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第3章 ソロプレイヤー

第百話

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「あ…」

 僕がイヤな顔をしたのを目にしてNANAさんが傷ついたような表情かおをした。
 
「ごめんなさい…迷惑ですよね…」
「あ、いや、その…」
「いいんじゃないんですか別に」

 なんといっていいのかわからなくなった僕に助け舟を出してくれたのはゼルだった。
 ゼルは僕の耳元へ顔を寄せて

「ヴァイスがこんな状態ですし、戦力は多いほうがいいと思います」
「う、うん、たしかに…」

 そのほうがいいかもしれないと僕は思った。
 ぶっちゃけ行動をともにしたくないけど、この場合は仕方ないのか…
 ゼルはNANAさん達に向き直ると

「ただし条件がある。戦闘の指揮は兄貴に委ねてほしい」

 はぁ!?ちょっとゼルさんなに言っちゃってんの!?

「兄貴というのは、ファントムさんのことですか?」
「ああ、そうだ。ランクは低いが兄貴は凄腕の冒険者で【指揮官】のスキルを持っている。将としても非常に優秀な方だ」

 なんでハードル上げてるのおおおぉぉぉ!?
 ていうか前々から思ってたけどゼルって僕のこと過大評価しすぎじゃない!?
 もしかしてそういうイジメなのか?

「へぇ、すごいんですねファントムさんって…(尊敬の眼差し)わかりました。ファントムさんにお任せします」
「俺も賛成。ぶっちゃけ俺らこういうゲームに慣れてねえからさ、上級者のニイちゃんに従ったほうがいいと思うし」
「リーダーのNANAがそう決めたのなら僕も異論はありません。我が剣をファントム殿に一時預けます」
「ま、俺も構わないぜ」

 というわけで、僕達のPTにNANAさんのPTが合流した。
 同行は仕方ないとして、何故に戦闘指揮も取らなきゃいけないの?
 不承不承ながらなし崩しに了承しちゃったけど………どうしてこうなった?
 はぁ…(重いため息)NOと言える日本人になりたい………

「一時的にとはいえともに戦う仲間だからな、改めて自己紹介だ。俺はゼル、【略奪者ブリガント】でレベル30だ。得物は短剣で盗賊系のスキルを修めている。短い間だがよろしくな」
「あ、よろしくお願いします(ワイルドイケメンはミステリアスリーダーの右腕って感じね。……どっちがタテでどっちがヨコなのかしら?)」
「よろしく!(つうかレベル30か…NPCなのにプレイヤーの俺よりレベルがたけえ…!ブリガントってよくわかんねえけど、さすが上級者プレイヤーのNPCってところか)」

 と言ったところでゼルは僕に視線を向けた。
 え?次は僕の番!?
 急に振られてパニくる僕を見かねたのかルーネさんが挙手をした。

「はい!僕はルーネです。職業は【薬師】です。自作の回復アイテムでみなさんをサポートしたいと思います。よろしくお願いします!(ペコリ)」
「よろしくお願いします(ルーネちゃんかぁ…可愛い子だなぁ、サトルより歳下かな?僕っなのかな?それとも男の子?も、もし男子だったら…(妄想爆発))」
「よ、よろしく…(やっべえ、マジカワイイめっちゃタイプなんだけど…!)」
「ルーネ?もしやフォレスト族のルーネ・フレイ・リョースアールヴか?」

 白銀の全身鎧を身に纏ったジェイクさんが訊ねた。
 ルーネさんはこくりと頷き「はいそうですよ」と答えた。
 ジェイクさんは兜を脱ぐと、僕の予想した通りイケメンの素顔が晒された。
 金髪碧眼の爽やか系イケメンってところかな?
 ただ唯一の誤算は耳が長いということ。ジェイクさんはエルフか。

