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8 甘く見つめて*(終)
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「お邪魔します……」
一日、気が気ではなかった。仕事が手につかないほど緊張していた。司を拒否した理由を話すだけだ、そう考えてはいるものの、司の反応を想像すればするほど怖い。司の家にいるのも初めて身体を重ねた日以来だから、緊張は余計に増幅していた。
「酒じゃなくて、コーヒーでいいっすか」
「うん。なんでも大丈夫」
司の家に来る前に、二人で軽く食事を済ませた。その時は仕事の話しかしなかったので、家に来てぐっと雰囲気が変わり戸惑っていた。
「酒飲むと、ひどいことしそうなんで」
「君島くん、酒癖悪くないじゃない」
「いつもセーブしてるだけです」
怒っているように見える。それも当たり前だろう。嫌がっておいて、自分からキスをしたんだから。行動がぐちゃぐちゃだ。
「では、弁解どうぞ」
リビングのソファに横並びに座り、膝の上に置いている手に、司の手が重なった。
「……なんか意地悪」
「そんなことはないです」
否定しながら真子の手の甲を撫でる。意地悪なのかそうじゃないのかわからない。でも怒っているのは本当だろう。真子はぎゅっと手を握った。
「に、逃げたのは、君島くんの視線が怖かったから」
ちらりと司を見る。彼の感情はまだ読めない。
「……今は平気なんですか」
「大丈夫」
「じゃあ、いつがダメなんですか」
気になるのは当然のことだ。真子は、それが言いづらくてずっと緊張していた。言わないでおけたらいいのにと思うけれど、話すと覚悟を決めて司の家に来た。ここで逃げるわけにはいかない。
「えっちしてる時とか、なんかとめられない時、とか」
「ああ欲情してる時の」
「っ!」
はっきり言われて、顔が熱くなる。真子が思っていても口に出せなかったのに、無口だと言われている彼に言われるなんて、悔しい。
「俺、興奮してる時そんな怖いですか」
「怖い……もそうなんだけど、なんかぞくっとして、自分が自分でいられなくなるんじゃないかって」
「……それ」
司の指が、重ねていた真子の手を取り指を絡める。
「それって、糸井さんも欲情してるってことですよね」
「え」
「だから、自分がおかしくなるんじゃないかって怖い、とか」
「そう、かな……」
わからない。
そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。ただ、「怖い」「逃げたい」という感情が先行して、司を拒否してしまった。
「試してみましょう」
つないだ手を引っ張られ、立ち上がる。すたすたと歩き出す先は、ベッドルームだ。どきりと胸が大きく鳴る。
「怖いって言ってるのに」
「じゃあ別れますか」
乱暴にベッドへと投げ出され、見下ろされる。
「……君島くんはそれでいいの?」
司はスーツを脱ぎ捨て、ネクタイをほどいた。
「いいわけないじゃないですか」
ネクタイを持ったままベッドへ上がる司が寝転がっている真子に覆いかぶさる。真剣な表情にぞくっとした。
「な、なに?」
「これで、こうします」
「ちょ、ちょっと」
ネクタイが近づいてきて視界が暗くなる。目元を締め付けられ、頭の後ろでもぎゅっと締められる感覚がした。真っ暗で、不安だ。
「これなら俺の目が見えなくて、怖くないでしょう」
「ち、違う意味で怖いっ!」
「外しちゃだめですよ。そうだ、手も縛らないと」
「ちょっと待ってよ」
両腕を頭上に持ち上げられ、手首を何かできゅっと締め付けられた。これも、ネクタイ? それすらもわからない。
「黙って」
「ん――」
くちびるに温もりが降りてきて、びくんと身体が反応した。なにをされるか見えなくて、いつも以上に鼓動がうるさい。
「口開けてください」
「何、するの?」
「ただのキスです」
耳元に司の低い声が響く。司の声が聞こえるたび、司の手がふれるたび、身体がぴくりと動いてしまう。見えなくて怖いけれど、司がひどいことをするはずはないと、薄く口をひらいた。するとすぐにぬるりとしたものが口の中に入ってくる。
「んんぅ」
驚いて身を引こうとしても、司の手が押さえて離さない。こんな乱暴なことをしておいて、くちびるは甘くやさしくてお腹の奥がきゅうと締め付けられた。咥内を丁寧に舐められていく感触。歯の裏も、頬の裏も、丁寧に時間をかけて舐られ、真子は次第に身体から力が抜けていく。
「舌、出して」
ふわふわとした頭のままそろりと舌を出すと、すぐに司の舌に絡めとられる。激しく絡まる舌に頭はもうとろけてしまいそうだった。視界を塞がれているせいか、いつもよりもすごく気持ちがよかった。何をされるかわからなくて怖いのに、気持ちがいいなんて変な話だ。
キスをしながら司の手が真子の腰を撫で、服を脱がしていく。とはいっても真子の両腕は繋ぎとめられているので、カットソーをたくしあげられているんだろう。少しずつ肌寒さを感じていた。背中に回った手がぷつりとブラジャーのホックを外し、締め付けているものがなくなった。
大きな手が、真子の身体を撫でる。胸をやわらかく包み感触を確かめるように動いている。視界が遮られているせいか、司の手の感触がよく伝わってくる。手の熱さや、指の動き、汗ばんだ手のひら。やさしく手のひらが動きながら、真子の鼓動はどんどん高鳴っていった。次はどこをさわられるんだろう、という思いで頭がいっぱいだ。
なのに司の手は、胸のまわりをふわふわと撫でるばかりだ。きっと、先端は敏感に反応しているはずで、真子の身体の奥は熱をともしている。じれったくて腰が揺れる。
「……さわってほしいんですか」
言いたくない。
でも、このままの状態はつらい。目が隠れているだけで恥ずかしさは直接感じることはなかった。真子は一度頷いた。
「ちゃんと言葉で言ってください」
「……意地悪」
司の手がとまる。どんな表情をしているのかわからない。怒っているのか、呆れているのか。見えないけれど司に手を伸ばした。
「お願い、さわって……」
「……はい」
伸ばした手を司が手に取ってくちびるがふれた。離れていった手はするりとふくらみを撫で、指が、ぷくりと立ち上がっている先端を撫でた。
「んんっ!」
ただそれだけなのに腰が激しく跳ねた。
指の腹でくりくりと動かすようにされたり、指でつままれたりするたび真子は息が荒くなる。目隠しをしない時よりも、感じている気がする。興奮している気がする。下腹部が少し気持ち悪くて足をもぞもぞと動かした。
「っ!」
胸に、ぬるぬるとした感触。それから熱い息がかかる。司が、胸を舐めている。先端を口に含まれてキャンディを舐めるみたいに転がす。せめて、手を外してほしい。もどかしくてどうしようもない。
激しいキスをしながら司の手は真子の全身を撫でる。やがて、下腹部をするりと撫でた。すぐに下着の上から秘部を押した。
「んっ!」
司の手が下着を脱がしていく。真子の身体はもう力が入らなくなっていて、されるがままだった。濡れそぼった秘部に司の指が這う。
「あ、だめ、君島くんっ」
蜜口に何かが入ってくる感触がした。きっと、指だということはわかっていた。司の指づかいは覚えている。やさしく内側を撫で、こする。そのたびに真子は息を漏らす。
「もっと、感じてください」
くちゅくちゅと水音が響く。やさしかった指は、挿入している時と同じような動きで出し入れをする。
「ん、んっ……っ!」
だんだん激しくなる動きにこらえきれなくなった真子は、白く弾けてしまった。
くたりとベッドに身を預けるが、ガサガサと音が聞こえて、両足を広げ抱えられる。
「本当は顔を見たいけど、しかたないからこのまま」
ぴたりと蜜口に熱く硬いものが押し当てられた。
「君島くん、外して……」
真っ暗なのももういやだし、手だってつらい。そろそろ許してほしい。なのに司は「だめです」と冷たく言い放つ。
「俺は、糸井さんの目が好きだって言いましたよね。なのにあなたは俺の目は嫌いなんですね」
「き、嫌いなんて言ってなっ」
「黙って感じててください」
「ああっ!」
いきなり、奥まで司の熱がねじ込まれる。潤っている蜜口はあっさりと飲み込んでしまったが、あまりの刺激に真子はそれだけで達してしまいそうだった。
「っ……きっつ」
「ん……君島くん……」
「くっ……」
司の熱が、中を行き来している。ぐちゅりと淫らな音が響いて真子の身体がカッと燃えた。
