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3章 裏切りのジョーカー編 第1部 西の兄弟
87. クラフの焦燥
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「左奥から……三つ目って……ここかぁ?」
ギギギギ、とブロスは大きな扉を開けながら中を覗き込む。すると首元にススッ、と左右から剣が伸びてくる。
「おいおい、慌てんなよお前ら、俺だ。皆は?」
「ああ、皆来てる。お前が最後だ。ひとまずゆっくり休めよ」
見張りの団員は剣を納めながら奥を指差す。広く、しかし見事な程に何もない真っ暗な建物内、奥にはもう一つ大きな扉が。ブロスはその扉を開ける。
「よう、待たせた」
「ブロス! 無事で良かったわ。首尾は?」
エイナはガタッ、とイスから立ち上がりブロスを迎える。扉の奥にはアウスレイ支部奇襲部隊のメンバーが揃っていた。
ここはマウル共和国アウスレイより南東に半日程の位置にあるスージという小さな街。かつては鉱山があり小さいながらも活気のある街だったが、閉山してからはすっかりと廃れてしまった印象が強い。そのスージの外れにある倉庫群、その中の一つの倉庫が奇襲部隊の合流地点となっていた。
ちなみに皆がいる奥の部屋には窓がなく、灯りを点けていても外からは分からない為、潜伏するには都合が良かった。
「ああ、きっちり宣戦布告してきたぜ。あのまま引き上げたんじゃ、どこの誰が仕掛けたか分からねぇからな。しかし、よくこんな所用意出来たなぁ?」
ブロスは羽織っていたローブを脱ぎ、その辺のイスにポイッと放る。
「ここはうちのスポンサーの所有物なの」
「スポンサー? そんなのいたのか?」
「当然でしょ、依頼の報酬だけでこんな規模の組織、維持出来る訳ないわ。この街が鉱山で賑わっていた頃、その鉱山で一財産築いた実業家の倉庫よ」
「ほぉ~、今は昔ってか。鉱山が閉まっちまったら確かに、こんな倉庫使い道なんてねぇわなぁ。それよかよ……おい、クソ魔ぁ!」
「……」
「どこだぁ、クソ魔!」
「…………」
「いるじゃねぇか」
(くそ、バレた。早速絡んできやがった……)
ブロスは部屋の隅の丸テーブルにいた俺を見つける。まぁその気持ちも分かる、瓦礫の隕石降らせて皆殺ししそうになった訳だし……聞けば皆無事だったと言うから良かったものの、犠牲者が出ていてもおかしくなかった。当然ブロスだって文句の一つも言いたくなるだろう。
しかしながら、毎度このチンピラにガーガー言われるのもいい加減辟易としている。とは言え当然申し訳なさもある訳で……いや、やっぱりムカつくものはムカつく……と色々考えた末、せめてもの抵抗という事で精一杯のしかめっ面で対応することにした。
「……何?」
「……んだぁ、そのブサイクな面ぁ?」
……一蹴された。
「まぁ、てめぇにゃ言いたい事が色々ある。が、そんな事よりもだ。あの魔法、ありゃ一体何だ? あんなもん見た事も聞いた事もねぇ」
「古代魔法だそうだ」
と、右に座っているカディールが答える。
「古代魔法? 何だそれ?」
「ほら、一千年前の大地震でこの大陸死にかけてるじゃない? その大地震の前に使われていた魔法だよ。今とは比べ物にならないくらい強力な魔法が一杯あったんだって。私達も実際の見るのは初めてだったよ」
と、左に座っているライエが答える。
「ほう、だから魔導師ばっか集まって、こいつに根掘り葉掘り聞いてた訳か」
そう、俺の周りにはこの部隊の魔導師達が自然に集まってきて、しばらく前から、あれは何だ、どうなってるんだ、これはどうだ、こういう事か、と質問攻めにあっていた。特にカディールの食い付きがハンパではない。興味の塊のような人間、と言えば伝わるだろうか? 研究者気質とでも言うか、どこかレイシィと近い匂いすらする。
「ま、古代でも何でもいいんだがよ、あんなえげつねぇ魔法、他にもあんのか?」
「古代魔法はどれもえげつないよ。お師匠……ドクトルは禁術ってカテゴリーに分けてたくらいだし。でも正直、えげつなさ過ぎて使えない魔法だらけでね、今回使った山崩しはその中でもましな方だな」
「ふ~ん……」
と言ってジッ、と俺を見つめるブロス。何だこいつ?