「同族とは思っていたけどまさかとは思いもしなかったよ。僕もフォレスト族の末席に連なる者、ジェイク・フレン・リョースアールヴ。君と同じ冒険者だ」
「ジェイク…さんですか?はじめまして…ですよね?」
「うん、だよ」

 うん?身内なのに初対面なの?と首を傾げる僕。
 訊ねてみたいけど、今はなんか言いづらいから後でルーネさんに訊ねてみよう。

「因みに僕の職業は【聖騎士】だ。レベルは20。防御系のスキルが得意だから前衛の守りは任せてほしい」

 随分砕けた感じで僕に言ってきた。
 ルーネさんが身内だとわかったからかな?
 それにしても【聖騎士】か。
 PCプレイヤー、NPC問わず【聖騎士】に就いてる人は初めて見た。
 ジェイクさんは盾役タンク決定かな?

「あ、はい、よろしくお願いします…」

 とりあえず僕はそう言ってジェイクさんにペコリとお辞儀した。
 ニコリと爽やかな笑みを浮かべるジェイクさん。

「み、ミステリアスリーダーがうちの正統派イケメンを口説いてる!?や、ヤバい想像したら鼻血が出そう…!」
「ちょい、姉ちゃん落ち着け。ただの挨拶だろ」

 うん、satoruくんの言う通り別に口説いてるわけじゃないんですけど…
 ていうかNANAさんはいろんな意味で関わりたくないかも(苦笑)
 
「じゃあ今度は俺が自己紹介するか」

 と言って漆黒の全身鎧を身に纏ったレイモンドさんが兜を脱いだ。
 褐色の肌に金色の瞳、紺色の長い髪が腰まで流れ落ちた。
 レイモンドさんも当然顔立ちの整ったイケメンだ。
 長髪から突き出るように伸びてる耳からしてこの人もエルフ?いや………

「俺はレイモンド・ユーリ・スヴァルトアールヴ。ダークエルフの【暗黒騎士】だ」

 やっぱりダークエルフか。
 しかも【暗黒騎士】その職業に就いた人も初めて見た。

「レイは僕と同じレベルの暗黒騎士だけど脳筋だから…戦闘になったらすぐ先陣をきってしまうから気をつけてね」

 とジェイクさんが僕にアドバイス的なことを言ってきた。
 そっか、脳筋なのか…(笑)
 脳筋と聞いてふとどこぞの金髪巨乳シスターのことを思い出した。
 元気にしてるかな…マリアさん………

「攻撃は最大の防御っていうだろ?」
「君はいつもそう言って見境なく特攻するからラフレシアの【夢現の息】を喰らったんだろう。いい加減その戦い方を反省したらどうだい?」
「大丈夫だ。俺に同じ技は二度通用しねえ」
「また君はそうやって………」

 ジェイクさんとレイモンドさんが口喧嘩を始めてしまった。
 けどそれはそんな険悪なものではなく、どちらかというとじゃれあってるみたいな感じで、二人は仲がいいんだなぁと僕は思った。

「………(妄想中)」
「姉ちゃん鼻血出てる…」
「…ハッ!」

 ジェイクさんとレイモンドさんの仲がいい姿を見て?NANAさんの鼻から血が滴り落ちていた。
 satoruくんからティッシュを手渡されたNANAさんは鼻にティッシュを詰めた。
 ていうかいまNANAさんのHPゲージがピンクに点滅してたよね?
 状態異常?ていうかピンクってどんな状態を表すんだったっけ?
 何気なくメニューを出して調べてみた………どうやらピンクは興奮状態を指すようだ。
 感情が昂ぶると興奮状態になり、効果はSTR+3%上昇の他に、興奮が持続するとバッドステータスとして鼻から出血しHPが徐々に減少するらしい。
 止血しなかったり鼻血を出しすぎると裂傷扱いになってHP減少が多くなるようだ。
 ふむふむ、なるほど…しょうもない状態ということは理解したwww
 
 うん?待てよ。僕はあることに気がついた。
 鼻血を出してるNANAさん。それを介抱しているsatoruくん。
 仲睦まじく言い争ってるエルフ×ダークエルフ。
 今なら誰も聞いてないじゃ………!

