溺愛カウンセラー~幼馴染みと恋人ごっこ~

春密まつり

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22 佐々川の抗議

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「朝倉さんっ」
「四宮さんおつかれ~どうしたの?」
 週明けの月曜日、朝からさっそく朝倉に声をかけた。

「あ、あの……試してみたのですが」
 里帆はもじもじとして小さな声で朝倉に報告をする。恥ずかしかったけれど、仕事の一環として使ったものだ。この情報を活かさないわけにはいかない。
「……? あっああ! ゴム?」
「わーっ声大きいですっ」

 朝倉は天然なところがあり、里帆は慌てて彼女の口を抑えようとしたが、可愛いピンク色のリップがよれてしまうのでそこまではできなかった。

「えっと、これが……よかったかなと思います。でも、これよりもっと女性向けに考えるとなると、パッケージを可愛くしたり、いい香りで肌にやさしかったりするのもいいかもしれません」

 あれから亘とは何回もした。
 もちろん挿入なしの、いわばスマタというやつらしい(亘に教えてもらった)。ほぼ全種類のゴムを使った。休日は秘部がひりひりしてしばらく歩きづらかったほどだ。
 その中から、ひとつだけ選んだ。特に使用感の違いは感じられなかったので、これを女性が買うなら、と考えた。

「なるほどね~」
 ふんふん、と朝倉はメモをしていた。
「で、四宮さん彼氏とラブラブだったんだ?」
「えっ彼氏なんてそんな……っ!」
 里帆は慌てて両手を振る。里帆に彼氏はいないし、亘には恋人ごっこにつき合ってもらっているだけだ。
「彼氏と使ったんじゃないの?」
 否定すると朝倉が怪訝な顔をした。まずい、と里帆は何度もうなずいた。
「……そうです」
「だよねー恥ずかしがっちゃって! ありがとう参考にさせてもらうね」
「はい。ご検討よろしくお願いします!」
 朝倉が手をひらひらと振る。

 よかった。これで役に立つことができた。あとはアンケートを完成させて送信すればいい。それから自分の仕事に集中できる。
 ――はずだったのに。

 里帆はふとした瞬間には金曜日の夜、亘とのことを思い出していた。初めて「してくれる」だけではなく、亘の気持ちよさそうな顔を見た。思い出すだけでドキドキと胸が鳴る。亘の男の顔。今までどんな顔をして里帆に協力してくれていたのだろうと、今さら考えていた。

「四宮さん、打合せいいっすか」
「わ、ごめん今行く!」
 午後のチームミーティングの前に、午前中のうちに佐々川と意見をまとめようと決めていた。アラートもかけていたのにそれすら気づかなかった。里帆はパソコンを持ち、急いで佐々川を追いかけた。


「パッケージはかわいく、だけど大人っぽくレースを基調に。それから本体は程よい小ささで手軽さもありながら、スイッチ部分は少しデザイン性を出して――」
「うん、オレもそれでいいと思います。形はどうします?」
「……かたち?」
「はい。普通の細長い丸でもいいと思うんですけど、今こういうのもあるらしくて……」

 プロジェクターに映し出される、ラブグッズ。おかしな光景だ。映し出されたのは里帆が見たことのない形のものだった。まるっこい形で、振動してどうやって使うのだろうと疑問だったけれど世の中にはこんなものも出回っているなら、よりかわいいほうを選ぶのもいいだろう。

「うーんそれもいいね。可愛い」
「……じゃ、これで」
「わかった。じゃあ私資料まとめるね。午後も会議だからがんばろう」
「資料オレやるけど。あんた他にもやることあるだろ?」
「でも、このグッズは私担当してるし……」
「オレだって担当だけど」
 佐々川がぼそりとつぶやく。聞き返す前に彼は里帆をきっと睨んだ。
「……リーダー、そんなんでいいんすか」
「え?」
 友好的に話を進めていたはずが、雰囲気が変わった。

「四宮、リーダーになってから変わった?」
「……どういうこと?」
「保守的になった、っていうか。前はもっと前のめりでやってたと思ったけど、今のチームになってからそういうとこ見たことない。人の意見をそのまんま受け入れて、チームはまとまるかもしれないけど、それでいい商品できる?」
「……私だって、自分の意見を」
「意見と感想は違うじゃん。さっきのローターも、細長いのと比較してどこがいいと思った?」
「……どこが、って」
 一見ローターだと思えないくらい可愛いし出回っているから、というだけで使用感とかは深く考えていなかった。

「ほら、そういうとこだよ。そんなんで本当にいい商品作れると思うか?」
 言い負かされてしまい、里帆は黙り込んだ。
 リーダーだから、リーダーとして、がんばってきたつもりなのに佐々川にそんなことを言われて自分の行動を思い返すと、ものがものだけに、受け身になっていた部分はあった。なにもわからないからとメンバーの意見を尊重していたつもりが、ただ委ねていただけだったのだと気付く。

「……ごめんなさい。私リーダー失格かな」
 佐々川が言いたいのはそういうことだろう。里帆はうつむくと涙が出てしまいそうだったのでぐっとこらえる。職場で泣くなんて、絶対に嫌だ。でも今この場に留まっていられる自信はない。

「ちょっと考えさせてもらうね」
「なにを?」
「リーダーを続けるかについて。……じゃあ、資料は午後の会議には間に合わせるから、先行くね」
「え、おい、四宮っ!」

 里帆は言い残して会議室を出た。ガタガタと音がして、佐々川が追いかけてくるのがわかったので里帆は早足で歩く。会議室のある階からフロアに戻るまではエレベーターを利用しているが、今日は階段のほうがよさそうだ。
 里帆は駆け足で階段を降りていく。

「四宮リーダー、待てって!」
「ごめん、今は一人にしてもらっていいかな。一人で考えたい」
「違うって、オレが言いたかったのは」
「きゃっ、す、すみません……あ」

 階段を降りている最中、フロアから出てきた人にぶつかりそうになってしまった。頭に血が上っていて、まわりが見えなかった。
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