戦う浪人生の育て方~20時間勉強と修行ができますか?~ 

久木 光弘

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第6章 俺、力持ってる?

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 そして時間になり、食事を終えた仁は片付けを手伝っている。
 所長は片付けをしている間にリビングに霊力を測る装置を用意すると言っていた。鞘火はテレビを見ながら二人に頑張れと言っていた。仁はここにダメな社会人がいると思った。それが顔に出ていたようで、しっかりと鞘火に拳骨を食らってしまった。
「仁様は思っている事がすぐに顔に出るようですな。そんな事では社会に出てから大変ですぞ?」
 食器を洗いながら水緒が苦笑交じりで仁に語りかけた。
「俺って、そんなに思っている事が顔に出ますかね?」
「それはもう、雄弁に出ていますな。正直者なのはいいことだとは思いますがね」
 仁は頭に残る痛みに顔をしかめながら、水緒の横顔を眺めた。こうして見ていると、人好きのするお婆ちゃんにしか見えない。
「水緒さんは霊力を測る装置ってどんなのか知っています?」
「知っておりますとも。鞘火と二人で用意しましたからな」
「どんな事するのか教えてもらえません?」
 実は食事の最中にも同じ質問を鞘火にしたのだが、後からのお楽しみ、と言われて教えてもらえなかった。もしかして、人の良さそうな水緒なら教えてくれないかと期待して問いかけてみる。本当なら真面目そうな鍔木に聞きたかったのだが、仕事で外出していた。しかし、仁の霊力測定を行うと所長が連絡すると、仕事を切り上げて帰ってくるという。結果によって今後のスケジュールが変わってくるので、どうしても同席したいという事らしい。
「ホッホッホ、勿論教えませんとも」
「やっぱり」
 顔の皺を深くしてニコヤカに拒否する水緒。鞘火と同じで、何故か仁をからかう事に楽しみを見出しているようだ。
「さて、片付けも終わりました。測定は地下で行いますので移動しましょうか」
 水緒の笑顔にイヤな予感しかしない仁だった。
 
