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02.王子様

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 怜央くんの意外すぎる一面を目の当たりにした夜、せっかく女の人の声は聞こえなかったのに、またうまく眠ることができなかった。幼なじみの驚きの変化に頭が混乱していた。さんざん溜まっていた眠気はどこかへ消えてしまったみたいだ。

 怜央くんは、私にとって王子様みたいな人だった。

 小学校でも中学校でも小さい頃から優しくて、私が転んだりして泣くと必ず頭を撫でてくれた。同じ歳とは思えないくらいに、彼は大人っぽかった。
高校生になっても彼の優しさは変わらなくて、私が上履きを隠された時も一緒に探して、犯人も探し出して怒ってくれた。とはいっても怜央くんの怒り方は優しく諭すようだったので、振られたというのに女の子との関係は悪くはならないのが凄かった。
 私は、そんな怜央くんのことが昔から好きだった。

 どんなに可愛い子からの告白を受け入れない怜央くんに告白するのが怖くて、結局高校を卒業になっても伝えることができず、隣近所だったから連絡先も交換していなくて、会うことはなかった。
 運命的な再会をしたというのに、まさかあんな一面があったなんて。
 起きたら夢であってほしいと願っていたのに一睡もできなかった。



「……おはようございます」
 朝、ブラックコーヒーを持って出社した。今日は眠気との戦いになりそうだ。
「おはよう、手島さん」
「……有馬さんおはようございます……ってなんでここに?」
 怜央くんは、私の隣の席に座っていた。昨日は別の島にいたはずだ。
「手島さん俺の担当だし、席替え」
「そんな、勝手にいいの?」
「まあ基本ここはフリーデスクだから」
 そういえば昨日課長も言っていた気がする。フリーデスクだけど、業務上座る席は決まっているらしい。私は案内された席に座っていただけだった。よく見ると、怜央くんだけではなく他の人も昨日とは違う席に座っているみたいなので、彼だけの判断ではないみたいだ。

「で、今日はさっそく手島さんに仕事があるんだ。会議室とったから、メール確認しておいて」
「……はい」
 昨日の今日で、まるで別人だ。
 女の人にぶたれた頬は跡なんか残っていなくて、再会した時のキラキラとした笑顔でこちらを見ている。昨夜のことなど夢だったんじゃないかと思うほどだ。

 メールをチェックすると朝一番で会議が入っていた。時間になる前に指定された会議室に向かう。隣にいたはずの怜央くんはすでに席を立っていたので戸惑いながら会議室を探した。会議室はフロア内に複数あり、確認に時間を要してからドアを開ける。

「ごめんなさい、お待たせ、しました」
「全然。ごめんね案内すればよかったね」
「……いえ」
 どう見ても好青年だ。怜央くんの笑顔は人を安心させる。昨夜のことは夢だったのかもしれない。そう思った時、視線がぶつかった怜央くんは不敵に微笑んだ。その顔を見てやっぱり現実だったのだと思い知らされる。

「緊張してる?」
「……そんな、こと」
「なにもしないよ別に。仕事中なんだから」
「う、うん」
「で、まず手島さんにメインでやってもらうことは――」
 一瞬見せた微笑みはすぐに消えて、真面目な顔をして仕事の話を始める。

