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第4章 NPC
第百三十一話
しおりを挟むゲームで徹夜してしまった早朝。
「また来てよ?絶対来てよ?約束だからね!」
「ああうん、わかったから。じゃあね」
名残り惜しそうに念を押すアリシアが玄関の隙間から顔を覗かせていた。
僕は軽く手を挙げ洋館を後にする。
まだ背中に視線を感じる。
突き刺すような視線を背中に感じまくった僕は足早にこの場を後にした。
「ふわあぁぁ…」
一通りの少ない道で、口をめいいっぱい開けて盛大な欠伸をする僕。
それにしても疲れた。
まさかVRMMO RPGやってて、昔の格ゲーで徹夜するとは思ってもみなかった。
まあ、そのおかげでクエスト報酬がけっこういいモノをゲットできた。
帰り際アリシアから報酬として部屋にある本を三冊もらえることになった。
漫画やラノベばかりだったけど、中には稀少な魔導書や転職の本があったからとりあえず【レイズデッド】の魔導書二冊と【衝撃槍作製カタログ】をもらった。
他にも欲しい本があったから、またここに来てもいいかと考えている。
約束もしたしね。
「とりあえず今日はこのまま転移門まで行って落ちよう…」
さすがにもう眠くて仕方がない。
一旦寝て、食事済ましたらインするか…
「あれ?今日は何日だっけ?」
なにか忘れてる気がする………?
それがなにかも思い出せないまま、僕は転移門からログアウトして、そのまま現実で眠りについてしまった………zzz
◇
「起きなさーい!」
とてつもない衝撃を受けて僕は目を覚ました。
く、苦しい…!?
それもそのはず僕の上には母さんが馬乗りになっていた。
「なに?」
「なにって、今日授業でしょ!?いつまで寝てるのよ」
「えっ!?」
正味五分も寝ていない僕は急いで身支度をし、自宅を出るはめになった。
僕の通うことになった通信制の高校は都内にある。
そこまで電車で通学するんだけど、案の定電車は満員で、眠る間も無く電車に揺られていくことになってしまった。
僕は編入組で本当なら三年生なんだけど、引きこもりが長かったみたいで単位が二年の中途までしか取れてないらしく、三年生の編入ではなく二年生からの中途編入となっていた。
まあ、ダイブオンの資金集めのバイトやらその後の引きニートゲーマーの日々を考えると当然の結果だと思う…(泣笑)
ていうか、それならなんで三年になれたんだ?という疑問が湧くが、恐らくその理由は僕の知らない力が動いたのだろうwww
それはさておき、僕の通う通信制は単位習得型でレポートは期限内(大体一~二週間)にネットを経由して送れる。
アトランティスでもネットに繋いでゲームとか動画などのサイトが使えるから、インしてても勉強できてレポートを送れるのが利点だ。
でも月に三~四回あるスクーリングは未だに慣れない。
普通に授業がある日もあれば勉強でわからないところを先生に訊ねる個別面談みたいな日もある。
ちなみに今日は普通の授業がある日だ。
人見知りな僕は、それが面倒くさくてイヤになってくる…
高校に着くとまず【出校カード】とやらを書かなければいけない。
氏名と入学年度を記入して提出。
ここは全日制の教室を借りて授業を行うので、選択した科目を受けに教室を移動する。
クラス分けがないので、毎回手書きの名札を胸につけて名前を覚えてもらうことになっている。
ぶっちゃけ誰とも必要以上に関わる気はないので名前を覚える気もないし、覚えられてほしくもない。
教室に着いた僕は、一番後ろの窓際の席に向かった。
席は自由だからね。どうせならいい場所を狙わないと。
ていうか今日は眠いからずっと寝てそうな気がするwww
席についた僕は、欠伸を噛み殺しながらカバンから教科書を出していると
「………(じー)」
前の席に幼稚園児のように小さい女の子が席についていた。
なんだこの幼女は………(汗)
こ、この人もクラスメイトかな?
それにしては小さすぎる気が………ていうか、まんま幼女だよね?
さすがに通信制に通える年代じゃないだろう。
「ママ、あゆもべんきょ~すゆ」
「はいはい、わかったから大人しくしててね」
隣の席の女子、ていうか女性が幼女の頭を撫でながら、言い聞かせるように言っていた。
美人だけど若いな。二十歳くらい?もしかしてこの子のお母さん???
ちらりと周りを見回すと僕と同じ十代の子の他に、四十代のおばさん、六十代のおじいちゃんもいるし、子連れで通うそういう人もいるのだろう。
改めて見ると色んな人がいるよな…でも、前に来た時より人が少ない気がする…?
「ま、どうでもいいか…」
むしろ人が少ない方が個人的に助かるし。
僕は机に突っ伏して寝る体勢に入った。
すみません…一時間目だけでいいんで寝かしてください…zzz
眠気に抗えなかった僕はそのまま眠りに………
「ママ~、うしろのおにいちゃんねてるよ~」
「コラあゆ、静かにしてなさい」
そっと顔を上げると幼女と目があった。
「あ、ママおにいちゃんおきた」
「あ、ごめんね。うちの子がうるさくて」
「いえいえ…」
「ほらあゆ、お兄ちゃんは仕事で疲れてるんだから寝かせてあげなさい」
と言って、幼女、あゆちゃんか。あゆちゃんを前に向かせる若いお母さん。
ていうかお母さん、僕別に仕事で疲れてるわけじゃないんですけど…(苦笑)
いや、一応依頼という仕事を徹夜でやってたから間違いではないか。
実質ゲームしてただけだけどね!www
そんなしょうもないことを思いつつ、僕のまぶたが重く落ちていく。
そして、心地よい眠りについていった………
一時間目を無駄にして睡眠をとった僕は、ある程度回復した。
まだ寝足りない感があるけど、我慢できないほどじゃない。
僕のようなゲーマーは短時間の睡眠で復活できるスキルを有しているからねw
「これでまだ戦える…」
フッ…と、そう一人呟いた僕は、次の授業を確認。
次はどこの教室に移動だ?
荷物を手早くまとめて次の教室に出ようとしたその時、急に現れた人影にぶつかった。
「痛っ!?」
「あ!ごめん…」
よろめきつつも、ぶつかってきた人を見ると、その人は前の席にいた若いお母さんだった。
「ホントごめんね」
手を合わせて謝る若いお母さん。
「いや、大丈夫です…」
「あ、そうだ。あゆ…うちの子見なかった?」
「いえ、見てないですけど…」
「そっか…ありがと、見かけたら教えて」
若いお母さんはそう言うと、教室に入り中を見回しながら「あゆ、どこにいるの?」と呼んでいた。
もしかしなくても、あの幼女がいなくなったのか…?
僕は廊下に出ると次の教室に向かって歩き出した。
途中で見かけたら教えてあげようと思いながら。
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