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第1章 俺、騙されてないよね?
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「思い悩んでいるな、少年。自分にどのような才能が隠れているか分からないと見える」
テーブルを挟んで座る鞘火が身を乗り出してくる。
「それとも・・・・・・分かっていてとぼけているだけか?」
そのまま、仁の目を挑発的に覗き込む。仁は目の直視できずに視線を外して身を引いてしまった。
「いや、本当に分からないです。今まででそんな風に自分の事を言ってくれる人なんていなかったですし」
本当は人とは違う事ができるという事に対して、仁には一つだけ心当たりがあった。しかし、それは傍から見て分かるようなものではないし、仁自身がそれを才能ではないと思っている。仁にとっては無用の長物であり、捨てたいとさえ思っているものだ。
「フッフッフ。少年、君は『見える』だろ?」
仁の目に動揺が走った瞬間を見逃さず、鞘火は更に身を乗り出して言った。押し出すように言ってくる鞘火を避けるように仁は体を更に引く。
「視力は普通ですが・・・・・」
「力も『持っている』な?」
「な、何を持っているというんですか?まさか、バイトの身の俺がお金を持っているように見えるとでも?」
冗談めかして仁は言った。しかし、鞘火は仁の言葉を鼻で笑う。
「フン、とぼけても無駄だ。私にはわかるのだよ」
鞘火は大きく手を広げて朗々と歌うように言葉を続ける。
「霊力・霊能・霊感・神通力。言い方はなんでもいい。この世にあらざるものが『見える力』を持ち、それに干渉する力を『持っている』ということだ」
「ホッホッホ、言ったでしょう?鞘火の目利きに間違いはない、と」
水緒にもわかるのだろうか、仁が力を持っていることを確信しているように言った。
「霊能を持っている人間は、いる。しかし、少年はそれだけにあらず!だ。その力を私は見込んだ、という事だよ。しかも、かなり希少。きちんと実験しなければ・・・・・・分からんがな!」
「うわっ!」
突然、鞘火の体から目も眩むような光が走った。仁は咄嗟に腕で顔をかばって光から目をそらしたが、光は一瞬だけだった。
恐る恐る腕を下ろすと、鞘火が笑いながら言った。
「今のが最初の実験だ、少年。今のは私が君に向けて霊気を放出しただけだ。普通の人には見えないものなのだがなぁ」
「何でそんな事が分かるんですか?俺にはそんな力ありません。夕日が眩しかっただけです」
「そんなに警戒しないで下され。仁様」
警戒心を顕にする仁。それをなだめるように水緒が言う。
「我々は仁様のような方を探していたのです、どうかお話だけでもさせていただけませんか?」
「・・・・・・・・・・・・」
先ほどまで状況に流されているような仁だったが、霊能の話が出た途端に態度が変った。目つきを厳しくして、反対側に座る二人を見ている。
「そんな訳の分からない話をする為だったら、申し訳ありませんが帰らせていただきます」
「フン、何をそんなに焦っているのだ少年よ?才能があると褒めているのだ、ありがたく思わんのか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
仁は無言のまま席を立ち、そのまま部屋を出ようと入ってきた方向に体を向けた。黙したまま立ち去ろうとする仁の背中に鞘火は言葉を投げかけた。
「まだ仕事の説明もしていない。話は最後まで聞いても損はないと思うが?」
「話を聞く気にはなれません」
仁の返事はにべもないものだった。鞘火の方を振り向きもしない。
「そうか、無理強いするのは私の趣味ではないからな。止めはせんよ。気が変わったならいつでも来るがいい。私達はいつでも少年を歓迎しているぞ?」
「気が向いた時にまた茶でも飲みに来てくだされ・・・・・・・・ご連絡をお待ちしておりますよ」
水緒はそう言って、仁が出ていこうとするのに先立ってドアを開けた。
