16 / 35
第4章 俺、ご主人様
4-3
しおりを挟む
着替えを済ませた仁を、二人は応接間に案内した。先程まで仁がいた部屋は同じ階にあったようで、応接室は近くにあり移動にはそれ程時間はかからなかった。応接室では前に仁が座らされたソファに、二人の男女が座ってお茶を啜っていた。
「遅かったな」
そう声をかけてきたのは、男のほうだ。
「悪かったな。少年の着替えが長くてね、私も待っていたのだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
すました顔をして言う鞘火。言いたいことは多分にあったが、仁は口を閉ざしていた。それ程長い時間の付き合いではないが、ここで口をひらけばまた拳骨を落とされるような気がしたからだ。対する鞘火は、そんな仁の反応をつまなさそうに見ていた。
「・・・・・・・また、鞘火さんの悪い癖がでたようですね?今から自己紹介を行うというのに警戒させてどうするのですか?」
今度は、女性の方が声をかけてきた。仁が声をかけてきた女性に目を向ける。そこには長い黒髪の男と、眼鏡をかけた女性がいた。
仁がこちらに注意を向けたことに気がついた二人は、ソファから立ち上がり、仁に近づいてくる。
「初めまして、鍔木と申します。ここの事務・経理全般を担当しております」
「俺はここの事務所の所長をしている者だ。所長と呼んでくれ」
「あっ、ハイ。早馬 仁です。よろしくお願いします」
二人は仁に握手を求めてきた。仁は二人と順番に握手を行い、自分も名前だけ名乗った。握手の時に、二人共に探るような目付きで全身を見られたが、すぐに納得したように二人で肯きあう。
所長と名乗った男が部屋の奥にあるデスクに腰掛ける。鍔木は座った所長の後ろに立った。
「そう緊張しないで、腰掛けてくれ。お茶でもどうだ?水緒、頼む」
「ハァ、ありがとうございます」
所長は立ったままでいる仁にソファで座るように促した。鞘火は先に座っており、水緒はいつの間にか消えていた。
「さて・・・・・・・・」
所長は、大きな机に肘をつき、仁に話しかけてきた。
「早馬 仁君。色々聞きたいことがあると思うが、まずは私達から説明させて欲しい。その中に君の疑問の答えがあるだろう。いいかな?」
「は、はい」
「ふん、真面目な口調は似合わんな」
「鞘火さん・・・・・・」
空気を読まない鞘火の発言に、鍔木が鋭い視線を飛ばす。鞘火は鍔木の視線から目をそらし、組んだ足を前後させてつまらなそうに口を尖らせた。そんな二人の様子を所長は苦笑いをして見ている。
「まぁ、うちの事務所はいつもこんな調子でね。仁君も・・・・・そう呼ばせてもらっていいかな?硬くならずに楽にしてくれ。少し長い話になるからな」
「ホホ、所長の言われる通りです、仁様。お茶でも飲まれて気を落ち着けて下され」
「あっ、ありがとうございます」
いつの間にかお茶を用意して戻ってきていた水緒が仁にお茶を差し出す。我知らず肩に力が入っていたのだろう、仁は熱いお茶を一口すすって肩の力を抜いた。
仁の力が抜けたのを確認し、所長が説明を始めようとした。
「さて、本題になのだが・・・・・」
「所長はすぐに話が脱線しますので、代わって私が説明をさせていただきます」
後ろで控えていた鍔木が所長の言葉に被せるようにして、眼鏡を上げながら口を開く。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
所長は呆れた顔をして鍔木の顔を見上げ、仁は開いた口がふさがらない。
「質問がある場合には話の最後にまとめて承ります」
二人からの呆れ顔を涼しい顔でスルーして、鍔木は話を続ける。
「最初にお聞きしたいのですが、仁殿は妖怪・幽霊の類を信じる方ですか?それとも、その様なものはいないと考えられていますか?」
「信じたくなかった、というのが本音です・・・・・・・昨日の件がなければ」
「先日の件とは別に、色々あったご様子ですね・・・・それは、おいおい聞かせていただきましょう。現実に邪鬼妖仙は実在します。昨日の鬼は少し特殊な部類に入りますが」
鍔木は困ったものだ、という風に頭を振りながら続ける
