99 / 186
第3章 ソロプレイヤー
第九十三話
しおりを挟む僕達はレベル上げに勤しんでいた。
朝から晩まで戦闘を繰り返す毎日。
最初は大森林でレベリングしていたけど、今では妖精の森でデュラハンやトレント相手にレベル上げをしている。
レベル二十になり条件を満たしたヴァイスは【白魔導士】から【召喚師】に転職した。
隠密行動が得意なゼルと一緒にアトラスへ行き予想外の転職を果たしたヴァイスに僕は驚きを禁じえなかった。
てっきり【勇者】になるかと思っていたけど、なにやらアーデさんと話し合った結果、【召喚師】に変更したらしい。
もともと【召喚師】を持っていたヴァイスはアーデさん経由で何体かの精霊や魔物と契約を交わしていた。
最近ヴァイスとちゃんと話していないからゼルや他の人達からの又聞きだけど、実際の戦闘ではヴァイスの召喚した精霊や魔物が盾役のタンクをこなしたり、アタッカーもこなしたりと大活躍だ。
その上ヴァイス本人は回復役のヒーラーとしても優秀で、僕達のPTにかかせない存在になっていた。
ルーネさんはこの一週間の間に【薬師】のレベルが二十を超え、さらに妖精の森で採れた薬草で様々な回復系アイテムを作れるようになった。
戦闘では状態異常や阻害系のアイテムで敵にデバフをかけ、ヴァイスの手が回らないときは回復アイテムで味方を回復するヒーラーも兼任していた。
そのうちルーネさんは学者解放クエをこなして【学者】になる予定だ。
ゼルは【略奪者】のレベルが三十とCSし、盗賊系のスキルに磨きがかかった。
特に【略奪者】の固有スキルは強奪系が多く戦闘後のドロップアイテムの上昇や、攻撃と同時に素材や相手のアイテムを盗むスキルがとても重宝していた。
デュラハンの武器や防具を根こそぎ奪ったときは相手のデュラハンに思わず同情したほどだ(苦笑)
みんな順調にレベルを上げてるなか、僕だけはあれこれと試行錯誤して遅れていた。
みんなよりレベル上昇率が悪いのもあるけど、自分のスタイルを見つめ直しているのが大きい。
ていうかいらない職業とスキルを捨てたい。
どこかに○○の石的なアイテムで使わないスキルを入れて売れるアイテムないかな…(切実)
ぶっちゃけ【脱獄囚】は盾役には不向きだ。
今の僕は盾役はヴァイスの召喚した精霊や魔物に任せて、アタッカーを務めている。
でも火力が地味に足りない。DPSが他のみんなより低い。
これじゃいてもいなくても同じ気がする…
だから僕はこのPTでの立ち位置を、自分の役割を模索していた。
アトランティスはレベル制よりもスキル制の比重が大きいVRMMO だ。
レベルが上がれば基本強くなれるし自分のレベルより低い敵ならワンパンで倒せる。
でも、数ある職業の中からメイン職業を選び、自分のスタイルに合わせてスキルを取捨択一しながら組んで育てていくことをメインとしている。
スキル制の良さは自由度の高さと言っていいだろう。
例えば武器系スキルを上げた戦士が魔法系スキルを覚えて後衛に回ったり、戦闘に飽きたから今度は生産系スキルを上げて物作りに励むといった色んなことが自由にできる。
自由にできるがゆえに僕はPTのことを考えて自分の立ち位置をどこに置くか?ということをずっと考えていた。
ゼルのような遊撃職になったほうが無難だとは思うけど、どうせならPTにかかせない存在になりたい。
一応僕がリーダーみたいなものだしなにかないものか…?
ふと昔やってたスキル制のMMOを思い出した。
そのゲームで僕はレベルもスキルもCSしてレアな武器を担いで強くなったことがある。
でも周りのPCは「へえカンスト、それがなにか?」みたいな感じで反応が薄かった。
当時出会ったばかりのアーノルドさん(当時スコルさん)と「お互い強くなりすぎましたね」「そうですね。誰も相手してくれません…」とそんなことを話していたっけ、懐かしいな。
あの頃は結局やることなくて二人で初心者PCの救済に精を出していた。
チャットでの会話は特に緊張することもなかったし普通に話が出来て教えることができた。
教えてたPCの人に「ファントムさんは教えるの上手いし指示も的確で助かりました」と褒められたっけ。
あの時はあまりに嬉しすぎて画面の前で転げ回ってたな(笑)
「教える立場か…」
いや、違うな。教えることなんて特にないし、逆に僕が教えられることが多い。
「となると指示か…」
戦闘の指示。PTメンバーが全員NPCだからきちんと指示を出さないと言うことを聞いてくれないし、見当違いなことをしてしまう。
なら僕のやる事は………
「パーティリーダー…【指揮官】か…?」
自分のステータスに載っているひとつのスキルを見ながら呟いた。
【指揮官】Lv:5の表示を指先そっと撫でた。
今までも簡単に指示を出していたけどこれをメインにやるなら戦闘は見渡せる位置の後衛にいたほうがいいのかな?
ていうか今はみんなの戦闘パターンが確立しつつあるから僕がいちいち指示出さなくてもみんなちゃんと自分の役割を果たしてくれている。
ならいらないんじゃない?
それに面と向かって指示を言うのはなんか気後れする。
あれからヴァイスとまともに話してないからなぁ…
あの時悲鳴を上げた人を助けに行くというイベントフラグを折ったのがまずかったか?
でも、僕は見ず知らずの他人よりもヴァイスを優先しただけなんだけどなぁ…
「どうしよう…どうしたらいいんだろう?」
ぐるぐると考えがまとまらないまま、僕はみんなとともにレベル上げの日々を送っていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
686
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる