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第3章 ソロプレイヤー

第九十五話

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 エルフの国、王都アルフヘイム。
 この島のというか、大陸の東端にある王都へ僕達は旅立った。
 アルフヘイムは妖精の森の深奥にあるらしく、僕達は街道まで出ると召喚笛で馬を呼び出してとりあえず馬で行ける町まで行くことにした。
 
 かーけーよ松風~♪

 脳内で傾奇者の歌がリフレインしていた。
 僕は人っ子一人いない街道を爆走していた。
 無人の街道を法定速度無視で馬を駆けさせていた。
 うん、やっぱりバイクとは違うこの疾走感はクセになるねb

『ファントムの【騎乗】の熟練度が3上がりました』
『ゼルの【騎乗】の熟練度が1上がりました』
『ヴァイスの【騎乗】の熟練度が2上がりました』

 でも一定の時間(大体十分くらい)走ってると表示されるシステムメッセージがちょっとウザい。
 なんか熟練度の上がり具合がみんな違うけど、これは走り方や乗り方の違いによって差が出ているんだと思う。
 先頭の僕はほぼ全力疾走で馬を走らせている。
 続くゼルは僕を置いてかれない程度の速さで馬を走らせている。
 ゼルと並んで馬を走らせているヴァイスは後ろにルーネさんを乗せている。
 多分それぞれの走り方、乗り方によって獲得する熟練度が変動するんだと思う。
 ていうか獲得する熟練度が低過ぎてスキルレベルが中々上がらないな。

 それにしても、今向かっている町は人とエルフの交易の町って聞いていたけど行き交う人の姿すら見えない。
 視界の片隅に表示されているMAPにもPCどころかNPCの反応ないし、本当に交易の町かと疑ってしまう。
 まあその方がこちらとしては都合がいいし、個人的には人ゴミというか人気ひとけがない方が気が楽でいい。
 
 気分良く馬を走らせること一時間。
 僕達は交易の町エギルに辿り着いた。


 交易の町エギルは高い塀に囲まれた町だった。
 門の横手には検問所があり、そこに皮鎧を装備したエルフが数人暇そうにしていた。
 僕達は馬から降りてそちらに向かうと

「おい人間。通行証を見せろ」

 金髪緑眼で、エルフですと主張している長い耳の男が偉そうに言った。
 ていうか、通行証ってなに?
 僕はルーネさんに視線を向けた。
 ルーネさんがエルフの男のほうへ歩を進めた。
 ルーネさんを見る男の目つきがガラリと変わるのを僕は目にした。
 なに?あの友好的な笑顔…さっきまで僕に向けてた横柄な態度と全然違うんですけど…

「僕はフォレスト族のルーネ・フレイ・リョースアールヴです。こちらの人間種の人たちは僕のです」

 ルーネさんは懐から取り出したメダル?を男に見せるように掲げて言った。

「おお!フォレスト族といえばヴェルンドの末裔。も確かだ…どうぞお通り下さい」
「はい、ありがとうございます」

 僕達はルーネさんを先頭に門を通ろうとしたその時………

「おい人間ども。悪さしたら承知しねえからな」

 すれ違いざまエルフの男が呟いた。
 怖っ!



「兄貴…なんか歓迎されてない感じですね」
「そ、そうだね…」

 エギルの町は人気がなく閑散としていた。
 疎らに行き交う人はエルフの人のみ。
 ここって交易の町だよね?エルフしかいないんですけど…
 そのエルフも僕とゼルとヴァイスを見かけただけで不機嫌な表情を浮かべてくる。
 中にはすれ違いざま舌打ちしてきたりする人もいた。
 …非常に居心地が悪い。
 なにこの閉鎖的な町…

「すみません…僕たちエルフはその、無駄に気位が高くてなんていうかその、極度の人見知りの人が多いんです」

 ルーネさんが申し訳なさそうに言った。
 ていうか町の人の反応を見るに、これはもう人見知りとかそういう問題じゃないような気がするんですけど…:-()
 ぶっちゃけ敵意丸出しで僕よりヒドイと思う(笑)

「…ルーネは違う」
「僕は人間の街で生まれて10年ほどその街で暮らしてましたから。そのあと家庭の事情でアルフヘイムに引っ越しておばあちゃ…いえ祖母の家で暮らし始めたんです」
「つうかさルーネ、門番の兄ちゃんがヴェルンドの末裔って言ってたけど、もしかして…」
「はい、ゼルさんの予想通りだと思います。あ、でも僕の家は遠縁なので一応貴族の末席に置いてもらってますけど、ほとんど暮らしは平民と変わりませんよ」
「…名だけの貴族?」
「はい、そんなようなものです」

