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第5章 抗争

第百五十三話

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「おい!カーンさんがタイマンはるぞ!場所を開けろ!」

 周囲にいた黒スーツ達が距離を取りちょっとした広場ができた。

「カーンの兄貴と戦う命知らずは誰よ?」
「ほら、あそこにいるショボい鎧着た小僧だよ」
「見るからに弱そうじゃねえか。こりゃ賭けになんねえなwww」
「あっちでマルティーノの兄貴と侍とタイマンはってるってよ」
「マジか!そっち見に行くか?」
「向こうじゃカザールの兄貴が教会騎士の女とやりあってるてよ」
「女かあ、俺そっち見に行こうかな」

 円形に囲むようにこちらを遠巻きに見て談笑している。
 くそッ、言いたい放題だな。
 ていうか違う場所でも一騎討ちが起きてる?
 多分っていうか絶対カイとマリアさんのことでしょ。

「ファントム、これを」

 アルが馬に挿していた衝撃槍とミスリルの盾を手渡してきた。
 よかった。馬の手綱を握るのに精一杯で槍と盾を鞍に差し込んでいたんだよね。
 だから落馬した今の僕は丸腰だ。
 危ない危ない。さすがに素手で戦えないから助かったよ。

「ちょっと怪我してるね【ヒール】」
「あ、ありがとう」

 あれ?そういえば松風は?
 アルから槍と盾を受け取った僕はキョロキョロと周りを見渡すけど松風の姿が見えない。
 あれ?本当にどこに行った?

「馬なら帰還したよ」
「そっか…」

 とアルが察して答えてくれた。
 恐らくカーンに止められた勢いで松風はダメージを受けたんだろう。
 一定以上のダメージを受けると召喚した馬は帰還してしまうから。

 おのれ…松風の仇だ…!

 相棒を倒された僕はいつになくやる気に満ちていた。

 ぶっちゃけボスや幹部クラスと戦いは避けたかった。
 けれどそれは多くのモブ達がいる中での乱戦で、フルボッコにされるのを忌避していたからだ。
 ご親切に一騎討ちなら時間稼ぎができる。
 強ければなんとか逃げ回ってゼルが逃げるまでの時間稼ぎをする。
 思いのほか弱かったら無駄に時間をかけて、ゼルが逃げきれたら速攻で倒してダッシュで逃げる。
 よし、それでいこう。

 考えがまとまった僕は左手に盾を、そして右手に持った衝撃槍を肩に担ぐと、カーンは斧槍を引っ込めくるりと背を向けて歩き出した。

 くくく。敵の背を向けるとは愚か者め!

 と言って殴りかかったら卑怯すぎるよね?思うだけでやめとこうw
 相対距離約3メートル付近で足を止めたカーン。
 その間僕はカーンを観察していた。
 身長は2メートル近い。黒い全身鎧姿はゴツくて見た目熟練の盾役タンクです。って感じだけど盾はなし。斧槍は通常サイズ。
 鈍重そうなパワーファイターって感じかな?と推測する。

「【リジェネ】【プロテクション】【マジカルシェル】【ブレイブハート】」
 
 アルがいくつものバフをかけてきてくれた。
 ありがたいけど一騎討ち前に味方のバフをもらうのはどうなんだろう?
 ゲームによってはマナー違反なんですけど………

「準備はいいか?それでは始めるとしよう」

 カーンはバフを物ともせず両手に持った斧槍を構えた。
 あ、いいんだ。
 ほっと安堵の息をついた僕は左手に持った盾を前面に、右手に持った槍を脇で締めるように構えた。
 ていうか決闘申請とかってするの?このままやっちゃっていいの?申請するなら僕からしたほうがいいの?などと、僕はふと思い浮かんだことに悩み始めた。

「では、いざ尋常に勝負!【牙狼がろう突き】!」

 いうやいなや斧槍から派手なライトエフェクトを撒き散らして突進してくるカーン。

 速っ!!?

 考え事をしていて反応が遅れたけど、半ば反射的に左手が動き、迫り来る斧槍を盾で防いだ。

 ガキィィィン!!!

「うわっ!?」

 ものすごい衝撃が僕の全身を駆け巡り、あまりの威力に僕の身体は吹っ飛んだ。
 後ろに吹き飛んだ僕は、その勢いのまま観戦していた黒スーツ達の中に突っ込みぶつかる。
 何人もの黒スーツを巻き込みながら地面を転がっていった。

「な、なんて威力だ…!」

 ようやく止まり地に伏した僕は衝撃槍を杖になんとか立ち上がった。
 ガードしたとはいえ、遠巻きに観戦していたモブ達のところまで吹き飛ぶとは思わなかった。
 僕にぶつかった黒スーツ達は多少のダメージを負いながら呻いている。
 中にはHPが瀕死の状態に陥っている人もいた。

 視界の片隅に表示されている僕のHPは、残り四割をきっていた。
 嘘でしょ…!?
 自分にかけた【堅牢】はまだ効果時間が残っているし、アルにかけてもらったいくつかのバフも健在の状態でこんなに大きなダメージを負うなんて…!
 ガードしてこのダメージ量なら、まともに喰らったら普通に死ぬね。
 
 ガードした左手がまだ痺れている。 
 盾を持つ感触が曖昧なくらいに鈍い。
 あの攻撃スキルはもう絶対に喰らっちゃいけないな。
 僕はゆっくりと警戒しながら前に、カーンのところまで歩を進めた。
 カーンは斧槍を地面に突き刺し、腕を組んでこちらを見つめていた。

 追撃はなしか…随分余裕だね。
 待っててくれたカーンは腕を解き地面に突き刺していた斧槍を再び握りしめ構えた。

「我が渾身の突きを防いだだけでなく、技の威力を殺すために後方へ跳ぶとはな…。流石と褒めておこう」
「は?」

 なに言ってるのこの人?
 普通に喰らって吹っ飛んだだけなんですけど:-()

 「【雷光の略奪者ライトニングブリガンドゼル】が忠誠を誓うほどの強者と聞いていたが、まさに噂通りの戦功者よ。貴様と相見えることができて我は嬉しいぞ!」
「ら、ライトニング…なんでしたっけ?」

 ていうかなんの話?
 ライトニングなんたらってなにそれ???

「何を言っている?【雷光の略奪者ライトニングブリガンドゼル】はそこの砦に籠城している貴様の部下であろう」
「ええええええ!?」
「なにを惚けている?自分の部下の通り名を知らんとは言わせんぞ」

 え、なに?ゼルってばそんな厨二っぽい通り名使っちゃってるの?(ぷ、くすくすwww)
 ゼルの意外な一面を知った僕は心の中で笑い転げた。

「さあ、続けようか。【忿怒の覇王ファントム】よ」
「ちょっと!ちょっと待って!!!」

 い、いま僕のことをなんて言った!?

「どうした?折角の仕合に水を差してくれるなよ」
「いやいやいや、すみませんけど、ふんぬのはおーってなんですか?」
「?これは異な事を。貴様の通り名ではないか」
「はいいいいいい!!?」
 
 僕そんな通り名使ったことないんですけどおおおおおお!!??

「穏やかな精神こころを持ちながら、激しい怒りによって目覚める忿怒の覇王。それが貴様のキャッチコピーと聞いたのだが…」
「そんなキャッチコピー知らんわ!!!」

 なにそれ!?どこの戦闘民族!?

「知らんと言われても、貴様の部下である【雷光の略奪者ライトニングブリガンドゼル】がそう喧伝していたぞ」

 あいつううう…!僕のいないところでなに吹いてるの!?
 
「そ、そんな事より、続けるぞ【忿怒のはお…」
「その名で呼ぶな!恥ずかしい!!!」
「………(汗)」
「いいですか?忿怒のなんちゃらなんて僕からは一切名乗ったことはない。だから二度と口にしないでください。お願いします」
「う、うむ…。了解した」

 僕はカーンに言い聞かせるように詰め寄った。
 カーンは僕のあまりの剣幕に圧されたのか、コクコクと頷く。
 うんうん。素直でよろしい。わかってくれて嬉しいよ。
 僕は衝撃槍を切っ先をカーンに向けた。
 槍からライトエフェクトが迸る。

「しまったっ!?」

 慌てて距離を取ろうと後退するカーン。
 だが遅い!もう僕の攻撃スキルは発動している。
 最速で!最短で!真っ直ぐ一直線にいいいいいい!!!

 タチバナ流槍術【一閃突き】

【突撃】や【突進】スキルの上位スキルといっていいこの技は、目にも留まらぬ早業で突きを放つ。
 至近距離で放たれた【一閃突き】は【心眼】の補正も手伝って正確かつ素早くカーンの鎧の隙間、腹部と腰あたりの継ぎ目を狙った。

 衝撃槍の切っ先が、狙い通りの場所に突き刺さる。
 そして僕はすかさず衝撃槍の引き金を引いた。
 シリンダーが回転し刃先に連動した杭剣が発射される。
 さらに引き金を引き、杭剣を連発。
 カーンの腹部に突き刺した槍刃から撃ちだした何発もの杭剣がカーンを貫き、背中から飛び出た。
 全ての杭剣を撃ち終えた僕は、カーンの頭上を見上げた。
 カーンの頭上に浮かんでいるHPゲージがみるみるうちに減っていく。
【一閃突き】からの杭剣。そして杭剣の裂傷。
 このまま持続ダメージが継続すれば僕の勝ちだ。
 念の為腹部に突き刺さってる槍をグリグリ捻ってトドメを刺す。
 問題はカーンを回復させる敵がいるかどうか。
 一騎討ちとはいえピンチだから助太刀にくる敵がいるかもしれない。
 油断なくカーンを警戒しつつ周囲の様子を伺うと、

「カーンの兄貴…!」
「そんな……」
「馬鹿野郎!目をそらすんじゃねえ…」
「兄貴の死に様…とくと目に焼き付けとけ…!」

 コローネファミリーは誰も動かずカーンの最期を看取ろうとしていた。
 助太刀にくる心配はないみたいだけど、なんかこっちが悪者みたいでなんか居心地が悪い………

「…一瞬の、隙を……つかれたか………」

 カーンは斧槍を手放し、空いた両手で突き刺さったままの衝撃槍に手を置く。
 でもその力は弱く、抜くどころか握りしめることもできないようだった。

「ふっ…!み、見事…!」

 HPゲージがゼロになる寸前、カーンは僕に賞賛の言葉を送った。
 そしてカーンはポリゴンの粒子となって四散した。

「さすがファントム殿ですな」
「うむ。だが隊長はやらん!」
「隊長が欲しければ次はワシらと勝負せい!」
「おつかれーッス」
「さすファンだね!」
「ははは…アル。さすファンはやめて……」

 アル達が駆け寄ってきてすかさずレイアさんが【ヒール】をかけてくれた。
【外気功】スキルやリジェネの効果も相まって【ヒール】一回で僕のHPは全快した。

「あ…!」

 つい勢い余って倒しちゃった…:-(
 ま、まあ、仕方ないよね。だってあの人強かっただもん。うん、仕方ない仕方ない…(><)

「野郎共おおお!カーンの兄貴の敵討ちじゃあああああああ!!!」

 黒スーツの一人がそう叫ぶと、

「死にさらせええええ!」
「衛生兵!衛生兵ぇぇぇ!」
「タマとったらあああ!」

 黒スーツ達が一斉に僕達に襲いかかってきた。
 黒スーツ達の手には短剣というか、短刀ドス!?
 ていうかなんで短刀!?
 
「ファントム道を切り開こう!」

 そう言ってアルは小太刀を抜きはなつと駆け出した。
 それに続く白い三連星とレイアさん。
 えええ…このまま乱戦ですかぁ…:-(
 げんなりしながら僕はアル達の後に続いた。
 休む間もなく戦いが続行。

 ていうかカイとマリアさんはどこにいるの!?
 無事であることを祈りつつ、僕は迫りくる黒スーツを槍で殴りつけた。




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