22 / 35
第5章 俺、頭悪い・・・・
5-5
しおりを挟む
現在においても賛否両論されている人物が兼倶である。
彼が神道界のカリスマであったことは間違いがない。神道を理論体系化して、著書を記した初めての人物である。しかし、その行動は野心的な部分も多い。
自邸内にあった斎場を吉田神社の境内にほど近い位置に造営。太元尊神を祀った大元宮を中心に伊勢内外両宮、式内三千一百三十二座・天地地祇八百万を祀り、日本国中大小神社はすべて、この斎場から神代を象ってうつしたものであるとしたのである。
元々日本各地で起こり、伝承されてきたのが神道である。そんな事をすれば日本各地の神宮はビックリだ。日本各地の神社で祀っている神様は全て吉田神道から発生した事になるからだ。納得できる訳が無い。
しかし、吉田兼倶は時の天皇である後土御門天皇に神道を教えていた事から、朝廷権力と結びつきが強かった。その縁をもって1480年に従二位に叙せられる事になる。従二位とはかなりの高位である。将軍眷属である足利一門でも従三位までであり、当時の将軍に次ぐ地位である管領の職にある者であっても最高位は三位であった。
武士でもない人物にしては異例の出世である。そして、権力をフル活用して吉田神道を宣伝し始めた。
「兼倶は『神祇官領長上』という名称を勝手に名乗りまして、皇室を主家として長く皇室神道の実務役を行っていた家を押しのけて主権を握り、様々な権限を行使しました。最初は自称であった名称も長く権力を握る内に公称にもなる次第で」
「兼倶って・・・・・・色々スゴイ人だったんですね」
「ホホホ。しかし、彼が焼かれていく京の都と怪異に晒される人々を助けようとしたのも事実。その為には権力・財力が必要だったのです」
「えっ?」
「神道にて神の声を聴き、力を顕せるのには、ぶれない信心と長い時間が必要になります。しかし、怪異に対抗する人材が育つ以上に消耗は激しかった。それ程、あの時代の戦乱は酷いものでした」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「そこで兼倶は考えました。神の声を聞き、力を借りるのに長い時間がかかるなら、それを短縮することはできないだろうかと。直接神と交信し、力を行使できれば大きな力を持てるのではないかと」
「スゴイ事考えますね」
「ホッホッホ、天才とは何時の時代も普通の人間には考えもつかないものを思いつく。しかも、兼倶は本当の天才でした。実際に編み出しましたのですよ、その術を」
水緒が手に持っていた小太刀を抜いた。
「この『天神五大元神剣』には五柱の神々の力が封じられています。この刀の持ち主は封じられた神の力を借りる事ができるのです」
吉田神道神経郡と呼ばれる吉田兼倶が記した著書の中に天神五大元神録というものがある。天神五大元神録では日本書紀神代巻にみえる五柱の神々が、化して五行の元神となることが説かれている。万物組成の元素は水・火・木・金・土の五行であり、五つの元気を示しているとされている。
「この刀の鋳造には陰陽師が深く関わりました。吉田神道は陰陽道から多大な影響を受けています。そこから技術を取り入れることにもあまり抵抗はなかったのでしょう」
「陰陽道って有名ですよね。詳しくは知りませんが、俺でも聞いてことあるくらいですし」
「でしたら、式神というものも聞いたことはありませんかな?」
「あぁ、あります。テレビで陰陽師が紙を動物に変化させて操っているのを見たことありますよ」
「イメージ的にはそんなものですかな。実はこの剣にも式神が憑いています」
「式神って紙から変化するものじゃないんですか?」
「そういう生み出し方もありますが、鬼や神を使役して操る事も式神というのですよ。この『天神五大元神剣』には五柱の神が刀の各部位に式神として憑いているのです」
その言葉を聞いて、仁は水緒の持つ刀を観察したが、特に変わった部分があるようには見えなかった。
「この刀の何処に神様がいるんですか?」
「ホッホッホ、普通は見えませんよ。霊的な視覚が必要です。仁様には少々修行が必要ですな」
「少し残念です。霊力があるだけじゃダメなんですね」
「力はあっても、その使い道を知らなければ宝の持ち腐れというやつです。少しは興味が湧きましたかな」
水緒は再度仁に『天神五大元神剣』を差し出した。先程は断った仁だったが、今度は受取り、刀を興味深そうに色々な角度から眺めた。
「刀に憑いている神の事を兼倶は『憑神』と呼んでいました。通常の式神と区別を付ける為だそうです」
「『憑神』様、ですか。なんか格好いいですね」
未だ刀を見ている仁の様子を満足そうに見ながら、水緒は説明を続けた。
