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第5章 抗争

第百五十五話

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 大剣にマリアさんを突き刺さしたままこちらを見るおっさん。
 僕はおっさんに向かって駆け出した。

 まだだ…!まだ間に合う!

 刺されて間もないのだろう。まだマリアさんは生きている。
 でもマリアさんのHPがかなりの勢いで減少していっている。
 刺さったままだから、裂傷の持続ダメージが続いているんだ。
 一刻も早く大剣を抜いて回復魔法をかければ助かる。
 衝撃槍を溜めるように引き、地面を蹴るように前へ跳んだ。
 おっさんのムカつく顔面に目掛けて繰り出した突きは、傍らにいた大楯の大男に防がれた。
 なにこいつ!?邪魔なんですけど!!
 僕はすぐさま左手に持った盾を引き力を込める。
 ミスリルの盾がライトエフェクトの輝きを放つ。

「どけ!【シールドブラスト】!」
 
 突き出した盾から光属性の奔流が放たれた。
 大男は両手の大楯で僕の【シールドブラスト】を受け止める。

「くっ!」

 大楯で受け止めた大男が地面を滑りながら後退していく。
 このまま吹き飛ばしてやる!

「ふんっ!」

 おっさんが僕に向かってマリアさんを突き刺したままの大剣を振り下ろした。
 
「はあ!?」

 嘘でしょ!?
 僕はすぐに【シールドブラスト】をキャンセルすると右手に持つ槍の柄でマリアさんを傷つけないようにおっさんの大剣を受け止めた。
 
 受け止めた瞬間、重い衝撃が僕にのしかかる。
 
「あっ!」

 突き刺さっていたマリアさんが、振り下ろされた勢いですっぽ抜けるように飛んでいった。

「マリアさん!」
「余所見するな小僧」

 マリアさんに気を取られた隙を狙われて、僕はおっさんの蹴りを腹に思いっきり喰らった。

「っ…!」

 腹に受けた衝撃で息がつまる。

「くたばれ」

 くの字に折れた僕が見上げた先には大剣の分厚い刃。

 回避。間に合わない。死…!

「【水流剣】!」

 僕の鼻先まで迫っていた大剣が、横手から現れた太刀によって逸らされた。

「ほう。やるな小僧その二」
「誰が小僧その2だ!」

 助けに入ってくれたカイはそのままおっさんと斬り結ぶ。
 その間に体勢を整えた僕は振り返ると、

「レイア!早く隊長を治すのだ!」
「隊長を死なせたら承知せんぞ!」
「あーはいはい。うるさいんで永遠に黙っててくれますかぁ?」
「アル殿も隊長に回復魔法を!」
「わかってる!」

 マリアさんに治療を施しているのを見て僕はほっと安堵の息をついた。
 白い三連星がマリアさんを守るように剣を構えて周囲を警戒しているし、もう大丈夫かな?
 あとはマリアさんをあんな目に遭わせたおっさんをぶっ飛ばすだけだ:-<

 視線を移すとカイがおっさんとまだ斬り結んでいた。

「クソッ!」
「ふんっ、どうした小僧その二。お前の実力はその程度か?」
「舐めんなクソジジイ!」

 バカでかい大剣をありえないスピードで振るいカイを翻弄していた。
 冷静になって見てみると、あのおっさんメチャクチャ強くない!?

「【アイアンスキン】」

 大楯の大男がスキルを唱えた。
 身体からライトエフェクトの光を発し、光が収まると大男の全身が金属のような鉛色に変化していた。
 防御スキルか!?

「カイ退がって!」

 大男がおっさんの加勢に向かうのを察した僕はカイに退がるように指示を出した。

「チッ…【縮地】」

 カイは太刀を振るいおっさんを牽制すると一瞬にして僕の隣に現れた。
 何気にカイの身体がボロボロだ。
 深い傷はないけど浅い切り傷が痛々しい。
 HPも七割ほどになっていた。
 少しの間斬り合っただけでもうそんなに減ってるの!?
 おっさんのほうに目を向けると、おっさんのHPは一割も減っていなかった。

「あのジジイ、半端なく強えぞ…。悔しいが一対一じゃ勝ち目ねえな」

 カイが珍しく弱気なことを口にした。
 マジですか…=)

「どうする?るなら相討ち覚悟でなんとか倒してくるけど」
「いやいやいや!なにもそこまでしなくていいよ!」

 ていうか、カイがそこまで言う相手なのか…
 さすがマリアさんを倒しただけはある…:-<

 あれ?