「あ、あっ」
ぞくぞくと肌が粟立つ。感覚が澄んでいるのか内側をこすりごりごりと動く熱が伝わってくる。目の奥がチカチカと光る。まだ熱が入ってきただけだというのにこんなことになってしまって、さらに揺さぶられたらどうなってしまうんだろう。
急に、怖くなった。
いやだ。怖い。司の顔が見たい。
「待って、怖い、お願い、君島くんっ」
「我慢してください」
ごり、と奥を突かれて、ひゅっと息を吸った。
怖い。
「や、やだぁ!」
叫ぶように声をあげた。
「……糸井さん……」
司の動きが止まり、恐怖が薄まる。でも今すぐ暗闇から解放されたい。なにより、司の顔が見たくてどうしようもない。
「君島くんの顔、見たいの」
彼の声は聞こえず、息遣いだけがかすかに聞こえてくる。
「ごめんね。もう逃げないから、お願い……」
「……っ」
手首に巻き付いていたものと、目を隠していたものをやさしくほどかれた。突然暗闇から解放され、部屋が暗いとはいえ目が慣れるのに時間がかかった。よく見ると、ひどい格好をしている。服は乱れに乱れ、下半身にはなにもまとっていなくて、下腹部が司と繋がっている。そろりと司の顔を見ると熱のこもった視線で真子を見つめていた。ぞくりと心が震えた。
あの、目をしている。
気づいた瞬間にそらし、けれどだめだと思いなおして司を見つめた。見ているだけで鼓動がさらに激しく打つ。冷静な彼の熱情を感じるひとみに逃げたくなりながら、涙目のまま彼を見つめ続けた。
「君島くん……」
「怖くないです。もっとちゃんと、俺を見てください」
司は苦しげにそう言い、腰を揺さぶり始める。くちゅりと音が鳴った。
「ああっ!」
一気に奥まで穿たれて腰をそらした。
「っ、ずるい……俺が好きだってわかってるのに、逃げて、追いかけて、そんなこと言うなんて」
「ごめん……君島くん、ごめんね」
激しく揺さぶられながら司を見上げる。切なげに眉根を寄せている司の目は、ひどく熱い。怖いけれど見たかったひとみだ。真子の内側を燃え上がらせるような、甘く熱を持った視線。
「じゃあ好きって言ってください」
「……え」
「一度も言われたことない」
「あ」
そういえば、一度も言っていない。自覚が遅れたというのもあるけれど、好意を持ってもらっていてそれで安心しきっていた部分もあった。つき合い始めたきっかけは告白をされたからだけど、つき合ってから彼のことを深く知るようになり、惹かれていった。
今では自信を持って言える。
「好き……君島くん、好きだよ」
振り回されるほど、好きになっていた。
「っ」
「ひゃ、ぁ……大きくなっ……」
中に埋まっている司の熱がふくれ上がった。圧迫感が増す。
「だから、ずるい」
「あ、あぅ、あ!」
司が激しく揺さぶり始める。若い学生のように欲望に忠実になった激しい動きだった。奥のほうをぐりぐりと抉られるとまたすぐに達してしまいそうだ。溢れた蜜が二人の身体やベッドのシーツを濡らす。それほど、快感に飲まれていた。
突き上げながらくちびるが重なり、愛おしそうに司の手が真子の頬を撫でた。
「俺のこと、もっと見てくださいっ」
心の叫びのようで胸が締め付けられる。
真子は揺さぶられながら、司を見上げて、見つめ続けた。司も、熱く濡れた視線で真子を見つめる。
恐怖とは違う何かが真子を襲う。
「ん、ぁ、あ――っ!」
二度目の絶頂だった。身体が小刻みに震え、なかなか止まらなかった。
「……、っ……ぁ」
遅れてびくんびくんと司の腰が揺れ、膜越しに精を放った。
*
「糸井さん、好きです」
「……わかってます」
「好きだ」
「わかってるってば」
真子は恥ずかしくなって司に背を向けたいのに、司はベッドの上で真子をぎゅっと抱きしめて離さない。
「顔赤いですね」
「なんなの急に何度も」
「まだ言い足りないんです」
「……無口のくせに」
「……糸井さんに対してはそうでもないと思いますけど」
今までのことを考えてみる。無口は無口だと思うけれど、一概にそうとも言えない出来事がありすぎた。
「そうかも。会社の通路で急に告白してくるし」
「はい。寝起きで慌てて走る糸井さんが可愛すぎて我慢できませんでした」
「……まさかの?」
だからあのタイミング?