「そういえば紗江、前職は?」
「営業だよ」
「ああそうなんだ。事務でいいの?」
 前職の営業成績は普通。客先へ伺うのは緊張したけれど、大変なこともありつつ楽しかった。だけど人には向き不向きがある。きっかけは、私たちのサポートで残業が多くなっていた営業事務の手伝いをした時だ。新鮮なこともあり楽しかったその仕事は意外と大変で、いままで簡単に仕事をお願いしていた自分を反省した。と同時に地味に見えるがコツコツと進める業務に魅力を感じた。もともと社内業務を希望していたため、外回りよりも断然自分に合う気がした。その後営業事務の人が体調不良で休職した時に全体の業務の見直しがされ、仕事が減ってきたタイミングで辞めた。
 前よりも給与は下がるだろうが転職のきっかけになったのはそれだった。
「たくさん助けてもらったから、今度は私が誰かのサポートに回りたくて」
「……へえ」
「な、なに?」
 にこにこしながらじっと見つめられて、気恥ずかしくなり机上の資料に視線を落とす。
「いや、紗江らしいなと思って」
「私らしい?」
「うん。なんか懐かしくなった。高校の時もさ、文化祭の劇で裏方をすごい楽しそうにやってたよね」
「そうだっけ?」
「そうだよ。忘れちゃった? 俺はよく覚えてるよ」
「……」

 忘れた振りをしたけれど、しっかり覚えている。

 高校最後の文化祭、クラス合同でシンデレラの劇をすることになった。怜央くんはもちろん王子様になり、私は裏方。脇役Aを演じたり、舞台裏で小道具を用意したり、雑務で忙しかったのを覚えている。みんなはシンデレラに憧れたけれど、私は忙しいその雑務に充実感を覚えていた。演じて緊張している子たちに声をかけて小道具を渡したりすると、ちょっとほっとした表情になり、劇が終わると達成感に満ちた表情で泣き笑う。その輝いている人たちを見るのが好きだった。怜央くんは終始余裕で緊張した顔などしていなかったけれど、一度私がガラスの靴を怜央くんに渡した時、私のことを見たまま固まったことがあった。彼なりに緊張していたのかもしれない。
 でも舞台上の怜央くんはまさに王子様で、舞台袖で見惚れてしまった。あんなかっこよくて人気のある人には裏方は似合わないと、気持ちを隠そうと決めた思い出もある。

「ごめん脱線した。営業やってたなら事務の仕事もわかるだろうけど、基本的には雑用と、契約書作成。あとはお客様対応の補佐かな。契約書については……」
 それからは話が戻り、契約書作成についてもツールを見せてもらったり説明を受けた。時間は1時間程度。昨夜のこともあり怜央くんと二人きりは緊張したが、なにごともなくほっとした。
「……それくらいかな。とりあえずさっそく契約書の作成をお願いしていいかな。終わったら確認するから、俺にメールして」
「はい。わかりました」
「……」

 席を立つと思っていた怜央くんは座ったままじっと見つめてくる。
「……なんですか?」
「敬語じゃなくていいのに」
 仕事の話をしていたら自然と丁寧な言葉遣いになる。しかも私は新人だし、怜央くんとは知り合いとはいえ馴れ馴れしくしていたらきっと周りから変な目で見られてしまう。
「でも、仕事中ですし……怜央くん先輩、だし」
「先輩なら苗字でしょ?」
「あ……」
 会話をしていたらいつの間にか元に戻ってしまう。怜央くんはからかうように眉を上げる。
「なんて。二人の時はそれでいいよ。じゃあ戻ろうか」
「は、はいっ」
 資料をざっとまとめて席を立った。会議室の出口へ向かう怜央くんの背中を追う。

「あ、そうだ忘れてた」
「え?」
 背の高い怜央くんが振り返り、顔が近づいてきて、なにを忘れたのだろうと視線を向けた。
 怜央くんは腰を折り、頬に唇がふれた。ちゅ、と小さく音がする。
「警戒してるのかわいかったよ」
「……れ、怜央くんてそんな人だった!?」
 突然のことに信じられないまま、頬を手で押さえて大きな声を出していた。怜央くんは人差し指を口元に当てた。

「静かに。そこまで防音されてるわけじゃないから」
「……驚かせるようなことする怜央くんが悪いんでしょ……」
 さすがに人に聞かれたくはないので小声にしたけれどここは会社だ。戸惑っている私を見てなぜか目尻を下げ、大きな手のひらが頭を撫でる。

「今日も定時で帰りなよ」
「……はい」
「帰ったら連絡するから、夜、準備しておいてよ」

 なにか予定あったっけ? と考えること数秒、昨夜のことを思い出す。

「まさか、あれって本当だったの?」
「当たり前でしょ。溜まってるんだからよろしくね」
「……」

 爽やかな顔をしてなんてことを。
 怜央くんは先に会議室を颯爽と出て行く。
 私は夜のことを考えて変な汗をかいたまま、しばらく呆然としていた。

 自席に戻ると隣の怜央くんは戻るなり電話をし始めていたので大きな音は立てずにイスに座った。
「はい、それでは本日お伺いしてもよろしいでしょうか。……承知いたしました。……15時に伺います。はい、よろしくお願いいたします」
 電話を切るなり怜央くんは課長の元に行ってからすぐに自席に戻り、パソコンのキーボードを打つ。
「紗……手島さん、さっき言ったようにこの契約書作成をよろしくね。他は、他の先輩に聞いてくれるかな」
「はい、わかりました」
「俺このあと会議で、午後出かけて多分直帰だから、契約書できたらメールだけ送っておいて」
「はい!」
 怜央くんはパソコンを持って、また会議室へと入って行った。さっそく忙しそうだ。まだ2日目の私では役に立つことも少なそうだ。とりあえず怜央くんに説明を受けた通り契約書を作成することにした。

 契約書作成は1時間程度で完成して、そのあとは他の人の手伝いや雑務で終わった。2日目なのでできることが少ない分、雑務を積極的に片付けた。キャビネットの中に入っているファイルも煩雑になっていたので許可をとって整理をすると、課内のみんなに喜ばれた。



 怜央くんに言われた通り定時に上がり、まっすぐ家に帰る。スーパーは昨日行ったから、冷蔵庫の中を見てから夕飯を考えることにした。マンションのエレベーターを降り、自分の部屋の前で鍵を取り出す。
「あ、ナイスタイミング」
 隣の部屋のドアが開き、部屋着の怜央くんが顔を出す。
「怜央くん……もう帰ってたの?」
「ああ。打合せははやく終わったから帰って仕事しながら準備してた。今から紗江呼びに行こうと思ってたんだ」
「……いろいろって」
 何を準備することがあるんだろう。いちいち勘ぐってしまう。
「カバン置いたらうちにおいで」
 じろりと睨んでみても怜央くんは動じずに微笑んだ。
「そんな警戒しなくても大丈夫だから」
 昨夜も今日も会社であんなことを言っておいて、警戒しないわけがないのに。
「大丈夫だって。お腹減ってるだろ? 夕飯作ったからおいで」
 確かにお腹は減っている。しかもこれからなにを作ろうかと考えるところだったので、お腹が満たされるのにはまだ時間がかかる。一方で怜央くんの部屋からは、いい匂いがしてきた。お腹がきゅうと鳴る。

「はやく。冷めちゃうから」
「……うん」
 いい匂いにつられて、思わずうなずいていた。

 部屋に入ってカバンを置き、洗面所へ向かう。手洗いうがいをしてから、鏡で自分の顔をじっと見た。メイクはそれほど崩れていない。これならまあ誤魔化せる範囲だ。などと肌をチェックしているのは、なにかあるかもしれないというよりも男の人の部屋に一人で遊びに行くのは、大人になって初めてだからだ。いったん呼吸を整えて覚悟をしなければ、速まる鼓動を抑えられない。たとえ幼なじみといっても再会して2日目。まだ昔の怜央くんとのようには話すことができない。

 しかも初恋の人があんなにかっこよくなっているのだ。緊張しないわけもない。

 自分の顔を見ながら深呼吸を数回繰り返して、「よし」とつぶやく。一応全身もチェックしてから、スマートフォンと鍵だけを持って部屋を出た。
 隣の部屋のインターホンを押すと、すぐにドアが開いた。

