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第3章 ソロプレイヤー
第八十五話
しおりを挟むそれは巨大な樹だった。
周りにある木々よりも太くふた回りは大きい。
見た目はさっき見たトレントに似ているけど、枝葉に実って?いる沢山の生首が他のトレントとは違うことを表していた。
ていうかデカッ!
今まで見たどのMobよりも大きくて凶悪に見えた。
「なんだあのバカでけー木は!?」
「慌てるな!おい火属性魔法だ!」
黒ずくめの集団が現れた魔物に驚いてちょっとしたパニックに陥っていた。
まあ、僕もびっくりしてるけど枝に座っているミストルティンさんを見かけて少し落ち着きを取り戻していた。
「愛しのヴァイスに害なす者共よ。我が怒りをその身に刻むがいい…」
「アーデ、程々にしておきなさい」
巨大な樹の魔物、アーデさんが無数の枝葉を振り上げた。
「滅せよ、【ジオクエイクバスター】」
振り下ろした枝が地面を叩くと地面が爆発した。
ちょ…!?
白光が僕の目に差し込み思わず目を閉じた。
恐る恐る目を開けると目の前の地面にクレーターができていた。
クレーターを覗き込むといくつもの死亡マーカーが浮かんでいる。
い、一撃で全滅ですか………
いやいや、強すぎでしょドリュアス…:-()
ていうかいまの巻き込まれてたら僕達も死んでたんですけど…
巻き込まないように狙ったのかよくわからないけど、奇跡的にゼルもヴァイスもルーネさんもニールさんも無事だった。
アーデさんの本体?から光に包まれた人影が現れた。
人型のアーデさんがゆっくりと地に降り立つと、ヴァイスの下まで駆け出した。
そしてそのままの勢いでヴァイスに抱きつくアーデさん。
「ヴァイス無事?怪我はない?」
「…ああ。助かったよアーデ」
なんだろう…イチャつく二人を見てるとなんかイライラする。
リア充爆発しろ!って思う。
『戦闘に勝利しました!』
『パーティメンバーそれぞれにEXPを400獲得しました!』
etc.…
ていうか今ので僕達にも経験値入るの?
ぶっちゃけなにもしてないに等しいんですけど…
なにか釈然としない気持ちになりながらも、まあみんなが無事ならそれでいいと思うことにした。
◇
帰りの馬車に揺られながら僕は馬車の中でメニューを開いて確認していた。
行者はニールさん、その隣にヴァイス。
馬車の上はゼルが周囲を警戒していて、ルーネさんは僕の真向かいに座りウトウトと船をこいでいた。
うーん…ただの採取クエだったはずなのに大変な目に遭ってしまった。
ヴァイスが妖精の森に行っちゃうからアーデさんとミストルティンさんと出くわすし、masatoの仇打ちだか知らないけどなんか襲撃されるし、ホントにマジで大変だった…
あの後アーデさんがヴァイスに連いて行くってうるさくて、ミストルティンさんに止められたアーデさんがミストルティンさんとガチバトルに発展した。
普通ドリアード…じゃなくてドリュアスってゲームじゃそこまで強くないでしょ?
他のゲームじゃドリュアスなんて雑魚Mob扱いが多いのに、あの強さは反則だ…
アーデさんとやりあったミストルティンさんも普通にっていうか、メチャクチャ強かった。
まあ、ミストルティンってアニメやゲームだと伝説の武器(例えば剣、槍、弓、チェーンソー等)とかで登場するし、とある神話じゃ光の神を殺した神殺しの樹って言われてるしね。
さすがミストルティン、神々の黄昏のきっかけになったと言われるだけあるなと感心してしまった。
アーデさんとミストルティンさんの戦いはなんか総合格闘技の試合を見ているみたいにガチで殴る蹴る絞める極めるのバトルに僕の心は熱くなっていたけど、ヴァイスが止めたせいで血湧き肉躍る熱い戦いが中途半端で終わってしまった…
とても残念で仕方ない…
ていうかゼルさん…どうしてヴァイスに止めろと言ったんですか…:-(
結局、ヴァイスはアーデさんと定期的に会うことを約束してアーデさん達と別れた。
でもまあこのまま無事に街に帰れればニールさんから報酬の【薬師の書】を貰える。
これでルーネさんのレベルが二十以上になれば【薬師】に転職できる。
ていうか○○の書で転職できるってどこの国民的RPGだよって思ってしまった。
この分だと学者解放クエも学者の書とか手に入りそうだなw
帰ったら学者のクエストを受けて、報酬貰ったらレベル上げしないと。
そういえば黒ずくめとの戦闘中におかしなログが流れた。
業値が悪に少し上がっちゃったのは仕方ないとして、ていうか戦闘中にPKすると悪属性の業が上がるのね。
もうステータスには載ってないけどシステムメッセージに流れた【憤怒】ってスキルはなんなんだろう?
