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第2章 獄中生活

第五十六話

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 ログインすると、そこは見知らぬ場所だった。
 広さ三畳ほどの独居房。
 扉は引き戸で鍵はかかっていなかった。
 昨夜、課金して残りの刑期を短縮させたあとに落ちて、翌日ログインしてみたらここにいたということは………

「ここが出院準備房かな?」

 一人呟いた僕は、とりあえず机を漁ってみた。
 ああ、やっぱりあったよ【生活の心得】
 薄っぺらい冊子を手に取った僕はパラパラとめくってみる。
 出院準備房は文字通り出院っていうか仮退院に向けて準備するところだ。
 前期、後期でやらされてた作業はないし髪も伸ばせる。
 今までやってた作業の代わりに農作業があるみたいだし、仮退院したあとどうするか的な作文を書いたり、看守の面接みたいなこともあるみたいだ。
 まあ、多分僕は出所っていうか仮退院するからやらないけどね!
 なにかしらイベントありそうだけど、それはスルーしよう。
 入るようなことになったら改めて調べてみよう。
 …って、もうここに来ることはないだろうけどね:-]

 少し経って看守(恐らく出院準備房の担当?)がやってきた。
 予想通り今日出院するからその支度をしろとのこと。
 余談だけど僕は今日、早朝にログインした。
 もしこれが昼間や夜にログインしたら、に仮退院させられていたらしい。
 何故かわからないけど、午前九時十時くらいまでにログインしないと仮退院できない仕様みたいだ。
 仮退院の手続きは確定イベント?らしくてそれをこなさない限りいつまで経っても外に出れないみたいと後日聞かされた僕は、いつでもログインできる引きこもりで良かったと心の底から思った。
 だって普通に学校や会社に行ってたら無理でしょ?



 看守に連れられた場所はここに最初に来た時に罪状とか言わされた場所だった。
 部屋の隅にある試着室のような更衣室で着替えろと言われた。
 更衣室に入ると

『【装備欄】のロックが解除されました』
『【アイテム欄】のロックが解除されました』
『報奨金3860Gを獲得しました』
『【囚人LV:16】がロックされました』

 というシステムメッセージが流れた。
 ここに来て使えなくなった項目が使えるようになったけど、【囚人】のレベルがロックされた?
 塀の中でしか上げれないのだろうか?
 まあ、使えない職業だから別にいいけどさ。
 ていうか報奨金もゲットしたけど安いなあ…。
 短縮した分は計算されてないみたいだし。
 鍛治とかの刑務作業で得ることのできた報奨金は月に数百G何銭と小数点というか細かすぎる計算で安いうえに端数切り落とされるから、ぶっちゃけという単位はいらない気がする…。

 とりあえず僕は着ていた囚人服を脱いで足元にあったカゴに入れると、メニューを開いてロックされて使えなかった装備を取り出して着替えてみた。
 久し振りに装備してみた鉄の鎧と革の靴に懐かしさを感じる僕。
 大体四ヶ月くらいか…懐かしく感じるわけだ。
 更衣室に付けられている姿見で自分の姿を確認してみた。
 
「あっ…」

 の頭部をなでるとシャリシャリと気持ちいい感触…。
 僕は素早くメニューを開いて【キャラクターメイキング】の項目から【髪型】を力強くタップした!
 銀髪の坊主頭って、どこのおじいちゃんだよ!?
 これはこれでイケメン(笑)かもしれないけど、せっかく自分好みに設定したんだから元に戻さないと!
 自分の髪型を鏡を見ながら調整していく僕。
 結局、元の髪型に戻すのに三十分かかってしまった……。





 身支度を整えると看守長が【仮退院証書】というアイテムを貰った。
 これから一年ほど保護観察で月に一回の割合で保護司という人に会わなくてはいけないらしい。
 僕の生活状況を報告して、素行が悪ければまた牢獄に逆戻りになると脅されてしまった…。
 現実リアルだと身元引受け人が迎えに来ないと出れないけど、ここはさすがに融通をきかせたのか、普通に塀の外に一人で出れた。
 特に感慨深いモノはないけど、それなりのスキルは得たと思うから良しとしよう。



 牢獄の門から外に出てすぐに知った顔がいた。
 髪が伸びて印象がかなり変わってたけどゼルとヴァイスだとすぐにわかった。
 まあ、頭上に浮かんでいる名前を見て確信したんだけどね(笑)
 そういえばゼルとヴァイスは僕と同じくらいの刑期だったっけ?
 それでもうシャバにいるのか…。
 カイとアルフレッドが出てくるのはもう少し先だっけ。

「兄貴、お務め御苦労様です!」

 ゼルが腰を折って挨拶をしてくれた。
 ていうか、僕はどこのヤクザ屋さんだ?

「…お疲れ」

 ゼルの隣にいたヴァイスは僕に向かって軽く手を挙げて出迎えてくれた。
 うん。これぐらいの方が気が楽だ。

「あ、うん…」

 僕はなんと答えればいいのかわからずに曖昧に頷くことしかできなかった。

「…どうする?ギルド行く?」
「ああ、うん…。ちょっと待って」

 早速ギルドへ行きたがりそうなヴァイスに僕は言葉を濁した。
 うちのギルドに入る約束してたし、紹介したいのは山々なんだけど…。
 僕はメニューを開いてギルメンのログイン状況を確認してみた。
 平日のせいかアーノルドさんはいない。
 ドンペリキングもいない。
 うわ…!でもmasatoはいるよ。
 揉めた一人がログインしていることを知った僕は出てきて早々にテンションが下がってしまった…。
 うーん………僕自身が揉めたわけじゃないけど、こうしてシャバに出てみるとあの二人に会いたくない気持ちが強くなってきた。

「うーん………どうしよ………」

 ギリギリまで後回しの先送りして、実際にこうして会うかどうか考えてみるとイヤな気持ちの方が圧倒的に強い。
 嫌いなヤツと一緒にやりたくはないし、アーノルドさんには悪いけど………

「あのさ、どうせなら僕らで新しいギルド作らない?」

 僕は試しにゼルとヴァイスにそう尋ねてみた。

「ギルドは五人以上いないと旗揚げできないからカイとアルが出てきたらって話だけどさ、それまで三人でPTパーティー組んでやっていかないかな?」

 勇気を出して言ってみた。
 相手はNPCだけど二人は僕にとってもう友達っていうか仲間だと思っている。
 もちろんカイとアルフレッドのこともそう思ってるし、少なくともドンペリキングやmasatoのようなPCプレイヤーと一緒にやるより遥かに気が楽だし楽しそうだと思ったから。
 断られたらどうしよう…かとドキドキして返事を待っていると

「いいですねそれ!自分は兄貴について行きますよ」
「…(コクリ)」

 嬉しそうに答えるゼルと無言で頷き微笑むヴァイス。
 良かったぁ…断られなくて……。

「うん。それじゃあ、よろしくね」

 アーノルドさん、ごめん…。

 僕は所属していたギルド【幻想大陸探検隊】の【退会】の表示にそっと指でタップした。
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