「人に仇なすもの、それが昨日の鬼のような存在です。勿論、無害なものも存在しますが・・・・・我が『神威探偵事務所』はそのような邪鬼妖仙の退治、霊障等を祓う事を専門にしており、別件で仁殿が襲われた現場の近くを警邏しておりました。その途中で、仁殿が襲われた現場に駆けつけた、という次第です。また、その件に関してなのですが・・・・・」
鍔木は自分の手に持っていた書類に目を落とす。
「仁殿を襲った鬼は『飄鬼』と名乗っておりました。残念ながら逃亡を許してしまいましたが、手傷は負わせております。戦闘中やその前の会話から、飄鬼が仁殿を狙った理由として考えられるのは・・・・・・」
鍔木は一度言葉を切り、目線を上げて仁を見た。
「仁殿が持つ類まれな『霊力』と思われます。鞘火さんが目を付けたとおり、仁殿が大きな力を持っているのは間違いありません。仁殿はその力に対して、無自覚な上に力の制御方法もご存知でないご様子。次に狙われたら命の保証はできかねますね。今回はたまたま私達が近くにいて助けが間に合ったに過ぎません」
「トドメをうける寸前で、俺が間に合ったんだ。タイミング的には結構ギリギリだったな」
鍔木の説明に所長が口を挟んできた。そこまで聞いて、仁は気を失う前に聞いた声の事を完全に思い出した。
「あっ、あの時の・・・・・本当にありがとうございました。全然動けなくて、もう終わりだと思ったんで」
「命の恩人ってやつだな。感謝しろよ?」
そこまで思い出して、仁は鞘火の方に目を向けた。
「あれ、助けたのは私だって言っていませんでしか?」
「少年が気を失っている間に鬼を撃退したのは私だぞ?間違っていないだろうが」
「鞘火が闘っている間に仁殿の身を守っていたのは私です」
ちゃっかりと自分の事をアピールする鍔木。
「もしかして・・・・・・ここに連れてきてくれて、治療をしてくれたのも」
仁がそこまで言うと、所長が自分を指さしながら
「ここまで仁君を運んだのは俺だぞ?」
「治療をしたのは水緒ですぞ?」
「治療の時に服を脱がせてやったぞ?」
「それはただのセクハラ行為でしょう!テンポよく言ったって流しませんからね!」
「う、うるさいな、少年は!ちょっと見栄をはっただけではないか!フンだ」
「フンだって・・・・・子供みたいな」
鞘火はソファの上で膝を抱えて拗ねてしまった。見た目とはかなりギャップのある拗ね方に、仁は鞘火を責める気持ちが失せてしまった。
「遅かったな」
そう声をかけてきたのは、男のほうだ。
「悪かったな。少年の着替えが長くてね、私も待っていたのだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
すました顔をして言う鞘火。言いたいことは多分にあったが、仁は口を閉ざしていた。それ程長い時間の付き合いではないが、ここで口をひらけばまた拳骨を落とされるような気がしたからだ。対する鞘火は、そんな仁の反応をつまなさそうに見ていた。
「・・・・・・・また、鞘火さんの悪い癖がでたようですね?今から自己紹介を行うというのに警戒させてどうするのですか?」
今度は、女性の方が声をかけてきた。仁が声をかけてきた女性に目を向ける。そこには長い黒髪の男と、眼鏡をかけた女性がいた。
仁がこちらに注意を向けたことに気がついた二人は、ソファから立ち上がり、仁に近づいてくる。
「初めまして、鍔木と申します。ここの事務・経理全般を担当しております」
「俺はここの事務所の所長をしている者だ。所長と呼んでくれ」
「あっ、ハイ。早馬 仁です。よろしくお願いします」
二人は仁に握手を求めてきた。仁は二人と順番に握手を行い、自分も名前だけ名乗った。握手の時に、二人共に探るような目付きで全身を見られたが、すぐに納得したように二人で肯きあう。
所長と名乗った男が部屋の奥にあるデスクに腰掛ける。鍔木は座った所長の後ろに立った。
「そう緊張しないで、腰掛けてくれ。お茶でもどうだ?水緒、頼む」
「ハァ、ありがとうございます」
所長は立ったままでいる仁にソファで座るように促した。鞘火は先に座っており、水緒はいつの間にか消えていた。
「さて・・・・・・・・」
所長は、大きな机に肘をつき、仁に話しかけてきた。
「早馬 仁君。色々聞きたいことがあると思うが、まずは私達から説明させて欲しい。その中に君の疑問の答えがあるだろう。いいかな?」
「は、はい」
「ふん、真面目な口調は似合わんな」
「鞘火さん・・・・・・」
空気を読まない鞘火の発言に、鍔木が鋭い視線を飛ばす。鞘火は鍔木の視線から目をそらし、組んだ足を前後させてつまらなそうに口を尖らせた。そんな二人の様子を所長は苦笑いをして見ている。
「まぁ、うちの事務所はいつもこんな調子でね。仁君も・・・・・そう呼ばせてもらっていいかな?硬くならずに楽にしてくれ。少し長い話になるからな」
「ホホ、所長の言われる通りです、仁様。お茶でも飲まれて気を落ち着けて下され」
「あっ、ありがとうございます」
いつの間にかお茶を用意して戻ってきていた水緒が仁にお茶を差し出す。我知らず肩に力が入っていたのだろう、仁は熱いお茶を一口すすって肩の力を抜いた。
仁の力が抜けたのを確認し、所長が説明を始めようとした。
「さて、本題になのだが・・・・・」
「所長はすぐに話が脱線しますので、代わって私が説明をさせていただきます」
後ろで控えていた鍔木が所長の言葉に被せるようにして、眼鏡を上げながら口を開く。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
所長は呆れた顔をして鍔木の顔を見上げ、仁は開いた口がふさがらない。
「質問がある場合には話の最後にまとめて承ります」
二人からの呆れ顔を涼しい顔でスルーして、鍔木は話を続ける。
「最初にお聞きしたいのですが、仁殿は妖怪・幽霊の類を信じる方ですか?それとも、その様なものはいないと考えられていますか?」
「信じたくなかった、というのが本音です・・・・・・・昨日の件がなければ」
「先日の件とは別に、色々あったご様子ですね・・・・それは、おいおい聞かせていただきましょう。現実に邪鬼妖仙は実在します。昨日の鬼は少し特殊な部類に入りますが」
鍔木は困ったものだ、という風に頭を振りながら続ける
「人に仇なすもの、それが昨日の鬼のような存在です。勿論、無害なものも存在しますが・・・・・我が『神威探偵事務所』はそのような邪鬼妖仙の退治、霊障等を祓う事を専門にしており、別件で仁殿が襲われた現場の近くを警邏しておりました。その途中で、仁殿が襲われた現場に駆けつけた、という次第です。また、その件に関してなのですが・・・・・」
鍔木は自分の手に持っていた書類に目を落とす。
「仁殿を襲った鬼は『飄鬼』と名乗っておりました。残念ながら逃亡を許してしまいましたが、手傷は負わせております。戦闘中やその前の会話から、飄鬼が仁殿を狙った理由として考えられるのは・・・・・・」
鍔木は一度言葉を切り、目線を上げて仁を見た。
「仁殿が持つ類まれな『霊力』と思われます。鞘火さんが目を付けたとおり、仁殿が大きな力を持っているのは間違いありません。仁殿はその力に対して、無自覚な上に力の制御方法もご存知でないご様子。次に狙われたら命の保証はできかねますね。今回はたまたま私達が近くにいて助けが間に合ったに過ぎません」
「トドメをうける寸前で、俺が間に合ったんだ。タイミング的には結構ギリギリだったな」
鍔木の説明に所長が口を挟んできた。そこまで聞いて、仁は気を失う前に聞いた声の事を完全に思い出した。
「あっ、あの時の・・・・・本当にありがとうございました。全然動けなくて、もう終わりだと思ったんで」
「命の恩人ってやつだな。感謝しろよ?」
そこまで思い出して、仁は鞘火の方に目を向けた。
「あれ、助けたのは私だって言っていませんでしか?」
「少年が気を失っている間に鬼を撃退したのは私だぞ?間違っていないだろうが」
「鞘火が闘っている間に仁殿の身を守っていたのは私です」
ちゃっかりと自分の事をアピールする鍔木。
「もしかして・・・・・・ここに連れてきてくれて、治療をしてくれたのも」
仁がそこまで言うと、所長が自分を指さしながら
「ここまで仁君を運んだのは俺だぞ?」
「治療をしたのは水緒ですぞ?」
「治療の時に服を脱がせてやったぞ?」
「それはただのセクハラ行為でしょう!テンポよく言ったって流しませんからね!」
「う、うるさいな、少年は!ちょっと見栄をはっただけではないか!フンだ」
「フンだって・・・・・子供みたいな」
鞘火はソファの上で膝を抱えて拗ねてしまった。見た目とはかなりギャップのある拗ね方に、仁は鞘火を責める気持ちが失せてしまった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる