147 / 186
第4章 NPC
第百四十話
しおりを挟む「ファントムさん大丈夫ですか!?」
目を覚ますと、ルーネとヴァイスが心配そうな顔で覗きこんでいた。
あれ…?僕、気を失ってたの?
気絶という状態異常に陥ってたかと思った僕は、倒れた身体を起こし自身の状態を確認する。
うん、身体に異常はないし、ステータスも特に異常はない。もう大丈夫かな。
「えっと、状況は?」
「あ、はい。現在ファントムさんの攻撃で暴れたキングタイガーは周囲の建物を壊しながらのたうちまわっているです」
なんか少し離れた所でものすごい破壊音がしている。
見てみればキングタイガーが前足を振りながら、ゴロンゴロン身悶えているのが見えた。
HPゲージはあまり減ってる感じはしないけど、キングタイガーのHPゲージが裂傷の状態異常になっていた。
僕が刺した前足を振っているところを見るとアレが効いたのは間違いないらしい。
「暴れたキングタイガーに吹っ飛ばされたファントムさんが死んじゃいましたから、ヴァイスさんが生き返らせてくれたんですよ」
ああ、僕気絶じゃなくて死んだのか…
「他のみんなは?」
「今は巻き添えをくらないようにキングタイガーを見ています」
つんつんと、ヴァイスが僕の肩をつついた。
「?」
「…朋友。落し物だ」
そう言ってヴァイスはいくつかのアイテムと武器を僕に見せてくれた。
「えっ!?」
ポーションに毒消し草、そして見覚えのある無骨な槍…!
「あれ…?なんでこれが………?」
アイテムストレージに入ってたモノがどうして…ってそうか!
死ぬとランダムで武装している装備品やアイテムストレージにあるアイテムがばら撒かれる。
さっき死んだことで封印されていたアイテムストレージから僕のアイテムがドロップしたのか。
ていうか封印されてても、死んだらアイテムストレージからドロップするのね…(><)
「ねえ、ゴブリンジェネラルに僕がやられた時、なにかドロップしなかった?」
「…した」
「したの!?」
「そういえばポーション落ちてましたね。」
そうなんだ…知らなかった。
ていうか教えてよ(苦笑)
などと思いながら僕はヴァイスから自分の得物を、衝撃槍を手に取った。
…随分懐かしい感じがする。
あまり使った記憶はないのに妙に手に馴染む。
これはある意味ラッキーと思ったほうがいいのかも?
僕の剣は恐らくまだキングタイガーの爪の間に刺さったままだろうし。
きっとキングタイガーが裂傷状態なのはそのせいだろう。
裂傷は持続ダメージが起きる状態異常だけど、回復魔法かアイテム、若しくは裂傷になった原因を取り除けば治る。
地味にキングタイガーのHPが減少してるし、無理に剣を取り返さなくてもいいか。
ていうか、あんな暴れてる怪獣から取り返せる気がしない…(笑)
「まあ、とりあえずみんなと合流しようか?」
「はい!あ、それとさっきファントム隊の騎士が応援の騎士団と冒険者達を引き連れて来ました。数は5000ほどです」
おっ!援軍を呼びに行った騎士達がちゃんと連れてきてくれたんだ。
これで駒は揃ったか………
「ていうか、なに?ファントム隊って?」
「ファントム隊はファントム隊ですよ?」
いや、そんななに言ってんの?みたいな顔で言われても…(苦笑)
「それってアレ?僕達と一緒にいた第五大隊騎士達のこと?」
こくりと頷くルーネとヴァイス。
ファ、ファントム隊って………ただ一緒にいただけじゃん。
たしかにあの小隊の騎士に隊長とか言われてたけどさ…なんか恥ずかしいな。
「まあ、とりあえず行こうか?」
「了解です隊長!」
「…k、たいちょー」
「いやいや、隊長はやめて…」
僕らはみんなと合流するべく暴れるキングタイガーの付近まで歩を進めた。
その向かう途中………
『アリサが大罪の業【怠惰】を発動しました!』
「えっ!?」
ウソッ!?始まった!?
驚く僕を余所に視界に映るシステムメッセージが流れていく。
『アリサのHPが666%上昇しました!』
『アリサのMPが666%上昇しました!』
『アリサのSTRが666%上昇しました!』
『アリサのVITが666%上昇しました!』
『アリサのDEXが666%上昇しました!』
『アリサのAGIが666%上昇しました!』
『アリサのINTが666%上昇しました!』
『アリサのMNDが666%上昇しました!』
『全属性耐性が66.6%上昇しました!』
『怠惰専用魔法及びスキル、スロウスシリーズが使用可能になりました』
しまった!僕が死んでいる間に作戦が始まってしまった!
