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第4章 NPC

第百三十六話

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「んだよ、もう終いか?歯ごたえねえな」
「終わった…?」

 最後の一体を倒したカイを見て、僕は辺りを見回しながら呟いた。
 どうやら乱戦を制したようだ。
 
「騎士様ご助力感謝致します!」

 兵士っぽいエルフが僕達に敬礼をして感謝を述べた。

「他に逃げ遅れた人は?」
「いえ、おりません。この者たちで最後でした」

 兵士っぽいエルフは後ろの人達を指して答えた。
 見れば街の人達はヴァイスとルーネのおかげでHPが全快していた。
 ヴァイスのほうに目をやると、腰に手をあててMP回復のエーテル水の小瓶をゴクゴクと一気飲みしていた。
 風呂上がりの牛乳みたいな飲み方してる…w

「確かに、この辺りには人はいないみたいね」

 アーチェさんがアイテムストレージから補充の矢を取り出しながら言った。
 となると、ここら辺はクリアかな。
 他の場所へ行って逃げ遅れた人を探しに行くべきか、それとも周辺の魔物を一掃していくか………

『スカーレットからVCボイスチャットが入りました』

 はい!?
 
 そう表示するシステムメッセージに驚く僕。
 アトランティスはフレンド登録したPCやID交換したPCとメールやVCのやりとりができる。
 僕はアーノルドさんや前のギルドメンバーとメールのやりとりはしてたけど、VCは一度もしたことがない。
 理由は単純。人と話すのが苦手な僕はVCは自然と敬遠してしまうものだからだ。
 ていうか僕スカーレットさんとID交換したっけ?身に覚えがないんだけど…(汗)

 どうしよう…出たほうがいいのかな?あぁ…なんか緊張してきた。

 躊躇い緊張しつつも、僕はなけなしの勇気を振り絞ってメニューからVCをオンにした。

『そっちはどう?』
「え?えっと…大丈夫です」
『なにが大丈夫なのよ?』

 クスクスとスカーレットさんが笑った。
 たしかに今のはなにが大丈夫なのか意味不明だったね…(苦笑)
 緊張しすぎてなに言っていいのかわからなくなってたよ。

「街の人達を助けながら魔物を狩ってます」
『そう。こっちも似たようなものよ。つうか、勝手に行かないでくれる?』
「ごめん…」

 声に怒気を感じた僕は咄嗟に謝ってしまった。

『まあいいわ。それより合流するからそこで…』

「ガオオオオオオオオオ!!!」

 とてつもなく大きな雄叫びが、アルフヘイムの街に鳴り響いた。
 あまりにうるさくて耳をおさえて顔をしかめるレベルだ。
 何事!?
 一体どこから…?

「!?」

 キョロキョロと視線をさまよわせた先には、高い城壁よりも巨大な虎がいた。

「デカッ!?」

 もしかしてあれがキングタイガー!?
 高さ20メートルありそうな城壁よりも頭ひとつ分出ている。
 四足歩行でこのデカさなら、立ったら40メートル以上ありそうだ…:-()

『なにあれデカすぎるでしょ!?ゴ○ラじゃん!』

 スカーレットさんもキングタイガーの姿を目にしたのか驚きの声をあげていた。
 いやいやスカーレットさん、アレ虎ですからw
 ゴ○ラは怪獣ですよwていうかゴ○ラのほうがデカいです。
 
「さすがにアレはデカすぎますね…」
『あんなのどうやって倒せばいいのよ!?』

 グリ○ドマンとコラボしたひびきちゃんなら勝てそうだけどねwww
 ていうか我流グリッ○フルパワーフィニッシュで一撃じゃない?

 うん?待てよ…と僕はふと思いついた。
 スカーレットさんはつばさ先輩に似ている。

「ちなみにスカーレットさんはアク○スフラッシュできませんか?」
『は?なに言ってんの』

 試しに聞いてみたら冷たい返事が返ってきた…:-(

「いや、グリッ○ナイトギアで変身してグリッドナ○トサーキュラーとか使えるかなあと…」
『は?意味不明なんですけど』

 どうやらスカーレットさんは知らないようだ。
 まあいい。ついてこれるヤツだけついてこい!www

 はっ!いけないいけない…我を忘れてなにバカなことを言ってるんだ僕は…

 その時、キングタイガーが崩れた壁に巨体を押し込みながら街へ侵入しようとしていた。
 
 まずい!

 さらに崩れ落ちる壁を押し退けて、キングタイガーがアルフヘイムの街に入り込んでしまった…:-(

 ちょっと待って。この状況は大丈夫なのか?

 ふと心配になった僕はメニューを出すと、改めてクエスト内容を確認した。
 クエスト達成条件は退
 失敗条件はアルフヘイムの壊滅と記載されていた。
 それを確認した僕は、ホッと息をついた。
 良かった。侵入されたら負けとかだったらどうしようとか思ったけど、なんとかしてあのデカブツを追っ払えばいいのか。
 ていうか、できなかったらこの街壊滅か…:-()
 それはそれでヤバくない?

『合流してボスを叩くわよ!』

 スカーレットさんはそう言ってVCを切った。
 なんか知らないけどやる気のようだ。
 さっきまでどうやって倒すのよ!?って言ってたのに(苦笑)
 まあ、諦めるより遥かにマシか。

「とりあえず皆さんはここから離れての避難場所へ急いでください」

 僕は街の人達にそう言うと、カイ達と騎士団の人達のほうを向いた。

「僕達はスカーレットさん達と合流して本体とも合流。その後キングタイガーをどうにかして撃退しましょう」
「「「応ッ!!!」」」

 気合いの入ったカイ達と騎士達の声が辺りに低く響き渡った。








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