そんな目で見ないで。

春密まつり

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4 彼のひとみ*

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「ここが君島くんの家……」
「どうぞ」
「お邪魔します」
 マンションの真ん中あたりの階に司の部屋があった。ひとり暮らしにしてはきれいに整頓されていて、真子の部屋のように服が散らかったりはしていなかった。
「なにか飲みますか」
「あ、じゃあお水もらいたいな。ちょっと熱くて」
 まだお酒が残っている。
「了解です」

 頷いた司は一人用の冷蔵庫を開け、中からペットボトルをとりだした。それをカップに注いでくれるのかな、と思っていたら蓋を開けた彼はそのまま口をつけ、そらした喉仏が動く。司も喉が渇いていたんだろう、と眺めていた。ふと目が合って、司が真子の目の前に立つ。背中に大きな手が添えられて、ぐっと押された。

「え、ふぁ……」
 ふれたくちびるから、濡れたものが流れてきた。水だ。こぼれてしまうととっさに口を開くと、司の舌が入り込んでくる。
「ん、ん」
 口の中が司の舌と水でいっぱいになり、苦しくなって飲み込んでいた。水が欲しいと言ったけれどこんな形で飲みたいわけではない。というか、飲んだ気がしなかった。

「な、なに急に」
「したいんですけど」
「……っ」
 強く、痛いくらいに抱きしめられていた。
 やっぱり彼は酔っているらしい。ストレートな物言いは変わらないけれど、目がとろんと溶けていた。

「したい」
「わ、わかったから何度も言わないでよ」
「いいっすか」
「いい、ってば。じゃなきゃ家に来てないし……」

 いい大人が、簡単に男性の部屋に入るわけがない。司だからここにいるのに、確認されると恥ずかしくなるからやめてほしい。
「きゃっ」
 司の手に強く引かれて、ベッドルームへ移動した。中は真っ暗でシンと静かで、緊張感がさらに高まる。

「電気、つけないで」
 司が部屋の明かりをつけようとするので慌てて制止した。明るい部屋の中でするにはまだ心の準備が必要だった。期待をしていたとはいえ準備が完璧だとはいえない。

「照明ならいいですか?」
「……やっぱりシャワー浴びていい?」
「だめです」
「あっ」

 低い声が真子を留め、身体をベッドへ押し倒す。身体にのし掛かる体重は重いはずなのに、苦しくはなかった。真子の上で、きっちり着ていたスーツが乱暴に投げ捨てられる。邪魔そうにネクタイを緩めて外し、司の顔が近づいた。

「んん……」
「糸井さん……好きです」

 口数が少ないくせにこういうことばかりはっきりと言う。そのギャップにはなかなか慣れない。
 司の熱いくちびるが重なりながら、大きな手が真子の身体を撫でる。くすぐったさからぴくぴくと小刻みに震えた。衣擦れの音が静かな部屋に響いている。

「は、ぁ、君島くん……」
「……糸井さん」
 司の大きな手が真子の服に手がかかる。シャツのボタンをひとつひとつ丁寧に外され、下着があらわになる。部屋が暗くてよかった。照明はついているけれど、薄暗いおかげで恥ずかしさも軽減していた。でも視界は慣れ、司の表情はよく見える。
 真子の服を脱がそうとしている司をじっと見つめていたら、バチリと目が合った。

「……なんすか」
「な、なんでもない」
 バクバクと、心臓が早鐘を打つ。つき合うことになっていろんな司の表情を見てきたけれど、こんな情熱的な顔をするんだ……と呆けてしまった。キスをした時もそうだ。普段とのギャップがありすぎて呆然としてしまう。
「集中してください」
「んっ……」
 舌を絡めるキスをしながら、素肌を司の手が這う。下着のホックを外され胸のふくらみをやさしく包みこまれた。大きな手のひらは胸を掴み動く。指先が胸の先端にふれると、その場所ばかりを弄る。
「ん、ぁ」
 甘い声がこれ以上漏れないように手を口元に当てた。
「……うまそ」
「ひゃっ!」
 司の舌先が色づいた先端をぺろりと舐めて、真子の腰が浮く。指の腹で先端を弄りながら、くちびるで吸われると、ぴりぴりとした刺激に真子はさらに激しく喘いだ。
 職場の後輩、しかも司とこんなことをするようになるとは数週間前までは想像もしていなかった。妙な恥ずかしさと、不思議な感覚がある。
 司は真子の胸を愛撫しながら、下腹部へと手を這わせていく。スカートの中に入ってきた手は、真子の秘部をそっと撫でた。
「んっ……」
 真子はぴくりと反応を示す。司の手は秘部を撫でながら、指を割れ目に沿ってなぞり、下着越しに、隠れた花芯にふれた。じゅわりと、奥が潤うのがわかる。

「ぁ、あ、君島くん……」
「っ……」
 司の口から、熱い吐息が漏れた。喉仏が上下に動く。

 彼の素肌はとてもきれいだった。男の人にこの表現が正しいかはわからないけれど、引き締まった身体にほどよく筋肉がついていて、視線を奪われる。

「そんなに俺の身体見ないでください」

 じっと見すぎてしまったかと自覚し、目をそらした。けれどしっかりと彼の身体は脳裏に焼き付いていて、胸はドキドキと激しく鳴り続ける。罪悪感のような背徳感のようなものが真子を揺さぶった。
 丁寧にストッキングを脱がされ、下着もはぎとられてしまう。恥ずかしさに身をよじりながらも司の手は真子の下腹部に手を滑らせる。潤んだその場所に指がそっとふれた。

