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第3章 ソロプレイヤー
第九十六話
しおりを挟む翌日ログインした僕は寝不足だった…
ヴァイスに漫画を見せたり本二冊分読むのに時間がかかったせいで、落ちたのが深夜二時。
その後すぐに寝たはいいけど朝五時に出発という予定だったので正味三時間も寝ていない。
マジで眠い…zzz
眠っても落ちない仕様だからこのままちょっと仮眠してもいいか聞いてみようかな。
「…さあ行こうか朋友」
ヴァイスが肩を組んできた。
昨日までの素っ気なさがなんだったのかと思うくらいフレンドリーだ。
「うん…」
ヴァイスの態度に戸惑いながらも頷く僕。
ていうかヴァイスは眠くないのかな?ってNPCにそれ言ってもしょうがないか…?
外に出ると辺りは朝霧に包まれてヒンヤリと冷えていた。
おお寒っ!ちょっと目が覚めてきた。
「ルーネさん、案内よろしく」
「はい!任せてくださいファントムさん!」
朝から元気よく返事を返したルーネさんを先頭に、僕達は町の東門の先【惑いの林道】の方へ歩を進めた。
東門にも検閲所があり数人のエルフがいた。
「ここより先は我等エルフの都へと至る道。人間風情が辿り着ける場所ではないぞ?」
「大丈夫です。僕がいますから」
「ふむ…フォレスト族が同行するならば問題ないだろうが、人間どもよ、一度逸れたら二度と出ることは叶わないぞ?それでもいいのか?」
「ああ、問題ないな」
「…np」
「え、あ、はい…」
引き止めなのか脅しなのか、感じ悪いエルフの念押しに、ルーネさんを除いた僕達が返事をすると検閲所にいたエルフ達が門を開けてくれた。
「では通るがいい。同胞に置いてかれぬよう精々気をつけるのだな」
「さあ行きましょう」
ルーネさんを先頭に僕達は【惑いの林道】に足を踏み入れた。
【惑いの林道】は見た感じ普通の森と変わらなかった。
街道のように整備はされてないけど、一応馬車くらいは通れる広さの道が続いていて先が見えなかった。
木々に囲まれた道を歩き進める僕達。
辺りは静寂に包まれていた。
視界に映るMAPにはなにも表示されていないけど、なにかかいる気配を感じる。
ていうか今気づいたけどここはマッピングできないようだ。
マジではぐれないようにしよう…
しばらく歩くと、直進と左右の三つの道に分かれていた。
ルーネさんは辺りを見回し三つに分かれた道を見比べている。
「…多分こっちです」
ルーネさんは右の道を指差した。
あの…多分って言わないでほしいな…大丈夫かな…?
限りなく不安になってきた:{
「僕から離れすぎないように連いてきてください」
「了解」
「…k」
「あ、うん」
僕ははぐれないようにルーネさんのすぐ後ろにぴったり付いた。
右にゼル。左にヴァイスが寄り添うようにルーネさんに連いていく。
「あ、あの、みなさん、それはちょっとくっつきすぎです…///」
「そう言われてもイマイチ距離感がつかめねえんだけど…」
「…右に同じく」
うんうんと頷く僕。
「5メートルくらいまでなら離れていても大丈夫ですよ………多分(ぼそっ)」
だからその多分はやめて!不安になるから!
しかも今小声で聞こえないように言ったけど僕はしっかりと聞いたからね!
ゼルとヴァイスはルーネさんから普通に歩けるくらいの距離まで離れたけど、僕は息を殺してルーネさんの背後に寄り添ったまま連いていった。
側から見ると今の僕って変質者じゃない?
でもこれは迷子にならないための緊急措置ということで許してほしい。
突然ガサガサと音を立てて茂みからなにかが飛び出してきた。
魔物!?
でかい蜂のようなモンスターが現れた。
その数五体。
「キラーホーネットです!刺されると麻痺になるので注意してください!」
現れた魔物を見てルーネさんが注意を促した。
僕達はそれぞれの武器を構えて身構えるとキラーホーネットが向かってきた。
「…うんたらたったー【サモンナイト】!」
ヴァイスが召喚したデュラハンがキラーホーネットの体当たりを盾で受け止めた。
「喰らえ!」
ゼルの短剣がキラーホーネットを斬り裂いた。
おお!即死スキルでもないのに一撃で倒したよ!
案外弱いのか?
僕は飛んでいるキラーホーネットに向かって剣を振るう。
スカッ
キラーホーネットはひらりとかわした。
ああ外した!
クソッやっぱ素じゃダメか…僕は【心眼】を発動させた。
『ファントムのAGIが50%上昇しました』
『ファントムのDEXが50%上昇しました』
狙いを定めて、最速で、最短で、まっすぐ一直線に…!
キラーホーネットに向けて僕は突きを放った。
心眼で強化した僕の攻撃は狙い違わず今度は命中。
ダメージを与えたけど一撃で倒すことは叶わなかった。
横手から違うキラーホーネットが僕に襲いかかってきたのを察した僕は盾で受け流そうとした。
僕を突き刺そうとしたキラーホーネットの太い針をパリングした瞬間、強めの衝撃とともに僕のHPが削れた。
「くっ…!」
予想以上に重い攻撃に僕は足を踏ん張って堪える。
受け流しはやめておいたほうがよさそうだ。
なるべく回避重視でいこう。
「えい!えい!えい!」
ルーネさんが小瓶のようなモノをいくつか投げた。
キラーホーネットは投げられた小瓶を余裕でかわしたけど、地面に落ちて割れた小瓶から毒々しい紫色の煙が立ち上った。
「ちょっ!」
「危なっ!」
急いで煙から離れる僕とゼル。
煙を浴びたキラーホーネットのHPゲージの色が毒表示に変わる。
毒にかかったキラーホーネットが弱々しく飛び回っていた。
「おいルーネ!危ねえだろうが!」
「ごめんなさいですゼルさん!でも人には無害なので安心してください!」
「…【劇虫スモーク】昆虫魔物に、効果は抜群だ…」
これはルーネさんが調合したアイテムか。
ていうか、すごい効果だな…
キラーホーネットが次々と毒にかかっていく。
煙浴びてないヤツも毒になってる気が………
「ふふふ…一度放ったが最後、たとえ煙を浴びなくても空気感染や接触感染によって、この場にいる昆虫は全てに毒に侵されるのです!」
ちょっと怖い笑みを浮かべながら説明するルーネさん。
弱って動きの鈍ったキラーホーネットに追撃をかけて戦闘は無事終了した。
ほぼ無傷で戦闘を終えた僕達は先へ進んだ。
するとまた分岐と出くわした。
今度は左に続く道と右斜めに続いている道。
ルーネさんは立ち止まり交互に見比べて考えこんだ。
「う~ん………こっちですかね?あ、でもこっちっぽい雰囲気が…いやいやでも………」
ぶつぶつ呟きながら悩んだ結果ルーネさんは右斜めの道を選んでそちらへ足を向けた。
それにしても、なんかここは迷路みたいに入り組んでるな。
分岐が現れる度にルーネさんは立ち止まりどちらへ進むか考え込む。
勘で選んでるっぽいけど、本当に大丈夫かな…:{
ルーネさんの話によると、ここはエルフにしか道がわからないようにできているらしい。
ルーネさんを信じてはいるけど、ぶっちゃけ若干の不安を感じる…
これで迷ったらホントシャレにならないよね(笑)
「みなさん止まってください」
急に立ち止まったルーネさんは目を凝らすように前を見つめている。
「どうしたルーネ」
「しっ!静かに」
口元に指を立てたルーネさんは続いて前方を指差した。
「道の両端に大きな草が並んで生えてるのが見えますか?」
「ああ、見えるけど」
「あれがどうかしたの?」
「あれはマンドラゴラです」
「マジで…!?」
「…gjルーネ」
マンドラゴラ?名前は知ってるけど、みんなの反応からしてヤバい魔物なのかな?
マンドラゴラってあれでしょ、引き抜くと悲鳴を上げて、その悲鳴を聞いた者を発狂させて死なせることができる植物だよね?抜かなければ別にどうってことないんじゃない?
