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第3章 ソロプレイヤー

第九十話

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 拠点。
 PCは街に家を貸りて購入できたり建てたりする事ができる。
 もちろん多額のお金Gが必要になるけど、自分の拠点ホームやギルドハウスを購入するのはひとつの楽しみと言えるだろう。
 でも、まさかこんなダンジョン扱いの森の中で家を建てることになるとは思わなかったけどね(笑)
 行く行くはルーネさんの案内でエルフの街に亡命する予定だけど、僕達の今のレベルじゃ危険ということでここでしばらくレベル上げをすることになった。
 その為に僕達人間種やエルフ種が住める家を建てることになったんだけど、僕はリアルでもゲームでも土木建築の経験がない。

 ハウジングはMMORPGの楽しみのひとつと言えるかもしれないけど、なにもない状態からどう作ればいいのか見当がつかない。
 妖精の森を守護する精霊、ドリュアスのアーデさんが少しなら木を伐採してもいいと許可してくれたので森の木を切り倒すことになったんだけど………

「どうやって切ろう…?」

 巨木を前にして僕は途方に暮れた。
 ゼルからもらった鉄の剣で切り倒すか…
 でもそれだと鉄の剣の耐久値がすぐになくなりそうな気がする。
 なんせランクの低い初期装備のような武器だしね。
 とりあえず僕は躊躇いつつも腰に差した鉄の剣を抜いた。

「…これ使う?」

  ヴァイスがアイテムストレージから斧を取り出した。
 あれ?ヴァイス斧持ってたっけ。

「いいの…?」
「…(コクッ)」
「あ、ありがとう」

 ヴァイスから斧を受け取る僕。
 煌びやかな木の装飾を施している斧。
 なんか強そうな武器だ。
 僕は斧を構えると木に向かって振りかぶったその時………

『システムエラー。その武器種を扱うLvに至っていません』

 システムメッセージが視界に流れ、僕の身体は硬直してしまった。
 これは…!?
 技後硬直にも似た感覚が僕の身体に響き渡っていく。
 しばらくして硬直が解けた僕は、斧の詳細を確認する為にタップしてみた。

『【アーデックス】(武器斧種、物理攻撃力+970魔法攻撃力+1030地属性効果上昇:大)』

 さらにタップしてみると

『木の精霊ドリュアスが愛する者の為に自らの力を具現化させた精霊武器。I♡ヴァイス』

「………(汗)」

 ちなみにランクはSだった…
 ていうかランクSの武器って………:-()
 今の僕のレベルじゃ絶対使えないじゃん…

「ごめんヴァイス…僕コレ使えないや」
「…俺も使えなかった」

 斧を受け取りアイテムストレージに入れ直すヴァイス。
 その表情はなんか捨てたいけど捨てられなくて不満な顔をしていた。
 
「やっぱり剣で切り倒すしかないか…」
「…仕方ない。斧借りてくる」
「え?誰か斧持ってるの?」
「…デュラハンの中に、持ってる人いる」
「………それを先に言ってよ」

 僕達は森を徘徊している斧を持ってるデュラハンから借りることにした。
 魔物とはいえアーデさんのしもべだから簡単に借りられると思っていたけど………

「なんでこうなるの?」

 目の前には馬に乗った首なしの騎士、デュラハンが斧を構えて身構えている。
 完全に戦闘モードだ。

「…回復は任せろ」
「キャー!頑張ってヴァイス~♡」

 僕の後方に陣取っているヴァイスの呟きを耳にしたけど今はそれどころじゃない。
 近くで観戦しているキャーキャーアーデさんを横目に僕は剣と盾を構えた。
 僕達とデュラハンの間に佇んでいるミストルティンさんは審判役を自らかってでた。

「それではを始めます」

 始め!の合図で戦闘が始まった。
 二対一の戦闘。
 二人いる僕達のほうが有利に見えるけど実際はそうでもない。
 僕の今のメイン職業は【脱獄囚】(Lv:8)だ。
 他の職業(【戦士】【鍛治師】【剣術士】【僧侶】等)でステータスの底上げはしてるけど、基本ステータスは【脱獄囚】のまま。
 ぶっちゃけ全体的なステータスは低い。戦士の五分の一くらいしかない。
 AGIの成長補正はあるけどそこまで高くはないし盗賊職の下位職業みたいなものだ。
 推定レベル三十(あくまで僕の目算)はありそうなデュラハンと真正面からやり合える度胸は少なくとも僕にはない。
 
「【堅牢】!」

『ファントムのVITが25%上昇しました』

 開幕開始後守りを固めてすぐに堅牢を発動した瞬間、眼前にデュラハンがいた。
 ちょ速…
 デュラハンの斧が僕の胸を斬り裂いた。

「【ヒール】!【ヒール】!【ヒール】!」

 一気に削られた僕のHPがヴァイスの回復魔法で全快近くまで回復した。
 危なかった…動きが全然見えなかったし初っ端から堅牢使わなかったら今のでやられてたよ。
 僕は距離をとりつつデュラハンの左側面に回りながら【心眼】を発動させた。