「『天神五大元神剣』には天神五大元神録に記されている五行にならった神が憑依させられました。この剣をもてば修業を行わなくとも、憑神の力を借りて五行を自在に操る事ができるようになる、というのが兼倶の構想です」
天神五大元神録に記される五行を司る五柱の神々。この五柱の神々が化して≪天≫においては惑星の化身、五星になるとされている。
水を司る 國狭槌尊は辰星こと水星
火を司る 豊斟淳尊は熒惑こと火星
木を司る 泥土煮沙土煮尊は歳星こと木星
金を司る 大戸道大苫辺尊は太白こと金星
土を司る 両足惶恨尊は鎮星こと土星
「しかし、兼倶の想定外の自体が発生しました。誰にでも扱えるようにと五柱の神を式神として刀の各部分に憑かせたのですが、神の力は簡単に扱えるようなものではなかったのです」
水緒は仁の手にある剣に目を向けて言葉を続けた。
「式神は主人に服従するのが基本ですが、この刀の憑神は違う。自らで主人を選ぶのです」
「意思を持っているという事なんですか?式神って、操られるというイメージがあったんですが・・・・・」
「通常ならその通りですな。しかし、この剣の憑神は主人と見定めたものにしか力を貸さない。また、五柱の憑神はそれぞれ別の個性ですので、全員に主人と認められるとも限りません」
実際、今まで『天神五大元神剣』を持つに至ったものはいたが、憑神全てに認められたものは片手の数しかいなかった。
「ここまで言えば薄々感づかれていると思いますが・・・・・・」
「俺にこの刀の持ち主になれ、と」
「その通りです」
「でも、刀の持ち主になることと、ご主人様になる事がどう繋がるんですか?」
水緒が仁の顔を覗き込んでニンマリと笑う。
「その笑い方、何だか鞘火さんが俺をイジる時とそっくりですね」
仁にはその笑みから嫌な予感しかしなかった。そして、続く水緒の返答も少しは予想できている。
「ホッホッホ、もう分かっているのでしょう?私達が憑神なのですよ。今はそれぞれの意思で実体化を行いこのような姿をとっているだけです」
「やっぱり、そういう事ですか」
彼が神道界のカリスマであったことは間違いがない。神道を理論体系化して、著書を記した初めての人物である。しかし、その行動は野心的な部分も多い。
自邸内にあった斎場を吉田神社の境内にほど近い位置に造営。太元尊神を祀った大元宮を中心に伊勢内外両宮、式内三千一百三十二座・天地地祇八百万を祀り、日本国中大小神社はすべて、この斎場から神代を象ってうつしたものであるとしたのである。
元々日本各地で起こり、伝承されてきたのが神道である。そんな事をすれば日本各地の神宮はビックリだ。日本各地の神社で祀っている神様は全て吉田神道から発生した事になるからだ。納得できる訳が無い。
しかし、吉田兼倶は時の天皇である後土御門天皇に神道を教えていた事から、朝廷権力と結びつきが強かった。その縁をもって1480年に従二位に叙せられる事になる。従二位とはかなりの高位である。将軍眷属である足利一門でも従三位までであり、当時の将軍に次ぐ地位である管領の職にある者であっても最高位は三位であった。
武士でもない人物にしては異例の出世である。そして、権力をフル活用して吉田神道を宣伝し始めた。
「兼倶は『神祇官領長上』という名称を勝手に名乗りまして、皇室を主家として長く皇室神道の実務役を行っていた家を押しのけて主権を握り、様々な権限を行使しました。最初は自称であった名称も長く権力を握る内に公称にもなる次第で」
「兼倶って・・・・・・色々スゴイ人だったんですね」
「ホホホ。しかし、彼が焼かれていく京の都と怪異に晒される人々を助けようとしたのも事実。その為には権力・財力が必要だったのです」
「えっ?」
「神道にて神の声を聴き、力を顕せるのには、ぶれない信心と長い時間が必要になります。しかし、怪異に対抗する人材が育つ以上に消耗は激しかった。それ程、あの時代の戦乱は酷いものでした」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「そこで兼倶は考えました。神の声を聞き、力を借りるのに長い時間がかかるなら、それを短縮することはできないだろうかと。直接神と交信し、力を行使できれば大きな力を持てるのではないかと」
「スゴイ事考えますね」
「ホッホッホ、天才とは何時の時代も普通の人間には考えもつかないものを思いつく。しかも、兼倶は本当の天才でした。実際に編み出しましたのですよ、その術を」
水緒が手に持っていた小太刀を抜いた。
「この『天神五大元神剣』には五柱の神々の力が封じられています。この刀の持ち主は封じられた神の力を借りる事ができるのです」