「ま、いいや。お~いエイナ!」
特に何もなく、そのままブロスはエイナの下へ移動する。ホントに何なんだ、アイツは?
◇◇◇
「ん? 来た……来た来た!」
窓に張り付き外を見張っていた団員が声を上げた。
「ホントか!?」
他の団員達も窓に集まる。
「ほら、一騎入った……もう一騎来たぞ」
猛スピードの騎馬が吸い込まれるように入って行くのは、ミラネル王国の西にあるアクチアーム公国西方の街、リジンのジョーカーリジン支部だ。街外れとは言えリジン支部は街中に近い為、周囲の建物から支部の様子を伺う事が出来る。アウスレイ奇襲部隊の別動隊である三名の団員は、リジン支部の正門を眺める事が出来るこの宿に部屋を借り、支部を偵察していた。
「ありゃ間違いなくアウスレイからの伝令だ。奇襲、上手くいったようだな」
「ああ。で、エイナさんの予想だとこの後アルマドに伝令が出て、リジンはガッチガチに守りを固める、と。本当かねぇ?」
「こっちにはバウカー兄弟のイエスマンしかいないらしい。あの兄弟の指示なしに独断で動くとは思えないんだとよ。まぁ、そもそもエイナさんの予想はそうそう外れない、心配すんな。それよりいつでも出られるように、荷物片しとけよ」
しばらくすると、リジン支部に動きが見られた。
「三騎出たぞ! 東方面……始まりの家への伝令だな」
「お~しおし、中はどうだ?」
窓に張り付いている団員は望遠鏡を取り出して覗き込む。僅かに見える支部の敷地内では、どうやら団員達がせわしなく動き始めたようだ。
「ちょっと待って……あ~、なんかバタバタし始めたぞ?」
すると数騎の騎馬が支部から飛び出してきた。
「また出た! 五……六騎か? バラバラに散った……コイツら見張りじゃないか? リジンの周りに散って警戒網敷くんじゃ……?」
「部隊を動かす気ならこんな面倒くせぇ事はしねぇ、さっさと進発するはずだ。て事はあいつら、やっぱり守りを固める気だな。さすがエイナさん、ビンゴだ!」
「ハッ、何だよお前、さっきは疑ってたじゃないか?」
「うるせぇよ! それより俺達も出るぞ、早いとこスージに、エイナさんに伝えに行かねぇと。警戒網敷かれたら街から出れなくなっちまう」
◇◇◇
「どういう事か、分かるように説明しろ!」
「だからアウスレイ支部が破壊されたんですって! ブロスがいたって言うから、ゼルの仕業に間違いないんです! 次はリジンだって……」
「破壊ってなどういう事だ!? アウスレイは……俺のアウスレイはどうなったんだ! 皆は? 生き残りは――」
アルマド、始まりの家。本部棟二階の参謀部の部屋は、現在はバウカー兄弟が酒盛りの為に入り浸る、名ばかりの作戦本部となっていた。リジン支部を出発し、本来五日の道程を四日で駆け抜けてきた伝令は、酒瓶が転がるこの作戦本部でバウカー兄弟にアウスレイ支部の悲劇を説明していた。
「兄貴! 出ようぜ! アウスレイの様子を確認してぇし、リジンもやべぇぞ!」
セイロムはデスクをバンバン叩きながらクラフに出陣するよう促す。
「…………」
が、クラフは無言だ。
「おい! 兄貴!」
罠だ。クラフはそう考えていた。どんな手を使ったかは分からないが、アウスレイを潰し自分達をここから引きずり出そうとしているのではないか、と。
「分かってる! 兄貴、罠だってんだろ? でも、だから何だ? 俺達が動かなきゃ、リジンに残ってる連中は向こうに寝返るぜ? リジンの連中だけじゃねぇ、ここにいる連中だってそうだ。俺達が自分達下の者らを守る気がねぇ、ってのが知れれば、誰も付いてこなくなっちまう。罠だろうが何だろうが、動く以外の選択肢はねぇ。兄貴だって……分かってんだろ?」
しばし無言で考え込んでいたクラフはおもむろに口を開く。