『ファントムのDEXが50%上昇しました』
『ファントムのAGIが50%上昇しました』

「…以下省略【プロテクション】』

『ファントムのVITが25%上昇しました』

 ヴァイスが重ねがけしてくれたおかげで瞬殺される心配はなくなったかな?
 と思った瞬間、とてつもない衝撃が僕の全身を駆け巡った。
 視界が薄暗くなり『you lose』の文字が映った。
 身体の感覚がない。僕、死んだのか…?
 すると光が視界いっぱいに溢れると、に戻った。
 いつの間にか倒れていた僕は身体の感覚を確かめるようにゆっくりと起き上がった。

「勝負あり。デュラハンの勝利です」
「ふふん♪流石私の僕」

『模擬戦が終了しました』
『ファントムはEXPを3獲得しました』
『ヴァイスはEXPを15獲得しました』
『ヴァイスの【白魔法】の熟練度が4上がりました』

 あ~あ…負けちゃったか。
 今のレベルじゃ手も足も出ないな。
 ていうか経験値少なっ!
 パーティメンバーの人数分に分配されて更に僕の場合は【脱獄囚】の効果で習得している職業ごとに振り分けられたからだろうけど、思った以上に実入りが少ない…
 経験値の振り分けを調整できたらいいのにな。

「もっと精進なさい。そんな実力じゃ私のヴァイスを守れないわよ」

 アーデさんがそう言うと僕達と戦ったデュラハンが自分の斧を僕に差し出してきた。
 
 え?

「残念賞で貸してあげるわ。ただし私が許可した木以外を切り倒したら殺すわよ」

 勝っても負けても貸してくれるのね…
 ていうか戦う意味なくない?

「あ、ありがとうございます…」

 とりあえずアーデさんにお礼を言う僕。
 アーデさんは満足そうに頷いた。

「さあ次の勝負よ!来なさい我がしもべ!」

 はぁ!?またやるの!?
 地面に魔法陣が浮かび上がると、その魔法陣から違うデュラハンが現れた。

「次は見習いデュラハンが相手よ!流石にこの力量レベルの相手には勝ってよね」

 見習いデュラハンってなに…?
 まあ、よく見るとポニーみたいに小さい馬に乗ってるし、なんか鎧がしょぼい感じがする。
 武器の大斧もランクが低そうというか安物っぽい見た目だ。

「えっと、あの、どうしても戦わないといけませんか?」
「当たり前じゃない。これもよ」

 そうは言っても木を切る斧をゲットできたし経験値もそんなに入らないし、ぶっちゃけ戦うのはあまり意味がない気がする。

「…ファントム、俺の分も欲しい」

 ああ…ヴァイスの分もないと困るか…
 アーデさんもヴァイスが使える武器上げればいいのに。

 というわけで結局再び戦うことになったんだけど結果は同じ。
 速攻で負けました(泣)
 見習いでもデュラハンは強かった…




 カコーン…!カコーン…!

 僕とヴァイスは残念賞でゲットした【騎士の斧】(武器斧種、物理攻撃力+80)で、アーデさんに指定された木を切り倒していた。
 木を切り倒したあと、剣で枝を落として、皮を剥いて丸太にした時『ファントムは【木こり】スキルを習得しました』とシステムメッセージが浮かんだ。
 他にも【斧使い】【伐採会心】【木材加工】などのスキルを得た。
 木を切り倒して切ったり削ったりしただけで生産系のスキルがいくつか手に入った。

 話は変わるけど、多くのMMORPGにある生産系のスキルは戦闘系のおまけのような扱いで、生産系そのもので遊ぶのは難しい。
 中には生産系メインのゲームもあるけどあまり多くない。
 アトランティスは戦闘系の職業やスキルはもちろん生産系の職業やスキルも充実していて生産系だけでも十分遊べる。
 軽く公開されている生産系の職業やスキルをあげてみると【またぎ】【料理人】【剥ぎ取り】【採掘師】【釣り師】【行商人】など色んな職業スキルがある。

【レンジャー】になって【またぎ】や【剥ぎ取り】スキルで猟師プレイ。
【行商人】になって旅商人プレイ。
【釣り師】のスキルでまったりプレイ等々。

 もしギルド作れたら生産系メインでまったり冒険もアリかもしれない。
 いやいや、ダークヒーロー的なキャラでロールプレイするって考えてたじゃん。
 うーん……でも悩むなぁ。
 どうしよう…先行きが不安で仕方ない(笑)

 きっと【脱獄囚】なんて職業、僕だけなんだろうな…
 そう考えると世界でただ一人の脱獄囚プレイヤーか。
 全然嬉しくない(苦笑)
 よく取得制限一人の職業ジョブやスキルを得た主人公のアニメやラノベがあるけど、実際のMMORPGで唯一無二の職業とかスキルって普通ありえないからね。
 そういうのは物語だけの話だし。
 アトランティスこのゲームは条件さえ揃えばたとえ稀少レアな職業でもスキルでも誰でも覚えることができる。
 けど、誰も好き好んで【脱獄囚】にはならないだろうな(笑)

 そんなことを考えながら作業していたら切れる木がなくなってしまった。
 加工して丸太にもしちゃったし次はなにすればいいんだろう?
 さて、これからどうしよう?
 合計三十本ほどの丸太の山の前で僕は立ち尽くしていた。

 

 
 

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