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第3章 ソロプレイヤー
第七十四話
しおりを挟む僕達はkenさんというスライムとsakuraさんという勇者二人のPTと出会った。
危ないところを助けてくれた二人の好意に甘えて、僕はレベル上げを手伝ってもらうことにした。
「ハァァァ!」
sakuraさんの大剣と長剣を使った【二刀流】スキルが、色黒の小鬼ダークゴブリンを切り刻む。
連続攻撃を喰らったダークゴブリンは悲鳴をあげる間もなく光のカケラとなって消え去った。
ていうか長剣はともかく、あんな自分の身長くらいあるバカでかい大剣を片手で振り回して、よくバランスが崩れないなと感心してしまう。
一応、職業に応じた武器を装備できるけど、ランクの高い武器やsakuraさんの持つ大剣のように重い武器は適正レベルというものが存在する。
装備はできるけどレベルが低いと扱えないことがある。
余談だけど少し前に掲示板でドラゴンスレイヤーを購入したPCがスレを立てた。
あるギルドに所属していたそのPCはギルメンの協力を得て、なんとか百万Gを貯めて購入したんだけどレベルが足りないみたいで使えなかったという話が掲示板に面白おかしく書かれていた。
ちなみに持ち主は定期的に掲示板に報告していてレベル上限の三十(STR全振りの重戦士)になった今も使えないようだ。
アプデでレベル上限解放するのを首を長くして待っているらしい。
ていうか、最初から使えないなら店頭に出すなよと文句を言いたい。いくら壊れ性能だからってSTR全振りの重戦士がまだ使えないって詐欺だろ…
そういえばマリアさんが欲しがっていたけど、さすがに脳筋シスターでも必要値が高すぎるドラゴンスレイヤーは扱えないだろうな。
それはともかく、sakuraさんを見ていると【勇者】という職業は案外使えるかもしれない。
本職には負けるけど中級までの魔法やスキルを一通り使えるし複合して使えばかなりの火力が出せるしなにより凡庸性が高い。
自分が使いたいスキルや魔法を習得したら転職するのもアリだな。
ただ必要経験値が多すぎるのが難点だ。
sakuraさん曰く毎週発生する専用クエストというものがあるらしい。
そのクエストは様々な職業のスキルを上げるために必要なクエストで、そのクエストをこなさないとスキルが上がらなくなるらしい。
【勇者】はレベルが上がる毎に、膨大といっても過言ではない量のスキルを習得する。
さすがに全てを上げるのは難しいのである程度自分のスタイルに絞って上げるスキルを厳選しないとやってられないとsakuraさんが愚痴っていた。
もしヴァイスが【勇者】になれたらそこの所は考えないといけないかもしれない。
まだ始めて日が浅いらしいsakuraさんは一緒に始めたkenさんのおかげでなんとかクエストをこなしていっているようだ。
二人は社会人らしくて休みの日の昼間くらいしかログインできなくて中々進まないと言っていた。
始めて一か月足らずでここまで上げれる二人はPSが高いんだろう。
聞けば元々コンシューマー派のネットゲーマーでVRにはあまり興味がなかったみたいだけど、周りがはまってるのを見てやり始めたらしい。
「やったよパパ♪」
「見惚れるほどの超絶剣技だったよママ。俺惚れ直しちゃった♡」
「そんな…///パパの魔法も素敵だったわよ♡」
戦闘終了後、甘ったるい空気が辺りを包み込んでいた…
なんだこのバカップル…?と思いながら二人を見つめる僕の目はさぞ呆れ返っているだろう。
心なしかゼルとヴァイスの二人も、kenさんとsakuraさんのラブラブっぷりにげんなりしているように見えた。
うちの親も大概だけど、この二人もそれに匹敵するくらいにウザいな…
「そ、それにしても強いですね」
「いや~それほどでも」
照れくさそうに笑うkenさん。
PT申請して一時的に二人のレベルは把握しているけど、僕達とそんなにレベルの差はなかった。
kenさんはレベル二十三のスライム。
sakuraさんはレベル十四の勇者。
現在のレベル上限が三十のこのゲームでは若干低いほうだ。
ていうかsakuraさんはかなり低い。
それでも、日が浅いというのを差し引いても二人の実力は普通にCSしているPCより高いと思う。
殆どのPCはCSのレベル三十で主な狩り場は北のダンジョンがメインになっていて、スキルの熟練度もダンジョンくらいしか上がらなくなってる。
