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第3章 ソロプレイヤー

第七十二話

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「ヒャッハー!死にたくなけりゃ出すもん出しな!」

 山賊が現れた!

「またか…」
「いい加減イヤになってきましたね」
「…マジウザい」

 最初の山賊を撃退してからこれで三度目…
 コイツら山賊はこの洞窟でレアなModらしい。
 攻略サイトによると、推奨レベルは二十。経験値はそこそこ。Gはランダム。持ってるヤツは一万Gくらいドロップする時もあれば百Gしかドロップしない時もある。
 ぶっちゃけなんでレアなのか意味不明だ。
 
 他にもダークゴブリンとかロックワームとかいるはずなのに何故山賊ばかり…
 引きがいいのか悪いのか…この場合は悪いんだろうな。
 なんで人型のエネミーなんだよ。
 同じ人なんだから無事に平和に穏便にいきませんか?

「兄貴…いけますか?」
「うん…大丈夫。二人とも好きに暴れて」
「了解です!」
「…了解」

 僕達はそれぞれの武器を構えて山賊達に向かっていった。
 
「死ねやクソども!」

 縦横無尽に走り回って短剣を振るい続けるゼル。
 何人もの山賊を切り刻んでいく。

「…天翔撲殺鳳!」

 飛び上がったヴァイスが自分で名付けた必殺技で確実に山賊の頭をかち割っていく。
 ていうか毎回【打・砕】の名前変わってるけど…
 ヴァイスには悪いけど【打・砕だ・さい】だけにダサいネーミングばかりだな(苦笑)

「ぐあっ!」
「ぎゃああああああ!」
「腕がっ!腕がぁぁぁ!」

 現実逃避気味な僕を余所にゼルとヴァイスの二人が圧倒的な実力差で山賊達を蹂躙していく。
 二人が無双していくなか、僕は目の前の山賊相手に手間取っていた。
 最初の戦闘のあと、どうもぎこちない。
 山賊の悲鳴や苦痛で泣き喚く姿を目にすると罪悪感が湧いてくる。
 自分でも自覚するほど動きが固くて萎縮しているのがわかる。

「オラオラどうした!」
「チッ…!」

 調子に乗って剣を叩きつけてくる山賊に僕は苛立ち舌打ちをした。
 ミスリルの盾で防いでいるけど、僕の動きが悪いせいで何発かまともに喰らってしまう。
 肩や腹に山賊の剣が当たるけど、装備している鉄の鎧のおかげでなんとか致命傷は避けれている。
 …そのかわり連戦でかなり耐久力が減少してしまった。
 この調子で攻撃を喰らっていたらそのうち鉄の鎧の耐久力がなくなって壊れてしまうだろう。
 このままじゃダメだ…!
 そう思った矢先、僕の肩に山賊の剣が叩きつけられた。

「クソッ…ああああああ!」

 瞬時に苛立ちが頂点に達した僕は叫びながら槍を横に薙ぎ払った。
 横殴りの槍が山賊に命中し吹っ飛んだ。
 壁にぶつかった山賊のHPゲージが三割ほど削れている。
 
 コイツは!ここはゲームだろ!ビビるな!

 半ばヤケクソに突っ込んでいった僕は吹っ飛ばした山賊に追撃をかける。
 槍の柄を脇に挟んで刃先を前方の山賊に向けて腰だめに構えた。
 
【突撃】!

 ライトエフェクトを撒き散らしながら突っ込んでいく。
 槍が山賊の胸に深く突き刺さった。

「かはっ…!」

 目を大きく剥き出しにして僕を恨めしそうに見つめる山賊。
 僕はその視線に耐えきれずに視線を逸らした。
 山賊のHPがゼロになり光の粒子となって砕け散った。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 息が荒い…
 僕は戦闘中なのに目を閉じて息を整えようと集中した。
 
 余計なことを考えるな…
 ここは仮想世界バーチャル…ゲームの世界だ…
 本当に人を殺したわけじゃない。
 
「ああクソ…!僕ってこんなチキンだったっけ……」

 僕はそう呟くと自嘲気味に笑った。
 気分が落ち着くまでじっとしていた間に、ゼルとヴァイスが残りの山賊を倒して戦闘は終了した。





 戦闘を終え、再び歩き始めてどれくらい経っただろうか?
 そろそろ目的地に着くかな?と思っていたその時…
 突如地面が揺れた!
 えっ!?なに地震!?
 
「兄貴!敵が来ます!急速接近中!」

 ゼルが警告したと同時に目の前の地面が盛り上がった!
 整備された道がひび割れ砕け散る。

「キシャァァァァァァ!」

 地面からなにか巨大なモノが現れた!
 なにあれ魔物!?
 岩のような鱗で覆われた身体が地面から上半身だけ出ている。
 一体全長何メートルだよ?と突っ込みたいほどの巨体だ。
 トカゲのような顔がこちらを睨みつけていた。
 頭部から伸びた二本の角の頭上に浮かぶHPゲージが二本もある。
 そしてその上にはロックワームと表示されていた。
 
 コイツがロックワーム!?
 普通ワームって巨大ミミズっぽい魔物だよね?
 ロックが付くから岩っぽいミミズワームだと思ってたけど…

「ドラゴンじゃん…」

 思わず口をついてしまった。
 うん。これはミミズじゃない。どっちかというとドラゴン(東洋風)だ。
 そういえばワームの元の意味は竜だったっけ。

「キシャァァァァァァ!」

 ロックワームが長い首というか上半身を振り回した。

「ちょっ!?」
「くっ!」
「っ…!」

 咄嗟に盾を構え身を固められた僕。
 しかし、ロックワームが盾に当たった瞬間、途轍もなく強い衝撃が僕を襲った。
 あまりの衝撃に僕は大きく後ろに後ずさった。
 足に力を込めて踏ん張らなければ吹き飛ばされていたほどの威力…!
 僕のHPが二割以上減っていた。 
 ちゃんとガードしたのにこのダメージ量…!?ヤバくない?
 ゼルは地を這うように伏せて躱し、ヴァイスはまともに喰らって吹っ飛んだ。
 地面に転がり倒れたヴァイスは杖を手にヨロヨロと立ち上がった。
 頭上に浮かんでいるHPゲージが八割近く減っていた。
 
 ちょっ!マジか!?
 いくらヴァイスが後衛職の白魔導士だからってこのダメージ量はないだろ!?
 ロックワームの火力に驚く僕。

「ヴァイス!一旦下がって回復して!」
「ヤロウ!」

 僕はヴァイスに指示を送ると槍と盾を構え直して迎撃準備。
 ゼルはスクッと立ち上がるとロックワームに向かって駆け出した。

「ゼル!回避優先気をつけて!」
「了解です!」

 「ヒョォォォォォォ…」

 ロックワームが大きく息を吸い込んだ。
 なんだ?なにがくる?溜め攻撃の前兆か?
 僕はその隙にスキルを発動させた。

『【堅牢】を発動させました』
『ファントムの VITが25%上昇しました』

「ガァァァァァァ!」

 ロックワームの口から大小様々な礫が吐き出された。
 ブレスか!?
 大きいモノは岩ほど、小さいモノは小石ほどの礫が僕とゼルに降りかかる。
 僕は盾を構えて防ごうとするのに対してゼルは持ち前の身のこなしで礫の雨を避けようとした。

「いっ…!」
「くっ!」

 それでもロックワームのブレスを躱しきれなかった僕とゼルはダメージを受けた。
 僕のHPが四割近く減り、ゼルのHPが半分以上削られた。

 まずい…!まずいまずいまずい!
 
 ていうかなに強さ!?
 ロックワームって莫大な経験値を稼げる美味しいModって攻略サイトの掲示板に書かれていたけど、こんなに強いとは思わなかった。
 予想以上に強すぎるよコイツ…ていうか全然美味しくない!

『【心眼】を発動させました』
『ファントムのDEXが50%上昇しました』
『ファントムのAGIが50%上昇しました』

 心眼使ってみたけど焼け石に水感がすごい…
 躱しきれる攻撃じゃなさそうだしもう一回ブレス喰らったら死ぬぞこれ。
 下手すれば全滅…!

「撤退するか…」

 視界の片隅に映るPTメンバーのHPを見ながら僕は呟いた。
 二人を死なすわけにはいかない…ここは迷わず逃げの一手だ。
 僕はゼルとヴァイスに撤退の指示を送ろうと口を開いた。

 その時………

「そこまでよ!」

 ロックワームの声が響き渡った。
 

 
 
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