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第1章 ギルド入会

第二十六話

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「つうかさ~!ちゃんとやってよファントムっちぃぃぃ!」
「すみません………」

 不機嫌な表情を浮かべて言うドンペリキングに僕はただ謝ることしかできなかった。

「マジでどした?トレインくれー楽勝でやれてたじゃん!?調子悪いの?だったらもう落ちれば?俺無理させる気ねーしさ。ねえ?アーノルドさんもそう思いますよね!?」
「いや、俺はそう思いません」
「はあ!?」
「トレインが出来なかったからと言ってファントムさんを責めるのは違うと言ってるんですよ」
「はあ!?別に責めてないっすよ。ただ余裕でできてるファントムっちが珍しく失敗したから俺はファントムっちのことを気遣って言ってるだけっすよ」
「俺にはそう聞こえなかったんですけど」
「ああはいはいすみません!僕が悪かったです!」

 僕は言い争うアーノルドさんとドンペリキングの間に入った。
 僕のせいで揉めてほしくない。

 「また森行ってきますね。今度はちゃんとやってきます」

 僕は二人にそう言うと森の方へ歩き始めた。

「あ、ファントムさん待ってください!」

 アーノルドさんが追いかけてきた。
 僕の隣に並んで歩くアーノルドさんはこちらを心配するような表情かおで見ている。

「俺も一緒に行きますよ」
「…大丈夫です」

 僕はアーノルドさんと目を合わせないまま、そう一言返した。

「しかし…」
「二人いたらタゲが分散してヘイト管理が難しくなるんで…」
「…そうですね。忘れてました」

 そう言ってははは…と苦笑するアーノルドさん。
 そんなアーノルドさんをちらりと横目で見た僕は嘘が下手だなと思った。
 アーノルドさんがそんな基本的なことを忘れるわけがない。
 ただ僕のことを気遣ってくれてるんだろう。
 僕は森の手前で止まるとアーノルドさんのほうを向いた。
 
「ありがとうございますアーノルドさん。でもホントに大丈夫なんで僕に任せてください」
「…無理はしないでくださいね?」
「はい!」
 
 僕は笑顔で返事をした。
 そうだ。いい機会だからこの際聞きたかったことをアーノルドさんに聞いてみるか。

「あの、ドンペリキングさんってTBの時とキャラ違くないですか?寡黙で頼れるギルマスってイメージあったんですけど…」

 僕がそう聞くとアーノルドさんは「ああ…」と納得したように頷いて苦笑いを浮かべた。

「そういえばファントムさんはオフ会とか参加してませんでしたね。それじゃあのギャップはけっこうショックだったでしょう?残念ながらが素みたいです…。聞けばあのは激渋の侍キャラをロールプレイしていたようで…」
「マジですか!?じゃあなんで今はロールプレイしてないんですかね?」
「さあ?それはわかりませんけど、ホスト王に俺はなる!をロールプレイしてほしかったのには激しく同意します(笑)」

 できればずっとロールプレイをし続けてほしかったな…。
 さて、聞きたいことも聞けたしそれじゃ行ってくるか。

「それじゃアーノルドさん行ってきますね」
「はい。行ってらっしゃい。くれぐれも無理はしないでください」
「了解です」

 僕は再び森へ入っていった。
 運命の出会いを果たした森へ。

「また会えるかな?」

 森を探索しながらぽつりと呟く僕。
 ターゲットを探しながら僕はあの時助けてくれた彼女、フィールのことを思い出していた。





 絶対絶命の窮地に陥る主人公。
 颯爽と現れ主人公を助けるヒロイン。
 これはもうフラグが立つシチュでしょ!
【好感度】という謎システムがあることから恋愛シミュレーションがあってもおかしくはない!
 PCパソコンで色んな女性(ゲームキャラ)を口説き落とした僕は、こちらを見下ろしている銀髪オッドアイ美少女フィールたんに勇気を出して話しかけてみた!

「助かったよありがとう(キラン!)」

 エロゲ、いやギャルゲーの主人公が行うであろうセリフと仕草(笑顔で歯が何故か光るヤツ)をしてみた!

「………………」

 返事がない。まるでしかばねのようだ………。
 機械的な無表情な顔でこちらを見つめている。
 彼女の深緑と漆黒の瞳が、なんか頭のおかしいヤツ助けちゃったよどうしよう?と物語っている気がする…。
 い、いけない。選択肢を誤ったか?
 僕は何事もなかったかのように立ち上がった。
 よ、よし。名前を聞いてみよう。頭の上に表示されてるけど礼儀として聞いてみよう。

「ぼ、僕の名前はファントム。悪い人間じゃないよ?」
「………………」
「き、君の名は?」
「………フィール」

 おおやった!軽いボケから入ってみたら思いっきり滑ったけど、一応聞こえるか聞こえないかのようなか細い声で返事をしてくれた!
 
「助けてくれてありがとう……」

 改めて僕はフィールにお礼を言った。
 えっと………まずい。なにも浮かばない。
 自己紹介できた。助けてくれたお礼も言った。あとはなにを言えばいいの?
 わからない…!

(誰か攻略本を!彼女を攻略できる本を売ってください!)

 攻略サイトに載ってないかな?でもいまメニュー開く勇気がない…!
 人と話してるときにスマホをいじってるくらい失礼な行為だと思うし。
 内心パニクってる僕にフィールは無言で手を差し出した。
 なになに?握手?いきなり握手は恥ずかしい///
 真っ赤になりそうな(ていうかもうなってると思うw)顔で恐る恐る手を出す僕。
 リアルだったら手汗にまみれてる状況だけど、さすが仮想現実のゲーム手汗はかかない!ヌルヌルしなーい!
 いざ震える手で握手!…と思ったけど彼女の手には小瓶が握られていた。
 うん?なにアレ?口が開いてる飲めってこと?などと思っていたら、彼女は瓶を振りかけその中身を僕にぶちまけた!

「冷たっ!?」

 彼女にかけられた液体は案外冷たかった!
 うん?僕の残り2だったHPがみるみるうちに回復していく。
 あっという間に僕のHPが全快した!
 ポーションだったのか?ていうかかけても効果あるのね…。それにしても全快ってすごい効果だ。

「あ、あのありがとう…」

 まさか助けられたうえに辻ヒールまでされるとは思わなかった。
 やはりこれはフラグが立っちゃったのか!?などと思っていたら、今度はなにも持ってない手を僕に差し出した。
 手のひらが上になってる…。握手じゃない?手相を見ろってことじゃないよね?

「お代………」
「おだい?」

 コクコク頷くフィールたん。
 その仕草がなんか小動物っぽくて、やだこのコかわいい…と萌えてしまった。
 …ってそうじゃなくて!

「おだいってお代ですか?ポーションの?」
「……(コクリ)」
無償ただの辻ヒールじゃなかったのか…。あ、あのおいくらですか?」

 僕は恐る恐る値段を尋ねると、彼女は小首を傾げて沈黙した。
 ………………………。お互いに黙ったまま動かない。
 手伸ばしたままフリーズしてるけどどうしたのかな?なんか聞いちゃいけなかった?ていうかその細くて綺麗なお手手を触ってもいいですか?
 などと心の中で思っていたら、ようやく彼女が口を開いてくれた。

「有り金全部ちょうだい…」
「ええェェェェ!?」
「お代………」

 そう言って手を突き出してくる彼女。
 
「さすがにそれは高いじゃないかと………」

 たしか店で売ってるポーションは200Gだった。
 そのポーションはヒール相当の回復量だと聞いている。いくら全快したとはいえ高すぎると僕は思います!
 胸の内でそう反論する僕。助けてもらった恩とそういうことを言い出しづらい気弱な自分の性格がそれを口に出すことをためらっていた。

「コレ…エルフポーション…。高い…。ポーション百個分の価値…」
「マジですか!?」

 エルフポーションは僕も持ってるけど、アレってそんなに高かったの!?
 それを無料タダでくれた キース、いやキース様は太っ腹だ!
 あ、でも全財産有り金全部でいいなら逆に安くあがる?
 いま1000ちょっとしか持ってないし………。
 その時僕の視界に突如システムウインドウが浮かびあがった。

『【森の暗殺者】フィール(NPC)に所持金全てを渡しますか?』
『エルフポーションを渡しますか?』
『所持金』
『エルフポーション』

 これってか!?
 僕は現れたウインドウを見て目を剥いた。

(フッ…。幾多のエロゲを極めた僕に舐めた選択肢を出すなあああ!)

 一寸の迷いもなくエルフポーションを渡すほうをタップした!

「毎度………」

 エルフポーションを彼女に渡すと、彼女はそう言い残して消えた。
 MAPの表示も彼女を示す光点が消えている。
 これは【隠蔽】か?だとするとかなり高レベルの【隠蔽】スキルだな?僕が習得してる【隠蔽】とはレベルが違いすぎる…。
 僕は彼女を見送ることすらできずに別れたのだった…。





「まフラグは立ったろうし焦ることはない…(ぐふふ)」

 ニヤニヤ笑みを浮かべて独り言を言う僕。
 側から見てるとキモいことこのうえないだろうな…。
 森の中で一人だから気兼ねなくできる芸当だ。

「あっ!ゴブリン発見」

 木々の合間にゴブリンの姿を視認した。
 よし…!今度はしくじらないようにしよう。
 心の中で気合を入れた僕はを立てないように一歩踏み出した。

 しばらくして………

 僕はゴブリン達を引き連れてみんなの所へ戻ってきた。
 よし!帰ってこれた…。ぞ僕。 
 森から飛び出した僕はすぐさまスキル【咆哮】を森に向かって発動。
 僕から衝撃のようなエフェクトが走り一瞬周囲を光らせた。
 視界MAPに映る赤い光点を見ながら、僕はアーノルドさんとドンペリキングのもとまで駆け寄った。

「おっ!?成功したのかファントムっち?」
「はい!!ていうか来ますよ!気をつけてください!」
「よっしゃ!ファントムっちGJ!」
「ファントムさんお疲れ様です。いけますか?」
「はい大丈夫です!」

 不敵な笑みを浮かべて長剣を構えるドンペリキングと僕を気遣う視線を送りながら大剣を構えるアーノルドさん。
 僕も槍を構えて戦闘態勢をとった。

「ギャギャギャ!」「ケケケー!」などと奇声をあげながら、ゴブリン達が森から飛び出してきた。
 次々と現れるゴブリン。

「おいおいおいおい!多くない!?」
「これは………!」

 森から飛び出してくるゴブリンの数は10…20と増えていく。
 これだけ集めれば文句はないだろう。
 
「数多すぎ!無理無理無理無理ムリー!無理ゲーだっつーの!!」

 ドンペリキングの叫び声が夜明け前の草原に響き渡った…。(ザマァwww)
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