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第3章 ソロプレイヤー

第六十七話

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 アイゼン村に戻った僕達はそのまま宿屋に戻ることした。
 スカーレットさんは村の転移門から北のグラースヘイムに向かうようだ。
 なんでも北の迷宮に向かう最後の街で多くの攻略組のギルドやPCプレイヤーがそこを拠点にしているらしい。
 スカーレットさんが所属しているギルド【アルテミス】もグラースヘイムにギルドハウスを構えダンジョン攻略に精を出しているみたいだ。

「男子禁制の女子ギルドだから入団したくてもできないから。ま、まあ、どうしてもって言うんなら、あたしが団長に…」
「いや別に入る気ないんで」

 とか言ったら不機嫌になった。
 何故だろう?

 ていうか女子だけのギルドに入ったとしても僕のメンタルが持ちそうにない。
 それに僕はそのうちゼル達とギルドを作るから他のギルドにもう入る気はないし。
 とりあえずNPCで構成したギルドを立ち上げるのが今の僕の目標だ。
 できることならもうPCプレイヤーとは関わりたくないし…
 関わるにしても必要以上に関わりたくない。
 もう他のPCと揉めるのはこりごりだ…

 スカーレットさんと別れた僕達は、宿屋に戻るとそれぞれの部屋に戻った。
 僕はベッドに倒れこむように寝るとそのままログアウトして落ちた。



 翌日。

「というわけでヴァイス、蘇生魔法を覚えよう」

 宿屋の食堂で朝食を食べながら僕は言った。
 と言っても現実リアルで朝食を食べてからインしたので、僕だけはコーヒー(睡眠抵抗:弱)だけどね。
 ゼルとヴァイスは朝からボアステーキ(気絶抵抗:中)を食べている。
 ていうか二人とも朝から肉ですか…(汗)
 さすがに僕には無理だ…(苦笑)

「…しょせいまほぉ?」

 コカトリスステーキを頬張りながら言うヴァイス。
 
「うん。今後のことを考えると優先事項第一位に入ると思うんだよね」
「確かに。仲間の命はなによりも大事なもの。兄貴の言う通り蘇生魔法は必要かもしれません」

 昨夜、速攻で死んだゼルが同意するように頷いた。
 あの時はどうせ復活するから別にいいかと軽い気持ちでいたけど、NPCは時間内に蘇生させないと二度と復活できないとわかった今、僕にとって蘇生魔法(若しくは蘇生アイテム)は必要不可欠のモノと化した。

 蘇生アイテムは東の妖精の森に住んでるエルフの村とかで手に入れられるとサイトを見て知ったけど、を受けてエルフのフラグを立てないとその村にはいけないらしい。
 ダマスカスクラスのギルドクエストなので今の僕達には受けることができない。
 他にもNPCのエルフをPTに入れれば行けるらしいけど、エルフは基本人間種とはPTを組まないらしいのでそのクエストを受けるしか今のところ手はないみたいだ。
 
 ならアイテムが入手できないなら魔法を覚えるしかないんだけど僕は蘇生魔法を使えないし、習得するには一から職業やスキルを見直さなければならない。
 可及的速やかにこの問題を片付けるには僕らの誰かが蘇生魔法を習得すること。
 だから僕は一番早く習得できそうなヴァイスに白羽の矢を立てた。
 使えるPCをスカウトすれば一番手っ取り早いけどそれは論外。
 僕のPTにPCはできることならもう入れたくない。
 蘇生魔法を使えるNPCがいるなら是非スカウトしたいけどね。
 そんな都合良く仲間になってくれるNPCはいないだろうし、現状僕達でなんとかするしかない。