吉田神道神経郡と呼ばれる吉田兼倶が記した著書の中に天神五大元神録というものがある。天神五大元神録では日本書紀神代巻にみえる五柱の神々が、化して五行の元神となることが説かれている。万物組成の元素は水・火・木・金・土の五行であり、五つの元気を示しているとされている。
「この刀の鋳造には陰陽師が深く関わりました。吉田神道は陰陽道から多大な影響を受けています。そこから技術を取り入れることにもあまり抵抗はなかったのでしょう」
「陰陽道って有名ですよね。詳しくは知りませんが、俺でも聞いてことあるくらいですし」
「でしたら、式神というものも聞いたことはありませんかな?」
「あぁ、あります。テレビで陰陽師が紙を動物に変化させて操っているのを見たことありますよ」
「イメージ的にはそんなものですかな。実はこの剣にも式神が憑いています」
「式神って紙から変化するものじゃないんですか?」
「そういう生み出し方もありますが、鬼や神を使役して操る事も式神というのですよ。この『天神五大元神剣』には五柱の神が刀の各部位に式神として憑いているのです」
その言葉を聞いて、仁は水緒の持つ刀を観察したが、特に変わった部分があるようには見えなかった。
「この刀の何処に神様がいるんですか?」
「ホッホッホ、普通は見えませんよ。霊的な視覚が必要です。仁様には少々修行が必要ですな」
「少し残念です。霊力があるだけじゃダメなんですね」
「力はあっても、その使い道を知らなければ宝の持ち腐れというやつです。少しは興味が湧きましたかな」
水緒は再度仁に『天神五大元神剣』を差し出した。先程は断った仁だったが、今度は受取り、刀を興味深そうに色々な角度から眺めた。
「刀に憑いている神の事を兼倶は『憑神』と呼んでいました。通常の式神と区別を付ける為だそうです」
「『憑神』様、ですか。なんか格好いいですね」
未だ刀を見ている仁の様子を満足そうに見ながら、水緒は説明を続けた。
「『天神五大元神剣』には天神五大元神録に記されている五行にならった神が憑依させられました。この剣をもてば修業を行わなくとも、憑神の力を借りて五行を自在に操る事ができるようになる、というのが兼倶の構想です」
天神五大元神録に記される五行を司る五柱の神々。この五柱の神々が化して≪天≫においては惑星の化身、五星になるとされている。
水を司る 國狭槌尊は辰星こと水星
火を司る 豊斟淳尊は熒惑こと火星
木を司る 泥土煮沙土煮尊は歳星こと木星
金を司る 大戸道大苫辺尊は太白こと金星
土を司る 両足惶恨尊は鎮星こと土星
「しかし、兼倶の想定外の自体が発生しました。誰にでも扱えるようにと五柱の神を式神として刀の各部分に憑かせたのですが、神の力は簡単に扱えるようなものではなかったのです」
水緒は仁の手にある剣に目を向けて言葉を続けた。
「式神は主人に服従するのが基本ですが、この刀の憑神は違う。自らで主人を選ぶのです」
「意思を持っているという事なんですか?式神って、操られるというイメージがあったんですが・・・・・」
「通常ならその通りですな。しかし、この剣の憑神は主人と見定めたものにしか力を貸さない。また、五柱の憑神はそれぞれ別の個性ですので、全員に主人と認められるとも限りません」
実際、今まで『天神五大元神剣』を持つに至ったものはいたが、憑神全てに認められたものは片手の数しかいなかった。
「ここまで言えば薄々感づかれていると思いますが・・・・・・」
「俺にこの刀の持ち主になれ、と」
「その通りです」
「でも、刀の持ち主になることと、ご主人様になる事がどう繋がるんですか?」
水緒が仁の顔を覗き込んでニンマリと笑う。
「その笑い方、何だか鞘火さんが俺をイジる時とそっくりですね」
仁にはその笑みから嫌な予感しかしなかった。そして、続く水緒の返答も少しは予想できている。
「ホッホッホ、もう分かっているのでしょう?私達が憑神なのですよ。今はそれぞれの意思で実体化を行いこのような姿をとっているだけです」
「やっぱり、そういう事ですか」
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

幻獣使いの英雄譚
小狐丸
ファンタジー
昔世界を救う為に戦った英雄が、魔物に襲われた事が原因で亡くなった娘の忘れ形見の赤ん坊を育てることになる。嘗て英雄だった老人は、娘の二の舞にせぬよう強く育てることを決めた。英雄だった老人と嘗ての仲間に育てられた少年は、老人の予想を超えて成長していく。6人の英雄達に育てられたチートな少年が、相棒の幻獣や仲間達と大きな力に立ち向かう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる