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第5章 抗争
第百六十五話
しおりを挟む扉を潜った先には廃墟の世界だった。
荒れ果て崩れ落ちた建物。
見上げると空が赤く濁っていた。
え?なにここ?
迷宮っていうから僕はてっきりRPGによくあるダンジョンをイメージしていたんだけど、ここは全然違う世界に迷い込んだって感じた。
近くには青白く輝くポータルがあった。
どうやらここは安全地帯のようだ。
ポータルとは迷宮に設置された休憩所のようなもので、ポータルのある辺りは魔物が現れず、ここでHPMPを回復するキャンプやログアウト、迷宮脱出魔法やアイテムなどが行える。
もし迷宮内で死んだら近くの立ち寄ったポータルに転送されることにもなっている。
ていうか、入ってすぐの場所にポータルって普通はありえないんですけど。
まあ、僕はまともに迷宮を潜ったことがないし、攻略サイトやヘルプ機能で知った知識しかない。
こういう迷宮もあるのかもしれないと思い直した。
視界右端に表示されるMAPはいまいる場所しか描かれていない。
通れそうな道は向かって正面、右斜め、左方向の三箇所。
僕はメニュー画面から設定をタップし、反対の視界左端にPTメンバーのHPを表示させた。
上から僕、さくら、ヴァイス、アーチェさん、ルビーさんの順にHPMPゲージが表示される。
少し視界が遮られるけど慣れてしまえば戦闘に支障はない。
僕は右手に衝撃槍。左手にミスリルの盾を持つ。
みんなも準備はできたようだ。
「えっと、とりあえずルビーさん、広範囲索敵をお願いします」
「はいお兄様。【広範囲索敵】」
意識を集中させ周囲を見渡すルビーさん。
ルビーさんの索敵はレベル10とCSしているうえに周囲の地形を確認できる【地形探査】もCSしている。いま使ってもらった【広範囲索敵】は索敵と地形探査の二つを兼ね備えた上位スキルだ。
これならたとえ迷宮にいる魔物が隠蔽スキルで隠れていても見つけ出すことが可能だし、MAPもルビーさんのおかげでかなりの範囲をマッピングできて宝箱の位置や行き先もある程度把握できる。
視界に表示されてる真っ黒なMAPが徐々にだけどはっきりと道が表示されていく。
敵を表す赤いシンボル、ビーコンがいくつか表示され、宝箱を示すマーク(まんま宝箱の図柄)も数個表示された。
ルビーさんのスキルにより大体半径100メートルくらいの地形がマッピングされた。
うーん……正面を真っ直ぐ進むと50メートルくらい先にmodが一体。
右斜めは数十メートルごとに分かれ道がいくつかある。
曲がり角辺りに赤いビーコンが複数。待ち伏せかな?
道のその先は範囲外で表示されていない。
そして左は一本道で進んだ先に宝箱が3個ある。
「とりあえず左に行こう」
「かしこまりましたご主人様」
「…k」
「わかったわ。後ろは任せて」
「宝箱を取りに行くのですね。了解しましたわ」
僕達は前衛の僕を先頭に中衛ルビーさん、さくら、後衛にヴァイス、アーチェさんの隊列で左の道へ歩を進めた。
MAPを見ながら道なりに進んでいく。
今のところこちらの道に敵はいないし、向かってくる敵もいない。
僕はそんなに警戒せずに歩を進めていった。
「お待ち下さいご主人様!」
急にさくらが僕の腕を掴んで引き寄せた。
!?
案外力強いさくらに引き寄せられた僕はさくらに抱き寄せられるような体勢になった。
ちょっ!?なに!?
さくらの柔らかい感触にどきまぎする僕。
「そこの地面に罠が設置されております」
さくらは地面を指差して言う。
えっマジで!?
ルビーさんが慎重に歩を進め、さくらが言った辺りを厳しい表情で見ている。
「【罠探知】」
ルビーさんが呟くように口にしたスキルの効果か、さくらが指した地面の辺りに魔法陣が浮かび上がった。
「これは魔法トラップ……!?術式からして爆発系の魔法ですわ」
地雷みたいな罠か……危なかった(冷汗)
「よくわかったね」
「メイドの嗜みです(^_-)-☆」
いや、意味がわからないんですけど……(苦笑)
「さくらさんも探知系のスキルが使えたのですね」
「ルビー様程の索敵能力はありませんが、以前【探索者】の職業に就いておりましたので罠の探知及び解除は得意としております」
さくらはそう言うと魔法陣の前まで進み手をかざした。
「【マジカルアンロック】」
魔法陣が明滅し消えた。
どうやら罠を解除したようだ。
「さあご主人様、先へ進みましょう」
「あ、うん」
その後もさくらのおかげで罠を回避していく。
ルビーさんも罠探知のスキルは持っているけど、さくらよりレベルが低くてこの迷宮では見落とすようだ。
だからさくらが常時罠探知のスキルを発動することとなった。
地味にMPが減っていくけど、そこはエーテル水があるから問題はない。
高難度迷宮らしく高レベルの魔法罠が設置されていたけど、さくらのスキルで解除できた。
さすがにルビーさんのスキルでは罠を解除できないらしいので、さくらのレベルは相当と言っていいだろう。
ちゃんとさくらのステータスを見ていなかった僕は進みながら改めてさくらのステータスを見た。
さくらの職業は【戦闘メイド】でレベルは50。
ていうかそんな職業あるんだね、初めて知ったよ。
他にも【探索者】【家政婦】【戦士】【料理人】といった職業を習得していて、スキルも索敵系、探知系、掃除、料理、刀スキル、そして様々な魔法を習得していた。
魔法職に就いていないさくらが全属性魔法や時空魔法、禁忌魔法といった数えきれないほどの量の魔法を習得しているうえに、魔法増幅化や無詠唱など魔法の効果を上げるスキルも多数習得していた。
多分これがアリシアから受け継いだ魔法とスキルなんだろう。
これを見ればアリシアって本当にすごい魔法使いだったことが窺える。
どうして引きこもりのゲーマーになったのか不思議でしょうがない。
それはともかく、さくらの全体的なステータスも高めでオールマイティな印象だ。
ステータスだけで言えば僕より高いし。
ていうか僕とヴァイスはここにいる女性陣より弱くない?
