せんぱいの秘密

春密まつり

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10.苦い味*

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 くるみは猛との約束がない放課後に本屋に立ち寄り、普段は買わないような雑誌を手に取る。普段はレシピ本ばかりでファッション誌なんてあまり読まない。でも、ファッション誌には女性としての様々な情報が掲載されているだろうし、なにか参考になるものが見つかるかもしれない。
 何冊目かを手に取った時、これだと思った。
 見出しに「男を満足させる10の方法」という文字を見つける。
 さっそく該当ページを探し出す。
 そこには「セックスの極意」と銘打っていてストレートな表現にドキリとした。こんな雑誌を立ち読みしているなんて誰かに見られでもしたら大変だ。くるみは焦って雑誌を閉じて、買って帰った。会計をする時もずっとうつむいていた。

 部屋のベッドで一人じっくりと読むことにしたが、それでも内容がいちいち恥ずかしくて、誰もいないのに周囲を確認する始末だ。
 初心者のくるみにはなかなか難しい内容ではあったが、特に気になった項目があった。それは、「男はフェラチオがすき!」という項目だった。じっくり読んでみると、どうやらフェラチオというのは男の人の、性器を舐めることのようだった。知った時は目が飛び出るかと思った。でもこの前猛の性器をさわった時、彼はすごく気持ちよさそうだったからきっと舐めたらもっと気持ちよくなるんだろうということが想像できた。
 これなら慣れている証拠にもなるだろうし、いいかもしれない。
 くるみはとりあえずフェラチオを実践することにした。

 機会はすぐにやってくる。
 次の日に猛に家に誘われたのだ。もちろん、いつも通りいろんなことをするのだろうということはわかっているので、さっそく実践しようと意気込んでいた。
 部屋にお邪魔するなり抱きしめられるのはいつものことだ。
 振り向かされると、強引に口づけられる。生温かい舌がぬるりと侵入してきて歯列をなぞり咥内を舐る。
 キスをしたままベッドヘなだれ込む。猛が覆いかぶさってきてくるみの制服に手がかかった。手に手を重ねて、制止する。
「あ、あの今日は」
「ん? 嫌なのか」
「そ、そうじゃなくて、あの、私が、猛先輩を気持ちよくしたい、です」
 猛が数回瞬きをした。
「……は?」
 起き上がって、目をまるくしている猛の下腹部に手を当てた。そこはもうすでに熱く滾っている。
「ここ………舐めたい、です」
「っ!」
 まるくなっていた目はさらに大きく見開く。
「だめ、ですか」
「……」
 猛は固まったまま動かない。けれどその代わりに撫ででいる性器は、布越しでもわかるくらいに勃ち上がり始めていた。
こうなるってことは、気持ちいいってことでしょう?
 くるみは都合よく解釈することにして猛のベルトに手をかける。他人のベルトというものはこんなに外しづらいものなんだ、と格闘しながら外し、チャックを下ろす。前を開かせると猛の下着の膨らみがあった。
 ゆっくりと下着を下ろしたら猛の欲望が勢いよく飛び出した。
「……きゃっ」
「お、おい」
 勢いに驚きながらもそっと手を添える。雑誌で読んだことを頭の中で繰り返しながら、長い竿を掴んで上下にゆっくりとこすっていく。
「や、めろ」
 抵抗の言葉を口にするくせに、態度には示さない。驚きのあまり力が抜けてしまったのだろうか。力では敵うわけがないので助かった。くるみの本当の目的はこの先にあるのだ。昨日雑誌をじっくりと読んで予習をしてきた。
 緊張しすぎて心臓が痛いくらいだけれど、そっと唇を寄せてみる。
「ま、まさか、おい、やめろって」
「いやですっ……ン、ぅ」
 試しに、ちゅ、と猛の性器にキスをしてみる。一瞬のことだったけれど、熱い脈を感じた。
まだ、大丈夫そうだ。
 次にぺろりと舌を出して、先端を舐めてみた。
 すると猛が大きく反応する。
「ぅ、あ」
 見上げると猛の表情からは嫌だという感情は見当たらなかった。くるみはそのまま陰茎をぺろぺろと舐める。雑誌には、咥えるとか口をすぼめるとかコツが書いてあったけれど初心者のくるみにとってはこれだけでもがんばっているほうだ。
 猛の陰茎からはじわりと液体が滲み出てきて、それを舐めると変な昧がした。それでなくてもこんな昧は生まれて初めてだ。でも、不快感はなかった。だって猛が感じているのだ。うれしくないわけがない。
 雑誌のおかげだ。くるみはうれしくなって、夢中で猛の陰茎に手を添えながら舐めていく。先端だけではなくて根元の方にまで頭を下げて、舌を這わせる。くるみの唾液と猛の熱から溢れた液体が混ざり、じゅるじゅると音を立てる。
「おい、もも、せ」
 猛が弱いところは知っている。
 指で押すだけですごく反応していた場所だ。
 その部分を舌で舐めてみると猛は荒い息を吐き出した。
「っ、そこ……まずい、なあ、お前にこんなこと、させたくない」
 なにを言われてもくるみの意思は変わらない。
 難しかったけれどぐりぐりと舌で押すと欲望が膨れ上がった。
「で、る」
 猛の熱い手のひらがくるみの頭を撫で、髪をかき混ぜる。目の前の陰茎がびくびくと、震
えた。
「う、――ッ」
 脈打ちながら、先端から白濁とした液体が放たれる。びゅ、と飛び出たそれはくるみの顔にもかかった。
 猛が達してくれた。気持ちよくさせてあげられたのだとどうしようもなくうれしくて、これできっと猛が離れることはなくなるんだと安堵した。
「……っ悪い! 目には入ってないか? 顔、拭け」
「んん」
 猛が慌ててティッシュを数枚取り、くるみの顔を拭う。べたべたとした液体が猛の身体から出てきたものだと思ったらそれすらもいとおしくなった。
「ったく何やってんだよお前……お前は、こんなことしなくていいんだ」
 猛の呆れた口調に、前向きになっていた心がどんよりと沈む。こうまでしても猛はくるみをちゃんと遊び相手として見てくれない。
 せっかく、勉強したのに。
「……私が、したかったんです。だって、猛先輩の遊び相手でしょ?」
 自分で言ってて情けない。
 泣きたくなってくる。
「……どうしてそこまでして」
「だ、だって私……っ]
 もう伝えてしまうしかない。
 猛のことが好きだから、と。
「悪かった」
「………え?」
 けれど告げる前に猛が頭を下げる。
「勘違いしているようだけど、俺は、そんな奴じゃない。好きでもない奴とこんなこと、しない」
「……それなら、どうして」
 好きでもない自分とこんなことするの。
「好きなんだ、百瀬」
「なにが、ですか」
 だからこういうことをするのが好きだということでしょう?
 くるみの視界が滲む。
「なにがって……だから、俺は、お前が好きなんだ」
 何度聞いたって全部わかっている。
 猛は女の子とこういうことをするのが――。

「え、え?」
「やっぱりわかってなかったんだな。どうして遊んでるなんて勘違いしたんだか……」
 猛が頭を抱えた。
 ちょっと待ってほしい。
 意味がわからなくて混乱してきた。くるみの小さな頭では理解処理能力が足りない。ひとつずつ解決していこうと思っても、どれから確認したらいいかもわからない。ただ、本能で口をひらいていた。
「だって、先輩が私にキスなんて、するはず」
「してるだろさんざん」
「だからそれは猛先輩が遊び人だから」
「違うって」
 はぁ、と大きなため息。
 呆れてしまっている。でもなにを信じたらいいのかわからなくなっているくるみには猛の声が届いているようで届かない。
「どうしたらわかってくれる? 百瀬」
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