「ん……」
 思わず甘い息が漏れる。司は黙ったまま真子の蜜口へと、指を埋めていく。真子はぴくりぴくりと反応しながら荒い息を吐き出した。
「なか、熱い」
 独り言のような低い声が聞こえる。

 中をかき混ぜる司の長い指が内側の壁をこすり、腰が跳ねる。指を一本から二本に増やされ、中で蠢く。司のくちびるが胸の先端を舐めながら中をかき混ぜられてお腹の奥がぎゅっと甘く疼く。とろとろと蜜が溢れ、司が指を動かすたびにくちゅりと音が鳴る。

「も、や、だぁ……」
「欲しい?」
 普段の司とのギャップに息を詰める。
 社内の、司のことを無口だと思っている人たちには絶対見たことがない顔と、絶対に聞いたことのないセリフばかりだ。妙な背徳感に、興奮を煽られる。さんざん慣らされた蜜口はひくひくと司を求めている。
「いれますよ」
 真子は、ゆっくりと頷いた。
 蜜口に、ぬるぬると司の熱がこすりつけられる。その硬さと熱さに真子は熱のこもった息を漏らした。

「……っ……」
「あっ……」
 熱い司の昂ぶりが、真子の蜜口へぐっと押し当てられる。広げられていく蜜口に司の熱がゆっくりと入ってくる。
「っ!」
「きつ……」
 初めての行為ではないはずなのに司の昂ぶりが蜜口をいっぱいにする圧迫感で苦しくなる。こんなに苦しかったかと思うほどだ。
「大丈夫ですか」
「……ん……」
 司の熱い手が腰をやさしく撫でる。真子と同じくらい司もつらそうに息を吐き出していた。ぎゅっと抱きしめられて熱い肌が重なる。汗ばんだ肌はぺたりとくっついて、心地いい。呼吸が整うまで抱きしめ合っていた。

「もう……動いていいすか」
「うん……」

 まだ圧迫感には慣れていないけれど、じっとされているのもどこかむずがゆい。奥のほうが疼いてしょうがない。
 真子がぎゅっとベッドのシーツをにぎったのを合図かのように、司がゆるりと腰を揺さぶり始める。
「あ、あっ」
 中をこすりあげる司の熱につい声が洩れていた。
「中……すごい気持ちいい」
 うわごとのような司の声。そっと見上げると、目を閉じていた。司はやっぱりきれいな顔をしている。コミュニケーションをとらないだけで、女性社員から実はモテているんじゃないかと思うほどだ。好みの問題だろうか。いや一般的に見てもかっこいいと思う。そんな人がどうして私なんか……と思うくらいだ。目が好きだと言ってくれていたけれど、それだけ?

「ん、……どうしましたか」
 なにかに気づいたかのように司の動きが一度止まる。真子が考えたいたことはさすがに気づかないだろうけど、なんとなく気まずい。

「なんでもないっ」
「余裕っすか」
「そ、そんなこと」
「じゃあ、もっと……っ」
 ぐい、と腰を押し付けると司の熱が真子のさらに奥を貫いた。
「ひゃっ!」
 そのまま急に激しく律動を始める。今まではやさしくしていてくれただけだった。中を抉る動きに、真子はぎゅっと目をつむった。司に足を抱えられ、さらに深くつながる。

「君島、くんっ、激しい……っ」
「……糸井さん、可愛い」
 甘いセリフに身体がぎゅっと収縮する。

「や、もう、だめっ」
 奥のほうをこすられると、目の奥が痺れた。限界だと、首を振る。その間も司は激しく奥を貫く。はぁはぁと息を乱す司の息がくちびるにふれた。

「……糸井、さん。こっち見て」
 頬に汗ばんだ手を添えられ、導かれるまま司を見上げる。
「!」
「っ、急に……締めないでください」

 司は眉根を寄せ熱い息を漏らした。それでも視線は真子を射抜いたままだ。真子も、目を離すことができない。
 なのに、恐怖に似たものを感じた。

「ちょ、ちょっと待って」
「……今さら」
「だって、なんか」

 司の熱いまなざしに、真子の身体は痺れる。今までとは格段に違う視線の種類に、戸惑っていた。情欲のこもった視線を向けられ、心が揺さぶられて混乱していた。こういう行為は初めてではない。なのにどうして彼の視線にだけこんなに揺さぶられているのだろう。

「無理……っす」
「ひゃ、ぁ!」
「……ふ……っ」

 激しく突き上げながら、司の荒い息が近づいてきて、くちびるが重なった。口の中に生温かいものが支配する。くちびるをぺろりと舐められ、見下ろされる瞳に、また身体が痺れる。目を離したいのに離せなくて、吸い込まれそうだ。
 真子は混乱して乱れる。

「あ、だめ、だめっ!」
「――っ!」

 わけもわからず涙がこみ上げてきて、真子は達していた。
少しして司も低く呻いた。
汗だくのまま真子を見つめる彼の視線から、逃げるようにそらす。

 どうしてこの人、こんな目で私を見るの――。
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