記憶を巻き戻して司に告白された場面を必死に思い返す。昼寝明け、会議に遅れそうで焦っていた。自分の見た目なんて顧みなかった。
「なんであんな時に……」
タイミング的には最悪な時だ。メイクだってどうなっていたかわからない状態だったのに。
「好きです」
「わ、わかったってば!」
これ以上甘い会話をしていられない。司の胸に顔をうずめると強引に司の手が真子の顔を上向かせる。嫌でも目が合った。
「俺を見るその瞳から、糸井さんを好きになったんです。少し気が強そうで、でもどこかか弱くて吸い込まれそうなほど惹かれました」
「……いつから?」
「最初からです。教育係でいろいろ教えてもらってる時からずっと」
「全然気付かなかった」
司は淡々としているから、感情の変化にはなかなか気付くことができないでいた。だからこそ心配で気に掛けていた結果、好意を持たれていたらしい。彼の心の変化を感じたかったのに。
「俺はもっと糸井さんを見ていたい。だから、糸井さんも逃げずに俺を見てください」
「……うん、見るよ」
司の手が真子の頬を撫でる。
欲情している目に吸い込まれる。艶の濃いひとみは怖いけど、そう感じた理由を理解したのでもう逃げられない。
見つめ合った先の快感を、知ってしまったから。
終
一日、気が気ではなかった。仕事が手につかないほど緊張していた。司を拒否した理由を話すだけだ、そう考えてはいるものの、司の反応を想像すればするほど怖い。司の家にいるのも初めて身体を重ねた日以来だから、緊張は余計に増幅していた。
「酒じゃなくて、コーヒーでいいっすか」
「うん。なんでも大丈夫」
司の家に来る前に、二人で軽く食事を済ませた。その時は仕事の話しかしなかったので、家に来てぐっと雰囲気が変わり戸惑っていた。
「酒飲むと、ひどいことしそうなんで」
「君島くん、酒癖悪くないじゃない」
「いつもセーブしてるだけです」
怒っているように見える。それも当たり前だろう。嫌がっておいて、自分からキスをしたんだから。行動がぐちゃぐちゃだ。
「では、弁解どうぞ」
リビングのソファに横並びに座り、膝の上に置いている手に、司の手が重なった。
「……なんか意地悪」
「そんなことはないです」
否定しながら真子の手の甲を撫でる。意地悪なのかそうじゃないのかわからない。でも怒っているのは本当だろう。真子はぎゅっと手を握った。
「に、逃げたのは、君島くんの視線が怖かったから」
ちらりと司を見る。彼の感情はまだ読めない。
「……今は平気なんですか」
「大丈夫」
「じゃあ、いつがダメなんですか」
気になるのは当然のことだ。真子は、それが言いづらくてずっと緊張していた。言わないでおけたらいいのにと思うけれど、話すと覚悟を決めて司の家に来た。ここで逃げるわけにはいかない。
「えっちしてる時とか、なんかとめられない時、とか」
「ああ欲情してる時の」
「っ!」
はっきり言われて、顔が熱くなる。真子が思っていても口に出せなかったのに、無口だと言われている彼に言われるなんて、悔しい。
「俺、興奮してる時そんな怖いですか」
「怖い……もそうなんだけど、なんかぞくっとして、自分が自分でいられなくなるんじゃないかって」
「……それ」
司の指が、重ねていた真子の手を取り指を絡める。
「それって、糸井さんも欲情してるってことですよね」
「え」
「だから、自分がおかしくなるんじゃないかって怖い、とか」
「そう、かな……」
わからない。
そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。ただ、「怖い」「逃げたい」という感情が先行して、司を拒否してしまった。
「試してみましょう」
つないだ手を引っ張られ、立ち上がる。すたすたと歩き出す先は、ベッドルームだ。どきりと胸が大きく鳴る。
「怖いって言ってるのに」
「じゃあ別れますか」
乱暴にベッドへと投げ出され、見下ろされる。
「……君島くんはそれでいいの?」
司はスーツを脱ぎ捨て、ネクタイをほどいた。
「いいわけないじゃないですか」