「だから魔法職のヴァイスには早目に蘇生魔法を習得してほしいんだ」
「(コクコク)」

 頬張りすぎて喋れないのか、ヴァイスはリスのように頰を膨らませたまま頷いた。
 ヴァイスの現職業は【白魔導士】でレベルは十六。
 さらに【僧侶】のレベルが二十だから【白魔導士】のレベルを二十まで上げれば、中級職に転職できる条件は満たすだろう。
 アトランティスはレベル二十で一人前とみなし転職可能になるけど、ヴァイスの場合はどの職業にすればいいのか悩むところだな。
 本人は【賢者】か【大魔導士】になりたいと言っているしそれを考慮するとなると………
 僕はメニューから公式サイトの職業一覧から公開されている職業ツリーを見て考えこんだ。

 ちなみに【白魔導士】でもレベル二十以上なら蘇生魔法を習得できる魔導書があれば習得できる。
 でも魔導書は普通に店とかで売ってないうえに、魔導書を得るためにはミスリルクラスしか受けれない特殊なクエストをこなさなきゃいけない。
 僕らは一応冒険者だけど一番下のアイアンクラスだし、ただPTパーティーを組んでるだけでギルドとしてのランクすらない状況だ。
 個人で所有している魔導書の売買をPC同士でやりとりしているみたいだけど、かなり高額で手が出せない…
 それにちょっとやりとりしてる掲示板を目にしたけど、レイズレッドの魔道書が十万Gから三十万Gで売られてた…

 なら転職しか手はないということで、蘇生魔法を習得できる職業を探してみたけど、確認されているのは僧侶の上の職業【司祭】と、全ての職業のスキル、魔法をなんでもレベル五まで習得できる【勇者】くらいしかなかった。
 
(ていうか勇者って…)

 昨夜お姉さんに言われたことを思い出した。

『君、頑張れば勇者になれるかもよ』

 もし、ヴァイスが乗り気じゃなかったら僕が勇者になって蘇生魔法を覚えることになる。
 あんな起用貧乏な職業に…極めてもパッチがかかって弱体化するかしれない職業にならなきゃいけないのか…!?
 チュートリアルで選択肢にあった職業は神殿に行けば(転職可能レベルなら)変更することができる。
 だからなろうと思えばなれると思うけど…
 
「いやいや…普通に考えてヴァイスの僧侶がもう20だから転職できるし…ならその上の司祭になるのが一番効率がいいよね?」

 とりあえず【勇者】というは置いといて、やっぱりヴァイスにお願いしたい。
 でも、そうなると先にヴァイスの【白魔導士】を二十まで上げてから【司祭】に転職した方がいいのも?
 そうすればレイズレッド覚えた時にすぐ中級職の【白付与魔導士ホワイトエンチャンター】になれるし。
 聞き慣れない職業だけど【白付与魔導士】は回復の他に強化バフ弱体化デバフなども扱える回復、補助のエキスパートになれる職業だ。
 他のゲームによくある付与魔術師エンチャンターと似たような職業だと思うけど、アトランティスの【白付与魔導士】は白魔法を習得できるみたいだ。
 レベルを上げるだけでいつか白魔法を全て習得できるのはすごいかもしれない。

 (でもそうなるとヴァイスはいつ黒魔法を覚えたらいいんだ?ってなるよな…)

 ヴァイスの目指す【賢者】と【大魔導士】は上級職。
 そもそもに転職したPCって未だにいないよね…
 上級職は複数の職業を習得した者がなれる職業だ。
 職業だけは公開されてるけど、条件が曖昧に記載されている。

 例えば【賢者】だとこう。
 必須職業【白魔導士】【黒魔導士】【???】【???】【召喚師】【???】【???】
 みたいな感じで伏せられてる箇所がある…
【賢者】はあらゆる魔法を極めた上級職。
 まあそれを考えると【???】はなにかしらの魔法職だと推測できるし、それらをある程度極めないと【賢者】になれないんだと予想はできるけどね。

 上級職になるにはまだまだ時間がかかると思うから目先の話を戻すけど、中級職は大きく分けて二つの条件に分かれている。
 一つめはひとつの職業を転職可能なレベル二十まで上げる。
 そうするとその上の中級職に転職できる。
 例えば【僧侶】だったら【司祭】
【戦士】だったら【重戦士】といった具合に。
 ただその職業のレベルを上げればなれるから比較的楽だ。
  二つめは複合。
 上級職と同じでいくつかの職業を習得するとなれる職業。
 上級職より必要な職業は少ないけど何気にこのやり方をやると一気に職業の幅が広がる。

 ちなみにここのPCに多い【魔法剣士】とかは複合の中級職だ。
【剣士】と【黒魔導士】若しくは【白魔導士】をそれぞれレベル二十以上上げれば【魔法剣士】になれる。
 同じ【魔法剣士】でも【黒魔導士】か【白魔導士】の違いで、全く違うタイプの【魔法剣士】になれる。
 これが【剣士】じゃなくて【戦士】だと【魔法戦士】になれるという感じで、かなり自由な選択が広がっている。
 
 ヴァイスがなれそうな【白付与魔導士】も複合職で【僧侶】と【白魔導士】レベル二十以上が転職条件だ。
 逆に【黒魔導士】と【妖術師】レベル二十以上で【黒付与魔導士ブラックエンチャンター】という職業に転職できる。

 色んな職業やスキルを習得することによって様々な職業になれたり、スキルを習得したりすることができるから、攻略サイトも全てを把握していないし、公式サイトもはっきりと公開していない状況だ。
 ただ、PCがなってる職業はもう情報が公開されているからそれを目指すPCが多い。
 だから今PCの中で凡庸性の高い【魔法剣士】系の職業が流行ってるんだろうな。

 テンプレ職業となった【魔法剣士】はたしかに使いやすいだろうけど僕はあまりテンプレは好きくない。
 まあ、テンプレを参考にして自分なりにアレンジしていくやり方のほうが無難だろうけど、みんながなってるから自分もなるという考えは僕の趣味じゃない。
 テンプレが自分のスタイルに合えば別にいいと思うけど、合わない場合は自分のスタイルに合わせて構成しなくちゃいけないし、なら最初から自分なりに試行錯誤しながらスキルを構成して、なりたい職業を目指したほうがいいと僕は考えている。

 現実リアルだとどうしても周りに合わせていかなきゃならないことがままある。
 せめて仮想世界ゲームの中くらいは自分の個性を出して好きにやっていきたい。
 NPCとはいえ押し付けるつもりはさらさらないけど、ヴァイスも自分のやりたいことをやって、なりたい職業になってほしいと思ってる。
 そう言いながらヴァイスに蘇生魔法を覚えろって言ってる僕は自分勝手なのかな?
 まあ、了承してくれたしいいのか?でも一応本人に司祭になってくれるか訊ねてみよう。
 最悪、僕が【勇者】になればいい。
 蘇生魔法を覚えるまで我慢すればいいだけだし…
 今大事なのはNPCなかまの命だからね、この際好き嫌いを言ってられない。

「レイズレッド覚えるには今のヴァイスだと司祭になったほうがいいと思うけど、どう思う?」
「司祭…」
「うん司祭。僧侶のレベル20だから司祭に転職できるけど…」
「………」

 食事の手を止めて黙り込むヴァイス。
 なにかを考えているように見えるけど…やっぱりイヤなのかな?

「司祭しか選択肢がない…?」
「うん…あとは僕が勇者になるくらいしか手はないと思う」
「勇者…!」

 キラーンとヴァイスの目が光った気がした。

「勇者…英雄…堕天使の使徒が勇者…!?ヤバイ、カッコイイ…!」

 なんかブツブツ呟いてるけど、どうしたんだろう?
 ヴァイスが急に椅子から立ち上がった。

「…俺、勇者になる…!」
「はい?」

 ヴァイスの宣言に僕の目は点になった………
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