「水緒さん。お茶、ごちそうさまでした・・・・・・失礼します」
仁は逃げるように水緒が開けてくれたドアから出て行く。鞘火と水緒は仁の足音が消えるまで部屋に佇んでいた。
「ふぅ、思春期の少年の心はよく分からないな。いきなりどうしたというのだ?」
無言の時間に耐えられなかったのか、鞘火が冷め切ったお茶を飲みながら言う。水緒は鞘火の為に温かい湯を用意しながらも責めるような視線を向けた。
「確かに、仁様の突然の変わりようには驚いたが・・・・・・お前のその態度も問題があると思うぞ?」
「フン、これが私なのだ。これからも変わらないし、変えようとも思わない」
「まぁ、お前が殊勝な態度をとったら気持ち悪いがのぉ・・・・・・さて、どうしたものか。確かに得難い人材であることには間違いないと思うぞ」
「今日のところは顔合わせと思えばいいだろう。水緒に少年の力を確認してもらいたかったという点では目的達成はしている。本当は所長にも確認してもらいたかったのだがな」
「お前が連れてきた人材だ。取りあえずは任せるが・・・・・・一応、他の奴らにも報告はしておくぞ」
「報告は任せるよ・・・・・・・クックック」
そこまで言って、鞘火はこらえきれず笑いを漏らした。一度出てしまったものは止められないのか、笑いはそのまま大きくなっていく。
「アッハッハッハ。よくよく私は引き(・・)がいいよ!まさか、ここに事務所を構えて1年近くで大当たりなんてな!水緒、私を尊敬するがいいぞ」
「そうじゃなぁ、10年は覚悟していたからの。お前の引きは確かにすごいな。先代もお前が見つけてきたしなぁ」
嬉しそうに笑いを続ける鞘火。ひとしきり声を上げて笑うと、今度は口角を持ち上げて人の悪そうな笑いに変えた。
「少し様子を見よう。最後の態度は腑に落ちないが・・・・・・どうやら、懐は寂しそうではないか?そこら辺をつつけば、あっさりこちら側に来るかもしれんぞ?」
「相変わらず悪い事を言うな、お前は」
「フフ、あの少年は中々私を楽しませてくれそうだな。今生も退屈せずに済みそうだ。これはかなり重要な事だと、私は思うぞ」
鞘火は愉快そうに呟きながらソファに背中を預けて、天井を仰いだ。
テーブルを挟んで座る鞘火が身を乗り出してくる。
「それとも・・・・・・分かっていてとぼけているだけか?」
そのまま、仁の目を挑発的に覗き込む。仁は目の直視できずに視線を外して身を引いてしまった。
「いや、本当に分からないです。今まででそんな風に自分の事を言ってくれる人なんていなかったですし」
本当は人とは違う事ができるという事に対して、仁には一つだけ心当たりがあった。しかし、それは傍から見て分かるようなものではないし、仁自身がそれを才能ではないと思っている。仁にとっては無用の長物であり、捨てたいとさえ思っているものだ。
「フッフッフ。少年、君は『見える』だろ?」
仁の目に動揺が走った瞬間を見逃さず、鞘火は更に身を乗り出して言った。押し出すように言ってくる鞘火を避けるように仁は体を更に引く。
「視力は普通ですが・・・・・」
「力も『持っている』な?」
「な、何を持っているというんですか?まさか、バイトの身の俺がお金を持っているように見えるとでも?」
冗談めかして仁は言った。しかし、鞘火は仁の言葉を鼻で笑う。
「フン、とぼけても無駄だ。私にはわかるのだよ」
鞘火は大きく手を広げて朗々と歌うように言葉を続ける。
「霊力・霊能・霊感・神通力。言い方はなんでもいい。この世にあらざるものが『見える力』を持ち、それに干渉する力を『持っている』ということだ」
「ホッホッホ、言ったでしょう?鞘火の目利きに間違いはない、と」
水緒にもわかるのだろうか、仁が力を持っていることを確信しているように言った。
「霊能を持っている人間は、いる。しかし、少年はそれだけにあらず!だ。その力を私は見込んだ、という事だよ。しかも、かなり希少。きちんと実験しなければ・・・・・・分からんがな!」
「うわっ!」
突然、鞘火の体から目も眩むような光が走った。仁は咄嗟に腕で顔をかばって光から目をそらしたが、光は一瞬だけだった。