 なんか知らないけどおっさんのことがムカついてしょうがない。
 たとえ敵わなくても一発ぶん殴らなきゃ気がすまない感じ。
 って、僕らしくないな(苦笑)どうしたんだろう…?
 込み上げてくる感情に戸惑っていると、おっさんが赤いコートをはためかせてこちらに歩いてきた。
 大男もおっさんに続き、油断なくこちらを見据えている。
 カイは青眼に刀を構え、僕はいつでもすぐに動けるように腰を落として身構えた。

「教会の若い衆かと思ったが、どうやら違うようだな。おい小僧ども、お前らは何処の者だ?」

 互いの間合いギリギリの所で立ち止まり訊ねるおっさん。

「ギルド【NPC】だ!」
「なんだとぉ…!」

 おっさんの問いにカイが答えると、おっさんの表情が険しくなった。

「お前らぁ、あのコソ泥の仲間かぁ…!」

 オールバックの髪が逆立ち、こめかみにはいくつもの青筋が浮かんで、めっちゃメンチをきってくるおっさん。
 え?な、なに?なんでそんなに怒ってるの!?
 
 キレる中年怖っ!

「野郎ども!この小僧どもの首をれぇぇぇ!ったヤツは望む褒美をくれてやる!」

「マジかよ!?」
「ボスの命令だ!」
「めっちゃヤル気出てきたぜー!」
「ヒャッハー!」

 周りの黒スーツ達が色めき立つ。
 ちょっ…これヤバくない?

「見せしめにお前らの首をコソ泥のいる砦の前に晒してくれるわ!」

 その時、後ろから誰かか走ってくる気配を感じた。

「晒すのは貴方です!ドン・コロパチーノ!」

 振り返るとマリアさんだった!
 よく見ると鎧の胸部分が縦に割れているけど、アルとレイアさんの回復魔法のおかげですっかり元気を取り戻したようだ。
 僕は横を駆け抜けようとしたマリアさんを止めようとして手に持つ槍を水平に伸ばした。

「マリアさんストップ!」

 伸ばした槍の柄にマリアさんの首が引っかかった。

「ぐえっ!?」

 くるりと半回転し、後頭部から地面に落ちるマリアさん。
 うわっ痛そう…

「ゲホッゲホッゲホッ!な、なにするんですか!?」
「ご、ごめん…。でも無闇に突っ込まないでください」

 立ち上がったマリアさんは僕の隣に並ぶと、おっさんに向かって大剣を構えた。

「ファントムさん気をつけてください。あの男はコローネファミリー首領【四精霊の帝王エレメンタルエンペラードン・コロパチーノ】隣にいる男は四天王の一人【鉄壁のマルティーノ】です」
 
 あのおっさんがボスのコロパチーノ…!

「【疾風のカザール】は倒したのですが、そのあとコロパチーノとマルティーノが現れて……」
「やられたと…」

 悔しそうにコクリと頷くマリアさん。
 その間に白い三連星とアルがこちらに駆け寄ってきた。
 
「ですがもう不覚はとりません!三騎士の皆さんは私に合わせてください!レイアは援護を」
「だからちょっと待ってくださいって!敵はあの人達だけじゃないんですよ」

 僕はマリアさん達を押しとどめて頭をフル回転させていた。

 どうする?どうしたらいい…?

 周りに目をやればジリジリと間合いを詰めている黒スーツ達。
 僕達を殺せと命令されたのにバカのひとつ覚えのように突っ込んでこないのが不気味だ。
 まあ雑魚はともかく問題は目の前のボスと四天王だ。

 逃げる?いや、周りは完全に囲まれていて逃げきれそうにない。
 じゃあ戦う?戦って勝てるのか?
 雑魚いモブなら頑張れば全滅させられるかもしれない(めっちゃ疲れそうだけど…)
 でも、ボスのコロパチーノとマルティーノを倒せるかと聞かれると難しい。
 カイをあしらいマリアさんを倒したボス。
 加えて四天王の一人が護衛のように側にいる。
 持つ大楯と鉄壁の通り名から、防御に特化したタイプだと容易に推測できる。
 勝算はあるのかと問われるとぶっちゃけないと思う。
 うん、これ詰んだんじゃない?
 