二人の実力を見る限り最前線で戦ったほうが効率がいいと思った。
必要経験値が低い【スライム】ならガンガン上がるし、逆に必要経験値が高すぎる【勇者】には最適だと思うけど、なんでも欲しい素材がロックワームからドロップするらしくてここら辺をファームしているらしい。
ちなみにかなりの低確率でまだひとつも手に入れてないようだ。
欲しい素材って欲しい時は中々手に入らないよね…
僕達と一緒に狩りをするようになってから、ダークゴブリンばかりで時々山賊、そしてお目当てのロックワームは一度しか戦っていないし。
「兄貴敵がいます」
「この先50メートルくらいかな?」
ゼルとsakuraさんの警告に僕達は戦闘態勢に入った。
「反応からして山賊っぽいですよ」
sakuraさんが補足する。
それを聞いたゼルが悔しそうな顔をしているのがちらっと見えた。
それを目にした僕は案外ゼルは負けず嫌いだな…と苦笑した。
sakuraさんは【索敵偵察】という【索敵】の上位スキルを習得していると聞いた。
発生条件は盗賊系の中級職が一人前のレベル二十と索敵がCSしてることらしい。
ゼルも中級職に就いたからそのうち覚えるだろうけど、負けず嫌いなゼルは勝手にsakuraさんと競うように索敵に集中していた。
それにしても、また山賊か…
僕は槍の柄を握り直して静かに深呼吸した。
kenさん達とPTを組んだ後も何度か山賊とエンカウントした。
さすがに心が麻痺してきたのか戦う度に大分動きが元に戻ってきている。
戦場の兵士ってこんな気持ちなのかな…?
「って、それは大袈裟か…」
ここは仮想世界本当に現実で人を殺したわけじゃない。
山賊の姿を認めた僕は衝撃槍を構えた。
「強化いくます!【エリアプロテクション】【エリアストレングス】!」
sakuraさんの魔法が僕達を包み込んだ。
範囲内のPTメンバーのVITとSTRを25%上昇させる魔法。
ぶっちゃけ山賊相手には過ぎた魔法だけど、sakuraさん曰く魔法のレベル上げをしたいので無駄に使用しているようだ。
「…撲殺していい?」
「兄貴殺っちゃっていいですか?」
「うん。一気に片付けよう」
sakuraさんがこれを使用するとうちの血の気の多いPTメンバーが更に好戦的になっている気がする。
バーサクみたいな付与もついてるんじゃないかと思うくらいだ…
「さあ、始めましょう!」
指ぽきしながら前に出るkenさん。
ちなみにkenさんは今【拳法】スキルの熟練度上げのために素手で戦っている。
山賊達との戦闘を描写する間もなく僕達はあっという間に倒してしまった。
僕もなるべく山賊を苦しめないかつ、なるべく見ないように一気に片をつけるような戦い方で倒していった。
「すいません。そろそろ落ちますね」
しばらく洞窟をうろつきながら戦っているとkenさんが言った。
「あ~あ…結局ドロップしなかった…」
「まあまあ、こういう時もあるよ」
残念そうに呟くsakuraさんの頭を優しく撫でながら慰めるkenさん。
二人が落ちるなら僕達もとりあえずドワーフ街までついていくことにした。
さすがに水系統の魔法やスキルがない状態でロックワームとエンカウントしたくないし…
僕のレベルは十八。ヴァイスのレベルは十七まで上がった。
二人のおかげで戦闘を多くこなせたから短時間でここまで上げることができた。
ドワーフの街ドゥリンカザードに到着した僕達は街の入り口付近にある転移門で別れることにした。
「お疲れ様でした。今日は本当にありがとうございました」
助けてくれたことも含めて僕は改めてkenさんとsakuraさんにお礼を言った。
「いえいえこちらこそ。お疲れ様でした」
「お疲れ様でした♪縁があったらまた会いましょう」
kenさんとsakuraさんは手を振りながら落ちていった。
うん。久し振りにいいPCと出会えた気がする。
色々知らない情報も聞けたしこういう一期一会の出会いがあるとゲームが楽しく感じられる。
まあ、あのイチャつきっぷりは胸焼けしたけどね…(苦笑)
「さて、僕達も行こうか?」
「はい兄貴。どこへ行きますか?」
「うーん…とりあえず街を見て回らない?」
初めて来た街だし休憩がてら色々見て回ってから違う狩り場に移動したい。
鍛治の得意なドワーフの国だからいい武器があると思うし鍛治関係でなにかイベントあるといいな。
「了解です」
「…了解」
二人の了承を得て僕達は街を回ることにした。
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