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第3章 俺、戦うしかない?
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「うわっ!」
光は一瞬だったが、光が消えたあと、そこには鬼の姿は残っていなかった。代わりに、蛍のような小さい光が仁の前に浮いている。
「世話をかけたな、退魔の少年よ」
「うわ、光が喋った!」
小さな光は、仁に話かけてきた。いきなり話しかけられた仁は酷く驚いている。
「そんなに驚くな。私は木霊だ。先ほどまで鬼と化して君を襲っていたがね」
「えっ?」
「私という木霊を核にして瘴気の殻を被せられていたのが先程まで君と戦っていた鬼の正体だよ。少年に瘴気を祓われて、実体が出てきたというところだ」
「言われてみれば、声は同じかな?でも、言葉が流暢になりましたね」
「鬼と化してからの記憶はあるのだが、夢を見ているようだったのだよ。あれはやはり操られていたという事か」
「取り敢えず、元の状態に戻れたということですね。よかったです、今度こそ話が通じそうだ」
仁は小太刀に添えていた左手を下ろして肩の力を抜いた。同時に姿を消していた三人が仁の後ろに現れる。その突然の登場に木霊は驚いたように光をまたたかせた。
「・・・・・・・・・神出鬼没だな。そちらのお三方は。どうも、普通の人間とは違う気配を感じるのだが」
「秘密という訳ではないんですが、説明をすると長くなりますので・・・・・・」
疲れたように肩を落として、言葉を濁す。説明を行うのが面倒なようだ。
「本題なんですが、なんで鬼になんかなっちゃったんですか?」
「迷惑をかけたようだからな、私の覚えている範囲でよければ説明しよう」
そこから聞いた木霊の話はこうだった。
過去、木霊の本体である大樹は神社の神木として祀られていた。聖域である神社の霊気と参拝客の祈りにより、神木は木霊を宿す存在になった。神主を助け、参拝客を長い間見守ってきた存在だったのだが、過去の廃仏毀釈運動によって社が取り壊され、この土地に人が寄り付かなくなった。更に、近年にここら一帯が墓地として使用されることとなったが、木霊の依代たる神木は巨木であるので切り倒す事が困難であり。切られる事はなかった。
しかし、大樹の周辺は墓地のゴミ集積所として使用された。かつては神木として祀られ、神と崇められた大樹への人間への不遜に、木霊は人間への恨みを募らせていった。しかし、信仰こそが力であった神木は、社が取り壊されてからは力を失う一方であった。実体化するほどの霊力は残っておらず、恨みを晴らすことはできなかった。しかし、ゴミを積み重ねられる度に、人間への恨みも積もっていった。そこへ、鬼が木霊の前に現れた。
《人間への恨み、晴らしたくはないか?恨みを晴らす力が欲しくないか?》
人間への恨みが積もっていた木霊には、抗いがたい誘惑だった。
鬼が神木へ霊気を分けて木霊を実体化させ、それを核として瘴気で鬼の実体を作り出した。体を与えられた《木霊鬼》は恨みを晴らすためにこの墓地を拠点として行動を開始したという訳であった。
「最初は人を驚かせる程度だったのだが、鬼の体に馴染んでいくたびに凶暴性が増していくようだった。あのままでは、何時か人を殺めていたかもしれん・・・・・・・」
木霊の声は沈んでいた。人間への恨みがあったとは言え、過去は神と崇められていた存在が鬼に堕ちて人に害をなした。
木霊の核たる光は仁の目の前に移動してきて語りかけた
「瘴気を祓ってもらったお陰で恨みもほとんど消えているようだが、今のままではまた人間への恨みをもってしまうだろう・・・・・・・・いっそ、少年の手で我が依代を燃やしてはくれまいか?」
木霊の言葉に仁は鞘火の顔色を伺った。一瞬、鞘火の目に喜色が走ったのは気のせいではないだろう。なにせ、最初は木を燃やして問題解決を図ろうとしていたのだ。期せずして、当の本人から燃やしてもいいと許可出るとは思っていなかったのだろう。今日の仕事では、何も燃やしていないので若干ストレスが溜まっているようだ。
「嬉しそうにしないでくださいよ、鞘火さん。ダメに決まっているでしょ!」
「むぅ、それは気のせいだぞ、少年よ。そんなに私が燃やしたがっているとでも言うつもりか?失敬だな」
そんな鞘火の白々しい言葉に、他の二人も白い目を向けている。
「まったく。お前が暴れた後に尻拭いするこっちの苦労も考えろ」
「これだけの大樹を燃やしてしまっては後処理も大変になるのぉ。お前が事務処理するか?鞘火」
所長と水緒が釘を刺すように鞘火に言う。
「でも、このままでは木霊さんの言うとおり同じことを繰り返してしまうかもしれません。何かいい方法はないですかね」
「こういうのはどうかな?」
少し思案してから、所長が木霊に話しかける。
