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第3章 ソロプレイヤー

第五十八話

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【龍住まう山脈】
 火龍が支配するこの山脈は標高三千メートル級の山が連なっている。
 サイトや掲示板で聞いた話だけど山頂には火龍の神がいて、その神に勝負を挑んで勝つとなんでも願いを叶えてくれるらしい。
 現在のレベル上限30を超える推定40レベルの火龍に行く手を遮られて、火龍の神に辿り着く前に全滅してしまうPTパーティーが続出し断念せざるを得ない状況らしい。
 次回のアップデートにはレベル上限が50になるとか60になるとか、真偽が定かでない噂が掲示板で流れていた。
 ていうか初めて知ったけど、今のレベル上限って30までなんだ…=)
 それなのに推定40の龍が出るなんてクソゲーじゃない?
 そもそもなにをもって推定40レベルと決めたのだろうか?
 掲示板の言うことはあまり真に受けちゃいけないけどこれは難易度高いなんてもんじゃないよね…。
 ていうか北の迷宮も未だに第一層を攻略できてないという惨状らしい。
 原因はダンジョンが広大すぎてPCの心が折れて集中力が切れてしまうようだ。
 実際に現実リアルと同じような感覚にみんな参っているみたい。
 長い迷宮をひたすら歩き戦闘を何度も何度も行なっていると、精神的疲労がハンパなくてイヤになってくるようだ。
 そのせいでミスを犯し死亡してしまうPCが多く後が絶えないらしい。
 部屋に引きこもって座ったり寝たままの体勢で長時間のプレイに慣れているガチ勢でも、全身を使って動き回り、周囲に気を張り続けることはなかなか難しいみたいだ。
 たしかに現実リアルでも長時間歩くことはあまりないだろうし、ましてやその間武器を手に戦闘もするんでしょ。それは疲れるわ。
 ここではあまり肉体的な疲労は感じないけど、その分精神的疲労が強い気がするし。
 絶対どこかで集中力が切れるし気が抜けてしまう。
 そういう時に限ってデストラップとかに引っかかるんだよね…(苦笑)

 発売から何ヶ月も経ってるのに思った以上に停滞していてびっくりした。
 僕の個人的な考えだけど、ガチゲーマーほど運動不足が多そうだから仮想体とはいえ身体を動かすのが苦手な気がする。
 スマホを繋いだメニュー画面でニュースを見てみると、あるPCは仮想世界オン現実世界オフの境界線がわからなくなってオンでやってたことをオフでやろうとして怪我をした人もいるみたいだし。
 逆にこの仮想体からだ面倒くさいことがあるとすぐ諦めてしまうのかな?
 
「僕もこうして歩いていると、なんかイヤになってくるよ…」

【龍住まう山脈】へ黙々と歩いていた僕はそう呟いた。
 いくら村から近いと言っても距離的には10キロくらいありそうだ。
 途中魔物もいるし、ぶっちゃけ歩き疲れた…。
 いや、仮想体からだは疲れてないんだけどさ、精神的に疲れてきた。
 普通に10キロを歩くとなると一体何分何十分何時間歩けばいいのさ?
 それを考えるとホントにイヤになってくる…。
 エンカウントする魔物はロックスライムとかデスホークばかりだったけど、進むごとにワーウルフとかロックリザードとかいうデカイ狼やゴツゴツしたオオトカゲとか出てきた。
 戦ってみてそんなに強くない印象だったけど油断してると痛い目に遭いそうで怖い…。
 最初は慎重に警戒しながら進んでいたけど、今は半ば投げやりにあまり警戒せずに進んでいた。
 早く目的地に着きたかった僕はゼルとヴァイスとともに急ぎ足で歩を進めていった。


「やっと着いた…」

 ようやく目的地の【龍住まう山脈】の麓に着いたのは昼過ぎの真っ昼間だった。
 時刻は午後二時を回っている。
 夕方までには終わらせたいな…と思いつつ僕はメニューを開いてアイテムストレージからツルハシをひとつ取り出した。
 鉱石系の素材は山の岩や洞窟の壁をツルハシで叩くと入手できる。
 ここの山脈は麓付近は主に【鉄鉱石】が入手でき、上に登れば登るほどランクの高い鉱石を入手できるそうだ。
 試しに僕は手にしたツルハシを手近な岩に向かって振るってみた。
 カーンッ!と甲高い音が立つと

『【鉄鉱石】を一個獲得しました』

 というシステムメッセージが視界に映った。
 おっ!一回で採れた。
 僕は再びアイテムストレージからツルハシをふたつ取り出すとゼルとヴァイスに手渡した。

「それじゃ手分けして【鉄鉱石】を採ろうか。あまり遠くに行かないようにしてね」

 魔物もいると思うし離れすぎた場所でもし魔物とエンカウントしたら危険だと思うしね。
 
「了解です兄貴」
「…了解。どれくらい採ればいいの?」
「うーん………。とりあえず一人30個以上欲しいかな?」

 僕のを作るのに50個は必要だ。
 ゼルとヴァイスの装備の分を含めると100個くらい欲しいし。

「…了解」

 ヴァイスは頷くとツルハシを片手に歩き始めた。

「それでは自分も行ってきます。なにかありましたら声をかけてください」
「うん。ゼル達もね」

 こうして僕達は【鉄鉱石】の採取を始めた。
 僕は索敵能力の高いゼルから付かず離れずの距離にある岩を適当にツルハシで叩いてみた。
 
『【石ころ】を一個獲得しました』
『【鉄鉱石】を一個獲得しました』

 といった感じで叩くごとにメッセージが視界に映る。
 ぶっちゃけチラチラ目に映ってウザい(笑)
 なるべく気にしないようにしながらツルハシを振るっていく。
 大体ひとつの岩に十回くらい掘り出せた。
 岩山のような山脈には掘るのに困らないくらいの岩がそこら辺にごろごろしている。
 探す面倒がなくて楽だ。
 僕は手当たり次第に掘りまくっていった。
 
 アイテムストレージの容量は重さに関係なく皆一定数の数まで収納できる。
 最大九十九個まで入れられるから、できれば上限いっぱいまで手に入れたいところだ。

 『【鉄鉱石】を一個獲得しました』
『【鉄鉱石】を一個獲得しました』
『【石ころ】を一個獲得しました』
『【鉄鉱石】を一個獲得しました』
『【ツルハシ】が破壊されました』

 なんですと!?
 手に持つツルハシが粉々に砕け散った。
  
「耐久力が尽きたのか…」

 しまった!どれくらいで壊れるのか数えておけばよかった…!と悔やむ僕。

「…ファントム」
「キャッ!?」

 いきなり背後から声をかけられて思わず叫び声を上げてしまう僕。
 振り向くとそこにヴァイスがいた。
 ビックリさせないでよ…。

「…ツルハシ壊れた」
「ああ、うん。じゃあコレ使って」

 アイテムストレージから新しいツルハシを取り出した僕はそれをヴァイスに手渡した。

「ちなみにいまどれくらい採ったの?」
「……【石ころ】24個。【鉄鉱石】26個」
「そう…。とりあえずソレが壊れるまでやってくれる?」
「…了解」

 頷いたヴァイスはツルハシを手に踵を返した。
 僕は自分のアイテム欄から採れた鉄鉱石の数を確認してみると大体ヴァイスと同じくらい採れていた。
 
「大体五十前後かな?確率も半々くらい…?」

 ツルハシが使用できる回数とここら辺で採れる石ころと鉄鉱石の掘れる割合をざっと計算して呟く。

「兄貴。替えのツルハシを頂けますか?」

 と今度はゼルがやってきた。
 
「こんなことなら三人いるんだからツルハシ六個買っておけばよかったな…」

 残るツルハシはひとつ。
 かるく失敗したなと思いつつ最後のツルハシをゼルに手渡した。

「コレ壊れたら帰ろうか?」
「はい。わかりました」

 やることのなくなった僕は手頃な岩に座るとメニューを開いて【鍛治】の項目に目を通した。
 採れた鉱石はNPC鍛治屋に行って依頼をすればインゴットに変えてくれる。
 そのままNPCに武器や防具の作成を依頼することはできるけど、その店のNPCのレベルによって作成できるモノが限られてくる。
 でも僕が鍛治レベルを上げて作成できるようになったは少なくともどこの店にもなかったと記憶している。
 だから僕自身が直接打たないと作れないんだけど………

「とりあえず鉄鉱石は帰ってたら溶かしてもらうとして、鍛冶場は借りられるのかな…?」

 鍛冶場のレンタルは聞いたことがない。
 色んな攻略サイトをみても載ってないし、こればかりは鍛治屋のNPCひとに尋ねてみないとわからないか。
 
 しばらくして掘り終えたゼルとヴァイスが戻ってきたので僕は【アイゼン村】に帰ることにした。
 はぁ…また歩いて戻るのか…。
 ル○ラとかの移動系魔法や転移系のアイテムってないのかな?ていうか是非導入してほしい…。
 長時間歩くことを考えると憂鬱になってくる。
 胸の内で愚痴りながらも僕は仕方なく足を動かした。
 
 
 

 
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