「ゼルは北に行ったままか?」
「ああ、引き返したって報告はねぇよ」
「……だとしたら計算が合わない。どう考えてもな」
「計算?」
「アウスレイを潰したからには、相応の戦力が出てるはずだ。が、百五十のゼルの部隊は北にいる。これはほぼ、ここから逃げた三番、四番隊の数と一致する。じゃ、誰がアウスレイをやった? 連中にそんな余剰戦力があるとは思えない……」
「まさか……南か?」
「かも知れない。南支部がゼルについた……クソッ! 三百五十連れて出るぞ、準備させろ!」
クラフのこの言葉にセイロムは驚いた。
「な……ちょっと待てよ、ほぼ全員じゃねぇか!?」
「南がゼルについたんなら、ここに籠ってちゃ危険だ、その内ここにも南が攻めてくる。俺達より南の方が数が多いからな、包囲されて袋叩きにあう。西へ向かった方が安全だ」
「そ、そうか……なるほどな、さすが兄貴だ!」
「……やはり参謀部は押さえておきたかったな。この忌々しい状況を作り上げたのは間違いなくエイナだ……クソッたれめ!」
「ああ……そうだな、済まない……兄貴、俺が――」
自分がヘマしたせいだ、そう言いかけるセイロムを気遣い、クラフは優しく答える。
「ああ、セイロム。別にお前を責めてる訳じゃない、お前は精一杯やったんだ、そんな顔するな、な? さぁ、準備してきてくれ」
「ああ……行ってくる」
そう言うとセイロムは部屋を出る。一人残ったクラフはガンッ、とデスクを拳で叩く。
(俺が始まりの家を攻めてりゃ、参謀部はおろかゼル達も生かしちゃおかなかった。エクスウェルじゃなく、俺が南の連中と交渉出来てりゃ、南はとっくにこっちについてた。どいつもこいつも……まったく使えねぇ……!)
ギギギギ、とブロスは大きな扉を開けながら中を覗き込む。すると首元にススッ、と左右から剣が伸びてくる。
「おいおい、慌てんなよお前ら、俺だ。皆は?」
「ああ、皆来てる。お前が最後だ。ひとまずゆっくり休めよ」
見張りの団員は剣を納めながら奥を指差す。広く、しかし見事な程に何もない真っ暗な建物内、奥にはもう一つ大きな扉が。ブロスはその扉を開ける。
「よう、待たせた」
「ブロス! 無事で良かったわ。首尾は?」
エイナはガタッ、とイスから立ち上がりブロスを迎える。扉の奥にはアウスレイ支部奇襲部隊のメンバーが揃っていた。
ここはマウル共和国アウスレイより南東に半日程の位置にあるスージという小さな街。かつては鉱山があり小さいながらも活気のある街だったが、閉山してからはすっかりと廃れてしまった印象が強い。そのスージの外れにある倉庫群、その中の一つの倉庫が奇襲部隊の合流地点となっていた。
ちなみに皆がいる奥の部屋には窓がなく、灯りを点けていても外からは分からない為、潜伏するには都合が良かった。
「ああ、きっちり宣戦布告してきたぜ。あのまま引き上げたんじゃ、どこの誰が仕掛けたか分からねぇからな。しかし、よくこんな所用意出来たなぁ?」
ブロスは羽織っていたローブを脱ぎ、その辺のイスにポイッと放る。
「ここはうちのスポンサーの所有物なの」
「スポンサー? そんなのいたのか?」
「当然でしょ、依頼の報酬だけでこんな規模の組織、維持出来る訳ないわ。この街が鉱山で賑わっていた頃、その鉱山で一財産築いた実業家の倉庫よ」
「ほぉ~、今は昔ってか。鉱山が閉まっちまったら確かに、こんな倉庫使い道なんてねぇわなぁ。それよかよ……おい、クソ魔ぁ!」
「……」
「どこだぁ、クソ魔!」
「…………」
「いるじゃねぇか」
(くそ、バレた。早速絡んできやがった……)
ブロスは部屋の隅の丸テーブルにいた俺を見つける。まぁその気持ちも分かる、瓦礫の隕石降らせて皆殺ししそうになった訳だし……聞けば皆無事だったと言うから良かったものの、犠牲者が出ていてもおかしくなかった。当然ブロスだって文句の一つも言いたくなるだろう。