「首領!」

 僕の思考を遮るかのように、野太い声が響き渡った。
 あれ?このくぐもった声に聞き覚えがあるんですけど………ってまさか!?
 声のした方向に振り向くと、そこには斧槍を持つ黒い全身鎧の戦士がいた。

「嘘でしょ!?」

 さっき僕が倒したはずのカーンがそこにいた。
 そして………

「よおカイ。また会ったなあ」

 さらにカイが倒したシュレンも現れた。
 嘘でしょ…なんで生きてるの?二人ともたしかに倒したはずなのに…=)

「お前ら、どこ道草くってたんだ?」

 コロパチーノの問いにシュレンがバツの悪そうな顔をした。

「いやあ、あのボス…ちょいと色々ありまして…」
「首領。面目ない」

 しどろもどろになるシュレンとは逆にカーンは堂々とした口調で言った。

「我らはそこにいる忿ぬ…いや、ファントム殿とカイ殿に遅れをとってしまってな、つい先程まで死んでおったのだよ」
「なんだと!?」
「おいカーン、余計なこと言うんじゃねえよ」
「いやはや、衛生兵の蘇生魔法で蘇らなければ冥界ヴァルハラに旅立つところだったわ。ハハハハハハ」

 話を聞いて驚愕するコロパチーノと青ざめているシュレン。
 ていうか、蘇生魔法使える人がいたんだ。
 まあこれだけの人数だもんね。
 蘇生魔法が使える人がいてもおかしくない。

 状況はさらに悪い方向に流れた。
 うん、これはもう完全に詰んだね。

「ボスゥ!」

 黒スーツの一人が息をきらせながら走ってきた。

「どうした?」
「と、砦の門が開いて、ゼルの野郎がお嬢と手下を引き連れて突っ込んできやがった!」
「なんだとぉ!!」
「はああああ!?」

 驚きの声をあげるコロパチーノと僕。
 
 え?ていうかなんでこっちに向かってきてるの!?
 作戦と違うじゃん!
 フィールさんはなにやってるの!?

「くくく…まあいい。飛んで火にいる夏の虫とはこのことだ。野郎ども!道を開けてやれ!」

 コロパチーノは部下にそう命じると、僕達のほうに視線を向けた。

「小僧ども。お前らの始末はコソ泥が来てからしてやる。そこで大人しくしてるんだな」

 そう言われて大人しくしているわけないでしょ。
 こうなったらこのどさくさに紛れて一か八かコロパチーノに不意打ちかましてみるか?
 杭剣を装填し直したいな………

「…ただいま」
「うおっ!ビックリした…」

 いつの間にか僕の目の前にフィールさんが立っていた。

「あ?フィールの嬢ちゃんじゃねえか」

 突如現れたフィールさんに声をかけるコロパチーノ。

「ん、久しぶり、コロちゃん」

 コロちゃん!?
 なにやら親しげな雰囲気を醸し出している二人。
 一体どういう関係なんだろう?

「なんだ、もしかしてそっちに雇われてるのか?」
「………(コクリ)」
「そうか…なら、今回は敵同士ってことでいいんだよな?」
「………(コクリ)」

 コロパチーノは懐からなにかを取り出すと、自身の持つ大剣の鍔に差し込んだ。
 ていうか何アレ?
 よく見ると銃の弾倉、マガジンに見えるんですけど………

「マルティーノ」
「ハッ」

 コロパチーノの傍にいたマルティーノが近くにある死亡マーカーに歩み寄ると右手に持つ大楯を向けた。

「【レイズデッド】」

 死亡マーカーが光り輝き、人の形を成していく。
 光りが収まると軽装鎧を身に纏った長身の男がいた。

「ファントムさん、あの男は先程私が倒した【疾風のカザール】です。風の魔法剣士で、素早い動きで相手を翻弄します。倒すのに苦労しましたけど、ファントムさんなら余裕で倒せますよ」

 マリアさん、解説ありがとう。
 でもマリアさんが苦労した相手を余裕で倒せるほど僕は強くないですよ?

「感謝する。マルティーノ」

 カザールはマルティーノに礼を言うと、腰に差した細剣レイピアを抜きはなった。
 視線の先にはマリアさん。
 ものすごい形相で睨んでるけど、マリアさんは普通にスルーしている。
 
「さて、フィールの嬢ちゃんはワシと遊ぼうか?四天王お前らは適当に小僧どもの相手をしてやれ」

 え、ちょっとちょっと!さっきはゼルが来るまで大人しくしてろって言ってなかった!?

「野郎ども!小僧どもが逃げないようにしっかり見張っとけ!」
「「オオオオオオ!!!」」

 うぅ…これは本当にヤバいかも。
 
「ではファントム殿。再戦といこうか?」

 カーンが僕を指名してきた。
 リベンジですか…さっきみたいな不意打ちはもう効かないだろうな…:-c

「俺は当然お前だ。カイィィィ!」
「ああ?また殺されてえのか」
「俺は教会騎士と再戦だ。マルティーノは誰にする?」
「俺か?俺は………残り物を全部頂くとしよう」
「残り物って俺たちのことかな?」
「我等【白い三連星】を侮るなよ!」
「つうか、こんなおっさんたちと一緒にしないでほしいっすねー」

 一触即発。
 今まさに戦いが始まろうとしていた。


「…待って」

 静かだけどとても響く声でフィールさんが口を開いた。

「私の仕事はある人物の救出」
「だから戦うつもりはないと?」

 コロパチーノの問いかけにフィールさんは首を横に振った。

「…救出の障害、若しくは危害を加える者は排除する」
「察するに嬢ちゃんが救出する相手はゼルのクソガキだろう?」
「………(コクリ)」
「ならばどの道やりあうことになる。儂はアイツを許さん…!可愛い娘を誑かしたあのコソ泥を!」

 誑かす?
 あれ?たしかカイウスさんの話じゃコロパチーノの娘【ツーハンド】とかいうコはゼルにやられて軍門に降ったって聞いたけど………

「しかし解せんな。一体なにを企んでいる?本来助けるべき対象を逃がしもせずこの場に来させる目的はなんだ?嬢ちゃんのスキルなら儂の目を掻い潜って逃すこともできただろうに」
「…実力行使しても本人がそれを望まなかっただけ。それに………」

 フィールさんはかすかに微笑みを浮かべた。
 その笑顔に思わずドキッとなる僕///

「彼の話を聞いたら、コロちゃんの面白い姿が見れそうだったから」
「は?言っている意味がわからんが…」
「ボス!ゼルの野郎が来ました!」

 そうこうしているうちにゼル達がこちらにやって来たみたいだ。
 ゼル達の方に振り向くと、そこには黒いボディーアーマーのようなモノを身に纏い、ライフルのようなモノを手にしたゼルがいた。
 なんか装備が変わってる!?
 ていうかなにその近未来的な装備は!?
 ゼルが引き連れてきた他の人達もボディーアーマーに見た目ライフル(多分ライトボウガン?)を装備していた。
 どこの特殊部隊だよ!とツッコミたかったけど、僕はゼルの横にいる女子に目が釘付けになっていた。

 白金に近い金髪。
 お嬢さまキャラによくいる縦巻きドリルカールの美少女。
 リアルで(ていうかここVRだけど)ああいうヘアスタイルのしてる人初めて目の当たりにしたよ。
 ホントにドリルみたいだwww
 でも清楚な感じの美少女だから全然おかしくなくむしろ似合いすぎている。
 そして、彼女だけはゴテゴテしたボディーアーマーではなく、ぴったり身体にフィットしたボディースーツのようなモノを着ている。
 身体のラインが浮き上がっていて、ぶっちゃけエロい。
 けしからんくらいに目のやり場に困る格好だ。
 腰に巻いたガンベルトに差した二丁の見た目リボルバータイプのハンドガン(多分ライトボウガン?)が無駄に似合ってる。
 もしかしてこのコが【ツーハンド】か=)

「ファントムさん…どこ見ているんですか」

 マリアさんが低い声で言うと、僕の頰に鈍い衝撃がはしった。
 何故かマリアさんが僕の頰をつねっている。

「ちょっ…地味にHP減ってきてるんでやめてくれませんか?」

 このゲームは痛みの代わりに振動のような衝撃を受ける仕様だから、つねられたほっぺが地味に震えている。
 心なしか徐々に振動が強くなっている気が………(汗)

「兄貴!ご無事でしたか!」

 ゼルは僕を見かけるとすぐこちらに駆け寄ってきた。

「フィールから話を聞いてすぐにでも兄貴の元へ馳せ参じようと思っていたんですが、フィールに邪魔されまして遅れました。申し訳ありません…」
「もう…できればちゃんと言うこと聞いて、僕らが引き付けている間に逃げて欲しかったよ」
「たとえ兄貴の命令でも、兄貴を置いて逃げるなんてできません!死ぬ時は一緒です」

 いや、そんな覚悟を決めた顔で重いこと言われてもこっちが困るよ…(苦笑)

