いてるぜ、この魔宝石! 魔法を封じ込めるなんて嘘くせぇと思ったが……こりゃ使えるぜ!」
テグザの部下は興奮気味に横にいた仲間に話す。テグザはここに来る前、何人かの部下に魔法石を渡していた。先日商人を自称する者から買い取った魔法を封じる効果があるという魔法石だ。
「そりゃよかった。でも気ぃ抜くな、怪我しても治せねぇ。治癒魔法も弾いちまうからな」
「分かってる! なぁ、そろそろじゃねぇか? いい感じに六番隊の連中、一塊に集まって来たぜ?」
「ああ。いい頃合いだ。だが……何で挟撃部隊は来ねぇんだ? もう始まっちまう……」
テグザの部下達は戦いながら六番隊の隊員達を誘導しタイミングを計っていた。テグザの仕掛けが発動するタイミングだ。
◇◇◇
「チィッ!」
連続で射出されるアイロウの凶悪な魔弾。ビュンビュンと音を鳴らしながら迫る。テグザは左へかわそうと右足で地面を蹴る。が、その魔弾はテグザの目の前で二つに割れた。
(何!)
更にその魔弾は軌道を変えてテグザの足元に落ちる。ちょうどテグザが左足を下ろそうとしていた地面の辺りだ。咄嗟にテグザはそれより手前に強引に着地、魔弾はボン! と地面で炸裂する。バランスを崩しながら辛くもテグザは魔弾の直撃を免れた。しかし戦況は思わしくない。正直に言えば劣勢だ。
(キツくなってきやがった……)
連続で射出される魔弾の弾幕で迂闊には近付けず、間合いを詰めた所でこちらの攻撃はことごとくかわされ、場合によってはカウンターを食らいそうになる。アイロウはほぼ完璧にテグザを押さえ込んでいた。
(これだけ手数の多い魔導師は初めてだ。しかもムカつく事にまだ魔弾しか使ってやがらねぇ。ふぅ……こりゃ強ぇわ。だが……)
再び部下達の戦いぶりを気にするテグザ。先程から度々見せるその様子にアイロウは違和感を覚えていた。
「何だ、そんなに部下が気になるか? だったら手を貸しに行ったらどうだ?」
「ああ、済まねぇな、気になったか? だがまぁ、そろそろかなぁ……」
「何がそろそろ……」
その時、アイロウは気付いた。戦いながら随分と部下達が戦っている場所から離れてしまった事を。それに気付いた瞬間、しまった、と思った。これは意図して場所を移動されられたのだ、嵌められたのではないか、と。そしてその懸念は現実のものとなる。
「伏せろぉぉぉぉぉ!!」
突如戦場に響き渡る声。その声を合図にテグザの部下達は一斉にその場で身を低くする。
(何だ? 一体何が……)
アイロウは辺りを見回す。六番隊の隊員達も突然の事で対応しきれず、その場に立ち尽くしている。次の瞬間、
ビュンビュンビュンビュン……
街道両脇の森の中から飛んできたのは無数の矢。不意を突かれ無防備な状態の六番隊の隊員達を次々と襲う。
ドッドッドッドスドスドス……
「ガハッ!」
「ウッ……」
「グゥッ」
「何だと!!」
驚きの声を上げるアイロウ。森の中から姿を現したのは揃いの装備で身を固めた集団。
「あの鎧は、ベーゼント兵か……!」
歯噛みするアイロウとは対照的に大声で笑うテグザ。
「ハッハハハァ! アイロウ、確かにお前は強ぇ。実際にやり合ってよく分かったぜ。ジョーカー最強? そうかもなぁ。だが強いのはあくまでお前だけだ、六番隊が強ぇ訳じゃねぇ! 言っただろ? 大事なゲストだ、しっかりもてなさねぇとなぁ!」
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ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
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