 ゼルとヴァイスがルーネさんと話しながら歩いている中を僕はうつむきながら空気になろうとしていた。
 町の人達の視線がどうにも耐えられない。
 僕はゼル達を盾にしてなんとかやり過ごそうと必死になっていたから、なにを話していたのか全然聞いていなかった。


「はぁ…疲れた…」

 僕はそう呟くと宿屋のベッドに大の字になって寝転んだ。
 あれからルーネさんの案内で宿をとった僕達はエルフの王都アルフヘイムへ向かう準備をするために一旦解散した。
 と言っても僕は宿屋の部屋で待機で、ゼル達は探索に必要な武器や防具、各種アイテムなどを買いに出かけた。
 ゼルが言うには僕は賞金首なのであまり出歩かないほうがいいとのこと。
 僕は町の人の目が嫌だったしそういう理由ならお言葉に甘えてゼルに有り金を全部渡して引きこもることにした。

「ていうか…このままされたらウケるよね」

 まあ、ゼルに限ってそんなことはないと思うけど。
 それにしても大丈夫かな?と僕は違う心配が胸をよぎった。
 ルーネさんの説明によるとアルフヘイムに向かうには【惑いの林道】という場所を通り抜けないといけないらしい。
 エルフ以外の種族が惑いの林道に足を踏み入れると方角がわからなくなるらしく、森が絶えずので一度入ると抜け出すことはほぼ不可能らしい。
 同行者にエルフがいれば道案内ができるみたいだから、アルフヘイムの案内はルーネさんに任せておけば迷うことなく行けると思う。
 ただそこは相当深いらしくて順調に進んでも丸一日はかかるらしい。
 今日は日も遅いし準備を整えたら明日の朝一で出発する予定だ。
 途中セーブというかログアウトできる場所がないらしいし、明日は長期戦を覚悟しないといけないな。

「ていうか…暇だ…」

 ただ待ってるだけなのは退屈すぎる…
 僕はメニューを開くとお気に入りのアプリを起動させた。

『バンドル!アイドルバンドパーティー!』

 タイトルコールが可愛らしいアニメ声で部屋に響き渡った。
 音量最大。誰もいないしいいよね(笑)
 さすがにゼル達の前では恥ずかしくてプレイできない最近お気に入りのリズムゲームを始めた。
 前にプレイしていたアイドル育成型のリズムゲーと似たようなゲームだけど、これは美少女をアイドルバンドとしてプロデュースするリズムゲームだ。
 完成度の高いオリジナル楽曲はもちろん、有名曲のカバー曲も魅力の音ゲーで、今僕はこのゲームにもハマっている。
 某有名ビジュアル系バンドのカバー曲を選択した僕は、ゼル達が帰ってくるまでプレイすることにした。
 見た目は神姫っぽいキャラで構成した僕のアイドル達に萌えつつシャンシャンすると癒されるわ~(笑)


「聞いてくださいよ兄貴!ここの店のヤツらマジで最悪っすよ!」

 帰ってきて開口一番、ゼルが怒り心頭の表情で僕に言った。

「兄貴の頼まれたヒールの魔導書が30万って言うんですよ!ありえないっすよ!普通ヒールは3万前後が相場なのに!」

 あまりの怒りで○○っすよって口調になってる…
 いつもなら僕に対しては○○ですって、ですます口調というか、ちゃんとした敬語なのに。
 まあ個人的にはタメ口でも構わないんだけど。

「素材の買い取りも足元みやがるしマジ最悪っすよ!」
「エルフを代表してお詫びします…」

 申し訳なさそうに謝るルーネさん。

「…ルーネには普通に3万で売るという所業…lol」
「人間種にはものっそい高値で売りつけるあの根性…!マジでムカつきますわー!」

 どうやらゼルやヴァイスが買い物すると相場の十倍ほどみたいだ。
 同族のルーネさんが相手だと相場で売買できるという…:-()
 ここって交易の町だよね?そんなことがまかり通ってるんじゃ町にエルフ以外の種族がいないのも納得だけど、それで成り立ってるの?
 エルフの王都もそんな感じだったらイヤだな…:{

「それはその…お疲れ様」
「一応ルーネのおかげで兄貴から預かった素材は適正価格で売れましたし、必要なモノは買い揃えられたと思います」

 少しは怒りが治ったのかゼルは自分のアイテムストレージからいくつかのアイテムと金貨を取り出した。

「これは兄貴の分と余った金です」
「ああ、ありがとう。あ、お金はゼルが持ってて」
「え、いいんですか?」
「うん。ゼルは略奪者ブリガントで盗み耐性何気に高いでしょ?ゼルが持ってたほうがいいと思うから」

 それに僕が持っててもかさばるしね。
 僕はお金はゼルに渡して買ってきたアイテムを手に取った。
【ヒール】の魔導書。【アンチパラライズ】の魔導書。【風精霊の腕輪】
 魔導書か…パラパラと【ヒール】の魔導書をめくってみる。
 なんか癒しの神のおとぎ話というか神話っぽい内容が書かれている。
 厚さからして三百ページはあるな。
 もしかしなくても、これ全部読まなきゃいけないの…?
 ………行く前に読めるかな?ていうか習得できるかな?
 次に【風精霊の腕輪】を手に取ってみた。
 
『【風精霊の腕輪】(防具アクセサリー種、敏捷力+20風属性再使用時間10%短縮)』

 うん、性能は良さげだけど………

「ねえ、武器とか防具は?」
「それが弓や皮系の防具しか置いてなくて、兄貴が頼まれたモノがなかったんですよ。申し訳ありません…」
「そうなんだ…」
「とりあえず兄貴がご所望した魔導書はあったんでそれと、あとはルーネの意見を参考に林道探索に必要なアイテムを主に買ってきました」
「たしかに【ヒール】の魔導書は頼んだけど、この【アンチパラライズ】の魔導書は?」
「それはですねファントムさん、惑いの林道には麻痺攻撃をする魔物が多いので【アンチパラライズ】も覚えたほうがいいと僕が勧めました」

 なるほど…ていうか一晩で二冊も読めるかな?
 それ以前に習得できるのか若干不安なんですけど…

 その後、各自明日の準備を行うことにした。
 ゼルは町で情報収集しに外へ。
 ルーネさんは部屋の片隅で買ってきた素材アイテムを調合している。
 僕は魔法を習得するために魔導書を読んでいる。
 本に目を通しつつヴァイスのほうを横目で見ると、ヴァイスは明日に備えてもうベッドに横になっていた。
 まあやることないなら寝てもいいんだけどなんか気になる。
 よく見るとうつ伏せになって本を読んでいるみたいだ。
 なに読んでるんだろう?魔導書?
 チラチラチラチラ、ヴァイスを気にしてつい見てしまう。
 いつの間にかとった部屋が四人部屋だったからなぁ…そういえばシャバに出てから一緒の部屋で寝るのって初めてかも。
 
 ヤバい…本の内容が全然頭に入らない。
 多分魔導書も塀の中で読んだ本と一緒で集中して読まないと習得できないと思うし…
 わかっていても横目でチラチラとつい見ているとヴァイスの異変に気がついた。

「………(TT)」

 ぐすんぐすんと鼻をすすり肩を震わせているヴァイス。
 これはもしや泣いているのか!?

「…どうしたの?」

 僕は思いきってヴァイスに声をかけてみた。
 ヴァイスが僕のほうを振り向く。
 その目は赤く涙が溢れていた。

「…盲目の闘神が死んだ」
「はい…?」
「…極星の聖帝に殺されるシーンは、いつ読んでも胸熱…」
「えっと…」

 魔導書かと思っていたけど聖書読んでたのね…(苦笑)
 ちょっと心配した自分がバカみたいだ:-c
 この仮想世界ゲームの聖書は暇つぶしに読んだことがあるけど、ほぼ世紀末救世主の話だった。
 漫画だったらもっと面白いと………
 ふとあることを思いついた僕はメニューを出すと漫画アプリを起動させた。
 魔導書を置き、ヴァイスのベッドまで行くと腰を下ろしてメニュー画面をヴァイスに見せるように向けた。
 
「ねえヴァイス。これ読んでみて」
「…これは!」
「良かったら読んでみる?」
「…いいのか?」
「うん」

 ヴァイスは身を起こすと食い入るように世紀末救世主の漫画を読み始めた。

「…これは…!」

 一気に一巻分読み終えたヴァイスは僕を抱きしめた。

「…ありがとう朋友ぽんよう

『ヴァイスの好感度が10上がりました!』

 ていうかヴァイス…朋友は違う物語の主人公が使うセリフだよ(笑)
 そもそも朋友って男臭い作者様の大袈裟な表現として朋友=親友とか強敵って意味になってるけど、実際は知り合いくらいの感じなんだけどね。

「…続きを」

 ヴァイスにせがまれた僕は苦笑しつつ二巻を開いた。
 一冊分読むごとにヴァイスの好感度が上がっていく。
 好感度が上がるのが嬉しくてつい全巻(単行本に換算すると二十七巻分)読ませてしまった(笑)
 
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