「よかった。すぐ来てくれて。上がって」
「……お邪魔しまーす……」
 中に入ると、私の部屋とまったく同じ間取りなのに内装や家具の色合いが全然違うので雰囲気もまるで違うのが不思議だった。私と同じ広めの1Kの部屋は、キッチンを抜けるとベッドとローテーブル、二人掛けのソファが置いてある。どれもブラウンやベージュという優しい色で統一されたそれらは怜央くんのイメージに合っていた。そしてテーブルの上には、ぎっしりと料理が並べられていた。

「はい座って座って」
 背中を押されて案内されたのはソファの上だ。目の前には豪華な食事。今日はなにか特別な日だっただろうかと考えたけれど、もちろんなにもない。

「え……これ怜央くんが作ったの?」
「そうだよ」
「すごい……おいしそう!」
「だろ? 料理はけっこう得意なんだ」
 テーブルの上にはきのこがたっぷり入ったデミグラスソースのハンバーグと、お魚のマリネ、それからキッシュにスープ。平日の夕飯とは思えない手の込みようだ。

「ビール飲む?」
「んー大丈夫かな」
「じゃあ俺もやめとこ」
 怜央くんが、自然と私の隣に座る。確かにほかに座る場所はないし、ソファを先に占領してしまったけれど隣との距離の近さにほんの少し戸惑う。

「さあどうぞ」
「食べてもいいの?」
「当たり前だよ」
 ソファより少し低いテーブルに並べられた料理に向かって、手を合わせる。
「いただきます……」
 親切にも小皿が用意されていたので、まずはマリネを小皿に取る。魚は鯛で、それから海老もあった。どちらか迷った結果、鯛を口に運んだ。

「おいしい! なにこれ!」
 目を見開き怜央くんを見ると、ふにゃりと困ったように笑った。
 鯛の歯ごたえと、野菜のシャキシャキとした食感、それから甘酸っぱいドレッシング。
「ただのマリネだよ。味付けもなにもない、簡単だって」
「お店のみたいだよ、私が作ってもこんなにおいしくならないもん」
「紗江も料理するんだ?」
「……まあ、普通に……」
「じゃあ今度は紗江に食べさせてもらおうかな」
 にっこりと催促されたけれど、自分のためのご飯しか作ったことないのでこんなおいしい料理を前にしたら頷くことはできなくて、誤魔化すようにもう一口、頬張った。
 怜央くんも隣で食べ始めて、味に満足がいったみたいで一人で頷いていた。


「そうだ。音楽番組やってるよ。見るだろ?」
 私がハンバーグのおいしさに悶えていると、怜央くんはリモコンを取り、テレビをつけた。すぐに目当ての音楽番組に切り替わった。テレビ画面には、恋する気持ちを切なく歌う女性アーティストが歌っているところだった。

「……」
「どうしたの?」
「ううん、私がこのアーティスト好きだって覚えてたの?」
「え? ああ……まあね。熱狂的だったじゃん紗江」
「そんなにだったっけ」
「……ほら、スープもどうぞ」
「あ、ありがと」
 疑問は残ったまま、勧められたスープを飲む。野菜がたっぷり入ったコンソメスープだ。お腹の中から温まり、ブラックペッパーの香りがさらに食欲をそそる。並べられた料理全部がおいしくて、夢中になっていた。おいしい、と横を向くたびに怜央くんは照れくさそうに笑う。昔どこかで見たような表情がうれしくて、過剰なくらい褒めてしまった。



「ごちそうさまです!」
 お皿がすべてきれいになった頃、満足感でいっぱいになっていた。
「おそまつさま」
「すっごくおいしかったよ」
「喜んでくれてよかった」

 昔から器用だったけれど怜央くんがこんなにおいしいご飯を作られるのは予想していなかった。女の私をはるかに超えている。情けないと思いながらも感動のほうが強い。
「そうだ、私食器洗うね」
 ごちそうしてくれたのだから何かお礼をしないと。急だったからお土産もなにも持ってきていない。とりあえず後片付けをしようと立ち上がり、お皿を手に取る。

