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第2章 俺、死にかけてる?
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しおりを挟む「さてと、この木を燃やせば問題は解決か?依代がなくなれば力も拡散するだろう」
「解決方法が力技過ぎて素敵です、鞘火さん。そこら辺だけはマジで尊敬しますけど、後処理をする所長さんが大変だと思いますからやめた方がいいですよ?」
物騒な事を言いながら木に近づいていく鞘火。仁はその背中に語りかけた。
「所長と水緒さんに怒られるなら鞘火さんだけでお願いしますね。俺は止めました」
仁は依代の木に近づく鞘火に対して、小さな声で語りかけた。
仁の言葉が聞こえたのだろうか?
歩みを止めた鞘火は後ろを振り返り、仁の姿を見て不快そうに目を細める。わざわざ仁の隣まで引き返してきて、無言で少年のお尻に蹴りを入れた。
「痛っ!何するんですか!?ってか、今の聞こえたんですか?」
「私をなめるなよ?1km先でも少年の声は私に届くようになっているのだ。よって、馬鹿な事を言う少年にはお仕置きが必要だと判断した」
「・・・・・・チッ。無駄な能力ですね」
舌打ちをした仁に対して、眉間に皺を寄せて再度お尻に蹴りを食らわせる鞘火。今度は力が入っているのか、仁の体が前に泳いだ。仁は地面に手をついて体を支える。
「グワッ、今度はマジで痛いですよ!」
「私は口より先に手が出るタイプでな、言葉には気をつけた方がいい」
仁は地面に手をつけた態勢のまま首を後ろに向けて文句を言った。
「そのくだり何回目ですか!何度も蹴らないでくださいよ!」
「言葉に気をつけろという私の忠告を忘れていたようだったのでな、体に教えてやったのだ」
とても残念そうに首を振りながら鞘火はお尻を突き出すようにしている仁にもう一発蹴りを入れた。
スパァン!
かなりいい音が墓地に響き渡る。腰から綺麗に回転し足のしなりが利いている。とてもイイ蹴りだ。
「アイタァ!何を人のお尻でいい音出してるんですか!」
少し涙目になっている仁に対して鞘火は腕組をして、満足げにしていた。
「思ったよりも快音がでて非常に満足している。大体、ドMの君が蹴りやすい体勢を保持しているのはお仕置きを求めているのだろう?期待に応えるのが私の流儀だぞ」
「そんな訳ないでしょ!何度も蹴られたせいで足にきてるんですよ。お願いですから、もう蹴らないでください・・・・・・・」
仁は顔を落として鞘火に哀願した。
「残念脳な少年に、コンビで仕事をする責任を教えてあげているのではないか。手柄も責任も平等なのがコンビというものだぞ?」
「いつも一人で仕事している風に言うくせに・・・・・マジで最悪だよ、この人・・・・・・・」
「なにか言ったか?」
「なんでもないです」
「フン、問題が解決するなら手っ取り早いほうがいい。この墓地には結界も張ってあるから、木を燃やしても騒ぎにはならないだろうさ」
そう言いながら、鞘火は右の掌に大きな炎を作り出した。
「いかがなされたのですか?仁様。何故に女豹のポーズを・・・・・・・」
いざ、炎を木に放とうと鞘火が腕を上げたと同時に、仁に声がかかった。
「ま、まさか私は仁様のお楽しみを邪魔してしまいましたか?」
仁と鞘火が入ってきた方とは反対側の通路から老婆が現れた。
「冗談はやめて下さい!水緒さん。俺が一方的に鞘火さんに虐められているだけですよ。分かってるくせに・・・・・」
「ホッホッホ、冗談ですよ。どれ、立てますかな?」
水緒は足に力が入らない仁を脇からすくい上げて立たせた。
「婆の肩に手を置いていて結構ですぞ?ほれ、術を止めんか鞘火。炙り出すなら他にもやりようがあろうが」
「チッ、仕方ないな」
水緒の出現で木を炙るタイミングを逸してしまった鞘火は、舌打ちをして炎を握りつぶした。
「遅かったな、水緒。結界を張るために先に墓地に入ったので、先に着いているかと思ったのだが」
「墓地とういのは一種の霊域だからのぉ、結界を張るのに手こずった。まぁ、人払いの結界は四方に張ったから、今夜は肝試しの輩が来ることはあるまいよ」
「結界を張っていたのは水緒さんだったんですね。今日は姿見えないからどうしたのかと思いました・・・・・・・一人じゃ鞘火さんは止められないんで、助かります」