しかしながら、毎度このチンピラにガーガー言われるのもいい加減辟易としている。とは言え当然申し訳なさもある訳で……いや、やっぱりムカつくものはムカつく……と色々考えた末、せめてもの抵抗という事で精一杯のしかめっ面で対応することにした。
「……何?」
「……んだぁ、そのブサイクな面ぁ?」
……一蹴された。
「まぁ、てめぇにゃ言いたい事が色々ある。が、そんな事よりもだ。あの魔法、ありゃ一体何だ? あんなもん見た事も聞いた事もねぇ」
「古代魔法だそうだ」
と、右に座っているカディールが答える。
「古代魔法? 何だそれ?」
「ほら、一千年前の大地震でこの大陸死にかけてるじゃない? その大地震の前に使われていた魔法だよ。今とは比べ物にならないくらい強力な魔法が一杯あったんだって。私達も実際の見るのは初めてだったよ」
と、左に座っているライエが答える。
「ほう、だから魔導師ばっか集まって、こいつに根掘り葉掘り聞いてた訳か」
そう、俺の周りにはこの部隊の魔導師達が自然に集まってきて、しばらく前から、あれは何だ、どうなってるんだ、これはどうだ、こういう事か、と質問攻めにあっていた。特にカディールの食い付きがハンパではない。興味の塊のような人間、と言えば伝わるだろうか? 研究者気質とでも言うか、どこかレイシィと近い匂いすらする。
「ま、古代でも何でもいいんだがよ、あんなえげつねぇ魔法、他にもあんのか?」
「古代魔法はどれもえげつないよ。お師匠……ドクトルは禁術ってカテゴリーに分けてたくらいだし。でも正直、えげつなさ過ぎて使えない魔法だらけでね、今回使った山崩しはその中でもましな方だな」
「ふ~ん……」
と言ってジッ、と俺を見つめるブロス。何だこいつ?
「ま、いいや。お~いエイナ!」
特に何もなく、そのままブロスはエイナの下へ移動する。ホントに何なんだ、アイツは?
◇◇◇
「ん? 来た……来た来た!」
窓に張り付き外を見張っていた団員が声を上げた。
「ホントか!?」
他の団員達も窓に集まる。
「ほら、一騎入った……もう一騎来たぞ」
猛スピードの騎馬が吸い込まれるように入って行くのは、ミラネル王国の西にあるアクチアーム公国西方の街、リジンのジョーカーリジン支部だ。街外れとは言えリジン支部は街中に近い為、周囲の建物から支部の様子を伺う事が出来る。アウスレイ奇襲部隊の別動隊である三名の団員は、リジン支部の正門を眺める事が出来るこの宿に部屋を借り、支部を偵察していた。
「ありゃ間違いなくアウスレイからの伝令だ。奇襲、上手くいったようだな」
「ああ。で、エイナさんの予想だとこの後アルマドに伝令が出て、リジンはガッチガチに守りを固める、と。本当かねぇ?」
「こっちにはバウカー兄弟のイエスマンしかいないらしい。あの兄弟の指示なしに独断で動くとは思えないんだとよ。まぁ、そもそもエイナさんの予想はそうそう外れない、心配すんな。それよりいつでも出られるように、荷物片しとけよ」
しばらくすると、リジン支部に動きが見られた。
「三騎出たぞ! 東方面……始まりの家への伝令だな」
「お~しおし、中はどうだ?」
窓に張り付いている団員は望遠鏡を取り出して覗き込む。僅かに見える支部の敷地内では、どうやら団員達がせわしなく動き始めたようだ。
「ちょっと待って……あ~、なんかバタバタし始めたぞ?」
すると数騎の騎馬が支部から飛び出してきた。
「また出た! 五……六騎か? バラバラに散った……コイツら見張りじゃないか? リジンの周りに散って警戒網敷くんじゃ……?」
「部隊を動かす気ならこんな面倒くせぇ事はしねぇ、さっさと進発するはずだ。て事はあいつら、やっぱり守りを固める気だな。さすがエイナさん、ビンゴだ!」
「ハッ、何だよお前、さっきは疑ってたじゃないか?」
「うるせぇよ! それより俺達も出るぞ、早いとこスージに、エイナさんに伝えに行かねぇと。警戒網敷かれたら街から出れなくなっちまう」
◇◇◇
「どういう事か、分かるように説明しろ!」
「だからアウスレイ支部が破壊されたんですって! ブロスがいたって言うから、ゼルの仕業に間違いないんです! 次はリジンだって……」
「破壊ってなどういう事だ!? アウスレイは……俺のアウスレイはどうなったんだ! 皆は? 生き残りは――」
アルマド、始まりの家。本部棟二階の参謀部の部屋は、現在はバウカー兄弟が酒盛りの為に入り浸る、名ばかりの作戦本部となっていた。リジン支部を出発し、本来五日の道程を四日で駆け抜けてきた伝令は、酒瓶が転がるこの作戦本部でバウカー兄弟にアウスレイ支部の悲劇を説明していた。
「兄貴! 出ようぜ! アウスレイの様子を確認してぇし、リジンもやべぇぞ!」
セイロムはデスクをバンバン叩きながらクラフに出陣するよう促す。
「…………」
が、クラフは無言だ。
「おい! 兄貴!」
罠だ。クラフはそう考えていた。どんな手を使ったかは分からないが、アウスレイを潰し自分達をここから引きずり出そうとしているのではないか、と。
「分かってる! 兄貴、罠だってんだろ? でも、だから何だ? 俺達が動かなきゃ、リジンに残ってる連中は向こうに寝返るぜ? リジンの連中だけじゃねぇ、ここにいる連中だってそうだ。俺達が自分達下の者らを守る気がねぇ、ってのが知れれば、誰も付いてこなくなっちまう。罠だろうが何だろうが、動く以外の選択肢はねぇ。兄貴だって……分かってんだろ?」
しばし無言で考え込んでいたクラフはおもむろに口を開く。
「ゼルは北に行ったままか?」
「ああ、引き返したって報告はねぇよ」
「……だとしたら計算が合わない。どう考えてもな」
「計算?」
「アウスレイを潰したからには、相応の戦力が出てるはずだ。が、百五十のゼルの部隊は北にいる。これはほぼ、ここから逃げた三番、四番隊の数と一致する。じゃ、誰がアウスレイをやった? 連中にそんな余剰戦力があるとは思えない……」
「まさか……南か?」
「かも知れない。南支部がゼルについた……クソッ! 三百五十連れて出るぞ、準備させろ!」
クラフのこの言葉にセイロムは驚いた。
「な……ちょっと待てよ、ほぼ全員じゃねぇか!?」
「南がゼルについたんなら、ここに籠ってちゃ危険だ、その内ここにも南が攻めてくる。俺達より南の方が数が多いからな、包囲されて袋叩きにあう。西へ向かった方が安全だ」
「そ、そうか……なるほどな、さすが兄貴だ!」
「……やはり参謀部は押さえておきたかったな。この忌々しい状況を作り上げたのは間違いなくエイナだ……クソッたれめ!」
「ああ……そうだな、済まない……兄貴、俺が――」
自分がヘマしたせいだ、そう言いかけるセイロムを気遣い、クラフは優しく答える。
「ああ、セイロム。別にお前を責めてる訳じゃない、お前は精一杯やったんだ、そんな顔するな、な? さぁ、準備してきてくれ」
「ああ……行ってくる」
そう言うとセイロムは部屋を出る。一人残ったクラフはガンッ、とデスクを拳で叩く。
(俺が始まりの家を攻めてりゃ、参謀部はおろかゼル達も生かしちゃおかなかった。エクスウェルじゃなく、俺が南の連中と交渉出来てりゃ、南はとっくにこっちについてた。どいつもこいつも……まったく使えねぇ……!)
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