何気にアーチェさんもレベルが上がってるし、新しいスキルもいくつか習得している。
僕もいい加減真剣にレベル上げしないとみんなに置いてかれそうだ。
でも【脱獄囚】のせいで中々レベルが上がらないんだよな……。
そんなことを考えながら進んでいくと宝箱のある場所に辿り着いた。
朽ち果てた建物に囲まれた先にある狭い空間に宝箱が3個並んでいる。
「……クリア。周辺に敵の気配はありませんわ」
「ご主人様。宝箱及び周辺に罠の気配はしません」
「うん、じゃあ開けるね」
ルビーさんとさくらが安全を確認したおかげで、僕はなんの警戒もせずに宝箱を開けた。
まずは左側の宝箱を開ける。
中身は一振りの剣が入っていた。
煌びやかな装飾が施された両刃のロングソード。
僕はロングソードを手に取りタップしてみた。
『【聖剣?エクスカリパー】(武器長剣種、物理攻撃力+1魔法攻撃力+1)』
「………………:-()」
さらにタップして詳細を確認してみた。
『伝説の聖剣エクスカリバーを模した長剣。装備者の攻撃力、敵の防御力を無視して必ず1ダメージを与えることができる一応聖剣っぽい業物?メタル系の魔物に有効だよ☆』
「……ヴァイス、これあげる」
僕はエクスカリパーをヴァイスに渡した。
僕のマジックバックは容量が少ないからいらないモノは入れたくない。
ていうかなにこの説明文。バカにしてるんだろうか?
色々ツッコミたいけどあえてスルーして、僕は次に真ん中の宝箱を開けてみることにした。
中にはまた長剣サイズの剣が入っていた。
ただ今度のは全体的に赤黒く気味の悪い装飾の剣だった。
なんかいかにも魔剣ですって感じの剣だな。
そんなことを思いつつ宝箱からその剣を取り出した。
デンデンデンデンデンデンデデン……♪
手に取った瞬間、不吉な音色が頭の中で響き渡った。
凄まじくイヤな予感がした僕は手にした剣をタップした。
『【バイオハザード】(武器長剣種、物理攻撃力+810魔法攻撃力+810。アンデッド特効付与)』
「えっ!?ちょっとなに!?」
「…なにか出てくる!」
「敵影を多数確認しましたわ!」
「急に現れましたねΣ(゚д゚lll)」
周りの地面がボコボコと盛り上がっていくなか、僕はさらに剣をタップして詳細を確認した。
『亡者の怨念に取り憑かれた魔剣。装備すると無制限にアンデッドが沸き起こる迷惑武器。なおアンデッドの強さは発動した区域のレベルになる。備考:無差別に襲いかかってくるから取り扱いには気をつけてね☆」
黒いオーラを纏ったゾンビが次々と地面から出てきた。
明らかに普通のゾンビとは違うよね……。
「先手必勝よ!【フレイムアロー】!」
アーチェさんが弓を番い、ゾンビに向けて炎の矢を放った。
ゾンビの頭に直撃。
しかし、アーチェさんの放った矢が跳ね返って落ちた。
ゾンビのHPゲージは全く減っていない。ノーダメージだ。
「ウソッ!?」
驚きの声をあげるアーチェさん。
僕もびっくりだよ!なんなのあのゾンビ!?
「お兄様逃げましょう!【スカウティング】してみましたがレジストされました!」
ルビーさんの【スカウティング】は敵のステータスを見るスキル。
スキルレベルはCSしているから、たとえ偽装の魔法やスキルを使われていてもルビーさんなら看破できる。
でも、自分のレベルよりはるかに高い敵には効果がない。
少なくともこのゾンビどもはレベル53以上、いやレジストされたことを考えると60以上あるということになる。
それに基本ゾンビって火属性や光属性が弱点なのに、アーチェさんの攻撃がノーダメだった。
それが何十体もいる。いや、まだ地面から出てきてるからさらに増えるね……。
うん、無理ゲーだ。逃げよう!
「みんな逃げるよ!」
「アアアアアアアア!」
逃さないとばかりにゾンビが襲いかかってきた。
!?思ったより素早い!
あっという間に囲まれた僕達は逃げることすら叶わずゾンビ達にのしかかられた。
カブッ!と僕の腕にゾンビが噛み付いた。
押し除けようにもゾンビのほうが力が強くて押し返せない。
倒れた僕の足に、腹に、ゾンビが噛みついてきた。
「くっ、殺せ……!」
「…噛まれた……!これで俺もゾンビィか……(ワクワク)」
「いやあああ!ゼル様ぁぁぁぁぁぁ!」
「詠唱が間に合いませんね……申し訳ありませんご主人様……(ToT)」
ああ……終わった……。
視界に映るHPゲージを眺めながら僕は諦めた。
なにこの初見殺し。ないわぁ……:-(
そして僕達はなにもできずに全滅した……。
応援ありがとうございます!
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