「・・・・・・・少年は本当に学習能力が足りないのだな?本人を目の前にして失礼な事を言う口はこれか?」
うっかり口を滑らせた仁の頬を鞘火がねじるように引っ張った。
「イタタタタタ、しゅいません、ごめんなひゃい。ほう言いませんひゃらはなひてくだしゃい!」
「何を言っているのか分からん。はっきり喋れ」
言いながら、更に楽しそうに力を入れる鞘火。
「ほれ、二人共。そろそろ遊んでいる場合ではないみたいだぞ?」
ジャレあう二人を横目にしながら、水緒は件の木を指さす。
黒い霧が染み出すように木から溢れていた。霧はそのまま風で流されることなく鞘火達の前で塊となる。
「おそらくですが、木霊の一種だと思いますよ」
水緒は仁の傍まできて霧の塊から目を離さずに言う。仁の頬を引っ張っていた鞘火も霧が濃くなっていくのを確認してその手を離した。
「確か、切り倒そうとしたりすると祟られたりとか切ると木から血が出るとか・・・・・・木に手を出さなくてよかったですね、鞘火さん」
霧の塊が形を作っていく。それは≪鬼≫であった。鋭い鉤爪と牙を生やしており、痩せこけた巨体とミイラじみた恐ろしい顔。そして額からは大きな二本の角が突き出しており、頭からはざんばらの黒い髪がたなびいて地面をこすっている。
「・・・・・・・木霊って、鬼でしたっけ?イタズラ好きなだけの弱い妖じゃないんですか?俺の勝手なイメージですけど」
その恐ろしげな容貌の鬼から視線を外して、水緒に話しかけた。
「不勉強ですなぁ、仁様」
簡単に水緒が説明してくれる。
木の神のくくりを木霊ということであり『源氏物語』に「鬼か神か狐か木魂か」「木魂の鬼や」などの記述があることから、当時にはすでに木霊を妖怪に近いものと見なす考えがあったと見られているという。また、人魂・獣・鬼・人の姿になるともいうので、決まった形のある妖怪ではない。
「今回は鬼の姿をとっているので≪木霊鬼≫とでもいいますかな?今までの目撃情報が様々な形でもたらされたのにも納得がいきます」
≪木霊鬼≫はぎくしゃくとした動作で鞘火達に顔を向けた。
「タ、退魔師ガこの地に何用カ?イ、命ガ惜しケれば疾く去るがヨイ」
「しゃべりましたよ、鞘火さん!」
「珍しいな。下等に見えたが、自我があるようだ。肝試しのせいで自然発生したものではないのか?」
≪木霊鬼≫が人の言葉を話したことに仁と鞘火が驚きを隠せなかった。
「意思が通じるようであれば、祓う必要がないかもしれませんな。おとなしく封印を受けるように説得してみて下さい」
水緒は興味深そうに≪木霊鬼≫を眺めている。
「明らかに説得応じそうな雰囲気ではないのは気のせいでしょうか・・・・・・」
グルウルルルル
≪木霊鬼≫は全身に黒い霧をまとい、口からも黒い霧を吐き出しながらこちらの様子をみている。目は空洞のようになっており、そこからは何の感情も読み取れない。しかし、体をこちらに向けていつでもとびかかれるように準備をしているようにも見える。
「見るからに敵意丸出しですが・・・・・・説得できるならそれに越したことはないですよね。鞘火さん、いつものように鉄拳にものを言わせてよろしくお願いします」
「一言多いのは少年の悪い癖だな。お前がするんだよ、お前が」
安堵したのも束の間、鞘火が仁の頭に拳骨を落として言った。
「お前があの鬼を説得しろ」
「痛い!本当にすぐに殴るのはやめて下さいよ。ってか、自分が説得とかマジ無理でしょ?馬鹿ですか」
再度、鞘火の拳骨が仁の頭に落ちる。
「いいから、早く行け。模試があるから早く帰りたいといったのはお前だろうが!」
「頑張って下され、仁様」
「うぅ、バイトの身では上司の理不尽な暴行と命令に耐えないといけないんですね・・・・・・」
仁は小さな声でぼやきながら≪木霊鬼≫へ歩み寄った。鞘火と水緒は仁の後ろで様子見を見守っている。そんな二人を振り返って
「すいません、なんて話しかければいいんでしょうか?」
問いかける仁であったが、鞘火はシッシッと手を振り、水緒は笑顔を浮かべているだけだ。
「助ける気はゼロという事ですか・・・・・・・仕方がない」
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