ネクタイを持ったままベッドへ上がる司が寝転がっている真子に覆いかぶさる。真剣な表情にぞくっとした。
「な、なに?」
「これで、こうします」
「ちょ、ちょっと」
ネクタイが近づいてきて視界が暗くなる。目元を締め付けられ、頭の後ろでもぎゅっと締められる感覚がした。真っ暗で、不安だ。
「これなら俺の目が見えなくて、怖くないでしょう」
「ち、違う意味で怖いっ!」
「外しちゃだめですよ。そうだ、手も縛らないと」
「ちょっと待ってよ」
両腕を頭上に持ち上げられ、手首を何かできゅっと締め付けられた。これも、ネクタイ? それすらもわからない。
「黙って」
「ん――」
くちびるに温もりが降りてきて、びくんと身体が反応した。なにをされるか見えなくて、いつも以上に鼓動がうるさい。
「口開けてください」
「何、するの?」
「ただのキスです」
耳元に司の低い声が響く。司の声が聞こえるたび、司の手がふれるたび、身体がぴくりと動いてしまう。見えなくて怖いけれど、司がひどいことをするはずはないと、薄く口をひらいた。するとすぐにぬるりとしたものが口の中に入ってくる。
「んんぅ」
驚いて身を引こうとしても、司の手が押さえて離さない。こんな乱暴なことをしておいて、くちびるは甘くやさしくてお腹の奥がきゅうと締め付けられた。咥内を丁寧に舐められていく感触。歯の裏も、頬の裏も、丁寧に時間をかけて舐られ、真子は次第に身体から力が抜けていく。
「舌、出して」
ふわふわとした頭のままそろりと舌を出すと、すぐに司の舌に絡めとられる。激しく絡まる舌に頭はもうとろけてしまいそうだった。視界を塞がれているせいか、いつもよりもすごく気持ちがよかった。何をされるかわからなくて怖いのに、気持ちがいいなんて変な話だ。
キスをしながら司の手が真子の腰を撫で、服を脱がしていく。とはいっても真子の両腕は繋ぎとめられているので、カットソーをたくしあげられているんだろう。少しずつ肌寒さを感じていた。背中に回った手がぷつりとブラジャーのホックを外し、締め付けているものがなくなった。
大きな手が、真子の身体を撫でる。胸をやわらかく包み感触を確かめるように動いている。視界が遮られているせいか、司の手の感触がよく伝わってくる。手の熱さや、指の動き、汗ばんだ手のひら。やさしく手のひらが動きながら、真子の鼓動はどんどん高鳴っていった。次はどこをさわられるんだろう、という思いで頭がいっぱいだ。
なのに司の手は、胸のまわりをふわふわと撫でるばかりだ。きっと、先端は敏感に反応しているはずで、真子の身体の奥は熱をともしている。じれったくて腰が揺れる。
「……さわってほしいんですか」
言いたくない。
でも、このままの状態はつらい。目が隠れているだけで恥ずかしさは直接感じることはなかった。真子は一度頷いた。
「ちゃんと言葉で言ってください」
「……意地悪」
司の手がとまる。どんな表情をしているのかわからない。怒っているのか、呆れているのか。見えないけれど司に手を伸ばした。
「お願い、さわって……」
「……はい」
伸ばした手を司が手に取ってくちびるがふれた。離れていった手はするりとふくらみを撫で、指が、ぷくりと立ち上がっている先端を撫でた。
「んんっ!」
ただそれだけなのに腰が激しく跳ねた。
指の腹でくりくりと動かすようにされたり、指でつままれたりするたび真子は息が荒くなる。目隠しをしない時よりも、感じている気がする。興奮している気がする。下腹部が少し気持ち悪くて足をもぞもぞと動かした。
「っ!」
胸に、ぬるぬるとした感触。それから熱い息がかかる。司が、胸を舐めている。先端を口に含まれてキャンディを舐めるみたいに転がす。せめて、手を外してほしい。もどかしくてどうしようもない。
激しいキスをしながら司の手は真子の全身を撫でる。やがて、下腹部をするりと撫でた。すぐに下着の上から秘部を押した。
「んっ!」
司の手が下着を脱がしていく。真子の身体はもう力が入らなくなっていて、されるがままだった。濡れそぼった秘部に司の指が這う。
「あ、だめ、君島くんっ」