「今日の仕事は、この墓地の地主から怪奇現象の正体を突き止めるように依頼を受けたものだ。この依頼主が妖怪や幽霊を信じている方の人間なのだ」
「依頼主さんが心霊現象を信じている人だとなにかいい事が?」
「今回の件は、大樹に宿る木霊の仕業ということを説明して、まずはゴミ集積所を違う場所に移してもらおう。そして、木霊を説得したという事にして祠を建ててもらう。墓地を霊的に安定させる為に神木として崇めるようにもお願いする」
「さすが兄貴。それなら、新たな恨みが生まれることもないし元々としての役割にも戻れるということですね。いかがでしょうか?木霊さん」
仁は所長の提案を木霊に確認する。
「そうして貰えるなら願ってもない事だ。この地で人を見守るのが私の本来の役目なのだからな」
「ホッホッホ、では決まりですかな?」
「だな、俺は明日にでも依頼主の所に行ってくるよ」
「フン、つまらん・・・・結局何も燃やせなかったではないか」
物騒な事を呟きながら一人不満そうにしている鞘火。
「勘弁して下さいよ。鞘火さん・・・・・・・今から後始末もあるんですから」
仁が疲れたように肩を落として言う。事件は解決したが、広場を見回すと地面から突き出す土槍と、炎で炙られたコンクリートが溶けている。
「そうだなぁ、さすがにこの惨状を戻しておかないと依頼主に交渉もクソもないなぁ。逆に損害賠償を請求されかねん」
「所長と仁様の出番ですな。土槍を崩して地面を均し、コンクリートも元に戻してくだされ。土行の力でそう時間もかかりませんでしょう」
「水緒さん、まだ俺に働かせます?明日は模試なので少しでも早く帰りたいんですが・・・・」
「ホッホッホ、これも仕事です。修行にもなりますからな。早く帰りたいのであれば早く終わらせることです。人払いの結界は私が解除しておきますから」
「私達は先に帰るがな」
鞘火と水緒は、そう言い残すとそれぞれ出口へ向かっていった。
「・・・・・・・・今何時ですか?」
「4時30分だ、義弟よ。そろそろ夜が明ける時間だな」
「俺、明日の模試は8時からなんですよ。ここから試験会場まで1時間近くかかるんですよねぇ」
「この状態を元に戻すのに1時間はかかるだろうからなぁ・・・・・・・戻って寝る時間はないんじゃないか?」
所長が仁の肩を叩いて言う。
「・・・・・・・なんすか、この地獄。俺の本業は勉強なんですけど?」
徹夜で模試に突入させられる職場環境。浪人生にとっては地獄だろう。
仁はガックリと肩を落として、この職場に入らざるを得なかった時の事を思い出していた。
「うわっ!」
光は一瞬だったが、光が消えたあと、そこには鬼の姿は残っていなかった。代わりに、蛍のような小さい光が仁の前に浮いている。
「世話をかけたな、退魔の少年よ」
「うわ、光が喋った!」
小さな光は、仁に話かけてきた。いきなり話しかけられた仁は酷く驚いている。
「そんなに驚くな。私は木霊だ。先ほどまで鬼と化して君を襲っていたがね」
「えっ?」
「私という木霊を核にして瘴気の殻を被せられていたのが先程まで君と戦っていた鬼の正体だよ。少年に瘴気を祓われて、実体が出てきたというところだ」
「言われてみれば、声は同じかな?でも、言葉が流暢になりましたね」
「鬼と化してからの記憶はあるのだが、夢を見ているようだったのだよ。あれはやはり操られていたという事か」
「取り敢えず、元の状態に戻れたということですね。よかったです、今度こそ話が通じそうだ」
仁は小太刀に添えていた左手を下ろして肩の力を抜いた。同時に姿を消していた三人が仁の後ろに現れる。その突然の登場に木霊は驚いたように光をまたたかせた。
「・・・・・・・・・神出鬼没だな。そちらのお三方は。どうも、普通の人間とは違う気配を感じるのだが」
「秘密という訳ではないんですが、説明をすると長くなりますので・・・・・・」
疲れたように肩を落として、言葉を濁す。説明を行うのが面倒なようだ。
「本題なんですが、なんで鬼になんかなっちゃったんですか?」
「迷惑をかけたようだからな、私の覚えている範囲でよければ説明しよう」
そこから聞いた木霊の話はこうだった。
過去、木霊の本体である大樹は神社の神木として祀られていた。聖域である神社の霊気と参拝客の祈りにより、神木は木霊を宿す存在になった。神主を助け、参拝客を長い間見守ってきた存在だったのだが、過去の廃仏毀釈運動によって社が取り壊され、この土地に人が寄り付かなくなった。更に、近年にここら一帯が墓地として使用されることとなったが、木霊の依代たる神木は巨木であるので切り倒す事が困難であり。切られる事はなかった。
しかし、大樹の周辺は墓地のゴミ集積所として使用された。かつては神木として祀られ、神と崇められた大樹への人間への不遜に、木霊は人間への恨みを募らせていった。しかし、信仰こそが力であった神木は、社が取り壊されてからは力を失う一方であった。実体化するほどの霊力は残っておらず、恨みを晴らすことはできなかった。しかし、ゴミを積み重ねられる度に、人間への恨みも積もっていった。そこへ、鬼が木霊の前に現れた。
