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第3章 ソロプレイヤー

第百十一話

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「………たしかに10000G」

 金貨を一枚ずつ数え終えたフィールさん。
 この守銭奴め…!と内心毒づく僕。
 それにしても危なかった…
 オクトパスキングの素材はけっこうな値で売れたけど少し足りなかった。
 ゼルが前に戦ったデュラハンから強奪した武器や鎧がなかったら危うくフィールさんに殺されてたところだよ…(冷汗)

「………しばらくカジノにいるから、また声かけて」

 そう呟いて踵を返すフィールさん。
 できればもうご利用したくないけどシードラゴンを倒すまでは手を借りなきゃいけないのか。

「そういえば、来週アプデだな」

 ようやくアップデートが配信される。
 その中でレベル上限が解放されるから、あそこでひたすらレベリングすればフィールさんの力を借りなくてもシードラゴンを倒せるかもしれない。
 
 来週か…長いな。
 それまでヴァイスがあの状態のままなのが激しく不安なんだけど…

「兄貴、これからどうしますか?」

 ゼルの問いかけに僕は悩んだ。
 二人だけで【海神迷宮】は無理ゲーだし街の外、ここら辺の魔物相手にレベル上げをするか………
 ていうかお金もアイテムも心許ない。
 回復アイテムの補充したかったけどフィールさんに渡したせいで買えなくなった。
 チップも残り数枚しかないからカジノで稼げないし、ぶっちゃけここでやることないな。

「…とりあえずルーネさんの家に戻ろうか?」

 どのみち転移門で移動することになる。
 ならルーネさんに行ってヴァイスの容態を確認したりルーネさんに報告したりしてから、僕達だけで狩れる楽な魔物の所へ行ってレベル上げというか、素材売買で資金調達しようと考えた。

「了解です。じゃあアルフヘイムへ転移しましょう」
「うん」

 僕らは転移門へ向かうことにした。
 行く先はルーネさんの家があるアルフヘイム。
 あ、そろそろ夕飯の時間じゃん。
 どうしようか…(悩)
 とりあえずアルフヘイムに着いたら一旦落ちようかな。




 僕はこの時の選択を後悔することになる。
 転移せずにそのまま夕飯を食べに落ちてれば…
【パライーソ】や他の街をゼルと一緒に見て回っていれば…
 色々後になって考えたけど、それはもう後の祭りでしかなかった………




 転移門を潜りエルフの王都【アルフヘイム】に戻ってきた僕達が目にしたものは、多くのPCプレイヤーの姿だった。
 え、なにこのPCの多さ!?
 転移門の周辺には見かけなかったPC達がおもいおもいの場所に陣取りたむろっていた。
 
「冒険者か…?兄貴、一応気をつけて下さい」
「う、うん…」
「しかしこの…前にも…」

 ゼルが油断なく周囲を警戒している。
 僕も周りを見てみたけど、少なくとも転移門周辺にいるPCは三~四十人はいる。
 それにしても居心地悪いなぁ…
 人が多いのもあるけど現実リアルにもこういう風に周囲を気にせず大声でバカ話したり、地べたに座ってる人達を見ると普通に迷惑というか邪魔でしかない。
 
 なんか柄悪いなぁ…と思いつつ僕はうつむき視線で歩きはじめた。
 誰とも視線を合わさずにこの場を切り抜けようとしたその時………

「あ!アイツじゃね!?」
「え、どこどこ?」
「ほらあそこの銀髪の男」

 周囲のPCの視線が僕に向けられた気がした。

「おいちょっと待てよ!」

 僕の行く手を遮るかのようにPCの一団が僕らの前に現れた。

「何の用だ?」

 ゼルが僕を庇うように前に出た。
 
「NPCには用はねえよ。どきな」
「そいつ【脱獄囚のファントム】だろ?」

『プレイヤーに発見されました!』
の特殊イベント戦闘に移行します』
『あなたの首を狙うプレイヤーの撃破、又は逃走が勝利条件です』

 システムメッセージが視界に流れた。
 ウソッ!?まさかここでバトル!?

「チクショー先越されたか!」
「やっちまえ!」
「相手は2人だ楽勝だろ?」
「ぶっ殺せー!」

 などのヤジが周囲のPCから飛んできた。
 もしかして、ここにいるPCってみんな僕を狙いにきた人達!?
 ていうかなんで僕がここにいるってわかったの?
 この暇人どもめ…!
 予想外の展開に草生えるわwww

「兄貴きます!」

 ゼルの警告が現実逃避しかけた僕の意識を戻した。

「賞金ゲットだぜー!」

 PCがそれぞれの武器を構えて襲いかかってきた!
 やむなく戦闘準備に入る僕。
 ゼルはすでに短剣を抜き放ち迎撃態勢に入っていた。

「邪魔だどけー!」

 PCその一(名前がHPゲージに表示されてるけどこんなヤツらは番号で十分だw)が片手剣をゼルに向かって振り下ろした。

「遅い」

 危なげなく横に躱したゼルは短剣を一閃。
 PCその一の首を斬り裂いた。

「なっ…!?」

 首を押さえたたらを踏むその一にゼルはさらに追撃。
 一閃、二閃、三閃とゼルの通常攻撃がヒットしていく。
 PCその一の身体が砕け散り、その場に死亡マーカーが浮かび上がった。

「なんだこいつ!?」
「強いぞ気をつけろ!」
「ただのNPCじゃないの?」

 PCその二、その三、その四がゼルの強さに警戒した。
 まあ、ゼルはヘタなPCよりレベルもPSプレイヤースキルもというか技量が高いからな。
 見た感じこのPTはそんなに強くない。
 ゼルが倒したその一は軽装鎧の剣士?にその二は全身鎧の戦士?その三は僧侶?その四は黒魔導士?っぽい。
 バランスのとれたPTっぽいけどレベル的に二十前後かな?
 レベル三十に達した略奪者のゼルの敵じゃなかった。
 これくらいの相手なら僕でも倒せそうだ。

「ゼルは後衛を、僕は戦士を抑える!」
「了解です兄貴!」

 僕は剣と盾を手に全身鎧姿のPCその二に、そしてゼルはPCその三、僧侶のほうに駆け出した。

 まずは様子見。
 僕はなんのバフをかけずにその二に斬りかかった。
 僕の剣をその二は盾で受け止める。

「くっ!」

 歯を食いしばって耐えたその二を見て僕は思った。
 この程度ならいけるか…
 僕は右手の剣を引くと同時に左手に持った盾を突き出した。
 最速で、真っ直ぐ一直線に繰り出された盾パンがその二の顔面にヒット。
 兜を装備してるからそんなに効かないかなと思っていたけど、PCその二は僕の盾パンを喰らうと仰け反りよろめいた。
 ちらりと頭上のHPを確認、ダメージは一割弱ってところか。
 盾役タンクっぽいのにそんなに硬くないな。
 これなら手の内を周りに見せずに勝てるかも…?

「この野郎…!」
「【強奪】!」
「がっ…!?」

 怒りに染まるその二の瞳が次の瞬間驚愕に染まった。
 どうやらいつの間にか背後に忍び寄っていたゼルのスキルを喰らったようだ。
 ていうかもう後衛の二人倒したの!?
 さすがゼルさん、仕事が早い(笑)
 PCその二はスタンしたかのように痙攣している。
 その隙を見逃す僕じゃない。
 兜と鎧の隙間、首をめがけて僕は剣を横に振るった。
 狙い違わず僕の剣が首にくい込み斬り裂いた。
 PCその二の首が飛んだ。
 クリティカル、致命傷を受けたPCその二のHPが一気に削れていく。
 PCその二はポリゴンのカケラになって死亡マーカーへと変わり果てた。

『戦闘に勝利しました!』
『ファントムはEXPを166獲得しました!』
『【魔法戦士】のLvが3に上がりました!』
『SPを3獲得しました!』
『ゼルはEXPを1000獲得しました!』
 etc…

 そのあとシステムメッセージに表示されたリザルト画面を見ると、ミスリルソードやダマスカスアーマー、魔導の杖などといった武器や防具のアイテムがドロップしたことを告げていた。
 僕のアイテムストレージはロックがかかっているから使えない。
 魔法の袋を所持しているから自動的にそこに流れるわけだけど、容量いっぱいの表示が出た。
 だから僕は残りのドロップ品をゼルに移譲した。
 
 ていうかPKするとその場にランダムでアイテムがばら撒かれるんじゃなかったっけ?
 ふと疑問に思ったけどすぐに思い直した。
 多分これはPKじゃなくて戦闘扱いなんだろうな。
 魔物を倒した要領でPCの装備品と所持品を一定確率で自動的に拾得できるんだろう。
 ゼルの職業スキルがそのドロップに拍車をかけてる感じがする。

「スゲー!瞬殺したぞ!?」
「予想以上に強えー!」

 僕達の圧倒的な強さに驚きの声を上げるPC達。
 ていうかPC相手にちまちま攻撃してたんじゃ時間がかかるし余計なダメージを喰らう。
 なら、相手の急所めがけての即死判定を狙ったほうが効率がいい。
 魔物と違って人間は急所がわかりやすいしね。
 それにしても、この程度のレベルで僕をやろうなんて僕を舐めすぎだ。
 イベント感覚の遊びでちょっかいかけてくるのならこっちも遠慮はしない。
 倒せるPCは容赦なく倒してやる…!
 まあ、僕らより強いPCがいたらダッシュで逃げるけどね(笑)

「よっしゃあ、次は俺たちだ!」
「おいおいちょっと待てよ?次はオレらの番だぜ」
「え~、次はアタシらでしょ?」

 …なんか、戦う順番で揉めてるんですけど。
 ていうかこの人達絶対僕らで遊んでるよね?不愉快極まりないんですけど…:-〈
 
「兄貴、今のうちに逃げましょう」

 ゼルが僕に耳打ちしてきた。
 うーん…たしかにめんどくさいしその方が良さそうだ。

「そうだね。なんとか撒いてルーネさんに行こう」

 僕はゼルにそう言うと、揉めてるPC達に注意しながら逃げ道を探そうとした。
 幸いにもPC達は一箇所に集まってああだこうだと順番を争っている。
 そのまま一生揉めててくださいw

「ようやく見つけました!」

 突然響き渡った声に一瞬PC達の喧騒がかき消えた。
 その声に僕の動きも止める。

 え…?…!?

 聞き覚えのある声にフリーズする僕。

「ウソだろ…!?」

 声の主を目にしたゼルが驚きの表情で呆然と呟いた。
 僕も久しぶりに会うを目にして、なんでこんなところにいるの?と驚いていた。

「なんで、マリアさんがここに…!?」

 小柄な身体には金色こんじきに輝く鎧に純白のマントを羽織っていて、背中の大剣も以前とは違うモノに見えた。
 でも、少したれ気味の大きな緑色の瞳が以前とは見違えるほどの輝きの強さを放っていた。
 ふんわりした感じだったのに凛とした雰囲気を纏っている。
 相変わらずの美少女だけど、雰囲気が違いすぎて見違えてしまった。

 念のためHPゲージに表示されているネームを確認。
 …ホントにマリアさんじゃん。
 
 久しぶりに再会したマリアさんは似たような格好の人達(NPC)を引き連れ、僕らの前に立った。

「ひ、久しぶりですね、マリアさん…」
「この間から感じてたはお前だったのか…つうかなんでここにいるんだよ?孤児院はどうした?」

 僕とゼルの問いかけにマリアさんはにっこりと微笑むと、背中に背負った大剣を抜きはなった。

「「!?」」

 驚く僕とゼル。
 マリアさんは切っ先を僕に向けたまま口を開いた。

「我々はアトラス七星教会七星騎士団!大罪人ファントム、無駄な抵抗はやめて大人しく投降してください!」
「ええええええぇぇぇえええ!?」

 まさかの追手に僕は絶叫してしまった………




 
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