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第6章 俺、力持ってる?
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しおりを挟む仁が『神威探偵事務所』で働くと決めた事を告げた後、4人の行動は迅速だった。
鍔木は住所変更やアパートの引き払い、予備校の退学等の手続きをすぐさま行い、事務諸々の雑務を仁の代わりに全て終わらせてしまった。
「この手の仕事は私の得意分野です。仕事の内にも入りません」
所長は何処からか借りてきたトラックに仁のアパートにあった荷物を全て積み込んで事務所のあるビルへ移していた。
「力仕事は俺に任せておけ。って言うほど荷物がないので張り合いがないな」
水緒は荷物のなくなった仁のアパートの部屋の掃除を手早く済ませて、部屋の隅々までピカピカにしてしまった。
「ホッホッホ、仁様の部屋はあまり掃除のしがいがありませんでしたな。桃色草子はちゃんと隠されましたか?」
鞘火は他の三人が働いている間、仁に事務所の案内を行い、これからの事を説明していた。実はビルが丸ごと『神威探偵事務所』のものだと仁が知ったのはこの時だった。
「3階から上が私達の部屋やら事務所やらがあるのだ。1階と2階はほとんど使っていないが、部屋毎に様々な仕事道具がおいてある倉庫みたいなもんだ。まぁ、おいおい説明してやろう。呪われ人形とか封印具とかもあるから無闇に開けることを推奨する。面白いぞ?」
案内中の鞘火は終始こんな調子で、仁を無駄に疲れさせていた。
「地下もある事に気がついていたか?」
案内された地下は他の階のように仕切りもなく、ただの広い空間だった。コンクリートの床に線が引いてあれば地下駐車場のように見えるだろう。
「地下だけに遮音性能は高い。ついでに霊的な防護結界も何重にも張ってある。ここでは何をしても外部に漏れることはないだろう。思う存分修行できるな?」
不穏な事を言う鞘火の言葉に仁は背筋に冷たい汗が垂れていくのを感じた。
探偵事務所の持ちビルを案内してもらい、昼過ぎには部屋に戻ってきた。その日は荷物の片付け等もある為、仕事と勉強については明日にしようと所長に言われている。仁は荷物といってもほとんど家具もなく、六畳一間には勉強を行う為の机が一つおいてあるだけであった。他の荷物は布団と最低限の日用品や食器類だけ。このビルに来てあてがわれた部屋は以前の部屋の倍はある。テレビやベットに本棚。今までは無かった冷蔵庫もあるので、今までのアパートより環境がよくなったのは間違いない。
「・・・・・・・・・本当によかったのかな、これで」
『神威探偵事務所』で働く事を勢いで決めてしまった感が否めない仁は、目覚まし時計をベットの頭に置きつつ、不安を口にした。
「イヤイヤ、そんな弱気な事でどうする。受験の為には命をかけると決めたんじゃないのか、俺」
参考書類を本棚に並べつつ、決意を口にする仁。しかし、残念ながらその顔は決意を固めた男の顔ではなく、悲壮感にまみれた情けない男の顔だった。
「不景気な面してるなぁ、仁君」
「所長・・・・・・・あっ、荷物ありがとうございました。全然手伝わなくてすいません」
「気にするな、頑張るほどの荷物がなかったからな。楽なもんだ」
所長は、そう言いながら先日と同じように珈琲をもって仁の部屋に入ってきた。
「片付けは順調か?」
「ご存知のとおり荷物が少ないので、すぐに終わりますよ」
「ハハ、それもそうだな。まぁ、急ぐ必要もないってことだろ?これでも飲んで一息入れろ」
所長は仁に珈琲を勧めながら、ベットに腰掛けた。
「この部屋には椅子が一つしかなかったな。鍔木に今度お願いしてみるか。俺達が教師役をする時にも。休憩用にソファもあるといいかもな。まぁ、今日のところはベットに座ることを許してもらおう」
「気にしませんよ、どうぞ座ってください」
所長は珈琲を一口飲んでから、言葉を続ける。
「今日のところは片付けも残っているだろうからゆっくりしてくれて構わない。明日の朝にはこれからの事を相談しようか?」
そこまで告げて、所長は含み笑いをもらす。
「クックック、うちの仕切りたがりが張り切っていてな。既に仁君の学力を図るためのテストと修行にどれだけ耐えられるかの基礎体力テストを作成していたぞ。更に仁君にどのくらいの霊力があるのかを計測する怪しげな装置も用意していたな」
「それって、鍔木さんですか?」
「怪しげな装置を準備していたのは鞘火だが・・・・テスト作成は鍔木だ。あれはそういうのが大好きでなぁ。これから大学受験まで勉強と仕事のスケジュールを組むと意気込んでいた。明日はそれで潰れるだろうな。覚悟しておくように」
「うぅ、農業をしていたので体力にはそれなりに自信があるのですが、学力はどうでしょうか。皆さんに呆れられるような気がします」
話を聞いているだけで落ち込んでいる仁に、所長が励ますように声をかける。
「心配するな。ぶっちゃけどれだけ学力テストの点数が悪かろうとも見捨てるような事は絶対にしないから。なんといっても仁君は我々の『ご主人様』だからな」
「それもどうなんでしょう?本当に自分なんかでよかったんでしょうか?」
仁が情けない声をだして言う。その様子に所長は眉間に皺を寄せながら
「なんというか、仁君は何事もネガティブだな。『ご主人様』の件に関してはこちらからお願いしている事なんだ。我々の目が節穴ではない限り、仁君はその分野においては異才といえる程の才能を持っている。更に、これからその才能を伸ばす訓練も行うからな。我々に任せておけば間違いないぞ」
所長が励ますように言うが、イマイチ仁は乗ってこない。
「所長たちを信用していないわけではないのですが」
「う~ん、仁君に今必要な事はなんでもいいから自信を付ける事みたいに思えるな」
所長は一息に珈琲を飲んで仁に聞こえない位の声で呟く。ベットから立ち上がり、仁に声をかけた。
「本当は明日にしようと思っていたんだが、霊力大きさを測ってみないか?装置を用意するだけだからすぐに行えると鞘火が言ってたしな。自分の才能を自覚するのも大事な事だぞ」
「えっ?」
「よし、早速鞘火に相談してみる。夕食の後に行おう。それまではゆっくりしておいてくれ。食事は7時からだ。昨日と同じリビングに来てくれ」
所長は一方的に告げて、所長は部屋を出て行った。
「・・・・・・・・・・・片付けよ」
所長が出て行ったドアを少しの間呆然と見ていた仁だったが、どうせ自分には拒否権はないのだと諦めて、部屋の片付けに戻っていった。
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