《人間への恨み、晴らしたくはないか?恨みを晴らす力が欲しくないか?》
人間への恨みが積もっていた木霊には、抗いがたい誘惑だった。
鬼が神木へ霊気を分けて木霊を実体化させ、それを核として瘴気で鬼の実体を作り出した。体を与えられた《木霊鬼》は恨みを晴らすためにこの墓地を拠点として行動を開始したという訳であった。
「最初は人を驚かせる程度だったのだが、鬼の体に馴染んでいくたびに凶暴性が増していくようだった。あのままでは、何時か人を殺めていたかもしれん・・・・・・・」
木霊の声は沈んでいた。人間への恨みがあったとは言え、過去は神と崇められていた存在が鬼に堕ちて人に害をなした。
木霊の核たる光は仁の目の前に移動してきて語りかけた
「瘴気を祓ってもらったお陰で恨みもほとんど消えているようだが、今のままではまた人間への恨みをもってしまうだろう・・・・・・・・いっそ、少年の手で我が依代を燃やしてはくれまいか?」
木霊の言葉に仁は鞘火の顔色を伺った。一瞬、鞘火の目に喜色が走ったのは気のせいではないだろう。なにせ、最初は木を燃やして問題解決を図ろうとしていたのだ。期せずして、当の本人から燃やしてもいいと許可出るとは思っていなかったのだろう。今日の仕事では、何も燃やしていないので若干ストレスが溜まっているようだ。
「嬉しそうにしないでくださいよ、鞘火さん。ダメに決まっているでしょ!」
「むぅ、それは気のせいだぞ、少年よ。そんなに私が燃やしたがっているとでも言うつもりか?失敬だな」
そんな鞘火の白々しい言葉に、他の二人も白い目を向けている。
「まったく。お前が暴れた後に尻拭いするこっちの苦労も考えろ」
「これだけの大樹を燃やしてしまっては後処理も大変になるのぉ。お前が事務処理するか?鞘火」
所長と水緒が釘を刺すように鞘火に言う。
「でも、このままでは木霊さんの言うとおり同じことを繰り返してしまうかもしれません。何かいい方法はないですかね」
「こういうのはどうかな?」
少し思案してから、所長が木霊に話しかける。
「今日の仕事は、この墓地の地主から怪奇現象の正体を突き止めるように依頼を受けたものだ。この依頼主が妖怪や幽霊を信じている方の人間なのだ」
「依頼主さんが心霊現象を信じている人だとなにかいい事が?」
「今回の件は、大樹に宿る木霊の仕業ということを説明して、まずはゴミ集積所を違う場所に移してもらおう。そして、木霊を説得したという事にして祠を建ててもらう。墓地を霊的に安定させる為に神木として崇めるようにもお願いする」
「さすが兄貴。それなら、新たな恨みが生まれることもないし元々としての役割にも戻れるということですね。いかがでしょうか?木霊さん」
仁は所長の提案を木霊に確認する。
「そうして貰えるなら願ってもない事だ。この地で人を見守るのが私の本来の役目なのだからな」
「ホッホッホ、では決まりですかな?」
「だな、俺は明日にでも依頼主の所に行ってくるよ」
「フン、つまらん・・・・結局何も燃やせなかったではないか」
物騒な事を呟きながら一人不満そうにしている鞘火。
「勘弁して下さいよ。鞘火さん・・・・・・・今から後始末もあるんですから」
仁が疲れたように肩を落として言う。事件は解決したが、広場を見回すと地面から突き出す土槍と、炎で炙られたコンクリートが溶けている。
「そうだなぁ、さすがにこの惨状を戻しておかないと依頼主に交渉もクソもないなぁ。逆に損害賠償を請求されかねん」
「所長と仁様の出番ですな。土槍を崩して地面を均し、コンクリートも元に戻してくだされ。土行の力でそう時間もかかりませんでしょう」
「水緒さん、まだ俺に働かせます?明日は模試なので少しでも早く帰りたいんですが・・・・」
「ホッホッホ、これも仕事です。修行にもなりますからな。早く帰りたいのであれば早く終わらせることです。人払いの結界は私が解除しておきますから」
「私達は先に帰るがな」
鞘火と水緒は、そう言い残すとそれぞれ出口へ向かっていった。
「・・・・・・・・今何時ですか?」
「4時30分だ、義弟よ。そろそろ夜が明ける時間だな」
「俺、明日の模試は8時からなんですよ。ここから試験会場まで1時間近くかかるんですよねぇ」
「この状態を元に戻すのに1時間はかかるだろうからなぁ・・・・・・・戻って寝る時間はないんじゃないか?」
所長が仁の肩を叩いて言う。
「・・・・・・・なんすか、この地獄。俺の本業は勉強なんですけど?」
徹夜で模試に突入させられる職場環境。浪人生にとっては地獄だろう。
仁はガックリと肩を落として、この職場に入らざるを得なかった時の事を思い出していた。
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