「まあゼルならそう言うと思ってた」
「ええ。私も兄さんの立場なら同じことをします」

 えええ…:-()
 カイとマリアさんまでそんなこと言う?
 僕の作戦に賛成しといてそれはないでしょ:-/

「あの、よろしいですか?」

 ゼルの隣でお淑やかに佇んでいた【ツーハンド】さんが僕に声をかけてきた。

「お初にお目にかかります。わたくし、ドン・コロパチーノが娘、ルビーと申します。ゼル様からファントム様の武勇伝おはなしをよく伺っておりました。本日はこのような場ですが、お会いできて光栄に思います」
「あ、はい、こ、こちらこそ…(汗)」

 しどろもどろになりながらお辞儀を繰り返す僕。
 なんだこのエロ可愛くて礼儀正しいコは?
 ていうか本当にあのおっさんの娘なのかと疑いたくなる。

「今後ともどうぞよしなに。
「お兄様!?」
「はい。ゼル様の兄貴分ならば私にとっても兄同然。ファントム様のことはお兄様とお呼び致します」

 お、お兄様ですと!?
 実の妹にもそんな呼び方されたことないよ!
 いや、実際うちの鬼妹に言われたら普通に気持ち悪いし、頭がおかしくなったのかな?って心配するだろうけど、こんなエロ可愛いコにそう呼ばれるのはぶっちゃけ嬉しさというか、気恥ずかしいというかこそばゆい感じもするけど………

 再び頰に鈍い衝撃。

「ファントムさん…ここは戦場。だらしなく鼻の下を伸ばさないでください」

 はい、わかりましたからほっぺをつねらないでください(泣)
 心なしかさっきよりもHPの減りが速いんですけど…!?

「おいルビー!パパを無視してそんな輩といつまでも話してるんじゃない!!」
「そうだぞお嬢。見ろ、シカトされたもんだからボスがショックで今にも泣きそうじゃねえか…(コロパチーノキック)痛っ!ちょ、やめてボス、痛い痛い!」

 余計なことを口走ったシュレンがコロパチーノにめっちゃ蹴られまくってる。
 うわぁ…容赦ないな。
 シュレンのHPがガンガン減っていってる。
 できればそのまま殺してくれたら敵戦力が減って助かるんだけどなあ。

「…ゼル。そろそろ頃合い」

 フィールさんがゼルに声をかけた。
 ふとフィールさんのほうに目を向けると、フィールさんの肩に緑色の小鳥が止まっていた。
 なにあの鳥?フィールさんのペット?

「あ…」

 フィールさんの肩に止まっていた小鳥が飛んでいってしまった。
 目であとを追うと林の方に向かって見えなくなってしまった。
 あそこの林に住む小鳥なのかな?

「それじゃ兄貴。この場は俺たちに任せてください。いくぞルビー」
「はいゼル様」
「え?」

 ゼルはルビーさんを連れてコロパチーノの元へ歩を進めていった。

「え!?ちょっとゼル…」
「…大丈夫。ここから先はゼルのターン」
「ゼルのターンって、やるなら僕らも…」
「必要ない。…もしなにかあっても、私が守る」
「………」

 有無を言わせないフィールさんの言葉に僕は口を閉ざしてしまった。
 フィールさんはそう言うけど、僕は心配で仕方がなかった。
 一体ゼルはなにをするつもりなんだろう?

 危ないなと思ったらすぐに助けに行けるようにしとこう。

 僕はいつでも【シールドブラスト】を撃てるように構えながらゼルを見守ることにした。
 そして、ゼルとルビーさんはコロパチーノの前に立つ。

「観念したか小僧」
「………はい。覚悟を決めました」

 と言ってゼルが一歩前に進むと、コロパチーノが右手に持った大剣を振り上げた!

「ゼル!」

 フィールさんに目をやるとフィールさんは固唾を飲んで見つめている。
 動く気配はないと断じた僕は、何気に飛距離が長くて命中率の高い【シールドブラスト】の体勢に入る。

 その時、ゼルがその場に跪き、地面に手をついて頭を下げた!?
 ええええええ!?ここにきてまさかの土下座!!?
 呆気にとられた僕は【シールドブラスト】をキャンセルしてしまった。





「お義父さん!娘さんを俺にください!!」





 まさかのセリフに唖然とする一同………………:-()
 コロパチーノも大剣を振り上げたままフリーズしていた。

「はあああああああああ!!??」

 コロパチーノの絶叫が辺りに響き渡った………。

 

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