恐る恐る腕を下ろすと、鞘火が笑いながら言った。
「今のが最初の実験だ、少年。今のは私が君に向けて霊気を放出しただけだ。普通の人には見えないものなのだがなぁ」
「何でそんな事が分かるんですか?俺にはそんな力ありません。夕日が眩しかっただけです」
「そんなに警戒しないで下され。仁様」
警戒心を顕にする仁。それをなだめるように水緒が言う。
「我々は仁様のような方を探していたのです、どうかお話だけでもさせていただけませんか?」
「・・・・・・・・・・・・」
先ほどまで状況に流されているような仁だったが、霊能の話が出た途端に態度が変った。目つきを厳しくして、反対側に座る二人を見ている。
「そんな訳の分からない話をする為だったら、申し訳ありませんが帰らせていただきます」
「フン、何をそんなに焦っているのだ少年よ?才能があると褒めているのだ、ありがたく思わんのか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
仁は無言のまま席を立ち、そのまま部屋を出ようと入ってきた方向に体を向けた。黙したまま立ち去ろうとする仁の背中に鞘火は言葉を投げかけた。
「まだ仕事の説明もしていない。話は最後まで聞いても損はないと思うが?」
「話を聞く気にはなれません」
仁の返事はにべもないものだった。鞘火の方を振り向きもしない。
「そうか、無理強いするのは私の趣味ではないからな。止めはせんよ。気が変わったならいつでも来るがいい。私達はいつでも少年を歓迎しているぞ?」
「気が向いた時にまた茶でも飲みに来てくだされ・・・・・・・・ご連絡をお待ちしておりますよ」
水緒はそう言って、仁が出ていこうとするのに先立ってドアを開けた。
「水緒さん。お茶、ごちそうさまでした・・・・・・失礼します」
仁は逃げるように水緒が開けてくれたドアから出て行く。鞘火と水緒は仁の足音が消えるまで部屋に佇んでいた。
「ふぅ、思春期の少年の心はよく分からないな。いきなりどうしたというのだ?」
無言の時間に耐えられなかったのか、鞘火が冷め切ったお茶を飲みながら言う。水緒は鞘火の為に温かい湯を用意しながらも責めるような視線を向けた。
「確かに、仁様の突然の変わりようには驚いたが・・・・・・お前のその態度も問題があると思うぞ?」
「フン、これが私なのだ。これからも変わらないし、変えようとも思わない」
「まぁ、お前が殊勝な態度をとったら気持ち悪いがのぉ・・・・・・さて、どうしたものか。確かに得難い人材であることには間違いないと思うぞ」
「今日のところは顔合わせと思えばいいだろう。水緒に少年の力を確認してもらいたかったという点では目的達成はしている。本当は所長にも確認してもらいたかったのだがな」
「お前が連れてきた人材だ。取りあえずは任せるが・・・・・・一応、他の奴らにも報告はしておくぞ」
「報告は任せるよ・・・・・・・クックック」
そこまで言って、鞘火はこらえきれず笑いを漏らした。一度出てしまったものは止められないのか、笑いはそのまま大きくなっていく。
「アッハッハッハ。よくよく私は引き(・・)がいいよ!まさか、ここに事務所を構えて1年近くで大当たりなんてな!水緒、私を尊敬するがいいぞ」
「そうじゃなぁ、10年は覚悟していたからの。お前の引きは確かにすごいな。先代もお前が見つけてきたしなぁ」
嬉しそうに笑いを続ける鞘火。ひとしきり声を上げて笑うと、今度は口角を持ち上げて人の悪そうな笑いに変えた。
「少し様子を見よう。最後の態度は腑に落ちないが・・・・・・どうやら、懐は寂しそうではないか?そこら辺をつつけば、あっさりこちら側に来るかもしれんぞ?」
「相変わらず悪い事を言うな、お前は」
「フフ、あの少年は中々私を楽しませてくれそうだな。今生も退屈せずに済みそうだ。これはかなり重要な事だと、私は思うぞ」
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