せんぱいの秘密

春密まつり

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05.雨に濡れたふたり*

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「腹減ったな……」
 結局ふれあい広場には二時間くらいいた。飽きることを知らない二人は閉演時間までさんざん堪能していたのだ。
 帰る頃に小腹がすくのも当然だろう。
「あ、じゃあ帰りにパンケーキ食べて帰りませんか? 駅前に新しいお店ができたみたいなんですけど、一度行ってみたかったんです!」
「行く」
 即答の猛に、くるみは微笑む。
 猛のことがだんだんわかるようになってきたことがうれしかったのだ。

 駅前のパンケーキ屋さんは女の子たちで賑わっていた。カップルも数人いるけれど、大体が女の子だ。ドア付近で店内を眺めた猛は居心地悪そうにしていた。でもメニューを見て覚悟を決めたらしく、案内された席へと堂々と歩いていく。
 選んだのはミックスベリーのパンケーキと、チョコバナナのパンケーキだ。二人で半分ずつ……というよりくるみには多いので、猛のために頼んだようなものだった。どちらも気になっていたみたいだし、身体も大きいし、きっと食べきってくれるはずだ。
 運ばれてきたパンケーキは、インターネットや雑誌で見たことがあるそのものだった。薄すぎず厚すぎずちょうどよい厚さのパンケーキが二枚重なっている。その上のクリームやベリー、チョコのトッピングがかわいらしい。見た目でも楽しめるし、すごくおいしそうだ。
 さっそく切り分けて二人で食べ始めた。
「ん! おいしいですね!」
 くるみが最初に食べたのはミックスベリーのパンケーキだ。甘いだけじゃなくて酸味もあってすごく食べやすい。どんどん食べ進められるさっぱりとした味わいだ。
「う、うま」
 正面では猛が頭を抱えていた。
 チョコバナナも相当おいしいらしい。食べてみると、ベリーよりもすごく甘いのに、やっぱりこってりしすぎなくてパクパクと食べられてしまう。これならもう一枚食べられるかもしれない、と思うくらいだ。
 案の定、猛は感動したらしく追加注文したいと控えめに言ってきたので、最後にリコッタチーズのパンケーキを注文した。さすがにお腹いっぱいだったくるみは一口だけもらうことにした。ふわふわとした生地にメープルシロップがかかっていて、リコッタチーズとの酸味と程よく絡んでいる。お腹いっぱいのはずなのにもうちょっと食べたい、とフォークを進めてしまいそうで怖い。
「……はあ……うまい」
 あっさり完食した猛は満足気にうっとりとしていた。あまりにしあわせそうな表情をしているので笑ってしまいそうになったが、また照れてしまうかもしれない。照れた顔は見たいけれど、猛にとってはあまり見られたくないだろう。くるみはこっそりと心の中で「かわいい」とつぶやいた。


「今日はありがとうございました!」
「いや、俺こそ。ありがとう」
 充実した一日だった。
 かわいい動物とたくさん遊べたし、おいしいパンケーキも食べることができた。猛のいろんな表情を見ることだってできた。こんなにいい一日はない。本当はもっと遊んでいたいし話もしたいけれど、今日のところはこれでお別れだ。
 駅前で別れようとした時。
「あれ? 雨……」
 ぽつぽつ、と地面に雨の粒が落ちる。
 どんどん大粒の雨になり、コンクリートの地面が色を変えていく。
「きゃっ」
 雨かー、と思っていたら急に土砂降りに変わる。
 軽い通り雨だと思っていたら一瞬で激しい大雨になった。
「酷いな。百瀬、走れるか?」
「は、はい」
 走れるけど、こんなに濡れた状態でバスに乗ることはできない。しばらく駅の中で雨宿りするしかないのかな……と考えていたら猛に手を取られた。
「俺の家に行くぞ」
「え、え!」
 答える聞もなく、引っ張られるまま走った。