「僕はファントムです。よろしくお願いします」

 どさくさに紛れて僕は早口で自己紹介をした。

「ありがとうサトル」
「いいよ…もう慣れたし…(苦笑)」
「だからお前は堅苦しいんだよ。もっと肩の力抜けって」
「君は逆に肩の力を抜きすぎなんだよ」

 よし…!
 僕は心の中でガッツポーズをした。

「おいお前ら。兄貴がせっかく自己紹介してんだからちゃんと聞けよ」

 ちょっとゼルさん!?

「あ、ごめんなさいファントムさん」
「お?次はニイちゃんか」
「すまない…つい熱くなってしまった」
「悪い悪い」

 みんなの視線が僕に突き刺さる。
 え~………これはもう一回言わなきゃダメな空気?
 僕はゼルを恨めしげに一瞥すると再び自己紹介をすることにした。

「ファントムです…一応【】です。よろしくお願いします…」

 さすが【脱獄囚】とは言えなかった。
 一応嘘は言ってないからいいよね?
 でも僕の表示はいまペナルティを受けているオレンジカラーだからすぐバレるかもしれない。
 もし聞かれたらなんて答えよう…?
 
「はーいニイちゃん質問!」
「はいサトル、質問を許可しよう」

 挙手したsatoruくんにゼルが許可した。
 なんで勝手に許可するのかな!?

「ニイちゃんのレベルは?」
「えっと………【戦士】は20?」
「20か…案外低いな…」
「戦士にしては随分装備が軽装だね」

 とジェイクさんが呟いた。
 ふふんとゼルが鼻を鳴らした。
 お前らなにもわかってないなみたいな感じで首を振る。

「それはな、兄貴は戦士を極めた剣術士にして鍛治もできる僧侶だからだよ!さらに盗賊系の職業にも手を伸ばしている。言わばオールマイティにしてマルチな冒険者なんだよ!そこら辺の冒険者と一緒にしないでもらおうか!」

 いやいや、そんなすげーだろみたいな感じで言われても…:-()
 話盛り過ぎじゃない?
 ていうかそんなこと言うゼルも僕のことわかってないと思うよ(苦笑)

「なるほど…何回も転職してるんですね。で、今は【戦士】と」
「マジパネエ…さすが上級者…(尊敬の眼差し)」
「戦士を極めた剣術士か…機会があれば是非手合わせをしてほしいな」
「強そうに見えねえんだけどな…人は見かけによらないもんだ」

 NANAさんPTがなにやら勘違いをしているような気がする…

「ひとついいか?」

 レイモンドさんが僕に訊ねてきた。
 
「お前さんHPゲージがオレンジだけど、もしかして前科持ちか?」
「え!?それはその…」

 レイモンドさんの問いに答えを詰まらせる僕。
 ここは正直に言ったほうがいいのかな?

「兄貴は賞金首なんだ」

 僕が言う前にゼルが言ってしまった。

「以前から兄貴を妬むある巨大な組織に刺客を差し向けられてな、兄貴は刺客を華麗に撃退したんだが、組織の罠にかけられて牢獄に収監されてしまったんだ。俺はあらぬ罪で投獄された兄貴を救い出した。しかし組織は逃げた兄貴に賞金をかけてな、俺達は兄貴を組織の魔の手から一旦逃れさせるためにエルフの国に亡命しに行く途中ってわけだ」

 なんとまあスラスラとでまかせを言えるものだと僕は感心してしまった。

「俺達といると危険な目に遭うかもしれない…それでもいいなら連いて来い」

 最後にゼルがそう締めくくるとNANAさん達は少し押し黙った。
 考えがまとまったのか、まず最初にNANAさんが口を開いた。

「…なるほど。ファントムさんはそういうイベントクエストを今こなしているんですね」

 はい?