「マンドラゴラは根っこが人の形をした魔物で、その根は万病に効く霊薬の素材としてとても希少価値が高いんですけど、マンドラゴラは外敵が近づくと地面から飛び出して呪いの叫び声を上げるんです。その叫び声を聞いたら最後…目鼻や口、耳、毛穴など、穴という穴から血を流し、想像を絶するほどの激痛が全身を覆い、糞尿を垂れ流しながら絶命すると言われています」
いまいち僕がわかっていないのを察したのかルーネさんが説明してくれた。
マンドラゴラ…僕の予想以上の植物…じゃなくて魔物だった…!(怖っ)
「どうすんだよルーネ。マンドラゴラって音に敏感なんだろ?」
「はい、ですからみなさんなるべく音を立てずに進んでください」
「えっと、ちなみに今の僕達が呪いの声を聞いたらどうなるのかな?」
「先程言った通りになります…」
「呪い耐性があってもダメかな?」
「即死無効のスキルかアイテムがないと確実に死に至ります」
マジか………もしマンドラゴラが僕達に気づいたら全滅確定じゃん。
「とりあえず俺と兄貴は【隠蔽】使ったほうがよくないですか?」
「そ、そうだね」
「…差し足、抜き足、忍び足」
「慎重にいきましょう」
僕達は両端にいるマンドラゴラからなるべく距離をとるために中央の道を一列で進むことにした。
先頭はルーネさん、続いて僕、ヴァイス、ゼルの順だ。
そうっと、静かに、足音を立てずに息を殺してゆっくりと歩を進める。
ドクンドクンと心臓の音がうるさいくらいに大きく聞こえる。
落ち着け、落ち着くんだ健一。
ステルスゲームは苦手なんだよな…
ふと僕の脳裏に、バンダナとタバコ、ダンボールで身を隠す犬ぞり使いのおっさんの姿が思い浮かんだ。
って、いかんいかん、集中しろスネー…じゃなくて健一…でもなくてファントム。
落ち着け…そのまま真っ直ぐ通り抜けるだけの簡単なミッションだろ?
【隠蔽】かけてるしそう簡単には見つからないだろう、自分を信じろ!
『最後まで決して諦めない。いかなる窮地でも成功をイメージする。…あんたの言葉だ』
…って誰の言葉だよ!ていうかそれまんまおっさんの言ってたセリフじゃん!
某ステルスゲームでおっさんが言ってたセリフを思い出した僕は、無事通り抜けるイメージを思い浮かべながら歩を進めた。
「ふぅ…みなさんここまで来れば安全です」
「なんとか抜けたな」
「…手に汗握った」
マンドラゴラのいた道を無事に通り抜けた僕達は、それぞれほっとした表情を浮かべていた。
ありがとうおっさん。おっさんの言葉で僕はやり遂げたよ…
上を見上げると森の木々に覆われて空が見えない。でもそこに苦笑を浮かべるおっさんの姿を見た気がした。
「まだまだ先は長いです。みなさん進みましょう」
マンドラゴラの件以降、僕はただルーネさんの後を連いていくだけじゃなく、周りを警戒しながら進むことにした。
はぐれないことを気にしすぎて周囲を疎かにしていたし、ゼルとヴァイスも辺りを見回しながら進んでいる。
途中何度かキラーホーネットやヤテベオという太い幹の魔物(麻痺効果のある長いツタで攻撃してくる)とエンカウントして戦闘になったけど、特に苦戦することもなく戦闘に勝利した。
でも僕のレベルじゃ、ここの魔物と戦うのはちょっと厳しい気がする。
一発でもいいの喰らったら致命傷になりかねない。
基本ここでエンカウントする魔物は、木々や茂みから飛び出してくる。
【惑いの林道】の特性なのかゼルの【索敵】に引っかからないし、MAPにも現れるまで表示されないから気が抜けない。
もし、先制攻撃を受けたら僕死ぬんじゃない?(ガクガクブルブル)
ルーネさんにぴったり寄り添いつつ僕は警戒を怠ることなく進んでいった。
時刻は昼の十二時。
もう数え切れないくらいの分岐を進んだ先にいくつかの人影が見えた。
大きな花を咲かせた巨大な魔物もそこにいて、どうやら絶賛戦闘中のようだ。
うわぁ…よく見るとPCじゃん…なんでこんなところにいるの?
