戦う浪人生の育て方~20時間勉強と修行ができますか?~ 

久木 光弘

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第5章 俺、頭悪い・・・・

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現在においても賛否両論されている人物が兼倶である。

彼が神道界のカリスマであったことは間違いがない。神道を理論体系化して、著書を記した初めての人物である。しかし、その行動は野心的な部分も多い。

 自邸内にあった斎場を吉田神社の境内にほど近い位置に造営。太元尊神を祀った大元宮を中心に伊勢内外両宮、式内三千一百三十二座・天地地祇八百万を祀り、日本国中大小神社はすべて、この斎場から神代を象ってうつしたものであるとしたのである。

 元々日本各地で起こり、伝承されてきたのが神道である。そんな事をすれば日本各地の神宮はビックリだ。日本各地の神社で祀っている神様は全て吉田神道から発生した事になるからだ。納得できる訳が無い。

 しかし、吉田兼倶は時の天皇である後土御門天皇に神道を教えていた事から、朝廷権力と結びつきが強かった。その縁をもって1480年に従二位に叙せられる事になる。従二位とはかなりの高位である。将軍眷属である足利一門でも従三位までであり、当時の将軍に次ぐ地位である管領の職にある者であっても最高位は三位であった。 

武士でもない人物にしては異例の出世である。そして、権力をフル活用して吉田神道を宣伝し始めた。

「兼倶は『神祇官領長上』という名称を勝手に名乗りまして、皇室を主家として長く皇室神道の実務役を行っていた家を押しのけて主権を握り、様々な権限を行使しました。最初は自称であった名称も長く権力を握る内に公称にもなる次第で」

「兼倶って・・・・・・色々スゴイ人だったんですね」

「ホホホ。しかし、彼が焼かれていく京の都と怪異に晒される人々を助けようとしたのも事実。その為には権力・財力が必要だったのです」

「えっ?」

「神道にて神の声を聴き、力を顕せるのには、ぶれない信心と長い時間が必要になります。しかし、怪異に対抗する人材が育つ以上に消耗は激しかった。それ程、あの時代の戦乱は酷いものでした」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「そこで兼倶は考えました。神の声を聞き、力を借りるのに長い時間がかかるなら、それを短縮することはできないだろうかと。直接神と交信し、力を行使できれば大きな力を持てるのではないかと」

「スゴイ事考えますね」

「ホッホッホ、天才とは何時の時代も普通の人間には考えもつかないものを思いつく。しかも、兼倶は本当の天才でした。実際に編み出しましたのですよ、その術を」

 水緒が手に持っていた小太刀を抜いた。

「この『天神五大元神剣』には五柱の神々の力が封じられています。この刀の持ち主は封じられた神の力を借りる事ができるのです」

吉田神道神経郡と呼ばれる吉田兼倶が記した著書の中に天神五大元神録というものがある。天神五大元神録では日本書紀神代巻にみえる五柱の神々が、化して五行の元神となることが説かれている。万物組成の元素は水・火・木・金・土の五行であり、五つの元気を示しているとされている。

「この刀の鋳造には陰陽師が深く関わりました。吉田神道は陰陽道から多大な影響を受けています。そこから技術を取り入れることにもあまり抵抗はなかったのでしょう」

「陰陽道って有名ですよね。詳しくは知りませんが、俺でも聞いてことあるくらいですし」

「でしたら、式神というものも聞いたことはありませんかな?」

「あぁ、あります。テレビで陰陽師が紙を動物に変化させて操っているのを見たことありますよ」

「イメージ的にはそんなものですかな。実はこの剣にも式神が憑いています」

「式神って紙から変化するものじゃないんですか?」

「そういう生み出し方もありますが、鬼や神を使役して操る事も式神というのですよ。この『天神五大元神剣』には五柱の神が刀の各部位に式神として憑いているのです」

 その言葉を聞いて、仁は水緒の持つ刀を観察したが、特に変わった部分があるようには見えなかった。

「この刀の何処に神様がいるんですか?」

「ホッホッホ、普通は見えませんよ。霊的な視覚が必要です。仁様には少々修行が必要ですな」

「少し残念です。霊力があるだけじゃダメなんですね」

「力はあっても、その使い道を知らなければ宝の持ち腐れというやつです。少しは興味が湧きましたかな」

 水緒は再度仁に『天神五大元神剣』を差し出した。先程は断った仁だったが、今度は受取り、刀を興味深そうに色々な角度から眺めた。

「刀に憑いている神の事を兼倶は『憑神』と呼んでいました。通常の式神と区別を付ける為だそうです」

「『憑神』様、ですか。なんか格好いいですね」

 未だ刀を見ている仁の様子を満足そうに見ながら、水緒は説明を続けた。

「『天神五大元神剣』には天神五大元神録に記されている五行にならった神が憑依させられました。この剣をもてば修業を行わなくとも、憑神の力を借りて五行を自在に操る事ができるようになる、というのが兼倶の構想です」

天神五大元神録に記される五行を司る五柱の神々。この五柱の神々が化して≪天≫においては惑星の化身、五星になるとされている。



水を司る 國狭槌尊くにのさつちのみことは辰星こと水星

火を司る 豊斟淳尊とよくむぬのみことは熒惑こと火星

木を司る 泥土煮沙土煮尊うひぢにすひぢにのみことは歳星こと木星

金を司る 大戸道大苫辺尊おほとのぢのみことは太白こと金星

土を司る 両足惶恨尊おもだるかしこねのみことは鎮星こと土星



「しかし、兼倶の想定外の自体が発生しました。誰にでも扱えるようにと五柱の神を式神として刀の各部分に憑かせたのですが、神の力は簡単に扱えるようなものではなかったのです」

 水緒は仁の手にある剣に目を向けて言葉を続けた。

「式神は主人に服従するのが基本ですが、この刀の憑神は違う。自らで主人を選ぶのです」

「意思を持っているという事なんですか?式神って、操られるというイメージがあったんですが・・・・・」

「通常ならその通りですな。しかし、この剣の憑神は主人と見定めたものにしか力を貸さない。また、五柱の憑神はそれぞれ別の個性ですので、全員に主人と認められるとも限りません」

 実際、今まで『天神五大元神剣』を持つに至ったものはいたが、憑神全てに認められたものは片手の数しかいなかった。

「ここまで言えば薄々感づかれていると思いますが・・・・・・」

「俺にこの刀の持ち主になれ、と」

「その通りです」

「でも、刀の持ち主になることと、ご主人様になる事がどう繋がるんですか?」

水緒が仁の顔を覗き込んでニンマリと笑う。

「その笑い方、何だか鞘火さんが俺をイジる時とそっくりですね」

 仁にはその笑みから嫌な予感しかしなかった。そして、続く水緒の返答も少しは予想できている。

「ホッホッホ、もう分かっているのでしょう?私達が憑神なのですよ。今はそれぞれの意思で実体化を行いこのような姿をとっているだけです」

「やっぱり、そういう事ですか」
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