「さぁ、少年よ。服を脱げ。全裸だ!!」
 地下に移動した仁に、鞘火はいきなり全裸になる事を要求した。
「何を言っているんですか?鞘火さん。まったく意味不明ですよ」
「意味はある。これを使用するためには服は邪魔なのだ」
 鞘火の指差す先には木の桶風呂のようなものが置いてあった。体を縮めればなんとか一人位ならなんとか入りそうな大きさだ。仁が桶風呂を覗き込んでみると、謎の緑色の液体が満たしてある。更にはなんとも形容しがたい匂いも鼻についた。
「何ですか?これ」
 仁は敢えて鞘火には問わず、こちらから視線を逸らしている所長に問いかけた。
「それに浸かると霊力大きさに比例して中の液体の色が変わるらしい」
「らしいってなんですか!らしいって!!装置なんていうから機械的なものを想像してたのに。絶対に他のやり方もありますよね!?」
「何を言うんだ、少年。この方法が一番いいに決まっているだろう?」
「その一番いいというのは何を基準にしているんです?」
「一番面白い方法を選んでおりますぞ、仁様」
 一緒に地下に降りてきた水緒が仁の後ろから言った。
「なんて最悪な職場なんだ・・・・・・・」
 実際には他の方法もあるのだろう事は二人の顔を見れば想像がつく。しかし、この手の事にまるっきり素人である仁には霊力を測るという事に対して他の手段が思いつかない。
「二人になんとか言ってくださいよ、所長。上司なんでしょう?俺はこんなのゴメンですよ」
この羞恥プレイをなんか回避しようと、所長に憐れっぽく頼んでみる。
「スマン、仁君。実は俺もこの手のことには疎いんだ。こういうのに一番詳しいのが今はいない。その次に詳しいのが鍔木と水緒でな」
 所長は楽しそうな顔をして仁の後ろに立っている水緒を見る。
「アイツがそういうなら、俺には逆らえないんだよ」
「じゃぁ、鍔木さんが帰ってくるまで待ちましょうよ!」
 比較的常識人っぽい鍔木なら、他の方法で測定を行ってくれるだろう。そんな期待をして仁は地下から逃げようとしたが、身を翻した瞬間に襟首を鞘火に掴まれてしまった。シャツの襟がクビに食い込み息が詰まる。仁はグエッと声を出して足を止めてしまった。
「既に一度見ているのだから、そう恥ずかしがることもないじゃないか、少年よ」
「そうですぞ、一度は見ているのですから、一緒じゃないですか」
「全然同じじゃないですよ!意識がない時に勝手に脱がされた自分の身にもなってください」
 仁はなんとかこの場を逃げようと必死にあがいているが、鞘火は掴んだ襟を離さなかった。
「そうか、少年はもう一度私達に剥かれたい、という事か?いい趣味だな」
「だれもそんな事言ってないですよ!裸になんてなりたくありません!!」
 鞘火は仁の言葉等聞いていない風に、そのまま羽交い締めにして動きを制限する。動きを封じられた仁の前に水緒がきてベルトに手をかけた。
「仁様は『ツンデレ』というやつなのでしょう?水緒は知っておりますぞ」
「ちょっと、訳の分からないこと言いながらズボンを脱がそうとしないで下さいよ!」
 水緒も仁の言葉等聞こえていない風に、焦らすようにゆっくりとベルトを外そうとする。所長はその様子を見ながら止めようか止めまいか迷っているようだ。
「チョット、マジでヤメテ下さいよ!誰か助けて!!」
 いくら動こうとしても鞘火の拘束は一切緩まなかった。仁は自由になる首を振りながら助けを求めた。
「フッフッフ、無駄だよ、少年。大人しくするのだな・・・・・・アイタ」
「フッフッフ、じゃありません、鞘火さん。何をしているのですか、お二人共」
 いつの間に地下に来ていたのか、鍔木が仁に気を取られていた鞘火の後頭部を軽く小突いた。
「チッ、お早いお戻りだな。鍔木よ」
「もう少し遅くなると思ったのだがなぁ」
 鞘火は不服そうに言って仁の拘束を解いた。水緒もベルトから手を離す。鍔木は傍らに置かれている桶風呂に目をやってから大きく溜め息をつく。
「まったく、急いで帰ってきて正解でした。状況は説明されなくても分かります。二人とも、気に入った相手をからかうのも程々にお願いします」
「た、助かった・・・・・・」
 拘束を解かれた仁は緩めらていたベルトをキツく締め直す。鍔木は桶風呂になみなみと入れられている液体を確認している。
「確かにこれは霊力の計測することが可能ですが、本来の用途は無機物用です。この液体に対象物を沈めて霊力の有無と多寡を確認します。人間にも使用可能ではありますが、通常は使用しませんよね?水緒さん」
「・・・・・・・そうだったかのぉ?」
 水緒はとぼけるように天井を見上げて言った。
「この薬液は調合するのが大変だと言っていました。この無駄に使った分の言い訳を、あの子にどうするか考えておいた方がいいでしょうね。それと、片付けは二人でお願いしますよ?」
 鍔木に言われ、二人は少し肩を落としているように見える。その様子を見ていた仁は少し溜飲の下がる思いだった。
「さて、仁殿。お騒がせしましたね。役に立たない三人は置いておいて、本題に入りましょうか」
「オイオイ、何で俺まで含まれてるんだ?」
 所長が不服を唱えたが、鍔木は先程まで二人に向けていた冷たい目で所長を見た。
「共犯ではないと?どうせ言われるままに準備したのでしょう。少し考えればおかしいと分かりますよね」
「変だとは思ったんだよ。でも、このやり方が一番正確で手早くできると水緒が」
「変だと思ったのであれば止めてください。所長なんですから」
「面目ない・・・・・・」
 皆まで言わせずバッサリと切る鍔木。
……これではどちらが上司なんだか分からないな・・・・・・・・
 仁は昨夜と今の様子をみて、この事務所を実質的に仕切っているのは鍔木なのだろうと思った。そして
……鍔木さんには絶対に逆らわないようにしよう
心の中で決意した。
「さて、仁殿。早速ですが、測定を行いましょう」
そんな仁の胸中を知ってから知らずか、鍔木が仁に話しかけてきた。
「は、はい」
思わず背筋を伸ばして返事をする仁であった。
「??・・・・・・そんなに緊張することはありませんよ」
 鍔木は仁の肩に手をかけてかるくほぐすように揉む。
「ほら、リラーックス。リラーックス」
 不思議なもので肩をほぐしてもらっていると、緊張が薄れてきたような気がする。気持ちが落ち着いてくると、肩を揉むためにかなり近くにある鍔木の顔が目に飛び込んできた。
……綺麗な人だなぁ
 鍔木の顔をちゃんと眺めたのは初めての事だと仁は気がついた。中性的な顔立ちに、釣り目がちの瞳。その几帳面さを表すような丸メガネもよく似合っている。鞘火とはまた違ったタイプの美しさに、今更ながら心臓の鼓動が早くなってくるのを仁は自覚した。
「どうされました。また肩に力が入ってきましたよ?」
 心臓の鼓動が聞こえていやしないか、体に力が入ってしまった仁を鍔木が不思議そうに見つめた。見つめられた仁は、逆にますます緊張が高まってしまう。
「な、なんでもないです。大丈夫ですから。深呼吸でもして落ち着きますから」
 仁はそう言いながら肩にかかっていた鍔木の腕を掴んで下ろす。不覚にも、鍔木の腕を掴んだ時にドキドキしてしまった仁であった。
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