「あれは…冒険者か」
「いけない!あの魔物はラフレシア、この森最強の魔物です!どうします?助けますか?」
魔物よりも冒険者に警戒の目を送るゼル。
ルーネさんが僕に指示を求めてきた。
うーん…強い魔物なんでしょ。できれば戦いは避けたいし、ぶっちゃけPCとは会いたくないからなぁ、できればスルーしたいけど………
「うわっ!」
「サトル!」
あ、ラフレシアの口から吐き出されたガス?を喰らったPCが倒れた。
「まずいですね…ラフレシアの【夢現の息】は毒、暗闇、沈黙、麻痺、混乱、凶暴化、鈍足効果があるんです!」
なにそれ?どこのファイナルなファンタジーゲームに出てくるモンスターだよ!?
名前がラフレシアなのにモ○ボルみたいな攻撃するのね。
「…助けよう」
ヴァイスが僕に言った。
でもPCだしなぁ…助けても僕が賞金首だって知ったらどういう反応するか怖いし…
かといってここで見殺しにしたらまたヴァイスの好感度が下がるだろうし…
まあそうなったら今度は蒼天のほうを読ませればいいか(笑)
『後悔するよりも反省することだ。お前はまた同じ過ちを繰り返すのか?』
僕の脳内で、おっさんのセリフが聞こえた。
ゲームで言ってたセリフと違う気がするけど…でもおっさん。おっさんは昔こうも言ってたよ。
『他人の人生に介入すれば自分を守れなくなる』って。
僕は自分を守りたい。僕の側にいてくれる仲間達も。
だから余計なトラブルには関わりたくないんだ。
『お前はリーダーだ。リーダーは常に真っ直ぐ立っていなければならない』
でも………
「…朋友!」
「ファントムさん!まずいですあの人たち全員状態異常にかかりました!」
「兄貴、どうしますか?」
『正念場だ!ここはふんばりどころだろうが!』
って今度は司令が出てきたよ!?
あああああああああもう!!!
今日はなんでこんなにおっさんキャラが出てくるんだ!
せめて司令じゃなくてひびきちゃんの名言を聞かせてくれ!(慟哭)
「よし!助けよう!」
僕は剣を抜いて駆け出した。
「ヴァイスは召喚魔法で倒れてる人達を救出!ルーネさんは状態異常を優先に回復して!ゼルは僕と一緒にラフレシアのタゲとるよ!時間稼ぎ優先で息は絶対回避!」
「了解です兄貴!」
「…【サモンエンジェル】×4!あそこに倒れている者を、抱えて下がれ…!」
「えっと、えっと、麻痺回復水に毒回復水…ふわわわ!混乱回復水が見つかりません~!」
僕と追いつき追走するゼル。その両手に持つ短剣にはすでに攻撃スキルのライトエフェクトが灯っていた。
「ゼルは右から。僕は左を攻める」
「了解です!」
ラフレシアの触手が魔法使いの格好をした女の子に振り下ろされようとしていた。
状態異常にかかっていて避けられそうにない。
くそっ!
【心眼】発動。
『ファントムのAGIが50%上昇しました』
『ファントムのDEXが50%上昇しました』
間に合わない!なら………
「いっけえぇぇぇ!」
僕は剣を投擲の要領で投げつけた。
心眼の補正が効いたのか、それともただのまぐれなのかはわからないけど、振り下ろされたラフレシアの触手に投げた剣が当たり触手の軌道が逸れた。
剣が女の子の側に突き刺さる。
危ない危ない…あれで剣が女の子に刺さったらまたPKで罪を重ねるところだったよ(冷や汗)
僕は女の子を守るようにラフレシアの前に立ち塞がると、側に突き刺さった剣を引き抜いた。
「あ、あなたは…?」
ちらりと振り向くと、うつ伏せで動けない身体なのに、必死で顔を上げてこちらを見上げる女の子。
HPゲージにはNANAと表示されていた。
「大丈夫?」と声をかけそうになった瞬間、ふと僕の頭の中にある言葉が浮かんだ。
僕はNANAさんに向かって思い浮かんだ言葉を口にすることにした。
おっさんといえばこのセリフだろう。
僕はおっさんになりきって口にしてみた。
「待たせたな」
応援ありがとうございます!
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