蜜口に何かが入ってくる感触がした。きっと、指だということはわかっていた。司の指づかいは覚えている。やさしく内側を撫で、こする。そのたびに真子は息を漏らす。
「もっと、感じてください」
くちゅくちゅと水音が響く。やさしかった指は、挿入している時と同じような動きで出し入れをする。
「ん、んっ……っ!」
だんだん激しくなる動きにこらえきれなくなった真子は、白く弾けてしまった。
くたりとベッドに身を預けるが、ガサガサと音が聞こえて、両足を広げ抱えられる。
「本当は顔を見たいけど、しかたないからこのまま」
ぴたりと蜜口に熱く硬いものが押し当てられた。
「君島くん、外して……」
真っ暗なのももういやだし、手だってつらい。そろそろ許してほしい。なのに司は「だめです」と冷たく言い放つ。
「俺は、糸井さんの目が好きだって言いましたよね。なのにあなたは俺の目は嫌いなんですね」
「き、嫌いなんて言ってなっ」
「黙って感じててください」
「ああっ!」
いきなり、奥まで司の熱がねじ込まれる。潤っている蜜口はあっさりと飲み込んでしまったが、あまりの刺激に真子はそれだけで達してしまいそうだった。
「っ……きっつ」
「ん……君島くん……」
「くっ……」
司の熱が、中を行き来している。ぐちゅりと淫らな音が響いて真子の身体がカッと燃えた。
「あ、あっ」
ぞくぞくと肌が粟立つ。感覚が澄んでいるのか内側をこすりごりごりと動く熱が伝わってくる。目の奥がチカチカと光る。まだ熱が入ってきただけだというのにこんなことになってしまって、さらに揺さぶられたらどうなってしまうんだろう。
急に、怖くなった。
いやだ。怖い。司の顔が見たい。
「待って、怖い、お願い、君島くんっ」
「我慢してください」
ごり、と奥を突かれて、ひゅっと息を吸った。
怖い。
「や、やだぁ!」
叫ぶように声をあげた。
「……糸井さん……」
司の動きが止まり、恐怖が薄まる。でも今すぐ暗闇から解放されたい。なにより、司の顔が見たくてどうしようもない。
「君島くんの顔、見たいの」
彼の声は聞こえず、息遣いだけがかすかに聞こえてくる。
「ごめんね。もう逃げないから、お願い……」
「……っ」
手首に巻き付いていたものと、目を隠していたものをやさしくほどかれた。突然暗闇から解放され、部屋が暗いとはいえ目が慣れるのに時間がかかった。よく見ると、ひどい格好をしている。服は乱れに乱れ、下半身にはなにもまとっていなくて、下腹部が司と繋がっている。そろりと司の顔を見ると熱のこもった視線で真子を見つめていた。ぞくりと心が震えた。
あの、目をしている。
気づいた瞬間にそらし、けれどだめだと思いなおして司を見つめた。見ているだけで鼓動がさらに激しく打つ。冷静な彼の熱情を感じるひとみに逃げたくなりながら、涙目のまま彼を見つめ続けた。
「君島くん……」
「怖くないです。もっとちゃんと、俺を見てください」
司は苦しげにそう言い、腰を揺さぶり始める。くちゅりと音が鳴った。
「ああっ!」
一気に奥まで穿たれて腰をそらした。
「っ、ずるい……俺が好きだってわかってるのに、逃げて、追いかけて、そんなこと言うなんて」
「ごめん……君島くん、ごめんね」
激しく揺さぶられながら司を見上げる。切なげに眉根を寄せている司の目は、ひどく熱い。怖いけれど見たかったひとみだ。真子の内側を燃え上がらせるような、甘く熱を持った視線。
「じゃあ好きって言ってください」
「……え」
「一度も言われたことない」
「あ」
そういえば、一度も言っていない。自覚が遅れたというのもあるけれど、好意を持ってもらっていてそれで安心しきっていた部分もあった。つき合い始めたきっかけは告白をされたからだけど、つき合ってから彼のことを深く知るようになり、惹かれていった。
今では自信を持って言える。
「好き……君島くん、好きだよ」
振り回されるほど、好きになっていた。
「っ」
「ひゃ、ぁ……大きくなっ……」
中に埋まっている司の熱がふくれ上がった。圧迫感が増す。
「だから、ずるい」
「あ、あぅ、あ!」
