戦う浪人生の育て方~20時間勉強と修行ができますか?~ 

久木 光弘

文字の大きさ
上 下
21 / 35
第5章 俺、頭悪い・・・・

5-4

しおりを挟む
「応仁の乱の際には多数の戦死者が出たんですじゃ。それに一般人からも被害が相次ぎましてな」

「嫌ですね、戦争って」

「世の中が乱れる時、邪鬼妖仙の動きが活発になります。戦場となった京都では怪異現象が頻発しておりました。それに対応するために陰陽師や僧兵等が戦争の裏で怪異相手に闘いに明け暮れていたのです。勿論、神道の者たちも神の力を借りて闘っておりましたよ」

 水緒は視線を天井に向けて、思い出すように続ける。

「吉田神社は京都にありましたのでな、神道系の中では矢面に立つ機会も多く、幾多もの人に仇なすものを鎮めました。そんな中、吉田神道を震撼させる事件が起きます」

「えっ、何かあったんですか?」

「戦果が大きい故に、目をつけられましてな。吉田神社が焼かれたのです。史実上は西軍の仕業とされておりますが、真相は妖怪共に大挙しておしかけられ、抗しきれずに本拠地である神社を焼かれたのですよ・・・・・」

 水緒は天井に向けていた視線を、再度仁に向ける。

「妖怪相手に戦果が大きいということはいい事だと思いますか?」

「飄鬼みたいな奴らをたくさん退治されたんでしょう?いい事だと思いますけど・・・・・」

「戦果が大きいということは、それだけ被害も大きかったという事です。闘う事に長けた人間が少なかったという事も一つの原因ですが。元々、神道には修行という言葉ありません。仏教のように僧兵等はおりませんでな」

「山にこもって修行するイメージがあったんですが・・・・・・」

「修験道ですな。あれは神仏習合によって生まれた独自のものです。神道の一種ではありますが、仏教色の強いもので、古神道と呼ばれています」

「すいません、違いがよく分からないです・・・・・とにかく、その吉田神道とは違うものだと認識しておきます。でも、どうやって妖怪を倒していたんですか?」

「神道とは神祇道。あくまで怪異を祓う事で抗しておりました。八百万の神々の力を借りて、封印もしくは鎮めておったのです。中には戦神としても祀られる須佐之男尊や剣神・雷神と祀られる建御雷之男神等の力を借りて直接調伏をしている者もおりましたが、少数派ですな」

「その神様なら俺も知っていますよ」

「神道の中でも超メジャークラスの神ですからな。さすがの仁様も知っていたという事ですな」

「馬鹿にしてます?」

「ホホホ」

 仁のジト目に笑って誤魔化す水緒。仁の視線から目を逸らして言葉を続けた。

「吉田兼倶は神社を焼かれた時に直接闘う力が必要だと思ったのです。誰にでも使える強い力を手早く身につけられないか、と」

「そんな事が実現するようなら、誰も苦労はしませんよね?」

「まぁ、普通はそうですな」

 水緒は机の上に置かれたままだった小太刀を掴み、仁の目の前に掲げる。

「試しに抜いてみませんかな?」

 水緒が仁に小太刀を握らせようとした。しかし、本能的に刃物に恐れを抱いた仁は丁重にお断りする。

断られた水緒は、若干不満そうに続きを話始めた。

「少し脱線しますが、吉田兼倶のお話をさせていただきましょう。刀の説明にもつながりますので。ちなみに、仁様は伊勢神宮には行かれ事はありますかな?現在の日本ではお伊勢様が神道のトップなのですが」

「いえ、有名な神社ですので名前は聞いたことはありますけど、行ったことはありません」

「そうですか。ちなみに吉田兼倶は伊勢神宮からは『神敵』と言われていたのですよ」

「・・・・・・同じ神道なのに敵扱いされていたんですか?吉田兼倶って」

「ホッホッホ、中々に革新的な人物でしてな」

 笑いながら、水緒は吉田兼倶の人物評を続けた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

処理中です...