大罪シリーズとか言ってたけど………
僕は攻略サイトや掲示板で調べてみることにした。
攻略サイトや掲示板などで調べてみた結果、大罪シリーズとは罪を犯した者にのみ発動可能になるスキル…らしい。
僕のようにキレて【憤怒】の業値が上がったPCもいれば、ギルメンにセクハラ行為のエロいことをして【色欲】の業値が上昇したPCもいるらしい。
大罪っていうと七つの大罪だよね?
アニメやゲームで昔から使われているけど、たしか【傲慢】【憤怒】【暴食】【嫉妬】【強欲】【怠惰】【色欲】の七つだっけ。
まあ暴食と強欲は一括りにされて違う罪が代わりになったりするものもあるけど、大抵この七つが使われている。
僕が昔培った厨二知識によると、七つの大罪は七つの死に至る罪だけど、罪そのものというよりは人を罪に導く可能性のある欲や感情のことを言うらしい。
個人的には十六世紀の版画家、ハンス・ブルクマイアーっていう人が七つの大罪と悪魔の関連を最初に表現したモノが気に入ってる。
それになぞられると僕の発動しかけた【憤怒】はサタンだ。
ちなみに動物で表現すると、ユニコーンとかドラゴン、狼などのカッコいいモノで例えられている。
何気にその表現がカッコいいと思ってしまう僕はまだヴァイスのような厨二心が残っているのかもしれない…
僕の中に眠る憤怒よ、鎮まれ…!って昔だったら呟いてたなwww
まあそれはともかく、七つの大罪について調べてみたけどシステムメッセージに業値が上がったことくらいしか書かれてなくて、どういうスキルでどんな効果なのか、まだ誰も詳しくは知らないし運営も公開していないようだ。
ステータスの端から端まで確認して見たけど、悪属性の業値が上がっただけでスキルもなにも変わってないし、本当に謎スキルだな。
この件は一旦保留にするとして問題は次だ…
あの時の僕は怒りに任せてPCを一人PKしちゃったけどペナルティってどうなるんだろう?
確実に殺人罪だよね…ぶっちゃけまた牢獄はイヤなんですけど…:{
でも誰も拘束に来ないから不問になってるのかもしれない?
戦闘中に起きた殺人だから罪には問われないってことなのかも?
そんな希望的観測を求めて改めてヘルプを読んでみたけど、そんな解釈でいいと思う?いや思いたいな…(切実)
とりあえずこの件も保留だ。
これからのことを考えて気を紛らそうと思った僕はどこかにいい狩り場がないか調べてみる。
この前みたいに経験値が美味しいけど僕達じゃ手に負えないヤバい敵はゴメンだ。
念入りに調べないと…
僕はアトラスに着くまでの間、調べ物に勤しんでいた。
◇
「ファントムだな?」
アトラスの東門を潜り抜けた瞬間、馬車を囲まれた。
警備隊の面々が臨戦態勢で待ち受けていた。
ああ…やっぱり償わなきゃいけないか…
察した僕は暗澹とした気持ちになった。
馬車から降りようとした僕の腕を誰かが掴んだ。
振り向くとゼルが僕を見つめていた。
「兄貴…」
「ごめん…ちょっとお務め行ってくるよ」
僕はそう言ってゼルに微笑むと、そっと手を振りほどいた。
馬車を降りた瞬間、警備隊に囲まれた。
隊長が僕の目の前に立つと、手にした一枚の紙を僕に見せるように掲げた。
「冒険者ファントム。貴様を殺人の容疑で逮捕する」
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