「巨大な組織と立ち向かうクエストなんて私は知りませんけど、かなり高難度のクエストをやってるんですね。プレイ歴が浅い私たちじゃ足手まといになるかもしれませんけど、微力ながら協力したいと思います!(私たちにはいいレベリングになると思うし、あわよくば稀少レアなクエスト報酬を分けてくれるかも…!)」
「すげえ…なんかよくわかんないけど、難しいクエストやってんだな!さすが上級者だぜ!」
「組織か…人間種の地域にある巨大組織といえば【影の翼】か?ファントム殿、僕の友人に騎士団の隊長がいる。なにかあれば助力を乞えると思うから遠慮なく頼ってくれ」
「身を隠すなら地下にあるダークエルフの街に行ったほうがいいぜ。なんだったらアルフヘイムに着いたら案内してやるよ?」

 えっと、あの…今の話はかなり脚色されたほとんどゼルのでまかせなんですけど…って、小心者の僕には言えない…!
 ていうか組織ってなに?僕、罠にはめられてたの?そもそもクエストでもなんでもないんですけど!

「あ!まだちゃんと自己紹介していませんでしたね。私はNANAと言います。レベル19の【魔術師】で主に風属性の魔法が得意です。足手まといにならないように頑張ります!」
「俺はsatoru。職業は【侍】、レベルは19、よろしく!」
「あ、よろしくお願いします」
「よろしくな」
「よろしくお願いしますです!」

 これで自己紹介は終わったのか。
 なんかもう疲れたな…(苦笑) 
 まだ王都まで先は長い。僕達は先へ進むことにした。
 隊列は二列にして先頭は道のわかるジェイクさんとレイモンドさんに任せた。
 この二人はエルフで前衛職だからエンカウントしてもすぐ態勢を整えられるしね。
 次にゼルとsatoruくん。二人はアタッカーを任せた。【略奪者】と【侍】はAGIが高いからすぐに攻撃に移れるだろう。
 その後ろにヴァイスを背負った僕とNANAさん。
 だっこよりおんぶのほうが楽だと気づいた僕は戦闘時にはみんなに指示を送る、本当に指揮官的な役割を任された。
 はぁ…僕に務まるか激しく不安だ…:{
 一応回復魔法を使えるからこのPTのヒーラーも務めるつもりだ。
 NANAさんは後衛のアタッカーとして攻撃魔法を思う存分振るってもらう予定だ。
 僕の隣にいるのがちょっと気になるけど…(ドキドキ)
 最後尾はルーネさん。
 様々なアイテムでみんなを助けるサポート役を任せた。
 あと万が一先頭が道を間違えた時、最後尾のルーネさんがすぐにリカバリーできるように配慮してみた。

 いくらも進まないうちに、NANAさんが「ファントムさんファントムさん」と話しかけてきた。

「私まだ一回しか転職してない【魔術師】で、もうじき20に上がるんですけど、なにかお勧めの職業ってありますか?」
「え?」

 オススメと言われても…と言葉に詰まる僕に追い打ちをかけるように、前を歩いていたsatoruくんが振り向いて話しかけてきた。

「ニイちゃんニイちゃん、俺らまだこのゲーム初めて日が浅いんだ。よかったら色々教えてくれよ」
「え?ああ、うん…」
「マジで!?ありがとニイちゃん。早速だけどさ、俺課金して【侍】になったはいいんだけど、スキルの習得とかいまいちわかんねーんだ。あといい刀売ってるところって知らね?」
「ちょっとサトル、お姉ちゃんがいま聞いてるんだから割り込まないでよ!」

 そこからNANAさんとsatoruくんの質問責めが始まった。
 ていうか今移動中だからもうちょっと周りを警戒しようよ…なんてことは緊張して言えなかった。
 はぁ…誰か助けて…(泣)

 
 
 
 
 


 

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