司が激しく揺さぶり始める。若い学生のように欲望に忠実になった激しい動きだった。奥のほうをぐりぐりと抉られるとまたすぐに達してしまいそうだ。溢れた蜜が二人の身体やベッドのシーツを濡らす。それほど、快感に飲まれていた。
突き上げながらくちびるが重なり、愛おしそうに司の手が真子の頬を撫でた。
「俺のこと、もっと見てくださいっ」
心の叫びのようで胸が締め付けられる。
真子は揺さぶられながら、司を見上げて、見つめ続けた。司も、熱く濡れた視線で真子を見つめる。
恐怖とは違う何かが真子を襲う。
「ん、ぁ、あ――っ!」
二度目の絶頂だった。身体が小刻みに震え、なかなか止まらなかった。
「……、っ……ぁ」
遅れてびくんびくんと司の腰が揺れ、膜越しに精を放った。
*
「糸井さん、好きです」
「……わかってます」
「好きだ」
「わかってるってば」
真子は恥ずかしくなって司に背を向けたいのに、司はベッドの上で真子をぎゅっと抱きしめて離さない。
「顔赤いですね」
「なんなの急に何度も」
「まだ言い足りないんです」
「……無口のくせに」
「……糸井さんに対してはそうでもないと思いますけど」
今までのことを考えてみる。無口は無口だと思うけれど、一概にそうとも言えない出来事がありすぎた。
「そうかも。会社の通路で急に告白してくるし」
「はい。寝起きで慌てて走る糸井さんが可愛すぎて我慢できませんでした」
「……まさかの?」
だからあのタイミング?
記憶を巻き戻して司に告白された場面を必死に思い返す。昼寝明け、会議に遅れそうで焦っていた。自分の見た目なんて顧みなかった。
「なんであんな時に……」
タイミング的には最悪な時だ。メイクだってどうなっていたかわからない状態だったのに。
「好きです」
「わ、わかったってば!」
これ以上甘い会話をしていられない。司の胸に顔をうずめると強引に司の手が真子の顔を上向かせる。嫌でも目が合った。
「俺を見るその瞳から、糸井さんを好きになったんです。少し気が強そうで、でもどこかか弱くて吸い込まれそうなほど惹かれました」
「……いつから?」
「最初からです。教育係でいろいろ教えてもらってる時からずっと」
「全然気付かなかった」
司は淡々としているから、感情の変化にはなかなか気付くことができないでいた。だからこそ心配で気に掛けていた結果、好意を持たれていたらしい。彼の心の変化を感じたかったのに。
「俺はもっと糸井さんを見ていたい。だから、糸井さんも逃げずに俺を見てください」
「……うん、見るよ」
司の手が真子の頬を撫でる。
欲情している目に吸い込まれる。艶の濃いひとみは怖いけど、そう感じた理由を理解したのでもう逃げられない。
見つめ合った先の快感を、知ってしまったから。
終
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会社ではコンビを組んで仕事に励み、休日はふたりきりで甘いひとときを過ごす。そんな充実した日々を送っているのだが、近ごろ澪の様子が少しおかしい。何も話そうとしない恋人の様子が気にかかる省吾だったが、そんな彼にも仕事上で大きな転機が訪れようとしていて・・・。
☆『上司に恋していいですか?』の続編です。全6話です。前作ラストから半年後を描いた後日談となります。今回は男性側、省吾の視点となっています。
「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しています。

甘い温度でふれて満たして
春密まつり
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過去に発行した同人誌のWEB再録です。
主人公 安部深雪には悩みがふたつあった。
それは、会社の温度が寒いことと、好きな人のことだった。
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彼は深雪のことを気軽に「好きだ」という。冗談めかした言葉に深雪は傷つき悩んでいた。
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