「急ぐよ!」
「はいです!」
「…k!」
僕達は大急ぎで現場に向かった。
間に合うか…!?
走りながら僕は自問した。
キングタイガーのもとへ向かいながら僕達は作戦をを立てていた。
自分の得意なこと、苦手なことを時間がないので簡潔に述べ、それぞれが得意な分野でなにをすべきか、それを基に作戦を立てていった。
その中で、アリサさんという職業ブレイダー(侍の派生職。手数が多いスキルで敵を攻め立てるスタイルの職業)のPCが、僕と同じ大罪スキルを使えることを知った。
「アリサのこと、ホントは内緒なんだからね。あ、アンタだから教えるんだから!」
と言ってスカーレットさんが教えてくれた。
その時何故かのんちゃんさんをはじめとした女性陣がニヤニヤしながらなにか言いたげにスカーレットさんを見ていたけど、アレはなんだったんだろう…?
ていうか、他人のスキルを気軽に教えちゃマナー違反でしょ?と思ったけど、アリサさん本人はなにも言わなかったし、そのあと自分のスキルのことを説明してくれたから、別に気にしてないみたいで良かった。
とにかく作戦では、キングタイガーを囲んで足止めしてる間に、弱点属性や部位などを手探りで探しつつ時間稼ぎ。
その間、一緒にいた騎士達に城壁にいる防衛班(本隊と言っていい)に援軍を出来るだけ多く連れてきてもらう。
城壁にはバリスタを撃てるくらいの人員を残してもらって、いつでも撃てるように準備してもらう手筈になっていた。
そして援軍が来たと同時にアリサさんの大罪スキルを発動。
アリサさんの大罪スキル【怠惰】の特殊スキル【怠惰な空間】とやらは、敵のステータスを66.6%ダウンさせ疲労状態にするスキルらしい。
ボスクラスに効くのか疑問に思って訊ねてみたらボスクラスにも効くと言っていた。
ボスにも効く弱体化って………僕の憤怒のスキルよりチートじゃんwww
アリサさん曰く、スキルレベルが2に上がると大罪ゲージというものがHP MPゲージの下に表示され、そのゲージがマックスになるといつでも任意で大罪スキルを発動できるらしい。
その代わりというのか大罪ゲージを溜める代償としてアリサさんは動けなくなった。
意味がわからないけど、アリサさんが身体を動かすと大罪ゲージが上昇しないらしい。
逆に動かずじっとしていると、ジワジワと大罪ゲージが上昇していく。
大体3日くらいでゲージがマックスになるみたいだ。
それを知ったスカーレットさん達アルテミスのメンバーは、アリサさんという切り札をいつでも使えるようにするために、アリサさんをなるべく動かさないことにしたらしい。
本人もギルドのために了承し、それ以降アリサさんがログインするたびにギルドメンバーが交代でアリサさんをおぶって移動したり戦闘したりすることになったという…(笑)
みんなに介護してもらって寄生でレベル上げってどうなんだろう…?と思ったりもしたけど、他のギルドの方針に口を挟む気はないし、本人がいいならそれでいいかと思い直した。
「私…このスキル得てから、リアルでも怠け者になっちゃったよ…」
ははは…と力なく笑うアリサさんに、僕はなんて言っていいのか口ごもってしまった。
僕も同系統のスキル持ちだけど、もし僕がアリサさんの立場だったら大罪スキルは使わないかな…(苦笑)
まあ、それはともかくアリサさんの大罪スキルが発動したいま、キングタイガーは大幅に弱体化したと思う。
アリサさんの怠惰の使用時間はレベル2で73.26秒。
さすがに一分ちょっとでキングタイガーのHPを削りきるのは不可能だろう。
弱体化したキングタイガーに一斉攻撃で、出来る限りキングタイガーのHPを減らす段取りだ。
このクエストの達成条件はキングタイガーの撃退と表示されていた。
なら、ある程度HPを削れば逃げ出すかもしれない。
もし、逃げ出すどころか更に暴れ出したら、アイテムと MPが続く限り人海戦術で戦い続ける気だ。
泥仕合にならなきゃいいけど………
向かう戦場は激しさを増していた。
上空を切り裂くような速さで飛んでいくバリスタ。
攻撃スキルのライトエフェクトが煌めき、キングタイガーの雄叫びと、数千人規模の怒号、放たれる魔法の衝撃が仮想世界の空気を、大地を震わしていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
686
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる