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事故チュー
04
しおりを挟む「ごちそうさま。今日もすごくおいしかった」
「よかった!」
食べ終えた雪哉は率先して食器を片付け、洗ってくれた。梓がやると言っても「これくらいはさせて」とのことで手を出せなかった。
梓はそわそわと冷蔵庫を見つめる。お腹はいっぱいだけど、甘いものは別だ。
「ケーキ食べる?」
洗い物を終えた雪哉が、手をタオルで拭いて冷蔵庫を開けた。
梓はうんうん、と頷く。
「雪哉くん、ケーキはソファのほうで食べようよ」
ダイニングテーブルでケーキの箱を開く。中には五つのケーキが入っていた。
「こんなに……!」
「なにが好きかわからなかったから、おばさんの分も含めて……。俺は一つでいいから、二人で食べてよ」
ショートケーキ、チーズケーキ、ティラミス、チョコレートケーキ、イチゴのタルト。どれもおいしそうで選ぶのに時間がかかった。
悩んだすえに梓が選んだのは真っ赤なイチゴが乗ったショートケーキ。お皿に置いて、リビングのガラステーブルに並べる。
二人並んでソファに座り、ケーキを一口、口に運んだ。
「お、おいしい……!」
「よかった」
イチゴの甘酸っぱさとクリームとスポンジの甘さがちょうどいい。コクがあるのにさっぱりしたクリームは、たくさん食べても気持ち悪くならなそうだ。
「雪哉くんのはティラミス?」
「食べてみる?」
「うん!」
梓が食べたそうにしているのがバレたらしい。雪哉はくすくすと笑いながら、ケーキのお皿を梓に差し出す。フォークで一口分もらい、口に運んだ。
「大人の味……」
「おいしい?」
「うん!」
梓が大きく頷くと、雪哉はついに吹き出した。口元を手で隠して顔を背けたが、笑っているのは明らかだった。
「な、なに?」
「いや。可愛いなと思って」
「子ども扱いしないでよ……そうだ、紅茶飲む?」
可愛い、なんて言われ慣れていない言葉に梓は頬を赤く染め、それを誤魔化すように慌てて立ち上がった。
「……わっ!」
足がもつれ、前方のテーブルに倒れそうになる。このままだとテーブルに置いてあるケーキもダメになるし、ガラステーブルなんてすごく痛そうだ。でもバランスを取り切れずに倒れるしかなさそうな絶望的な状況。
「危ないっ」
雪哉に強い力で腕を引かれる。身体が反転し、今度は雪哉のいるほうに視界が移った。とはいっても倒れることはわかりきっていた。衝撃に耐えるために目をぎゅっとつむる。
「……っ!」
強い衝撃で、身体のあちこちが鈍く痛む。でもガラステーブルに倒れるよりはかなりマシだ。
……あれ。
唇に柔らかい感触がする。
気のせいかな。
恐る恐る目を開いた。
すると、とんでもなく近いところに雪哉がいる。目が合うというレベルではない近さだ。ということはこの感触はやっぱり。
――雪哉と、キスをしている。
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