「いいよ、あとで洗うから」
「お礼だってば」
 数枚お皿を持って、キッチンへ持っていく。
「……あとでもらうのに」
 背後から怜央くんの声がして振り返ると、真顔だった表情が笑顔に切り替わる瞬間を目にした。

「? なにを?」
「なんでもない。じゃあお願いしようかな。デザート用意するね」
「デザートまであるの?」
「まあね」
「うれしい!」
 おいしいご飯のあとにデザートまで用意されているなんて、贅沢だ。私は洗い物を手早く済ませ、さっさとソファに戻る。視線の端で怜央くんが用意しているのが見えたが、あえて何かとは聞かなかった。お楽しみにしたかったからだ。
 テーブルへ戻ると、透明なガラスのスクエア小皿に、見るからに甘そうなカラメルのかかったプリンと、紅茶が置いてあった。見た目からしてオシャレだ。

「プリンだ! 紅茶まである」
「どうぞ」
 今日は誕生日か何かだったっけ。私はお祝いをされている錯覚に陥るほどの特別感を味わいながら、ソファに腰を沈めた。
「ありがとう……ってこれもまさか」
「手作り」
「どれだけすごいの……怜央くん」
 そっとお皿を持ち上げ、プリンを眺める。たしかに、お店で売っているようなきれいなプリンとはちょっと違う、手作り感のある見た目をしていた。

「だって、初日だし」
「なんの初日?」
「……あとでわかるよ。さあどうぞ」
「いただきます」
 さっそく、プリンをスプーンで人さじすくう。スプーンの形に凹んだプリンがどことなく愛おしい。ぱくりと口に含むと、ふわりとカラメルと卵の匂いがした。

「ん~おいしい!」

 手作りならではの素朴な味だ。甘すぎない味わいが、次の一口をすぐに誘った。
「ほんと喜んでくれるね、紗江」
「だって本当においしいよ」

 パクパクと食べ進めていたらあっという間になくなってしまった。どうせならもっと味わえばよかった、とプリンのなくなった場所を眺めていた。

 昔話に花を咲かせながら紅茶を飲んでいたら、時間が過ぎるのはあっという間だった。飲み終わった紅茶のカップを洗い、時計を確認すると、22時を回っている。

「さすがにそろそろ帰ろうかな」
 明日も仕事だし、まだ新しい仕事も慣れていない。せっかく夜眠れるようになったのだから熟睡したい。家に帰ってゆっくりお風呂に入って、ベッドに入ることをすでに頭の中で考えていた。

「怜央くん、今日はごちそうさま。また明日ね」

 カバンを持って振り返ると、怜央くんはソファのアームレストに肘を突いて手の甲で頬を支えながらじっとりとした視線で私を見た。ドキリと、胸が鳴る。

「……なに言ってんの」
「え?」
「本番はこれからだよ」
 はっきりとわかる作り笑顔だ。
「まさか、忘れたとか言わないよね?」

 ――すっかり忘れてました。

 とは言えない。おいしい料理と、楽しくテレビを見て話をしているうちに怜央くんの目的はすっかり頭の中から抜け落ちていた。警戒なんて、ゼロだ。
「も、もう遅いし、今日は帰るよ」
 口元に違和感を残しながら微笑み、手を振ると、立ち上がった怜央くんが近づいてきて、私が上げた手首を掴む。細いわりに大きな手と、驚くほど強い力。
「だーめ」
 口元は笑っているのに、目は笑っていない。逃がさないと言っているみたいだ。

 ――やっぱり、来ちゃいけなかった?

 後悔してももう遅い。

 怜央くんは至れり尽くせりの王子様から獲物を狩る獣の顔になった。


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