 二人の足音が、ばしゃばしやと音を立てる。全身はもうびしょ濡れだ。どこまで走るのだろうと不安になり始めていたら、すぐに猛は立ち止まった。
「ここは……?」
「俺の家」
「えっ!」
「悪い。俺の家が近かったから連れてきちまったが……嫌だよな?」
「そ、そんなことないです」
「服も濡れちまってるし、雨宿りして風邪ひくよりいいだろ」
「すみません……お、お邪魔します」
「今日は誰もいないから遠慮すんな」
 ほっとするような、そうでないような。
 くるみは導かれるまま猛の家に上がる。
 案内された猛の部屋は想像通りすごく男の人っぽい部屋だった。青を基調にしたベッドやカーテン。でも、ところどころに飾ってあるキーホルダーやマスコットがどれもこれもかわいらしくて、つい目に入ってしまう。
「このマスコットかわいいですね」
 思わず手にとっていたはうさぎのマスコットだ。ふわふわしていて手触りもいい。彼の風貌からすると相当意外なものだけれど、今となってはそう驚かない。
「あ、ああそれかわいくて、つい買った」
「意外だけど、なんかわかります」
「……そうか?」
 照れくさそうに猛は笑った。
「そんなことより、服着替えるだろ?」
「ええっ!」
「濡れたままじゃ風邪ひく。そのために連れてきたんだ。脱いで拭け。その間に乾燥機にかけるから」
 テキパキとした対応に頭が下がる。
「ありがとうございます! じゃあ、着替えます」
「ああ、服持ってくる」
 猛が部屋を出て行ったのを見届けると、くるみは濡れたカットソーを脱ぎ始めた。下着に
まで水が沁みている。さすがにこれを洗濯してもらうわけにはいかないけれど、少しの間だ
け外して乾かしたい。
 プチ、とブラジャーのホックを外した。
「そうだ百瀬。飲み物は――」
 ガチャリとドアが開く。
「あ」
 時間が止まる。
 上半身をむき出しにしたくるみと、真正面から見下ろす猛の視線。
 思考までも止まってしまう。
「わ、悪い!」
 先に動いたのは猛のほうだった。
 大きな音を立てて勢いよく、ドアが閉まった。
「すまん! 服を持ってくる前に脱いでるとは……いや、なんでもない。あーっと、タオルと着替えここに置いておくから。俺は飲み物持ってくる。なんでもいいよな」
「は、はい……」
 何か起きたのか、理解しているけれどうまく思考が働かない。とりあえずぼーっとしながら、渡された大きめのタオルで身体を拭い、猛が用意してくれた服に着替えることにした。
 しばらくしてノックの音が聞こえた。
「も、もう着替えたか?」
「はい大丈夫です」
 返事を待ってから、そっとドアが開かれる。
 くるみの着替えた姿を見て猛はほっと息をついた。
「……本当に悪かった」
「い、いえ。忘れてください」
 お願いだから忘れてほしい。
 上半身だけとはいえ、裸を見られてしまったんだ。こんなに恥ずかしいことはない。さっきは驚きすぎてどうしたらいいかわからなかったけれど、じわじわと羞恥が広がってくる。どうして脱いじゃったんだろう。
「……やっぱり服でかかったな」
「はい、これ一枚で着れちゃいました」
「っ」
 猛のトレーナーを借りたが、膝上にまで長さがあったのでワンピースの代わりになるだろうと、一枚しか着なかった。
「……お前、わざと、じゃないよな」
「え?」
「なんつーか、えろい、んだが」
「……へ?」
 いったいなんの話をしているのだろう。
 猛の顔がどんどん赤くなっていくのにくるみは何一つ理解できないでいた。
「誘ってんのか? いや、百瀬に限ってそんなことは………でも」
「あ、あの先輩?」
「百瀬」
「ひゃっ」
 引き寄せられて猛の胸の中に収まる。
 何か起こっているのかわからなくて目が回りそうだ。
「お前の身体冷たい……し、ちっせえ……」
「く、苦しいです、せんぱ……んん」
 何が起こっているのかと見上げたら、熱い唇が呼吸を奪う。
 今日はシュークリームを作っていない。だから唇にクリームだってついているはずがない。なのに猛はどうしてこんなことをするのだろう。
 ふれていただけの唇に太い指が入ってくる、口をこじ開けられて、そこからぬるりとしたものが入ってきた。
 少し濡れたその正体が猛の舌だと気づくには時間がかからなかった。
 信じられなくて、怖くなって、身を捩らせようとしても猛の強い力に閉じ込められているせいでなにもできない。
 口の中に猛の舌が這い回って、舌を絡め取る。
「ん、う、ふあ、あ」
 足がガクガクと震える。
「声、えろ」
 一度離れた唇は再び覆いかぶさる。口の中にまた猛の舌が入ってきて、くるみの小さな口は猛でいっぱいになった。くちゅくちゅと音が鳴り、唾液が口の端からこぼれる。拭っている隙間もないほど激しくむさぼられているようだった。
「んやぁ、猛、せんぱい……」
「っ、くそ」
 トレーナーの中に入ってきた分厚い手が、くるみのお腹を撫でた。くすぐったさにびくりと反応してしまった。
「え、せんぱ」
「ん?」
「あ、あの、なにを」
「……」
 猛は答えてくれなかった。
 そのまま分厚い手はくるみの肌を撫で、胸の辺りをくすぐる。やがて大きな手のひらが胸を包み込んだ。少し湿ったブラジャーをずらして、直でさわる。トレーナーはもうめくりあがっていた。
 指の腹で胸の先端を撫でられると、ぷくりと浮き上がってくるピンク色の先端。さらに指先で弄られて、甘い声が漏れていた。
「あっ」
「……っ、ハ……」
 猛の荒い息遣いが鼓膜を揺さぶる。
 指先で摘まむようにして先端をこりこりと弄られると、ぞわぞわとしたものが全身を駆け巡る。
「あっ、ひゃ、せ、せんぱ」
 何をしているの。
 いったい、なにを。
「意外と、大きいんだな」
 囁いてくる猛の知らない声に身体の奥が痺れた。
 胸全体を手のひらで包むようにして動かされ、時折先端を弄られる。初めて感じる刺激にくるみは声を出すことしかできなくなっていた。
「気持ちいいか?」
「……っ」
 ふるふると首を振る。
 気持ちいいなんて知らない。
 これがどういう状態かなんて、なんにも知らない。
 猛のこんな顔も――知らない。
 くるみがどんな態度をとっても猛がこの行為をやめることはなかった。胸の先端はジンジンしてきて、ほんの少しふれただけで、布がこすれただけでも、おかしな声を上げるほどになっていた。その間もずっと猛はキスを繰り返す。
 舌をぺろぺろと舐められ絡まれて、じゅるりと唾液を吸われる。猛の息が、口の中に入っ
てくる。
 次第に、先端を弄る指の力が強くなる。
 痛いのに、それだけじゃない。
 目の奥がちかちかと光る。
「や、なんか、やだ、こわい、せんぽい」
 おかしい。なにかが迫ってくる。知らない感覚に恐ろしさを感じていた。助けて、と猛にすがりたくて、猛の服をぎゅっと掴んだ。
「んうー!」
 キスをしたまま、くるみは初めての絶頂を経験していた。
 くたりと弛緩した身体は猛に委ねられる。
「おい、大丈夫か」
 遠くから猛の焦っている声が聞こえてくる。
 薄く瞼をひらくと視界が滲んでいる。
 ぼんやりとした視界のまま見上げると、猛の真剣な瞳がくるみを射抜くように見つめていた。


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